お盆の週が終わると夫は日常に戻り仕事に追われる日々。そして太一も、残り少なくなった夏休みを満喫することはなく部活と宿題と塾通いに追われる日々を過ごしていました。家族旅行から帰宅後の6日間は何事も無く過ぎましたが、ちょうど1週間後に《Xデー》は訪れました。正確には《Xデー》ではなく《SEXデー》ですかね?お昼の12時過ぎ、昼食を作っている時に、部活を終えた太一が帰宅しました。「お帰り。もうすぐお昼ご飯できるから、先にシャワーを浴びといで!」「お昼ごはん、何?」「焼き飯と唐揚げ。いっぱい作ってるから好きなだけ食べてね。」「腹が減ってるから先に食べようかな。」「ダメダメ、汗臭いし泥だらけなんだから、先にシャワーを浴びてきなさい。」「えぇ~。」「『えぇ~』じゃないでしょ。ほら早く、汗臭い汗臭い!」「じゃあ、お母さんも一緒に浴びようよ。」「はぁ?何バカなこと言ってるのよ。」「温泉で家族風呂、一緒に入ったじゃん。」「だ、だから何よ。お母さんはまだ唐揚げを揚げてる途中よ。」「唐揚げ、そんなに沢山いらないよ。」「うそ~ッ!アンタのために、こんなに汗だくになって揚げてるのに。」「うわッ、ホントだ。お母さん汗だくじゃん。やっぱ一緒にシャワー浴びたほうがいいよ。」(ま、まさか。本気でシャワーに誘ってるのかしら?どういうつもり?シャワーだけで済むはずがないわよね?)「お母さんの心配はしなくていいから、早くシャワーを浴びてきなさい。」「別に心配はしてないよ。」「じゃあ、何よ。」「もうすぐ夏休み終わっちゃうし....。」「えぇ?」「お父さんもいないし....。」ここまで言われてしまうと、太一が何を言いたいのか、どんな気持ちで言っているのか、痛いほど分かってしまいます。かといって、あの日の『もう二度とこんなことはしないのよ。』という約束を簡単に破ってしまう訳にはいかない、と思いました。「ダメよ。」私は心を鬼にしてそう答えるのが精一杯でした。「どうして?」太一は食い下がってきて、簡単に引き下がりそうにありませんでした。「『どうして』って太一....。分かるでしょ?」「お母さんは、オレのこと嫌い?」「バカ、そんな訳ないでしょ!」「オレ、誰にも言わないよ。言える訳ないし。」「そういう問題じゃないでしょ?」「じゃあ、どういう問題?今更『親子だから』とか言わないよね?」「『今更』じゃないでしょ?『親子だから』だよ。太一もちゃんと分かってるんじゃない。」「オレは分かってないよ。どうして親子はダメなの?オレ、お母さんのこと好きなんだよ。」「お願い、もうやめようよ太一。」「どうして?やっぱりお母さんはオレのこと嫌いになったんだ!」「バカ!もう、やめなって!」自分でも何が何だか分からない状態で、気づいた時には手を上げてしまっていました。愛する太一の頬に思いっきりビンタを張っていたのです。私は涙が出そうになるのを必死で堪えていました。その時の感情を今思い返してみると、(嫌いになる訳がないじゃない!可愛い、可愛い息子をどうして嫌いになるの?私だってあの日以来、心の中に息子として愛する以上の《特別な感情》が溢れ出そうとするのを必死に抑えつけているのに....。どうして分かってくれないの?)そんな気持ちだったと思います。「お母さん、ごめん。」「いや....太一は悪くないよ。お母さんの方こそごめんね。叩いたりして、痛かったでしょ?」「うん、でも大丈夫だよ。久しぶりにお母さんにビンタされた。」「そうね。」「ねえ、お母さん。」「ん?」「オレのこと好き?」「フフ....好きだよ。」「オレも、お母さんのこと好きだよ。」「うん、知ってるよ。」「大好きだよ。」「言わなくても分かってるよ。」「あんな約束、守れそうにないよ。」「そうね。守るつもりもなさそうね。」「そんな事ないよ。守ろうと思って今日まで頑張ったんだから。」「そうなの?頑張ったけどダメだった?」「うん。」
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