「あっんっ…んんっ」
頭の中で「宗くん」に触れられることを想像しながら、指をしばらく動かていると快感が高まりを見せる。
キモチイイ…けど、これがイッたということなのか、凛花にはよくわからない。「宗くん」の動画で見たり聞こえたりする女性よりも、小さな波に感じるからだ。
少しだけ気持ちよさが強くなった程度なのかもしれないが、ここを超えて自分で弄り続けることは凛花はできなかった。
落ち着いた頃にもう一度スマホを見ると、画面は変わらなかった。更なるメッセージが来ていないことにがっかりしたような、安心したような複雑な気持ちだった。
待たせて自慰をした挙句、何を感じているのだろうと頭が冷えて冷静になった凛花は思った。
『ごめんなさい、遅くなりました。
宗くんの言うとおり、本当の私を知ってほしいのかもしれないです。またお話してくれるとうれしいです。おやすみなさい。』
そう送ると凛花もスマホを閉じ眠りにつく。
直前、彼氏からラインが着ていたことに気付いた。けれど、確認する気にはなれなかった。嫌いじゃないけど、彼氏より自分の気持ちに寄り添ってくれる人を見つけたから。
相手はインフルエンサーなのだから、明日以降話せるかわからないけれど、今日くらいは彼を思い浮かべて眠りたかったから。
翌朝、スマホには通知が入っていた。
「寝ちゃってました、じゃなく…遅くなりました…か…。
その間に、ナニをしていたんだろうね…。RINKAちゃん…。」
凛花の存在が少し「今」に飽きを感じていた男に活力に変わっていくのを感じる。
凛花と同年代に相対することがなかったわけではない。
が、これほど新鮮味を感じさせ、「奪い甲斐」のある女はあまり見かけない。
露骨に彼氏に不満があるわけじゃないからだ。
彼女の行動は、彼氏への当てつけじゃない。
純粋な相談。
そんな素直で真面目な少女の「心」を彼氏から奪う楽しみは、やはり他とは比べ物にならない。
「この子の場合は…、心を先に溶かしてから…かな…。」
朝の時点では返事をすることはなく、様子を見た。
午前の内に追伸があればもちろん返答するつもり、なければ午後あたりを見計らって。
少し間を設けることで、自分は特別と思わさることはなくあくまでその他の女の子の内の一人感が抜かせない。
それでいて、要所でアプローチ。
返事は怠らないことで、少女のまだ幼い心を縛り付けるように振る舞う。
心を奪う行為が…ゆっくりと動き出していく。
起床してすぐ、昨晩のことを思い出す。
こっそりと裏垢で見ていた「宗くん」に本垢から誤爆してしまったこと。その後もメッセージのやり取りをしたこと。そして、彼に触れられることを想像しながら自分を慰めてしまったこと。
無意識にスマホに手が伸びてSNSアプリを開く。「宗くん」の欄を開くが返信は来ていないことがわかった。
彼からすれば、数千人のフォロワーのひとりでしかない。凛花の悩みも特別なわけではなく、よくある悩み事なのだと思う。しかし、返信がないことにやや落胆してしまったのは事実だった。
学校に行った後も、事あるごとにスマホを開く。
「彼氏からの連絡待ってんの?仲良いのに。喧嘩でもしたの?」と友人につっこまれるくらいだった。彼氏とは今日は既に何度かやり取りはしているし、そう言われるくらいに仲は良いとも思っている。あくまで、エッチのところ以外では、だけど。
(あたしから送るのは、やり過ぎ……だよね。)
友人でも、ましてや知り合いでもない。凛花もそれなりにフォロワーは要るとはいえ、裏垢でもやり取りだ。関係はない。
でも、また話したかった。自分の気持ちを聞いて、否定しないでいてくれる凛花にとってな特別な人。
追いメッセージを送ることは結局できず、昼休みを迎えると友人に誘われてカワイイ振り付けだと評判のダンス動画を撮った。
本垢に載せる。でも、ブロックしてしまったから「宗くん」には届かないだろうけど。
午前中から取引先とのWEB商談を終え、一息ついていた。
成果を残してきたからこそ許されるリモートワークも、男の都合に合わせられる部分勝手が良い。
気づけば正午を少し回ったところ。
軽く色を挟むかと、冷蔵庫を見ながらふと思い立つ。
(そろそろアプローチしておくか…。)
昨夜のことを思い出し、SNSを開く。
直近のやり取りが凛花としかないことで、メッセージはすぐに開くことができた。
『こんにちは、Rちゃん。
本当の私…、のこと、考えているかい…?』
短く、端的な言葉。
しかし、凛花のとのコミュニケーションにおいては最も大事な言葉、本当の私。
学生だという事を知っていれば今は学校にいるはず。
変に露骨な言葉を送って機嫌を損ねるわけにもいかない。
そもそも学校にスマホを持って行っているかもわからないわけだが…。
ある程度の配慮を持って、それでいて「刺さる」言葉を選びメッセージとしたのだった。
新しいダンス動画をアップしたことで、フォロワーたちから反応が返ってきて、友人たちと笑いながらそのコメントを読む。カワイイと褒めてくれると、嬉しい。
さっきまではそわそわとスマホの通知が鳴ることを気にしていたけれど、いつもの生活に戻ったことで幾分か軽減された。昨日のはあくまで一時のこと。自分が変ではないことが分かっただけでも大きな収穫、と気持ちを切り替えられた頃、また一つ通知が鳴った。
友人と会話しながら流れ作業でスマホを開く。SNSアプリからのDM通知は見慣れたものだったけど、相手が「宗くん」だとわかり思わず手が止まってしまう。
友人に心配され、顔を上げる。
「ううん、大丈夫。中学からの友達がDMくれてさ、久し振りだったからびっくりしちゃって。ちょっとトイレ行ってくるね。」
中学の友人からだなんて嘘をついて、友人の輪を離れて教室を出る。そのまま宣言通りトイレの個室に入り、腰を下ろした。
『宗くん、こんにちは。
昨日はたくさん考えちゃいました。
本当の私って、皆は彼氏とか旦那さんに言えてる…のかな。』
メッセージがきて、そんなに間を空けずに返信するなんて、待っていたと思われるだろうか。でも、また話ができるなら。
そんな自分のことも「宗くん」ならきっと受け入れてくれる、そう信じてしまうほどに傾倒してしまっていた。
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