第三章 — 生きるための選択
十七歳になった頃、
さちは夜の街で働くようになった。
キャバクラ、オッパブ、ピンサロ。
どれも、未成年の少女が立つにはあまりにも早すぎる場所だった。
だが、さちには他に選択肢がなかった。
高校を辞め、家にも戻れず、
生活費を稼ぐためには、
“すぐに現金になる仕事”しか残されていなかった。
夜の店は、さちを歓迎した。
理由は単純だった。
リアルな高校生の年齢。
それだけで、どの店でも人気が出た。
客たちは、さちの年齢を知ると目を輝かせた。
その視線は、好意でも興味でもなく、
ただの“消費者の欲望”だった。
それでも、
さちは笑った。
笑うしかなかった。
ある日、キャバクラで働いていると、
店のボーイの一人が、さちに優しく声をかけてきた。
彼は他の男たちと違い、
どこか少年のような不器用さを持っていた。
「無理してない?」
その一言が、
さちには救いのように聞こえた。
彼と話す時間が増え、
やがて二人は自然と付き合うようになった。
恋愛というより、
互いの孤独が寄りかかった結果だったのかもしれない。
そして、まもなく妊娠がわかった。
十九歳で出産。
彼はキャバクラのボーイを辞め、
「もっと稼げる仕事をする」と言って、
隣町で裏風俗を始めた。
マンションの一室で、
キャバクラやオッパブ、ピンサロの女の子たちを引き抜き、
“本番あり”の店を営業するようになった。
さちは最初、
その世界に関わらないつもりだった。
子どもを育てるためにも、
普通の生活を望んでいた。
しかし、
出産から一年ほど経った二十歳の頃、
彼はさちに言った。
「お前も手伝ってくれよ。家族のためだろ」
その言葉は、
拒否できない重さを持っていた。
気づけば、
さちもその店で働くようになっていた。
二十一歳の頃、
裏風俗は警察に摘発され、
彼は逮捕された。
逮捕の知らせを聞いたとき、
さちは驚きよりも、
胸の奥に静かに沈む“終わり”の感覚を覚えた。
その後、離婚が成立した。
子どもは彼の家族が育てることになった。
さちは、
自分の腕の中から離れていく小さな命を見つめながら、
何も言えなかった。
泣くことすら、
許されていないように感じた。
二十一歳。
普通なら、未来を描き始める年齢。
しかし、さちの未来は、
またしても“生きるための選択”を迫られていた。
2026/10/18 04:54:24