「…。」
キッチン消えた男が再び戻ってくる。
手にはおかわりのコーヒー。
リビングのテーブルの上にゆっくりとグラスを置くと、カラン、とその中で氷の塊が少し崩れる音がする。
気まずい沈黙。
少女の驚きは当然か。
何を思っているのか。
ただただ動揺か、あるいは軽蔑か、帰宅早々に父親に報告されるのか。
「魔が差した…、なんて量じゃないよね…。
男としてあり得ないことをしている自覚はあるんだ…、それでもやめられなくてね…。
ほんと…、警察にでも捕まった方が良いんだろうね…。」
縋るように、二度としない、だから警察にだけは…。
父親にだけは…。
等という言葉は出なかった。
止められない中毒性を告白し、隣に腰を下ろすとスマホを手に取る。
じっとその画面を見つめながら、今にも自首するとでも言いそうな眼差しでそう告げていた。
日々に楽しみを見いだせない。
その中での唯一の生き甲斐とも言えそうなのは、定期的に遊びに来る友人の娘の存在くらいのモノ。
それを失うことになるのなら、別にどうとでもなればいい。
そんな気持ちが、開き直りにも似た気持ちが男の内に渦巻いていた。
スッ…スッ…
貴方が戻ってくると気づいた潤はスカート裾を両手で摘み、下の方へ整える。
何気なく警戒心が働いたのだろうか…
「……」
無言のままの潤。
テーブル上へ置かれたコーヒーに手を付けることもなく、前をじっと見つめている。
幼い頃より懐き、今では教師という立場故に尊敬の念まで抱いている友人の娘。
そんな存在に知られた秘密…
最悪…
そう言えるのは容易い。
当事者なら地獄の様な空気…
自ら罪の告白をした貴方はそのけじめなのか、今にも終わりを受け入れようとしている…
「待って。」
!?
徐に発せられた潤の言葉。
待つ?
何かを悟ったのだろうか。こんな子供が…
「あのさ…私は黙っておくからさ。やめて?その先は…」
?
止めた?…
その先…
「おじさんでもああいうの気になるんだ?wちょっと意外(笑)」
!?
「あれっておじさんの学校の生徒だよね?生徒のスカートの中って…見たくなるんだね。びっくりしちゃった。
どうしてそんなに見たくなるの?おじさんが大切にしている生徒なのに…」
質問?
次々と繰り出される潤からの質問責め…
まるで好奇心の様に貴方の感覚を知りたがっている。
「…いつからなの?もしかして奥さんと離婚してから?それともずっと前?…
何か理由があるの?…」
凍てつく様な空気の中に、どこか暖気が紛れ込んだ様に雰囲気が変異した…
「え…?」
いたたまれなくなり、ひとまずと少女の隣に腰下ろした男。
コーヒーのおかわりを入ったグラスに手を付ける様子のない少女の雰囲気に、少し動揺、緊張。
覚悟を決めたように手にしたスマホを見つめながら話した言葉をやや遮るような形で制止の言葉を聞けば、その内容に少し驚いたような反応が出る。
やめて、はわかる。
では、その後に続いたその先…とは何を示すのか。
あくまで覗くだけに留めろ、そう言っているのか。
あるいは自首の類に当たる、その先を止めたのか。
少なくとも、黙っておく、と言った少女の言葉は公にするつもりはないという意思表示のようではあった。
そして続くのは興味にも似た男への質問。
動機か…原因か…、理由を聞いているのか。
鼓動が早くなるのを感じる。
しかし、この期に及んで取り繕った言い訳じみたものを口にしたところでおそらく通じない、というより隠し切れないだろう。
覚悟を決めた男は、そのまま口を開く。
「大事だと…思うからこそ、覗き見たくなるのかもしれないね…。
彼女たちは皆、親という存在に大事に、大事に育てられてきたと思うんだ…。
だから余計に…。」
フォルダには無数に盗撮したモノが並んでいた。
しかし、それらは全て制服姿。
卑劣な盗撮という行為の中にも、ルール、こだわり、制約があったのだ。
誰彼構わずではない、対象が決まった…盗撮だ。
「数年前だ…。
離婚した後だよ…、初めて興味がわいたのはね…。
理由…か…。」
視線が僅かに少女のつま先の方に向く。
数年前、それは少女が…、潤が初めて今のような制服に袖を通すようになった時期と合致している。
大事な物への興味、覗きたいという衝動。
大事に育てられた娘、初めて制服に袖を通したその日から…。
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