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家族は知らない さちの人生

投稿者:働き蜂
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2026/10/18 04:51:21
第二章 — 孤独と搾取

アパートでの一人暮らしは、思っていたよりも静かだった。
夜になると、冷蔵庫の低い唸り声だけが部屋に残り、
その音が、さちが世界から切り離されたことを毎晩思い出させた。

高校一年生。
本来なら、友達と笑い合い、部活に励み、
未来の話をしているはずの年齢だった。

しかし、さちの一日は、
学校とアルバイトと、
帰っても誰もいない部屋で終わるだけだった。

生活費を稼ぐために始めたコンビニのアルバイトは、
唯一の“外との接点”だった。
店長は事情を知っているらしく、
シフトを柔軟に調整してくれたり、
廃棄の弁当を「持って帰っていいよ」と渡してくれたりした。

その優しさが、
さちには救いでもあり、同時に不安でもあった。

ある雨の日、
バイトが終わる頃には外は嵐のようになっていた。
店長は「送っていくよ」と言い、
さちは断りきれず助手席に乗った。

車内は暖かく、
ワイパーが激しく雨を払う音だけが響いていた。
店長は他愛のない話をし、
さちもそれに合わせて笑った。

「部屋、ちゃんと片付いてるのか?」

突然の問いに、さちは少し戸惑った。

「綺麗にしてますよ。というか……お金がないから、何もないだけです」

店長は笑いながら言った。

「じゃあ、見てあげるよ。危ないもの置いてないか確認しないと」

冗談のように聞こえた。
でも、その言葉の裏にあるものを、
さちはまだ理解していなかった。

アパートに着くと、
店長は自然な流れで部屋に入ってきた。
靴を脱ぎ、部屋を見回し、
「本当に何もないな」と笑った。

その笑いが、
次の瞬間にはまったく違う空気に変わった。

部屋の狭さが、逃げ場のなさを際立たせた。
窓の外では雨が激しく降り続けていたが、
その音すら遠く感じた。

何が起きたのか、
さちはまた細部を思い出せない。
ただ、
「信じていた大人に裏切られた」という事実だけが、
胸の奥に深く沈んだ。

終わったあと、
店長は何事もなかったかのように帰っていった。
部屋には、湿った空気と、
さちの震える呼吸だけが残った。

その夜、
さちは母に電話をした。
夜中にもかかわらず、母は来てくれた。
ただし、運転ができない母の隣には、
あの日の“義兄”がいた。

玄関に立つ二人を見た瞬間、
さちは言葉を失った。
しかし、もう隠すことはできなかった。

「……店長に、された」

その言葉を聞いた母は、
一瞬だけ目を伏せた。
義兄は何も言わなかった。

病院に行き、
医師が状況を察したのか、
母と義兄を別室に移し、
さちに静かに問いかけた。

「警察を呼びますか?」

さちは迷わなかった。

「……呼んでください」

その夜、店長は逮捕された。

しかし、
さちの苦しみはそこで終わらなかった。

しばらく学校を休んだあと、
勇気を出して登校すると、
すでに“噂”は広まっていた。

廊下ですれ違う視線。
ひそひそとした声。
嫌っていた先輩たちは、
さちを見るなり吐き捨てるように言った。

「どうせ誘ったんだろ」

その言葉は、
どんな暴力よりも鋭く胸に刺さった。

さちは、
学校を辞めることを選んだ。

十五歳で家を追い出され、
十六歳で信じた大人に裏切られ、
十七歳を迎える前に、
未来への道を一つ失った。

世界は広いはずなのに、
さちの居場所はどこにもなかった。
 
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