冷たい麦茶をグラスに注いでテーブルへ向かい、座った。
ふと後ろから肩にカーディガンがかけられた。わざわざ取りに行ってくれるのに、素っ気ないぶっきらぼうな言葉遣いにチグハグさを感じる。
(変なの、クラスの男子みたい)
いいおじさんに向かっていう言葉ではないだろうが、本当にそう思った。怒っている、わけではなさそうだし。博昭も照れたりするんだろうか。
大人しくテレビを観ながら待っていると、テーブルにリクエストのオムライスと、おまけにコンソメスープが置かれた。これが食べたかった。
「いただきまーす。」
早速一口、スプーンですくう。チーズがとろけて伸びる。とても美味しそうだ。ふう、ふう、と息を吹きかけてから口に運んだ。やっぱり美味しい。博昭のことは母の再婚以降気に食わなかったけど、料理はいつも美味しいのだ。殊更、オムライスは好きな味だった。
「・・見られてると食べにくいから、あっち向いて。」
対面に座り、天音の食べる様子を見つめる博昭にそう文句をたれる。テレビでも観てればいいのに。
気にしないようにしながら、一口、もう一口と食べ進める。朝には食欲がなかったのに、すっかり回復したようだ。
あっという間にオムライスもコンソメスープも平らげてしまう。食べ終わったのを見て、博昭が食器を下げてしまって洗い始めた。
(これくらい自分でできるのに。)
残っていた麦茶を飲み干し、グラスを持って立ち上がる。
シンクに向かうと、隣から手を伸ばして、これも洗ってというようにグラスを置いた。
「オムライスもスープもおいしかった。その・・作ってくれてありがと。」
博昭からすれば料理を作って食べさせるなんて、毎日やっていることでしかない。美月が仕事で泊まりに行ってからなら尚更だ。
何を今さら、と思われるかもしれないと思いながらも、リクエストに応えてくれたこと、出来立てを食べさせてくれたこと、わがままを言ったのに看病してくれたこと、いろんな気持ちを混ぜてお礼を伝えた。今まで伝えたこと、なかったし。
「汗かいたから、シャワーあびてくる」
恥ずかしくて反応は敢えて見ないでおこうと、言い逃げするように博昭から離れる。
【こんばんは。風が強いのも色々影響が出ますね。こちらも天気はすっかり回復しましたが風は強めな気がします。
引き続き、お気をつけて。】
美味しかった、ありがとうと、素直な気持ちを言葉にする天音を、洗い物をしながら目を向けると、
シャワーを浴びてくると、逃げるようにキッチンを出る天音の背中が見せた。
(別に、いつもの事だ。)と思いながらも、天音の素直さに一人、ニヤケる博昭だった。
しかし、天音は俺のタイプだ、と本人に告げた事で、
天音自身が、どれだけ本気に受け取ったのか、いつもする行為の罪滅ぼし的に適当な事を言ったのか、どんな風に捉えたのかはわからないが、
その事で、博昭の中に微妙な変化が起きている。
もっとも、天音自身の気持ちが一番だし、ちょっと優しくなった継父くらいにしか思ってないかもしれない。
一緒にいて、眠るからというのも、甘える存在がいなかったと思えば説明がつくし、
母親である美月が、のんびりしてるから、自然と天音が世話を焼くようになったんだと、
だから、どこかで息抜きできる、甘えられる存在が必要なのでは、と思う。
二人の関係は微妙だし、元気になれば、またいつものように天音と接するようにしようと思う。
急に変わっても天音も大変だろうし、こっちも急に変われるものでもない。
天音が求めるのなら別だが(そんなことは絶対にないが)、祐一がいるし、まだまだ、強制的に関係は続けるつもりだった。
【こんばんは、お疲れ様でした。
大変な一日でしたね。】
シャワーを浴びて汗を流す。ついでにちょっぴり浮ついた心もシャキっとさせる。
(なんかへん。熱でてたからかな)
博昭に、変に情というか愛着というか、温かい感情を持ってしまっている自分がいて、一人になって改めて戸惑う。どんな顔して過ごせばいいのか、色々と経験の浅い天音には難しい問題だった。
(ママが帰ってきたら、元通り・・じゃない、ママに言って、追い出してもらうんだった。)
最初は美月が戻ればこの関係をバラして追い出すつもりだったのに、美月の目があればエッチをする関係ではなくなるはず、と一緒に暮らし続けることを無意識に容認してしまっていて、ついつい絆されてしまっていると気付いた。
行為の時のように一方的な感じのままいてくれたらいいのに、変に緩めてくるから調子が狂うのだ。
雑念を振り払うようにシャワー、ドライヤーと済ませる。Tシャツにスウェットを履いてリビングに戻った。
【足元だけですが、朝はびしょ濡れになりました。
絆されたままのエッチもいいなあと思ったのですが、このまま美月が帰ってきて、天音がヤキモチやくことになるのはどうでしょうか?気持ちを燻ぶらせちゃいます。】
いつものようにするのが、こんなに難しいとは。
さっきは、強制的にでも関係は続けると思っていたが、シャワーから戻った天音を前にすると調子が出ない。
Tシャツにスウェット?そんな恰好をしてると襲いたく・・・・、また風邪をひくぞ。
と思うが、意外に無防備なのが、逆に気が萎える。
『俺も入ってくる。』とリビングを出てため息をつく。
【お互いの気持ちが燻り続けてるようで、ヤキモキします。笑
エッチは、美月が帰ってきてからかな?
美月が帰ってくれば、美月ともエッチをしなければいけないので、それを天音が覗いてしまってというのが、今、頭の中にある流れですが、
それも天音さんの描き方で違ってもきます。笑
だから、絆されてのエッチは今のところなしです。
たくさん、甘えたかった天音には可哀そうな事をしますが。】
天音が熱を出した、体調が悪いってことでイレギュラーな態度や行動になった、それだけだ。
と自分自身に言い訳をして、浴室をでる。
今夜はもう自分のベッドで寝ろよ、と言うべきか迷った。
当たり前じゃん、そんな事、またエッチな事しようと思ってたの?と言い返されそうだし、
言わなかったら言わなかったで、具合が悪いののに冷たいと思われそうだが。
結局、リビングに行って,部屋で本読んでると言わなくていい事を言って、寝室に戻った。
絶不調である。
【大雨の中の通勤は大変ですよね。
傘も、あまり役に立たなかったのでは?と思います。】
【私も同じような展開を考えていたので、美月帰ってこさせようと思います。このままヤキモチやきたいですね。笑】
結局、博昭とは別々の部屋で何もせずに寝た。ちょっと拍子抜けもしたけれど、体調が悪かったのもあって気を遣われたのかと考えた。
翌日、急遽美月が帰ってくると家族ラインに連絡があった。仕事が長引いていたけれど、急ではあるが諸々の目処がたったのだという。天音が学校に行っている日中に博昭が駅まで迎えに行くという段取りになった。
しかし、昼を過ぎた頃、天音は体育の授業中に気分が悪くなって学校を早退することになった。昨日の影響がまだ残っていたのだろう、休めば何ともない程度だったが、担任には無理しないようにと言って帰された。
家族ラインに連絡しようと思ったが、きっとバタバタしているだろうと思い一人で帰ることにした。
「ただいまー・・」
家に入ると、玄関に美月の靴がある。ママ帰ってきたんだ、と純粋に思った。でも出てこないところを見ると、荷解きでもしているのだろうかと思い靴を脱いだ。
【勝手に進めちゃいました。修正していただいて大丈夫です。
頑張ったんですけどやっぱり足元は濡れちゃいましたね。笑】
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