いちおう男子更衣室なのでおそるおそるドアを開けてみた。
中はL字型になっているため奥までは見渡せないが、六つある蛍光灯のスイッチの一つがついていたので、間違いなくいると察したし、奥から人の気配も感じられた。
まず頭を過るのは喫煙…
だが、少しずつ歩を進めても香りは漂ってこない。
代わりにうめき声が鮮明になってきた。
私は曲がる手前のロッカーにはりつき顔を覗かせた。
そこだけスポットライトが当たったようについている電灯の下で、男子生徒が立ったまま抱きあっていた。
腿まで競泳水着を落としてお尻は剥き出しだった。
キスを交わしながら激しく抱擁しあっている。
手は互いの性器を触っているようだった。
なんという生々しさ…
男子校だし、特に寮組の中でこうした関係があるのは噂レベルで耳に入ることもあったが、それを目の当たりにするとやはりショッキング以外のなにものでもない。
自分の位置からは一人のバックショットしか見えないが、隠れた側の生徒の腕の動きからして、好きあってしているのはわかった。
不純異性交遊に当たるのは間違いないが男女じゃないだけに注意がしずらい。
それに二人が立ったままの不安定さで縺れ合ううちに隠れていた側の生徒が誰だかわかった。
その子は二年生の時に受け持っていた生徒だった。
実はその子は一番のお気に入りの子だったのだ。
最後はふたりとも女みたいな声をあげて悶え果てた…
あんなのを見て何も感じないほど私は枯れてはいなかった。
むしろ、現実に男遊びなどできない私は、一人淫らはかなり頻繁にしている方だろう。
妄想だけならどんな行為でも自由だ。
私はそういう面でもかなり想像はたくましかった。
私が目撃した一人の男子生徒は、そっち方面でもレギュラー枠の子だった。
なにより、自分みたいなタイプの教師でも疎ましがらずに接してくれた。
むしろ、他の生徒の手前開けっ広げではないが慕ってくれてるんじゃないかとすら思えた。
時折私の体に向ける視線…
あれは異性として品定めする目だ。
接する女性が圧倒的に少ないのだから、そういう風にもなるのは思春期だし仕方ない。
正直に言えば自身満更でもなかった。
そういう彼が妄想で重宝に使われるのも当然の話だった。
私はそれこそ毎晩あの行為を思い出しては手淫らにはげむようになっていた。
そんなある日、彼のクラスの授業が終わって職員室に戻る途中に彼から呼び止められた。
「もしかして、あの時見てたの先生ですか?」
私は一瞬、自分の方が悪いことをして見つかった気分になった。
私は面談室に彼を誘った。
廊下では誰に聞かれるかわからない。
それに誰かに見られていると気づいていながらも最後までしたことの真意が知りたかった。
かいつまんで言えば、途中で彼だけが気づいた。
髪の感じから女性に見えた。ということは生徒じゃない。
生徒なら隠し撮りされる心配もあるが、その点は大丈夫そうだ。
それに女性に見られる分にはちょっと興奮もした。
彼は相手には教えずに行為を続けたのだ。
それ以降、私が彼を見る目に変化が感じられ、それは日に日に確信に代わり問い質してみる気になったらしい。
「その後いっさいお咎めナシだから、誰にも喋らないでいてくれたってことでしょ?」
それでいってみれば信頼を得てくれたようだった。
それに他の先生なら問い質したりはしなかった。
あくまで私だからだと彼は付け加えた。
「先生があれを見てどう思ったのか、正直聞いてみたい…先生の様子から嫌悪感みたいなものはなさそうに見えた。それを感じたら聞けなかったと思います」
私は覗いてしまったことは詫びたが、男子同士だけに注意はできなかったと正直に告げ、彼に同性愛なのか尋ねた。これはおそらく真性ではないだろうと思っていたからだ。
彼はそれは違うと淡々と答えた。
実際そういうことをしてる半数以上は卒業と共に黒歴史になるんじゃないですかと他人事のように言う。
もっともここで目覚めちゃう人間もいるんでしょうけどね…なんて客観的に冷静に分析していた。
ただ…
彼は付け加えた。
「自分の場合はちょっと違います」
「?」
「知りたいですか?」
「ええ…聞いてみたいわ…」
「今だけは教師としての立場抜きに聞いてくれるなら…」
私は無言で頷いた。
彼が共に行為に及んだ相手は完全な同性愛者で、同室になってから行為を寄せられていた。
ゴールデンウィークに帰宅が許された際、迎えに来た彼の母親が綺麗だと褒めたらしきりに家に来ないかと誘われたそうだ。
また彼の母親からも熱心に誘われたのもあって、自らの里帰りを遅らせて泊まることになった。
