結局迷った末に中に入れたまま、トイレを出た。感情を読み取って、なんてそんなことあるはずない。たまたまだろう。
何度も何度も震えるようだったら、後が怖いけど捨ててしまおう。そう思ってトイレから出る。
「んッ」
祐一は飲み物を買って待っていてくれた。ローターが震え、思わずお腹の辺りを押さえた。すぐに止まったから本当に誤作動なのかも。博昭がついてきているなんて、考えもしない。
心配する祐一を宥め、「ありがと」とお礼を言ってアイスティーを受け取った。
指を恋人繋ぎで絡めると2人で歩き出す。
テーマパークの門をくぐると、より世界観に包まれてワクワクと心が高鳴った。
「このジェットコースター乗りたい」
「えっ、俺苦手なんだよなあ、」
「えー?でも、前乗ってくれるって言ってた」
なんて、他人が聞いても面白みのない会話を続けながら、スマホ画面でマップを観ながら笑顔で歩いている。
「天音、耳買ったら?かわいいよ」
ショップの前でキャラクターの耳をお揃いで買う。
博昭からせびったチケット代のおかげで、お小遣いは減らずに済んでいる。
結局、祐一は男の子の動物キャラクターの耳を、天音はその男の子とペアの女の子の耳を買った。よくある学生カップルだ。
【ありがとうございます。
よくいる楽しい学生カップルになっちゃいました。】
二人でおお揃いのキャラクターの耳か、なるほど、これなら、人が多くても見失わない。
大体の行動はわかってるつもりだ。
余りに、ローターが動くようなら、天音は捨ててしまうだろう。
でも、それは出来るだけ後のほうが都合がいい。
出来るなら、ホテルに行く前に、それだけ天音の身体の中に入っているのなら天音の身体も潤っているはず。
その期待もあって、祐一とホテルに行くのだ。
それが、思ったよりも良くなかったら、どうだろう?
今回は、お泊まりじゃない。
ホテルなら、休憩で2時間か、3時間位か。
気持ちは高ぶっていたのに、身体が不完全燃焼で、身体の奥で炎がついたままだ。
だから、出来るだけ、天音の身体に中にある時間を長くしておきたかったが、これは天音次第か、如何ともしがたい。
まあ、お手並み拝見、想像しただけでも、楽しくなる。
一日中、付けまわす必要はない。
天音は、夜には帰ってくる。
その時の天音が、どんな言い訳をして俺にすり寄ってくるのか、楽しみだった。
二人がジェットコースターの列に並んでいた。
これは好都合だ。
絶叫と、ジェットコースターの轟音で、ローターのスイッチが入っても、おかしくない。
二人は身体を寄せ合いながら、お互いの飲み物を交換して飲んだりしている。
そろそろ、順番だからと飲み物のごみを祐一が近くのごみ箱に捨てた。
白Tだから、染みがついちゃうし、第一、飲み物を持ったまま乗れないよと話してる。
耳も飛びそうだからと二人して外す。
二人は一番前の席に座り、動き出すのを待った。
祐一はほんとに苦手だと天音に言うと、天音は大丈夫だよと肩を叩く、大げさなんだから、と微笑む。
ガタンッと大きな音がしてゆっくりと箱形のジェットコースターが動き出した。
一番前って、一番怖いんじゃない?祐一は目開けていられない。
ゆっくりゆっくり上り坂を、ギアの音と共に昇っていく。
やがて頂上に。
山の頂のようなところから一気に下り始める。
ゴォーー、という音と共に、天音の中でも振動が始まる。
乗客がキャー、とかギャーと騒いでるとき、天音だけは鼻に抜けるような声が漏れる。
ジェットコースターの滑る音、乗客の歓声にかき消されるが、天音の身体は別なものによって振動し続けていた。
誰にも、気づかれる心配がない事だけが唯一の救いだった。
ジェットコースターを下りたら、捨ててやると天音は強く思った。
隣に座る祐一がコワイと騒ぐ。
格好悪い、情けない、なんて思わず可愛らしいと感じた。嫌だと言いながらも結局は天音の「一緒に乗りたい」を優先してくれる優しい彼氏だ。
ブザーとともにジェットコースターが動き出す。高いところから、一気に降りるその瞬間、ローターが動き出すのがわかった。体を揺さぶられる振動に紛れて認識さえしていなければ、何も思わなかったのに。
「はあッ、んん」
気付いてしまったらもうダメで、猛烈なスピードや圧力、振動が体を襲っているのに、中から与えられる刺激が気になって体が拾ってしまう。
