また拓也の肩に頭を乗せる。
一旦怒られないとわかったから安心した。冷静になった頭がまたぼんやりしてくる。
「里塚先生、こんなにかっこいいのにぃ」
まるでお気に入りの物を馬鹿にされた時のような、幼い表情で口を尖らせる。
夫婦の間がそんなに単純なことではないのはわかっているけど、それでも。
絵莉にとって拓也は推しで、誰よりも格好良くて優しくて、生徒思いで。
「私も先生と同い年くらいだったら、奥さんになれたのかなぁ」
その言い方はまるで。
普段から「かっこいい」だの「推しです」だの冗談ぽく言っているけれど、本心は。
「せんせぇ、もうちょっとだけ、二人でお酒飲みにいきませんか?ゆっくり飲むから。もう気持ち悪くないから。ね、おねがい。」
肝心なところは言わないで甘えて見せる。
こんな年の差のある女性の酔っ払いを連れて歩くのは、教師という立場上、よりリスクが高い。
誰に見られて学校に抗議がはいるかわからないから。
それをわかっていて誘っているのか、拓也には判断が難しいところだ。
【断っていただいても、行ってくれないとおっきな声出します、とか聞き分けの悪いことを言って個室に連れて行かざるを得ないようにするので、どちらでも構いません】
「伊東先生って、酔ったらワガママ娘になるんだなw
教師と結婚ってそんないいもんじゃないと思うけど。」
顔を背けてぼそっというと、
「今日大活躍のお嬢様のわがままだ。
明日は休みだし、明後日は振休だし、もう1軒いくかい?
年頃の女の子だからバーにでも連れて行ってあげたいけど、
二人ともジャージだし、
酒も飲めるカラオケボックスでもいいかな・・・」
そういうと、ベンチの前でしゃがんで背中を向け、
背中におぶさるように指示をする。
酔いが覚めてきたと絵莉はいうが、
スニーカーを脱いで両手に持ってて、酔いが覚めているはずがない。
「んふふ、今日はご褒美だからいいんです」
我儘と言われて笑ってしまう。
普段なら絶対こんなことは口が裂けても言わないけど、今日は二人きりだし、ご褒美だと言われているのだから。
今日だけ、と絵莉は自分に言い聞かせる。
「おんぶしてくれるんですか?わたし、重いですよ?」
ふふっとまた笑うと、遠慮なく拓也の背中に飛び乗る。手には紐を持ってスニーカーをぶら下げたまま。
拓也が歩き出すとまた喜んだ。
まるで背の大きな子どもを背負っているようだった。
いつもは「伊東ちゃん」と生徒から慕われ、時には厳しく生徒に声をかける絵莉が、今ははしゃいで背中に収まっていた。
「ねえ、里塚先生ぇ…わたし、ほんとに先生の奥さんになりたかったんですよ」
歩き続けていると、今度は静かになった。適度な揺れに寝てしまったのかと思ったその時、耳元で寝言のように呟いた。
拓也の肩と首に緩く腕を回して、頬と胸を押し付け、耳元で。
背負った瞬間から、絵莉の気持ちは伝わってきた。
ただ、冗談で推しだとか好きだとか言ってるわけでなく、
心から自分を預けたいと思ってくれていることは、
無防備に全体重をかけて、背中に絡みついていることで
その大きな胸を恥ずかしげもなく背中にあて
肩ではなく、首に腕をからめて耳元に顔を預けてきていることから
わかった。
私には、それがまだ新卒3年目の気の迷いだとしか思えなかった。
「ふーん、奥さんになったら、絵莉先生は毎日なにをするの?」
絵莉をからかうために、奥さんになりたかったと奥さんになったらに変えて
質問してみた。
自分でも意識せず、伊藤先生が絵莉先生と言ってしまったことは
言ってから失敗した、気づかないでくれと思っていた。
「奥さんになったらー…んふふ」
半分寝ているような声で、楽しげに話す。
色んなことを頭の中で想像しているのだろうとわかるが、拓也に中身は未知数だろう。
冗談ではないのはわかっていても、娘と言っても違和感がないくらいの年の差のある女性が、どのような時を過ごしたいと思っているかなんて。
「里塚先生にご飯作って〜…先生ぇ、たぶん人参が嫌いだから、わからないように入れてあげて…」
「毎日、いってらっしゃいのちゅーして…あ、でも、同じとこに行くからできないかもですねぇ」
「休みの日は一緒に買い物行って、手もつないで、ランチ食べて…」
どの夫婦も最初は通る道。里塚夫婦には久しくないものばかりだった。
カラオケ店に向かっている拓也の足が、ゆっくり進む。
「夜は…先生とお酒飲んで、一緒のベッドで寝て、それで…朝まで、寝ます」
今までより少し抽象的で、言い淀んだ様子を見せる。
肩に回した手にぎゅっと力が入る。途中から、絵莉の意識は戻ってきていた。
一緒に寝て、それで。これ以上は頭の中にある言葉を口に出せなくて誤魔化す。
きっと困らせてしまうと思ったから。お酒のパワーで大胆にここまで伝えることはできたが、憚れてしまう。
叶うなら、抱き着いて、キスをして。
今度は逞しい腕に抱かれて、身体に触れたい、触れられたいと思った。
|
|
【プロフ動画】仕事帰りの時〜 ID:sio2233
|