最近、雨が続いている。
こんな日になると思い出す、私がまだ学生だった頃の、雨の富士森公園の記憶。
あの日は昼下がりに見た映画の余韻にあてられて、この夢見心地を引き伸ばしたくて、雨の中を傘を差して一人散歩に出たのだ。
夕刻時、緑豊かな一本道の奥、山の斜面から伸びる木々。ししおどしのように雨水を受け止める葉。
「綺麗……」
非日常を覗き込むように歩みを進めた私の足は、そこで急に縫い止められた。
人だ。
この雨の中、傘も合羽も着ず、ずぶ濡れで斜面に立ち尽くす男の影。
なぜ?次の一手を考える余裕もない。猫に睨まれたネズミのように硬直した私に向けて、その影は意志を持ってゆっくりと降りてきた。ターゲットは、私だ。
私は踵を返して出口へ向かう。刺激しないように早歩きで。
だが、ちらっと振り返ると、1メートルもない右斜め後ろに男がピッタリとついてきている。背景には、薄暗い公衆トイレが佇んでいた。
その瞬間、私の頭の中に、凄惨で生々しい妄想がフラッシュバックした。強引に腕を引かれ、あの個室トイレの冷たい床に引きずり込まれる自分。
「好きだ」「愛してる」「結婚しよう」……そんな安っぽく下劣な言葉で私を乱暴に犯す獣。
私の太ももを生温かい白濁液が伝い落ちる頃には、男はとっくに消えていて、私だけが惨めに這いつくばっている……。
恐怖と、どこか暴力的な妄想で身体を強張らせて歩く私の、真横。
いつの間にか並んでいた男は、顔を隠そうともせず、視界の隅で肌色の肉塊を忙しなく扱きながら見せつけてきた。怯える少女の恐怖を燃料に自家発電する、最低な露出狂の顔。
半ばパニックで鞄から携帯を取り出した瞬間、男はあっさりと消え去った。
これが、私の苦く、そしてひどく生々しい雨の日の記憶。
だが今の私は、あの日の恐怖すらも俯瞰し、味わい尽くす完全なバケモノなのだ。
いつの日か、私は雨の滴る公園もヒタヒタとお散歩をして……暗がりの中から、勝利のピースサインでこの記憶を上書きするであろう。
2026/09/10 17:45:03