隣の祐一はもちろん気付かず、ギャー!と叫び声を上げていた。
音や振動では絶対バレない、けど、そういう問題じゃない。耐えるように俯く。ジェットコースターが怖くて前を向けない、そんな風にしか見えないのが幸いだった。
止まるまでせいぜい1分あるかないかだろう、すぐに出発地点に戻ってきた。バーがあがり、足元に気をつけて降りるようにアナウンスが流れる。
「あれ?天音もこわかったの?」
すぐに立ち上がれない天音に嬉しそうに声をかける。
「う、うん、おもったより、こわくて」
ジェットコースターを味わえる余裕はないから嘘だった。未だ震え続けるローターに動きを制限され、ゆっくりとぎこちない動きで車両を跨ぎ降車する。
「じゃあ次さ、こっち乗ろう」
本当はトイレに駆け込んで捨てたかったのに、知る由もない祐一は近くにあるアトラクションへと天音の手を引いた。振り解いてトイレに逃げるわけにもいかず、また長蛇の列に並ぶことになってしまった。
賑やかにBGMが流れているからか、誰もローターの音に気づいた様子は見せない。
(はやくとまって)
無意識にお腹を押さえるが、祐一が心配そうに声をかけるから手を離す。何とか表情を取り繕い、会話をするので必死だった。風が吹いて心地よい天候なのに、天音は焦りと刺激でしっとりと汗ばんでいる。
は、はあん、祐一に促されてトイレに行くことを諦めざるを得なかったか。
お腹を押さえる天音に祐一が心配そうに顔を覗き込む。
ローターが止まった。
何でもない、大丈夫、と強張った笑顔で応じる天音。
怖くて、気持ち悪くなった?
ちょっと、どこかで座ろうか?
祐一はしきりに天音を思いやる。
せっかくのデートだ、天音が万全な状態でないなら、すぐに帰ってもいいとさえ思った。
祐一は、並んでいた列から外れて、天音を木陰のベンチに座らせた。
なんか、顔が赤いけど熱でもある?
祐一の手が天音のおでこに。
顔が青いのなら、さっきのジェットコースターで気持ち悪くなったのかもと思ったけど、顔が赤いから熱でもあるのかと、心配したよ。
熱はないようだから、ちょっと待ってて。
冷たいアイスを買ってくるから。
何味がいい?
祐一は、一生懸命に天音を気遣う。
ローターが止まれば平気なんだけど、身体が過敏になってるのがちょっと怖い。
ふとしたことで、とんでもない声を出さないとも限らない。
過激な乗り物に乗りたかったけど、動きの優しいメリーゴーランドあたりが無難かな?
あとは、船に乗ってクルーズしてみるのもいいかも?
電波のせいでローターが動き出すと信じてる天音は動きの激しい物が、影響するのかと、ゆっくりとした動きの乗り物に乗ろうと
祐一に提案しようと思った。
それでも、早いうちに体の外に出さなくては。
ショーツを汚してしまう。
大丈夫だと言っても祐一は聞かなかった。結局並び始めた列を抜けて、ベンチで2人きりになる。
中で震えるローターの音が聞こえないか心配だし、何かを見ながら話すのではなく2人きりで会話する方が変な反応をしないように心掛けなきゃいけないから、トイレに行けないのなら並んだり乗り物に乗ったりしている方がいいのに。
汗ばんだ額に触れられた。びくっと体が震える。
「熱い気がするけど、本当に大丈夫?」
そう気遣う祐一の優しさが、騙している気持ちになって今はすごく辛い。
早く止めて、早く取り出したい、けど、繕わなきゃ。近くに船の乗り物があるのを思い出す。あれなら、きっと周りの景色を見ているし、適度なアナウンスも揺れもあって気付かれないだろうと思った。
心配する祐一に、もう大丈夫、と伝えて、2人でアトラクションに並ぶ。
(ぬれちゃってる、気がする)
ショーツが湿っているような気がして、気が気じゃない。幸いローターの強さはそこまで強くないようで耐えられないことはない、けれど、長時間になるとしんどい。
デニムを履いてきてよかったと安心しながらも、ローターが止まることを願ってアトラクションに乗り込んだ。
【今日はここで休ませてください。
帰りの電車が何故かすごく混んでいて(周りの電車の振替輸送とか)、痴漢されちゃいたいな、って思っちゃいました。
祐一ははぐれてもらって、周りのおじさんとかお兄さんとかに見られながら、とかイメならではで楽しそうだなって。】
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