その時に、彼にその相手は提案した。
お母さんを抱いてもいいと。(黙認するし協力もする)
その代わり、うまくいったら自分ともつきあってほしい…
そんな悪魔の囁きをされたのだそうだ。
私は荒唐無稽な話に口をアングリさせてしまった。
「そ、それでその提案を飲んだの…??」
「まあ、そうなりますね」
「じゃあ、それってお母さんと関係を持てちゃったってこと??」
「はい…」
なんとも驚いて絶句した。
「ビックリするくらい簡単に事が運びました。お母さんもグルなんじゃないかと疑ったくらいです。ただ、お母さんを綺麗だと言ってるよとか、こっそり煽るような誘導はしてたらしいけど…」
最初は一泊のつもりが二泊になった。
その二泊目に肉体関係にまで発展したらしい。
「単純に自らも欲求不満なのがあったんだろうし、こっちも窮屈な寮生活で女日照りなのはわかってるから誘惑しやすかったんでしょう。考えようによってはこんなチャンスもなかなかない。彼は彼でちゃんと寝たふりして邪魔しないでくれましたから」
それで彼も約束を果たしたのがあの更衣室の行為に繋がるのか…
たださすがにノンケの彼には最後までは厳しかったらしく、あくまでオーラルセックスまでで妥協してもらった。
その代わりに他の男子とはいっさいそういう事はしないという条件を出されたが、それはお安い御用だったので了承したという訳だ。
私は今の子が凄いのか彼らが凄いのかわからないが、とにかく話に圧倒された。
と、同時によくこんな話を私にする気になれたなあと思った。
いくら黙っていた恩があるとはいえ…
「その相手のお母さんとはその後も?」
「ええ、夏休みなんかも泊まりに行きましたし、外でも会ってました」
これにはちょっと嫉妬心が湧いた。
ほぼ私と同年代の女がこんな若い子で欲求を満たしているのだから…
「正直、こんなことを打ち明けられたことないから何と言っていいのかわからないわ…」
こう呟くのがやっとだった。
全てを上に報告したら大問題になるだろう。
揉み消すのも目に見えていた。
「先生に話したのは…」
さすがに意を決するように続ける。
「ひとつ抜けてる話があるんです。本当は僕が先生をお気に入りなのを彼が知ってるから母親との事を勧めてきたんです。つまり僕が先生くらいの年齢の女性じゃないとダメだってことです。彼のお母さんにも絶対耳打ちしてたはずです。じゃなきゃいきなりあんなに積極的にはなれないでしょうから」
「最初に覗かれてるのに気づいた時から先生のような気はしてました。放課後見回りするのも知ってたし。だから、もしお咎めナシなら全部はなしちゃおうかと思うようになって」
「先生、彼のお母さんを抱いた話をしたのは、先生のことも抱きたいからです。卒業してからでもいいです。つきあいませんか?」
私は頭が真っ白になった…
とりあえず時間の問題もあり放課後まで保留にした。
職員室に戻ってもとても昼食など取る気分ではなかった。
気持ち的にはやはり自分も女だし嬉しい気持ちもあった。
でも、さすがに倫理観も邪魔をする。
葛藤があるのも当たり前な話だ。
ただひとつ言えるのは、きっぱりと拒絶はしたくなかったという事だ。
可能性は残しておきたいという下心だ。
結局大した結論も出ないまま放課後になった。
私はとりあえず、自分が見聞きした今回のことは全て胸の内に納めると告げた。
それに、卒業まではまだ二学期分あるので気持ちも変わるかもしれない…
そんな風に先延ばしにして結論を出さないのが精一杯の結論だった。
「わかりました。それならその時にあらためてってことにしませんか?それならまだこっちもバッサリ終わりじゃない分ロマンがある…それに、あと半年弱じゃ気持ちも変わりませんよ…先生のことは入学した時から好きだったし」
私としても一番好ましい結論を彼が言ってくれた。
正直、私もただの父兄として接して口説かれたらすぐに落ちてたと思う。
それから、これからは変にぎこちなくならないようにお互いに気をつけましょうと話は落ち着いた。
なんだか、彼の方がこの手の事に全然慣れていた。
この時点で彼が卒業したら私は拒絶はできないとわかっていた。
こんな中年女にこんなうまい話があるのかと何度も自問したが、卒業するまで待つというところに彼の本気度を感じた。
でも、私も所詮ただの女だった。
卒業するまで待てなくなったのは私の方だったのだ。
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