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バカ姉 その68

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投稿者:ともゆき
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講習

 チャラ男はデカい『生八ツ橋』みたいに、ぺろんと二つに折り曲げられて『ピクリ』とも動きませんでした。稼動しているはずの洗濯機の音さえも耳に届かなくなった僕の頭には、嫌なワンシーンで時間を止められてしまったように感じられました。

 『まっ、まさか…、ウソだよ~~~っ?』

 僕が『まさか』の前に、真っ先に思った言葉がありました。『…やっちゃった!?』でした。『コイツ』と付き合う羽目になった時、色々妄想した中で一番恐れていた事態に、とうとう、マジで遭遇してしまったと思いました。

 「よっこらしょ…、っと。」

 一仕事を終えた『あいこ』が満足げに呟きながら、チャラ男の陰からブリッジの体勢を崩すことなく、リンボーダンスのフィニッシュのように『ひょい』と起き上がりました。

 「な、な、な、何やってんですかーーーっ!?」

 「ん? 『ジャーマン』!」

 自慢げに胸を張る『加害者』と、悲惨さを絵に描いたような『被害者』との『ありすぎる温度差』のおかげで、僕の全身が『ガ〇ガリ君』のように青く冷たく固まってきました。

 『何がっ、何がっ、「ジャーマン」だよォーーー!?』

と吠えながら、無責任な『コイツ』に往復ビンタを喰らわせて、自分がしでかした事の重大さを、『これでもかっ!?』と覚え込ませてやりたかったんですが、頭に上り過ぎた血と『コイツ』に刷り込まれた恐怖心で、僕の身体がギクシャクしてしまいました。

 「うっ、あっ、んにゃっ!」

 『あいこ』に教えてやる前に僕の身体の方が、事の重大さをタップリどっぷり覚えてしまって、全身の震えが止まらなくなりました。ふんにゃり二つ折りになったまま動かない『可哀相な人』が、嫌になるほど目の中に飛び込んできて、僕の頭ン中で最悪のシナリオを進行させました。



 『まさかっ!? まさかっ!? ………「死」ん…、ひいーーーっ!!』



 もう僕の頭ン中では、それしか考えられませんでした。『考えちゃいけないっ!』と思えば思うほど、あの禁断の文字が僕の頭ン中を埋め尽くさんばかりに、『ドドドドドッ!!』と溢れて来ました。

 『やっちゃった…。「あいこ」、やっちゃったよぉーーーッ!?』

 あの『白い空間』が頭ン中に現れました。僕の意識はそこに出たり入ったりを繰り返しました。『コイツ』がやらかした『一大事』を収拾するには、僕の脳ミソはあまりに未熟でお粗末過ぎました。

 いっその事、素直に失神して現実から逃避してしまえば楽でしたが、それでも、何だか解らない変な僕の『プライド』が踏ん張って、『逃げるなっ!』と意識をつなぎ止めていました。

 僕は緊急時の救命方法とか、『誰か、助けを呼ばなくちゃ!?』とか、結果的には何にも出来ちゃいませんでしたが、ちっちゃい脳ミソを『ぐるんぐるん』回転させて、とにかく『何かしなくちゃ!?』と慌ててました。



 「何だよ、知ってんだろ? 『ともスケ』にも掛けてやったコトあんだろ~? プールで~。」



 僕が異常にテンパってるのに、すぐ側にいる『コイツ』には、僕の緊迫感や危機感は1ミリも届いていませんでした。腹が立つ事にどこまでも、どこまでも『普通』でした。

 「あっ、ワリい~~~っ! 違った! あん時、お前に掛けてやったの、あれ『バックドロップ』だった。悪い、悪い。」

 「えっ? あ…、いやっ! …じゃなくって!? 何で『こんな(バカな)事』が、今、ここで出来るんですかっ!?」

 僕は例えブン殴られてでも、今ここで『コイツ』のズレまくった認識を修正して、早く人生のレールを本線に引き戻してやろうと、精一杯『強め』に意見しました。したつもりだったんですが、『コイツ』とはどっこのポイントとも交差出来ずに、見事に素通りされてしまいました。

 「え~っ、『何で』? ん~~~? そんなに難しくないから~ぁ?」

 また、会話の論点がズレてきてしまいました。僕とバカ姉との間でなら毎度のコトですけど、バカよりかはちょっとはマシだと思っていた『コイツ』とも『始まったかっ!?』と思ったら、脳ミソの許容量を超える『混乱』の処理作業を強いられて、僕はめまいと吐き気がしてきました。



 『そうじゃないよっ!? プールとか、棒高跳び用マットの上とか、せめて砂場でとかならまだマシだけど、な・ん・でっ、こんな固い床の上でやるんだよっ!? お前ぇ、捕まんだろーーーがっ!? バカッ!!』



と、『コイツ』に『殺す気かっ!?(・ダチョウ倶楽部)』と問い詰めてやりたかったんですが、興奮し過ぎて『オエッ、オエッ!』と嘔吐きまくってしまいました。僕の口からは『ハヒッ、ハヒッ!』と、情けない呼気が漏れただけでした。

 僕は息を整えるために、歯を食いしばって呼吸を一旦止めました。その様子がなぜか面白かったらしくて、御機嫌が斜めどころか横倒しだった『コイツ』が、急にニコニコし始めました。

