「…。」
いつもの時間、いつもの場所で、いつものように電車に揺られていた。
混雑する車内は息苦しさを感じ、ストレスは一入。
誰もが目的の駅への到着を心待ちにしながら、各々がスマホ、書籍、あるいは教材、風景に集中させるように気を紛らそうとしている。
男が乗り込むのは決まってこの車両。
いくつもの路線が入り乱れる大型の駅で、この車両は乗り換えに便利な階段の真ん前に扉を開く。
一本違えば大違いの通勤時、誰もがスムーズな乗り換えを求めてこの車両に集まってくる。
老若男女問わず。
その利便性は「女性専用車両」という女性の為の車両の意義すら薄めるほど若い女も、学生も、OLも利用していた。
だからこそ…、この車両なのだ。
同じ時刻の同じ電車にもかかわらず、この車両だけは乗車率が他よりも約2割ほど混雑する。
入り乱れるのだ。
半ば強制的にパーソナルスペースを侵食され、家族でも恋人でさえ立ち入らないだろう距離感に他人が割り込んでくる。
だからこそ…、この車両なのだ。
男はその手にスマホを握っていた。
それとなく、自然な形で握ったまま…、カメラレンズを、女のスカートの内側へと滑り込ませるのだ。
大胆と言えば大胆。
しかしこれがまたわかりづらい。
互いの手元など何も見えないほどの混雑状況、そして何より、互いに興味のない他人の集まり。
余計に事は知られることはないのだ。
そして、この行為は痴漢とは違い、触れることはない。
触覚による認知は皆無なのだ。
振り返ることすら許されない環境下ではもはや気づき様がない。
「…。」
(女子高生…?この制服は…〇高か…?
ちょうどいい、今日はこの子にするか…。)
めぼしい女を見つけると、割って入り背後に立つ。
そして鉄の籠がゆっくりと動き出すのを待った。
…ヴ…ゥ~…ン…
『…ご乗車…ありがとうございます…この電車は…~~』
「…ん…」
想像していたよりも混雑の状態は酷く、思わず息が詰まる様…
ドラマで見る様な満員電車に自分も乗っている。
一年程前までこの電車に乗っていた事をすぐさま思い出した。
『次は…~~…~~駅です…』
…再び「学生」に戻った私は、当時の時間帯にまで合わせて「登校」を始めた…
…彼女達に…合わせる様に…
3駅を経て最寄りの駅に着くこの電車…
時間で約30分を切るくらいだったろうか…
やや長い乗車時間…
疲労を感じるが、特別辛いと思った事はなく、当時は平然と乗っていた…
(チラッ……チラッ…‥)
女学生が何人もいる…
これだけいると私が学生ではない事はまずわからないだろう。
まるで私もこれから授業を受けに行く生徒の様だ‥
『…まもなく‥~~…~~です‥』
‥意外にも冷静だった。
おかしな事をしている自覚はあり、家を出る際は鼓動が強くなっていた。
しかし、いざ外へ出てしまうと、周囲を歩く女学生に溶け込む様に「登校」している自分に気づく。
そしてこの中に入ってしまえば、まるで時が戻ったかの様に最寄り駅を意識している自分がいた…
何も‥未練などなかったのに‥
『…ご乗車‥ありがとうございます…次は…~~…~~です‥』
あと二駅か‥
友達も‥この中で撮られたのか‥
あれから連絡がないけど…落ち着いたのかな‥
こうして背後にいる人から‥
?
えっ‥
(晶は友達の被害を思い出す様に、何気なく脇の間を覗いてみると、スカート下にスマホの様なものを差し込んでいる手に気づく。)
!? も、もう!?
‥そん‥な‥
ガタン‥ガタン‥
‥まだ‥乗って10分も経ってない‥
この混雑状況で‥どうして私の後ろに?…
!?
