20年前、独身の頃に住んでいた街にやってきた。 結婚して、郊外の住宅地に住むようになって以来、来たことが無かった切ない思い出がある街だ。 妻の前に付き合っていた前カノとは、結婚まで考えていたけど、次第にすれ違うようになって、好きなだけではどうしようもない状態になって、別れた。 会社のロッカーの奥にしまってあった、前カノとペアのステディリングを見つけて、あの頃の自分に会ってみようと思ってやってきた。 20年前まで住んでたアパート、懐かしい姿で佇んでた。 前カノが住んでたアパートも、あの頃のままだった。 あの部屋で、愛し合いながら二人の将来を語り合ったけど、俺たちの未来予想図は、思ったとおりに叶えられなかった。 前カノと別れたのは、23年前、俺は25歳、前カノは23歳だった。 お互い大好き同士で、お互いのためにいろいろ尽くしてきたのに、それがお互いのためにならなくなっていった、そんな別れだった。 相手のためにしていることが、余計な事になっていった。 好きなのに、してくれる行為がウザいと感じるようになるって、なぜだったんだろう。 会えば抱き合い、キスして、お互いの股間を舐め合い、一つになってベッドで蠢いた日々、ずっと、こんな快感を分かち合えると思っていた。 将来一緒になるから、生で交わり、安全な日は中に出していた。 前カノの女穴から流れ出る精液を見つめるのが好きだった。 女が女壷に子種を受け入れる、それは、あなたの子供を産んでもいいですよという覚悟で、そんな男になれたことが誇らしかった。 前カノとは、シックスナインで舐め合ってた。 お互いの性器が大好きで、愛しく思えた。 若い女の子が、大股広げて女陰を晒し、そして男根をしゃぶる、うら若き乙女がそこまで捧げてくれることが嬉しかった。 快楽を貪る、それが愛の証だと信じていた。 迸る精液を浴びた前カノが嬉しそうな表情をする、精液をかけられて喜ばれる男になれたことが、どんなに嬉しかったことか… それなのに、なぜ、あんなことになってしまったんだろう。 前カノは、短大進学のために県庁所在地のこの街にやってきた。 短大を出たら、地元に帰るはずだったが、程よい規模の都会に馴染んで、そのままこの街に就職して、仕事上で俺と出会った。 約2年付き合った頃、すれ違うようになった。 何かが違う、違和感を感じ始めて、やることなすことが次第に裏目になっていった。 もうダメだと気付き、前カノは、仕事を辞めて故郷に帰る決心を固めた。 最後のデート、二人で歩いたこの街が、とても淋しく見えた。 「もう一度、最初からやり直せたらいいのにね…」 前カノが哀しい笑顔で言った。 俺たちが俺たちである限り、やり直しても、また、同じことを繰り返すだけだと分かっていた。 別れの盃を交わし、居酒屋を出た。 街の灯りに落ちる、二つの影が哀し気に重なった。 最後のセックス、喘ぎ声も虚しく、果てた後のシラケ具合が愛の終わりを物語っていた。 口をつく言葉は、もう、何も伝わっていなかった。 「私、行くね。今までありがとう。さよなら。元気でね。」 「ああ、お前も元気でな。さよなら…」 ラブホの前で別れた。 翌日にはこの街を去る前カノが、荷造りを終えたアパートへ帰っていくのを見送った。 翌日、f通に仕事に行って、昼飯を食いながら、今頃前カノは、故郷に向けて旅立ったかな、なんて考えてた。 仕事を終えて、帰りに前カノがいたアパートに寄ると、前カノがいた部屋は空室になっていた。 とめどなく涙が溢れ、前カノがいた部屋の玄関にもたれて泣いた。 数日後、外勤の途中でアパートのそばまで来たとき、なぜか一度アパートに寄ってから帰社しようと思って、アパートに行くと、俺の部屋の前に前カノが立っていた。 自販機の後ろに隠れて、声は架けなかった。 もう一度、さよならを言いたくなかった。 前カノは、前にいた会社の封筒を持ったから、何らかの手続きに戻ったようで、俺の部屋の玄関に額を付けて、泣いているようだった。 暫くすると、俺の部屋に軽く会釈して、帰っていった。 凄く、切なくなった。 前カノと別れて2年後、俺が妻と付き合い始めて1年の頃、前カノからメールが来た。 「私、今度結婚します。心配しないで。私、元気だから。」 「そうか、おめでとう。幸せになってくれよ。」 と返し、それが前カノとの最後の会話になった。 そしてその1年後、俺は妻と結婚して、あのアパートを出た。 ここには、あの頃の俺がまだ彷徨っていた。 それは、今でも前カノと別れた原因が、なぜあんなことになったのか、分からないからだ。 懐かしい街で、ステディリングを眺めて、前カノが今、どうしてるか、思いを馳せた。 暫く街を歩き、思い出が残る店の前を通り、帰ってきた。 あの頃の自分いは会えたが、あの頃の前カノはいなかった。 途中、橋を渡るとき、 「さよなら…」 と言って、川にステディリングを放り投げた。 川面にできた小さな波紋が治まるのを見て、帰ってきた。 何か一つ、区切りがついたような、一つの時代が終わったような、そんな気がした。 そして前カノの幸せを祈り、前カノの故郷の方角の空を眺めた。