2020/05/31 08:22:30
(td3GvjAk)
032話【苦情】
私は、そのまま少しだけ湯に浸かっていましたが、頃合を見て洗い場へと移動し、簡単に体を洗うとそのまま風呂から上がりました。
フロントの正面に簡単な作りのロビーがあります。平面図で確認していただけると、わかるかと思います。
その空間にはちょっとした売店と自販機があり、中央にはいくつかのテーブルと椅子があります。
テーブルはさほど大きくない真四角のもので、椅子は肘掛のない背もたれだけがついた1人掛のものがテーブルの四面にひとつづつ置いてあります。
ロビーの奥には小さな小上がり座敷があり、ふたつの和式テーブルが置いてありました。美樹の姿はありません。まだ、風呂から出てきていないようです。
中央よりやや奥のテーブルの売店側(平面図の座標ではL13とO13辺り)には、先ほどの審査員のオヤジ達が数人座っており、小上がり座敷の売店側には老夫婦が座っていましたので、私は、その隣の小上がり席に座って美樹を待つことにしました。平面図に赤字で記載している「あ3」の位置です。座標的にはJ17辺りでしょうか。
テーブル席でだらしなく体を崩して座っているオヤジ達が、さっきの品評会の話をしているのが分かります。
どう聞いても、美樹の話をしているようです。デカパイがどうだとか、毛がないのがどうだとか何となく聞こえてきます。ところが、オヤジたちの視線がその後にある一点に集中しました。
「あれじゃあないのか?」
「そうだよ。あの女だよ。」
そうです…美樹が日帰り入浴用廊下からロビーの方に歩いて出てきたのでした。大きめのタオルを頭に巻いて。
「服着ていても、でかいのわかるな。」
オヤジ達のひそひそ話が聞こえてきますが、全くその通りです。服を着てもその大きさはわかります。
美樹は、平面図に赤字で記載してある「美3」の位置のテーブル席に座りました。自販機を背にしてフロント側が見えるように。
恐らく、ロビー内を簡単に見渡し私がいないことに気づき、私が廊下から出てくるのを確認できる空いた席に座ったのだと思われます。
なにせ、私は自販機の影にいたのですから。美樹の着席を確認した直後でした。
ヒステリック状態の女性が恐らく宿の従業員の男性に付き添われるようにロビーへと出てきました。
そして、先ほど目が合ったと思われるオヤジに気づいたのか、彼に近づき食ってかかっていきます。
「あんた!どう責任取るの?」
そう言いながら、オヤジに詰め寄ります。
従業員は「奥さん落ち着いてください」と一生懸命なだめています。
40代か50代の女性。こういうのもなんですが、普通のおばさん。
艶やかさとかセクシーさとかとは無縁に感じました。
そのおば…いえいえ、その女性は、すごい剣幕で、オヤジ達を侮蔑します。
「変態オヤジ」
「スケベ野郎」
など、数々の悪口を言い放っています。
でも、それって、ほぼ全部当たっています(笑)いいだけ騒いだら、その女性は気が済んだのか、またまた全く悪びれないオヤジの態度に諦めたのか
「もう、二度とこの温泉には来ない!」
と言い放ったかと思うと、プリプリしながら旅館を出て行きました。残されたロビーの人たちは、その彼女の後ろ姿を静かに追っていました。