‥えら‥ばれた?…
男の経験上、早々に気づかれることは100パーセントない。
リスクを考慮し、下衆でありながらも姑息で周到な男は今まで一度も手を出したことはない。
触れるということは此方から意識させるという事。
それが偶然か意図的な物なのかは関係ない。
「触れている」と意識させる時点で、限りなく0に近いリスクが一気に跳ね上がるからだ。
だからこそ…、というべきか、少女が早々に勘づいたことに気づけなかった。
滑り込ませた手…に握ったスマホ、が撮り続けている。
その映像は下車後に堪能するだけ。
努めるべきは少女の容姿、雰囲気、顔つき、体型をその目に刻む事。
確認する映像はもちろん、上手く撮れてもスカートの中のみ。
その時の少女がどんなだったかは、記憶を辿るしかできないからだ。
(…。良い感じだ…。
スマホも最新型に買い替えた、手振れ補正も前より数段優秀。
慣れるまでは大胆には動けなかったが、これなら今後も問題なさそうだな…。)
言い逃れができるように、最低限の差し込みにとどめる。
スマホを摘まむように握ればやや何度は下がるが、言い逃れが難しい。
大きく鷲掴みにし、カメラレンズだけ顔を出させてスカートの内側に向ける。
(あまり焦りたくはないが、この制服の高校は最寄りが後数駅だったはず…。
早くしないと逃してしまうからな…。)
軽く停車駅の図に視線を移し、どの程度の尺を持たせられるかを考えながら。
まさか、それを狙って乗車している女などとは露とも知らず。
ガタンッ‥ ガタンッ‥…恐らく…私は今、スカートの中を盗撮されている…僅かに見えた黒光りする物体…レンズがスカートの裾下から内側の角度に向けられていたのだ。「………」これが…盗撮…これが…大人…グッ‥(思わず右手を握りしめる晶)なんて卑劣…なんて…最低な大人…外面はにこやかに…善人の仮面を被っているんだ…友達は…こんな男に…許せない…『…まもなく‥~~…~~です‥お降りの際は…』…姑息な男…微動だにしないかの様にあの「ポジション」をしっかりと確保している…経験者だろう。…改めて…冷静だった。確信を得た状態でのこの無抵抗な自分…可能性を理解し、こちらとて無防備で来た訳ではなかったから。---『スカートは危険だからさ、重ね穿きは絶対にした方がいいよ。』『うん…私もちょっと無防備だったかも…』『元学生だからさ(笑)私も穿いてたし、そのくらいの知恵はあるよ。』『ありがとう、晶。』---7:30…キィッ‥スッ‥スルッ…(部屋着のTシャツ、スウェットを脱いでいく晶。)スッ‥(ややごわつく黒い下着を手に取る。)「……」…スッ‥スルッ‥ スッ‥ ススッ…(再びそれをタンスへ仕舞い、制服へ四肢を通していく晶…)---…結局、私は【穿かなかった】…どうしてかはわからない…自分でも…友達へ忠告した事を破り、私は「リスクある」状態でここに乗ったのだ。シュ~…ゴッ‥ピン、ポン…スーッ‥タッタッタッ… タッタッタッ…スーッ‥ガタッ‥ゥ~~ッ‥『ご乗車…ありがとうございます…次は…~~…~~です‥』最寄り駅まで…あと一駅…... 省略されました。
「ちっ…。」
容姿、スタイル共に申し分ない獲物にありつけた。
しかし、乗客には当然目的の駅が存在する、むしろ例外はこの男。
あと一駅。
恐らく、この制服を着ている学生は皆次の駅で降りる。
チャンスはそれまで。
と思いきや、思った以上に一つ手前の駅でかなりの乗客が下車していく。
雪崩るように人の塊が動き、混雑が一気に緩和されていく。
数分とはいえ、さすがに緩和された車内で張り付くほど愚かではない。
思わず舌打ちをしてしまいながらも、そんな男の妬ましい欲求からくる音は人混みの騒音にかき消される。
「…。」
すっとスマホを握っていた手を引き、何事もなかったかのようにポケットの中へしまう。
うまく撮れているのかどうか、そしてこの少女が身に着けている下着の種類は、種類は…。
気持ちはさしずめ、遠足の前日ような気分だろうか。
あらゆる都合の良い妄想を抱き、期待し、昂る。
ある意味目の当たりするその瞬間よりも興奮できるのかもしれない。
少女から少し距離を置き、背後を気に掛ける。
(仕方ない…今日はここまでだ…。
人も少なくなってきた…、少し確認してみるか…、まだ顔も姿も目の前にあるんだ…。
その状態で確認する方が、楽しめる…。)
基本的には下車のタイミングまで追いかけていた男。
乗り合わせたまま撮影した内容を確認することはなかった。
再びスマホを取り出し、慣れた手つきで操作していく。
同時に車両も動き出しており、少女の目的地であろう次の駅に向かい始めていた。
大凡数分で次の駅に着くだろう、そんな中で男はちらっとひとめ少女の背を、その姿を確認してから動画ファイルを開いた。
暗い状態から再生される動画。
早めに起動しておくのはいつもの通り、そして少し明るくなったかと思うと少女がスカートが映り込む。
さらに一度車両の天井を映し出したかと思うと、ゆっくり少女がいる側へとスライドして行く。
そして…。
(…ん…?)
期待に胸を膨らませ、やや膨らんだ股間が窮屈に感じ始めながらも先に起こった感情は悦びでも興奮でもなく、疑問…だった。
(映って…、いや…ん…?)
「え…?」
数秒見つめても、一向に映り込まない布切れ。
背後下から尻の割れ目を捉えながらも、下着…が見えない。
思わず声が出るほど驚いてしまう男、くっと視線を男に向ける乗客が数人。
慌てて口を塞ぎ、取り繕うように振る舞いながら俯く。
(穿いて…ないのか…?まさか…。)
少女にとって幸か不幸か。
下着が目的だった男の手が深く入り込まなかったことで、結果尻の割れ目が撮られた、だけに留まる。
もし、もっと大胆に、差し込んでいたなら…あるいは…。
「へぇ…。」
気づけば男は口元が緩み、少女の背中を見つめながら微笑みを浮かべている。
鉄の籠が大きく揺れ、減速を始めていた。
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