大事なことを、大事な人を疎かにしてはいけない。
しかし人はすべてを最優先することはできない。
だから、今自分を求めているものを与えてくれる人を大事にしたほうが良い、ということ?
それは誰?友達?彼氏?……それとも、自分の本当の姿を初めて認めてくれた「宗くん」?
メッセージの送り主の意図が合っているかわからないけれど、凛花は自分の中の優先順位を初めて意識した。
友人や彼氏と話していたときに「宗くん」のメッセージを優先して、トイレに逃げ込んだ。
ほぼ毎日メッセージや動画、ストーリーズ(呟き)など、何かしらは本垢を動かしていたのに、今は止まっている。
凛花の心は無意識にその優先順位を決めていたことに気付く。良いこと?良くないこと?わからない、けれど。
『お風呂上がり…?はい、わかりました』
ゆっくり話せるように時間を作ってくれているということ?
意図がわからないけれど、拒否する理由は凛花にはなかった。それだけを送って授業に戻る。
【お気遣いの言葉、ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。】
わざとらしく含みを持たせて紡いだ言葉を凛花は深読みするのか。
それとも、よくわからないとあっさり切り捨てるのか。
どちらであっても良いと、その時点では考えていた。
前者であればより翻弄し、弄ぶ。
後者であれば内容を少しずつ具体的にし、自分が如何に変態的な性癖を秘めているのかを自覚させる。
時間帯を指定して指示したことを、どう感じたのか。
わざわざ時間を作ってくれたのだと、歓喜しさらに染まりたいと思うようになっていくのか。
あるいは、既に盲目的に好意を寄せており、言われたことを拒否するという選択が欠落し始めているのか…。
どんな反応さえも、今の男を昂らせる要素。
指示通りに連絡が入れば、さらなる辱めを男は画策する。
(つまらない時間が増えていたけど、君のおかげでしばらく楽しい生活ができるよ。
凛花ちゃん…。)
了承した返信を目に、男はその時を待ちながら仕事を進める。
授業、部活、家に帰ってからの食事や入浴を経て、今に至る。「宗くん」との約束があったから何だか全てが忙しない気持ちだった。まるで片思いの人との予定前のようで。
いつもより早い、21時頃。SNSを開いてメッセージを送る。
『宗くん、お風呂入りました。』
相手の意図がわからないから、求められた最低限の返信に留める。まるで約束のように言われた言葉は本当だったのか、期待しちゃいけないという自分と、期待して返信を待つ自分の両方がいて苦しい気持ちだった。
なんだかちゃんとしたい気持ちで、これまではTシャツに短パンと上下バラバラだったけど、今日はセットのパジャマを着てみたりして。
紺色の半袖のボタンの上に、同じ色のショートパンツのセット、まるで彼氏と初めてお泊りするかのようにして、想い人からの返信を待っている。
『お疲れ様…、それともお帰り…の方が良かったかな…?
今日は少し早かったんだね…、いつもなら21時半…、どっちかと言えば22時に近かったと思ったけど…。』
凛花の逸る気持ちを見透かすように男はそんな言葉を選ぶ。
他方でどこか粘着質じみた、執拗に観察、分析している様にも聞こえる言葉。
思考が正常であれば、違和感や嫌悪感を抱いてもおかしくない言動とも取れそうだが…。
『今夜は時間に少し余裕があってね…。
本当のRINKAちゃん…と、話す時間にできたらな…って思っているんだ…。
満足できず、我慢して我慢して…彼氏の機嫌を取って。
友達に笑顔を振りまいて、愛想よく、女子高生をしている君…じゃなく…。
そうだな…、わかりやすく言おうか…。
今は、お昼休みにトイレの個室の中にいたRINKAちゃんと話したくてね…。
話せるかな…?』
徐々に露骨になっていく。
凛花の厭らしく、他人には決して言えない秘めた部分を求める言葉。
そして、わざとらしく問いかける。
それはまるで、男の言葉一つで厭らしい自分にスイッチが入れられるのか…?そう尋ねている様。
(内容はまだまだ甘い。
でも君にとって、学び舎の…いつ誰が近くを通ってもおかしくない公共の場、お手洗いでオナニー…していた事実はとても貴重で恥ずかしい経験だったはずだ…。
思い出して…。
俺だけが知っている…本当のRINKAを…。)
眺めるスマホ画面には、SNS経由でも可能な通話の発信ボタンが表示されている。
また一つの品定め、試すような行為を男は画策し。
【恥ずかしながら書けども書けども、凛花さんの心を翻弄するというよりも粘着質なストーカーみたいな描写になってしまって、何度も描きなおしていました。
大きくズレた描写をすることはないと思っていますが、少し違うなと感じられた際には仰っていただけると助かります。
いつも素敵なお返事をありがとうございます。】
早かったね、と言われれば、「宗くん」との入浴後の連絡の約束を楽しみにして手早く済ませてきたことがバレてしまった気がして恥ずかしくなる。
いつもなら「そんなことない」と隠してしまうのだけれど。数日の間に生活リズムを把握されていること、その不気味さに浮かれた凛花は気付かない。
『宗くんと話すのが楽しみで急いじゃいました』
だが「宗くん」からの返信、その後半の内容に戸惑う。
学校という公共の場のトイレで隠れて自慰をした、いやらしい本当の凛花と話をしたいという。
振り返るとすごく恥ずかしく危ないことをしたと思うのに、でもそれを「宗くん」は認めて、その凛花と進んで話をしたい、そのために時間をとってもくれると。
本当の凛花を求められていると感じて、体が熱くなる。
『はい…大丈夫です…。悪いことをする私でいいんですか…?』
返信して、ベッドに寝転んだまま息を吐く。
皆にひた隠しにきた本性に触れられることは怖いが、「宗くん」ならきっと大丈夫。でも、不安。でも嬉しい。
ひと言では表現できない感情で、なんだか初体験の前を思い出した。好きな人に初めて体を曝した、あの瞬間を。
【おはようございます。こちらこそ同じように思っています。何かありましたら教えてくださいね。
早速ひとつ我儘を言ってもいいでしょうか?
「宗くん」に対して電話をきっかけに敬語をやめたいなと思っていて。存在は遠いけどより身近に感じて、彼氏のポジションを塗り替えられていくイメージです。
凛花からは言えないと思うので、もし宗次郎さんのイメージと違わなければ導いてもらえると嬉しいです。】
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