2021/04/05 14:29:30
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熟女は白い花柄のワンピースに紺のジャケット、足元は紺のハイヒール、黄色いスカーフを持ってこちらに向かって大きく手を振っていた。俺は急いで駆け寄り、抱きつきたい気持ちを抑えて
『ごめん。待った?]
と息を切らせて言った。
『うんうん、全然。私の方こそ急にごめんなさい。ご飯まだでしょ?来て。ご馳走するわ』
熟女は笑顔で俺と腕を組んで歩き出した。甘い香りがあの日の出来事を呼び覚ます。わざとなのか無意識なのか胸が腕に当たっていた。股間がたちまち反応して困った。
『ねぇ、どこ行くの?』
『すぐそこよ。話しはお食事しながらにしましょ』
熟女はなんだか嬉しそうに俺を引っ張りながら歩いて行く。少し歩いて路地に入ったところにある古い民家の様な創りの店に入った。個室に案内されて中に入るとまるでドラマや映画で悪い政治家が密談しているような座敷だった。俺は少しびびった。
『ごめんなさいね。こんなところじゃないとお話し出来ないと思って。さあ座って』
俺は促されて座椅子に座った。今にも襖がガラッと開いてコワモテの輩が出て来そうで食欲どころじゃなかったが、目の前に料理が運ばれてくると、途端に腹が減りだした。
『ビールで良かったかしら?』
熟女は隣りに座って俺のコップにビールを注いだ。
『俺、酒弱いんだ』
『あら、私と同じね』
『ハハハッ、そうかも』
『乾杯しましょ』
『じゃあ再会に』
俺は熟女とコップを合わせてビールを一気に飲み干した。緊張と興奮で喉がカラカラに渇いていた。
『あら、いい飲みっぷりじゃない』
熟女はニコニコしながらビールを注いできた。俺も熟女に酌しながら
『ずっと会いたくてキョウコさんの事ばっかり考えちゃって、もう何度こっちから電話しようと思ったか。でも今日こうして会えて良かった。なんだか夢みたいだよ』
『大袈裟ねぇ。でも嬉しいわ。さあどんどん食べて』
俺は勧めらるがままに箸をつけたが、それまで食べたどんな物より美味かった。
『美味い!これなんだかわからないけどめちゃくちゃ美味いよ』
『フフフッ、良かった』
俺は気分が良くなっていろんな話をした。熟女の話も色々聞いた。歳の離れた旦那は会社の社長で愛人がいるらしく、出張と称して月に一度か二度帰るだけとか、熟女は5年前に美容関係の会社を起業して順調に業績を伸ばしていて今は仕事が生き甲斐な事など。俺は少し安心した。極道の妻ではないようだ。
『俺と同じぐらいの息子がいるって言ってたよね?』
と聞くと熟女は驚いた顔をして
『私そんな事言ったの?いやだわ。信じられない』
『何だ、嘘だったの?』
『嘘じゃないけど…』
『どういう事?』
『亡くなったの。10年前に。生きていれば今年で25歳よ』
と言って悲しげに笑った。
『なんかごめんなさい。辛い事聞いちゃって』
『ううんうん、大丈夫よ。でも驚いた。自分から息子がいるって言うなんて、そんなに酔ってたのかしら。他にも何か変な事言ってなければ良いけど』
『なんだかショックだなぁ。あの日の事覚えてないって事?俺は忘れられないのに』
『いやだぁ、覚えてるわよ。ちゃんと。私も忘れられないぐらい良かったもの』
熟女はそう言って俺に寄りかかってきて潤んだ瞳で俺を見つめてきた。