2021/06/12 16:33:02
(tHEWjiPb)
俺は午前中に仕事を片付けて午後は車の中で昼寝していた。外回りの人間アルアルで車を止めて昼寝できるポイントを何ヵ所か抑えてあった。ぼーっとしながらキョウコさんの事を考えていた。
『勝手に帰ってキョウコさん怒ってないかな?旦那は殆ど家に帰って来ないって事は俺から連絡しても問題ないはずだけど、他に家族がいるのか?まあどっちにしても俺から連絡しない約束はまだ継続中って事だ。またキョウコさんからの連絡待ちの悶々とした日々を過ごすのか』
昼寝をしてスッキリした俺は夕子ママの手伝いに行ってみる事にした。この日はまだ水曜日だが前日の感じだと猫の手も借りたそうだった。夕子ママにキョウコさんの事をもっと聞きたいし、行って断られる事もないだろうと思い、会社を定時に飛び出して部屋に帰ってワイシャツと黒いスラックスに着替えてジャンパーを掴んで部屋を出た。途中コンビニで飲み物とおにぎりやサンドイッチや菓子パンをドッサリ買って、車で食べながら夕子ママの店に向かった。車は知り合いの会社のパーキングに勝手に止めた。空いている時は使って構わないと言われていて、この辺りに遊びにくる時はたまに使わせて貰っていた。そのパーキングから歩いて10分程で店に着いた。扉を開けて中に入ると白髪のバーテンが忙しそうに準備をしていた。6時を15分程過ぎていたがママは見当たらず店はまだ開店していないようだった。ドレス姿のお姉さん方がボックスシートに散らばって座り化粧しながら世間話していた。
『おはようございます。ケンタです。今日から手伝いに来ました。よろしくお願いします』
俺はでかい声で挨拶してテーブルの上にコンビニの袋を置いて
『良かったら食べて下さい。飲み物もどうぞ』
と言って頭を下げた。
『あらーっ、ありがとう。気が利くじゃない。あたしお腹空いてたの、頂きまーす』
赤いドレスのお姉さんがニッコリ笑って会釈しながら菓子パンを1つ取って袋を開けると他のお姉さん方も寄ってきて次々と取っていった。バーテンがムスッとした顔で
『週末だけじゃなかったのか?今日からなんて聞いてないぞ』
と言いながらサンドイッチの袋を開けてパクリと食べた。
『はい、昨日も忙しそうだったんで勝手に来ちゃいました。よろしくお願いします』
『そうか。お前さんが良いならこっちは助かる。俺の事は"よっちゃん"て呼んでくれ。お前さんも食ったら裏に来てくれ』
『はい、俺はもう食ったんで大丈夫です。俺、バカだけど体力はあるんで何でも言って下さい、よっちゃんさん』
俺は笑顔で両腕を上げて力コブを作って見せた。
『ふっ、さんは付けなくていいんだよ』
よっちゃんは吹き出しそうになっていたがすぐに真顔に戻って
『じゃぁ、こっちに来な』
とカウンターの奥に消えて行った。お姉さん方は顔を見合わせて一斉に笑い出した。
『今よっちゃん笑ってなかった?』
『笑ってた。笑うんだ、よっちゃん』
『笑うよ。1年に1回ぐらいは』
『はははっ、今ので1年分?』
『やだぁっ、貴重』
『よろしくね、ケンちゃん。私、アサミ』
『あっ、ズルい自分だけ。私、マヒル』
『えーっ、私もー。私、サヨコ』
『ああっ、はい。そんないっぺんに言われても…』
俺がたじろいでいるといつの間にかママが来ていた。
『ちょっとみんな、キョウコちゃんの彼氏なんだからいい男だからってちょっかい出しちゃダメよ。ありがとうケンちゃん、来てくれたのね。助かるわ』
ママは懐かしい物を見るような柔らかい笑顔で俺を見て
『よっちゃんは見た目は怖いけど中身はいい人だから、心配しないで。よろしくね』
『はい、よろしくお願いします』
俺がお辞儀をすると奥から
『おーい、ケン坊!何やってんだ、はやく来い』
とよっちゃんが怒鳴っていた。それを聞いてママが瞳を潤ませながら優しく笑っていた。