その後も、子作りにはチャレンジしながら私達は並行して条件に合う相手を探していた。「……本当に、やるの?」妻が小さく聞くと、私は少しだけ間を置いてから頷いた。「うん。でも、誰でもいいわけじゃないよ」そう言って、私は自分のスマホを妻に見せる。画面に表示されているのは、匿名の出会い掲示板。「弥優が望む条件、ちゃんと書いて募集しよう」「どんな人がいい?」妻は少し考えてから、ゆっくり言葉を選ぶ。「30代か40代くらいで…落ち着いてる人」「うん」「あと、体は…ちゃんとしてる人がいい。筋肉質だけど、ゴツすぎない感じ」私は思わず苦笑する。「結構具体的だね」「だって怖いじゃん、変な人だったら」妻は真剣な顔で続ける。「優しくて、紳士的な人。無理矢理とか絶対しない人」「それは大事だね…」「あと、清潔感。ここ一番重要」そう言って、少しだけ笑う。その笑顔に、私はほんの少しだけ胸がざわつく。「…なんか、リアルな感じになってきたね」少しだけ照れたように笑いながらも、その目はどこか覚悟が決まっている。「じゃあ、書くね」――――――――――【募集内容】私達夫婦に協力して頂ける方を探しています。妊活に関する事情があり、段階的に関係を進めていける方を希望します。具体的には、私公認で妻と少し大人の関係になって頂ける男性を探しています。いきなりするとかではなく、まずはマッサージなど軽いスキンシップからと考えています。オイルマッサージが得意な方だと嬉しいです。妻は年齢29歳、身長158cm、体重46kg。細身ですが胸はDカップで女性らしい体型です。顔は目が大きく、いわゆる可愛い系です。【希望する方】・年上の男性 30代まで・清潔感のある方・筋肉質で細身(体型に気を使われている方)・穏やかで紳士的、ルールを守れる方妻の気持ちを尊重できる方でお願いします。――――――――――「こんな感じで良いかな?」書き込んだ内容を確認する妻。「……うん。.......本当に良いの?やめるなら、今だよ」私の顔を見て、妻がぽつりと呟いた。私は目を閉じる。頭の中には、これまで見てきた映像の断片がよぎる。そして同時に、目の前にいる“現実の妻”の存在。葛藤の末――指が、ゆっくりと動いた。送信。その瞬間、画面が切り替わる。もう戻れない。しばらく沈黙が続いたあと、妻が小さく息を吐いた。「……どんな人が来るんだろうね」
...省略されました。
——数日後。やり取りは続き、少しずつ“慣れ”のようなものが生まれていた。短すぎず、重すぎず。ちょうどいい距離感。その夜——妻のスマホに、また通知が入る。「……来た」私もすぐに反応する。「Oさん?」「うん」妻は一呼吸おいてから、メッセージを開く。⸻もしご負担でなければですが、一度、少しだけお会いしてお話ししてみるのはいかがでしょうか?もちろん、無理にとは言いません。⸻画面を見たまま、妻の指が止まる。「……ついに来たね」小さく呟く声に、緊張が混じる。私も黙って画面を見る。期待していたはずなのに、いざその一文を目にすると、現実味が一気に増す。「どうする?」妻はすぐには答えない。少し考えてから、ゆっくり口を開く。「正直…怖さはある」「うん」「でも、この人なら大丈夫かもって思えてるのも本当」私はその言葉を静かに受け止める。「……会うとしたら、どういう形がいい?」妻は少し考える。「いきなりは無理。最初はカフェとかで少し話して...」「大丈夫そうならその後で...」「それがいいね」私もすぐに頷く。「最初は人が多い場所の方が安心だし」妻はその言葉に安心したように微笑む。「じゃあ…そういう条件で聞いてみよう」スマホを握る手に、わずかな緊張。ゆっくりと、文字を打っていく。⸻ご提案ありがとうございます。お会いするなら、まずは昼間に人の多い場所でお話しする形が良いです。その後、大丈夫そうなら次に進む感じでどうでしょうか?⸻送信。既読がつくまでの数秒が、やけに長い。私も妻も、何も言わずに画面を見つめている。そして——⸻もちろんです。その方が安心ですよね。場所や時間もご都合に合わせますので、無理のない範囲で決めていきましょう。⸻
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日曜日の昼過ぎ。家を出る前から、どこか落ち着かない空気が漂っていた。妻は朝から何度も服を着替えては、「変じゃない?」と確認してくる。結局選んだのは、前日に決めた淡い色のニットと細身のパンツ。派手ではないが、強調された胸が妙に目を引く。軽く整えた髪。控えめな香水。“頑張りすぎていない感じ”を意識しているのが分かる。その自然さが、逆に私の胸をざわつかせた。玄関前。妻はバッグを握ったまま、小さく息を吐く。「……緊張する」私も苦笑する。「顔、ちょっと固いかも」「そっちもね」少し笑い合うが、空気は硬いままだ。スマホに通知。⸻着きました。焦らずで大丈夫なので、ゆっくり来てください。⸻妻はそのメッセージを見て、また少し黙る。「もういるみたい」私は頷く。「行こうか」駅へ向かう車内。会話はあるのに、どこか上の空だった。妻は窓の外を見ながら、何度もスマホを確認する。私も、落ち着かない。“本当に会うんだ”その実感だけが、じわじわと大きくなる。そして——待ち合わせの駅前。休日の人混み。妻は私の隣を歩きながら、小さく周囲を見回している。「あの人かな…」視線の先。少し離れた場所に、一人の男性が立っていた。黒のジャケットにシンプルな服装。背は高めで、細身。写真で見た印象そのままの、清潔感のある雰囲気。そして、目が合った瞬間。男性は軽く会釈した。妻の足が、一瞬止まる。「……Oさんかな」私も静かに頷く。写真や文字だけだった存在が、急に“現実”になる。Oさんは急いで近づくこともなく、適度な距離で立ち止まった。「はじめまして」落ち着いた声。妻も少し緊張した笑顔で頭を下げる。「はじめまして…」
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