触れたり触れられたりを繰り返していたが、何度も美月からの連絡をきっかけに帰り支度を始めた。博昭に整えてもらった結果、情事の名残は感じさせない制服姿でホテルを出ることができた。
動くきたくない、と駄々をこねたら、濡れた髪にちゃっかりドライヤーまで当ててもらえた。
買い出しに行くなら、ここまで来たのだからとホテルから近いスーパーが良いと提案する。行き慣れているスーパーの方が、と意図を掴めない博昭の言葉に首を横に振る。そこで察したようで、広めのスーパーの駐車場に入った。
「お腹すいたから、お菓子も買っていい?」
カートを押す博昭の左腕に右腕を絡める。傍から見れば年頃ではあるが仲の良い親子に見えるだろう。やや距離は近いけれど。
夕食を作るまで待てないから、とお菓子売り場に博昭を連れて行く。スナック菓子、チョコ等色々迷った後、グミを買った。これ美味しいんだよ、知ってる?なんて話しかけながらカゴに放り込む。これまでの2人の距離感からは考えられなくてやや違和感はある。美月はさぞ驚くだろう。
店を巡る間も、
「なんで料理できるの?」
「ひろは何が好きなの?」
「これ美味しそう、買っていい?」
「これ食べたことある?」
「お酒って美味しいの?」
・・などなど、目に見えたものをきっかけに話をする。しばらく一緒に住んでいるのにお互いに知らないことだらけで新鮮だった。
博昭が一人で買い物を済ますよりも長く時間がかかってしまったが、ようやくお目当てのもの(に、天音がねだったもの)を購入してスーパーを出る。
【おはようございます。
昨日びっくりするほど寝たので元気いっぱいです。笑】
結局、天音に振り回されながら晩飯のおかずとして、白身魚を買った。
炒めるか、焼くか、もしくはフライでもいいかな?と、あとは天音のサポート次第だというと、手伝ってくれるとは云うものの、
あまり期待は出来ないと笑うと、足をコツンと蹴とばしてきた。
笑顔で話しながら腕を組んで歩いているのに、見えない部分で蹴とばしてくるとは、俺も、見えない部分でイジメてやろうと思った。
何はともあれ、天音の知らない部分の一端が見えたようで、嬉しかった。
辛い物好きか、甘党か、コーヒー派?紅茶派?それとも緑茶が好き?好みの色は?
突然、言い淀みながらも好みの女性のタイプまでも聞いてきた。
ーそうだなぁ、素直で優しくて、バカッとかオヤジとかいう言葉を使わない年下の女性と言ったら、
カートの下で足を蹴られた。
ーでも、胸の小さい女性は大好きだよ、付け加えたらさらに、ケリを喰らった。
暴力反対といいながら、天音を見るが、歳が離れているから、俺の過去に興味というよりは不安があるんだろうかと思った。
お互いの気持ちが通じ合えていると、日常が変わって見える。
何気ないことが、幸せの時間に変化する。
帰宅する車内では、運転する俺の口にグミだの、スナック菓子だのを食べさせてくれる。
もちろん、運転の邪魔にならない程度に手も繋いで。
帰宅すると、すぐに夕飯の準備に取り掛かる。
驚いたことに、天音は意外と包丁を使えた。
考えてみれば、母子家庭だ、母がいなければ自分で作るしかないし、帰りの遅い母の分まで作っていたのだろうと想像は付く。
ーなんで、今まで手伝ってくれなかった?
ー能ある鷹は、爪を隠すって云うじゃない?