 「何だ、お前? あたしの『ジャーマン』程度で、そんなに興奮したのか? 良かったな~~~?」

 僕は脳天気に笑ってる『コイツ』を見れば見るほど、気が狂いそうになるくらいハラワタが煮え繰り返ってきました。

 『僕が言いたいのは、「難しい」とか、「簡単だ」とか、ましてや「興奮した」とかじゃないよっ!?』

と、まず『コイツ』の論点を正確に否定したくて、息苦しい中で半泣きになりながらも、必死で右手を顔の前で『イヤ、イヤ』と左右に振りました。

 すると、『コイツ』は何を勘違いしたのか、

 「いやいやいや…、お前にも出来るって! 難しくねぇーって! 『ともスケ』っ、要はヤル気と努力と練習だっ!」

と、僕が『右手』で否定してる事を、『僕にジャーマン・スープレックス・ホールドが出来る可能性』だと思い込んだらしくって、僕を励まし始めました。

 そんな事よりも、早く足元に転がったままの『可哀相な人』を助けるのが先決でした。『もう取り返しがつかないかも…』知れませんでしたが、人としてヤんなくっちゃいけない事をヤルのが義務でした。

 「ちっ、違いますっ!」

 「違わねぇーよっ! ハナっから、自分の可能性を否定すんなっ!」

 『コイツ』の痛い勘違いは留まる所を知らず、果てしなく暴走し始めてました。僕にマジで『必殺』になる『必殺技』を伝授したくなったようで、ガシッと僕の腕を取り、コインランドリーのなかで熱苦しいコーチを始めました。

 「いいか? 相手を抱え込む位置とかは、そんなに問題じゃねぇ~んだ。重心を動かすのに、楽な位置とかは有るけどな?」

 『コイツ』は僕の胴体を抱え込む位置を変えながら、軽々とブン投げる寸前まで何回も持ち上げました。僕は浮遊する不安感と『コイツ』の身体能力の高さに、何回も驚かされました。

 でも落とされる度に『ピクリ』とも動かない『可哀相な人』が目に入るので、身体を持ち上げられれば持ち上がるほど、僕の心は『絶望のどん底』へ沈み込んで行きました。

 『あ~~~、もうダメだ…』

 絶望の脱力感に苛まれてる僕を放り出して、『あいこ』がいきなり気合いを入れてきました。物凄いビンタで、放心しかけた僕の心は、五寸釘で打ち付けられたように、悲しい現実に張り付けにされました。

 「ちゃんと話、聞いてんのかーーーッ!? てめぇ~っ! 今、教えた事やってみろっ!!」

 キレ気味のコーチが背中を向けると、今度は僕の腕をシートベルトみたいにぐいっと引っ張って、自分のウエストにギュッギュッと巻き付けました。僕は『おらぁっ!』と急かされる勢いのまま、教えられた事を反復させられました。

 「ちげーよっ! 無理に持ち上げんじゃねぇーって、言ってんだろがっ!?」

と、熱血コーチの恫喝に近い叱咤激励を受けながら、何回も『あいこ』の身体を持ち上げました。すると哀しいかな、ちょっと何となく『ジャーマン』の『コツ』が分かってきてしまいました。

 『何をやってんだ…、ともゆき? そうじゃないだろう…? 違うだろぉ~~~!?』

 こんな事をやってる間に『取り返しのつかなくなる事態』に、もうなっているんじゃないかと思いました。倒れたまんま動かない『可哀相な人』を、過って2、3度ふんずけてしまったのに無反応だったので、心配を通り越して、恐くて恐くてたまらなくなりました。

 「あっ、あっ、あのっ!?」

 「何だーーーっ!? まだ終わってねぇーーーっ!!」

 「あっ、いえっ!! あのっ、こっ、この人っ!!」

 僕は思い切って、持ち上げた『あいこ』の身体を振り回して、倒れてるチャラ男を見せました。やっと『あいこ』が『あっ』と一言呟いたんで、僕たちが緊急事態のド真ん中にいる事を理解したかと思いました。



 「ああ…、こいつな~?」



 『あいこ』は僕の腕を解いてチャラ男を覗き込むと、面倒臭そうに足で『ずーりずーり』押し出して、洗濯機の方へ片付けました。そして、また僕の腕を取って巻き付けて、無言で練習を続行させました。

 『そうじゃないよぉ…。そうじゃないんだよ~~~。』

 僕は『人間同士のコミュニケーションが、こんなに難しいモノなのか…』と、自分のプレゼンテーション能力の無さを痛感しました。『アニマル浜口』の厚かましいほどのアピール力が、せめて半分だけでも欲しいと思いました。



 「『ジャーマン』に無駄な筋力は必要無いっ! 『ブリッジ』と『タイミング』だけだ! 覚えとけよっ!?」



 取りあえず終わった『指導』の締め括りに、そう僕は力説されました。が、僕のこれから、この先、今後の人生の一場面で、『ジャーマン・スープレックス・ホールド』を使わなきゃいけなくなる場面に、出くわす事があるのか大いに疑問でした。

 『ああっ、あの時「あいこ」に習った「ジャーマン」を、もっとしっかり覚えとくんだった…』

と、僕が後悔する瞬間なんて、決して訪れないと思いました。



 と、ここから僕はコインランドリーの洗濯機から突然現れた未来人に、『今、何年ですか?』と聞かれてから記憶が曖昧になって、よく解らないんですが、いつの間にか『あいこ』の手から、『諭吉くん』に似た肖像画が入ったチケットが二枚、また生えてました。

 全く世の中には、科学でも解明出来ない不思議な事があるもんです。




2013/09/06 19:55:49 (p6YGldkn)
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