ー天音は、爪は隠してなかったぞ、それどころか威嚇してたぞ。
誰かの為を思って料理するのも楽しいが、こうやって冗談を言いながら二人で作れば、もっと楽しい。
出来た。
白身魚のムニエル、付け合わせのマッシュポテトに甘く似た人参、ホウレンソウのお浸しと味噌汁。
炊き立てのご飯をよそる。
『いただきます。』
【こんにちは、昨晩は失礼しました。
ちょっと、新婚家庭の雰囲気を味わってもらいました。笑
機嫌が直った天音は旅行に一緒に行ってくれるようです、よかった。笑】
何度か足を踏んだり、蹴ったり、じゃれ合いながら買い物を済ませ帰宅する。
母と料理をすることはあったが、博昭と並んでキッチンに立つのは初めてだった。包丁捌きを褒められたが、「意外だが」という気持ちが籠もっているのがわかってまた軽く蹴りを入れた。
料理が出来上がり、向かい合ってテーブルにつくと食べ始める。想像通り美味しかった。天音も簡単なものは作ることができるが、ここまでの品数を作ろうとは思わないので素直に博昭を感心してしまう。
「美味しい。・・あ、ねえ、温泉ってどこいくの?ママにきいたら、博昭さんに聞いたらって言われた。」
週末の温泉旅行は博昭とも仲直り?をしたので行くことにした。「博昭さんから聞いたわ、旅行も楽しみましょうね。家族旅行楽しみ。」、と美月から個別でラインが来ていたのも思い出す。詳しくも聞かずに拒否していたからどこに行くのかも天音は聞いていなかった。
家族旅行なんていつぶりだろう。2人で生活するようになってから、美月はできる限り天音と一緒にはいてくれたけれど、それでも仕事が忙しくてなかなか旅行にはいけなかったから新鮮だった。博昭がいるのも、違和感というか更に新鮮というか。
【こんばんは。
一旦イチャイチャは楽しめたので、秘密にしていただいて温泉旅行にとんでも大丈夫です。笑
家族風呂も楽しそうですし、実際にあるかはともかく温泉街の知る人ぞ知る混浴風呂とかも楽しそうだなと思いました。深夜になるとそういう趣味の人が集まってくるとか。】
昔は(江戸時代頃か)は湯治場として賑わったらしいが、今は秘湯として有名な温泉旅館に来ている。
各部屋に、露店の家族風呂がついているし、当然大浴場、大露天風呂もある。
大浴場、大露天風呂は、一日おきに、男性用、女性用と変わると説明を受けた。
また、旅館から歩いて5分くらいのところに、町営の露店風呂が川岸にあるという。
ただし、ここは混浴で、秘湯マニアの間では有名らしい。
あとで、行ってみたいね、と誰にともなく話す。
【こんばんは、
美月の前で、天音を抱きたいのですが・・・・、見られてするの、確か、お好きでしたよね?笑
そのあとは、混浴露店風呂にいきましょうか?
美月には、申し訳ないけど、寝ていてもらいます。
家族風呂に一緒に入ったし、旅館内のは天音と二人で入ったという事で。】
博昭の運転で出発から数時間、大きく歴史がありそうな旅館に到着した。館内の温泉も有名だし、周辺で入れる温泉もいくつもあるらしく、美月と天音だけなら来ることは難しかっただろう。
どこに泊まるのかは到着までのお楽しみだと教えてもらえなかったが、思いの外立派な旅館に少したじろぐ。
「きれ〜、ママ、景色すごいよ。夜になったら星も見えるかも」
案内の仲居が退室した後、部屋の探検を始める。まず最初に見たかったのが各部屋についている家族用の露天風呂だ。
ドアを開けて外に顔を覗かせると、屋根もあり雨でも入ることができるようになっていた。外に出てみると、柵越しに海と山が視界いっぱいに広がっている。
はしゃぐ天音の様子に嬉しそうに笑って返す。
美月は博昭の呟きが聞こえていたようで、自分に言われていると思ったのだろう。「混浴なんて、ちょっと恥ずかしいわね、天音を連れて行くのは心配かも」と返した。
【見られるのは好きです。たぶん、しちゃいけないことをしてる感覚が好きなんだと思います。笑
これは絶対、ということはないので・・博昭さんのお好きな感じで大丈夫です。】
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