2024/08/14 12:58:51
(NCAH8kLu)
封筒に入れた返却物。
昨夜、果てた後、そのまま差し込んだことで投函されたその時も乾ききってはいなかった。
それどころか、手にした瞬間に感じる湿り気。
心当たりがなければ気持ち悪くてそのまま捨て去りたくなるほど嫌悪感を与えている事だろう。
「くくっ…。
ちゃんと中身を確認してくれるかな…。
そのまま捨てられたんじゃ…、せっかくのプレゼントが台無しだからな…。
まぁ、プレゼントをもらっているのは…俺の方なんだが…。」
夕刻を過ぎる頃だというのに、まだまだ外は熱気に満ち、そんな時間を感じさせないほど額に汗を滲ませる。
油断すればその汗が頬を伝い、首筋を伝う。
変装用に纏った配達員の制服は早々に脱ぎ捨てたが、中に着ているTシャツは既にぐっしょりと汗に濡れていた。
「今夜もまた…お邪魔しようかな…。」
そんなことを呟いた時、男は一人の女とすれ違う。
互いに額に汗を滲ませながら、男が歩いてきた方向へと歩いていく。
男は京子の雰囲気は何となく覚えていたが、はっきりと顔を覚えていたわけではない。
男はスーツ姿の京子の印象が強く、普段着の女を見たことがなかった。
日中であれば、こうして難なく通行人がすれ違う道。
そう、夜更け、あれだけのギャップを感じさせるほどの暗闇にさえならなければ…。
薄い笑みを浮かべながら、そんな男を無意識に避けるようにすれ違っていく女…、この後昨夜の失われた下着の返却に気づき、心を震わせ、身体を弄ばれる感覚に陥るのだろうか。
互いに面識はない、それが一層「誰とも知らない者に汚される」フィクション感を強め、歪んだ性癖を持ち合わせている者なら、まるでヒロインにでもなったかのような感覚に囚われ、只偶然起きたこと、それも被害者であるはずなのに、「選ばれた」ような錯覚に陥っていくのかもしれない。
…
……
………
時刻は再び、日付が変わった少し経った深夜。
元々一人暮らしの家計が少なく、治安の良さも相まって家族連れが多く住む地域。
しかし夜の暗さだけを懸念し、どこの家も早々に就寝を決め込んでいた。
男は予感していた。
今までなかったものが急にそこに現れた理由。
多くはないにしても、わずかだとしても、そこに干すことへ好奇心のようなものがあったんじゃないか、と。
それに対する泥棒、変質者の返答、応えのようなものを目の当たりにした女が何の反応も示さないとは考えにくい。
あるとすれば、盗まれたことを自覚して連日のように下着を晒すのか、怖くなり本当に何も干さなくなるか、そのどちらかどう。
股間に疼きを感じる。
しかし、男の経験が告げていた、きっとまたそこに下着はあるはずだ…と。
「ほぉら…。やっぱり…。」
視線の先にあるベランダ。1階、角部屋。
死角の多い場所だが、ポイントポイントで様子を確認できる場所は確実に存在する。
週末、一人暮らしの大人が住んでいる、割には既に電気は消えている。
就寝するには少し早そうな時間だが…。
「まぁいいさ…。
どうせやることは変わらない…、あんたがそこに今日も下着を晒したって時点で、変わらない。」
罠…?否。
男の勘は、女が興味の方に触れていると確信していた。
そっと策に手をかけ、茂みの隙間を避けるようにくぐり、ゆっくりと壁をよじ登る。
慣れた動き、仕事柄何かに登る行為は慣れたもの。
相応の筋肉が身に付き、より動きは洗練され、物音を立てないことは容易。
すっとベランダの隅に身体を落ち着けると、そのまま靴を脱ぎ、洗濯物の方へ。
「洗濯が終わったばかりのようだな、まだ湿って…ん…?」
まず手にしたのが、先ほどまで京子が人知れず耽って汚してしまった水色の下着。
しかし洗濯直後の湿り気…いや、というよりかなりぬるっとしている。
そしてどこか身に覚えのある臭い。男は確信した。
「これ…洗ったやつじゃないな…。
そうかそうか…、俺からのお礼に…興奮しちまったか…飛んだ変態のようだな。」
ズクン…。
高鳴る鼓動、心臓の動きが一気に加速するのを感じる。
すっと視線を向ける先はカーテンがぴったりと閉じられた京子の部屋。
物音を立てるなどというドジは当然踏んでいない。
ジー…。
男は大胆にもその場でチャックを下ろすと、既にいきり立った男根、反り返る竿を握り引き出す。
そっと手に取った使用済み、使用直後の下着…よく見れば一部が少しシミが濃く色を変えている。
時間をかけるわけにはいかない。
しかし、欲情が…京子の中の狂喜に震わされ、男の手は止まらない。
昨夜同様にそっとモノの先端に覆いかぶせると、
クチュ…。
そんな小さな水音でさえ、今は鼓膜を揺らしているかのように大きく聞こえる。
「は…は…。」
普段は何十分も楽しむところ。
射精感を感じながらも、自らで焦らしを加え、じっくりと。
竿を握り、ゆっくりと上下…亀頭が膨らむのを感じ、より肥大し、硬度が増していくのを感じるのだ。
ただ、今夜はその限りではない。
「くっ…。」
数分…、まるで初めての口淫で耐え切れなくなった童貞かのように惨めに果ててしまう。
しかし屈辱ではなかった。
新しい雌に…、発情した雌に巡り合った感覚。
どろっとした欲望が、大きく作られたシミと絡み合うように、混ざり合うようにべっとりと付着している。
パキンッ
部屋の中にいる京子に知らせるように、小枝が折れたような音が響く。
慌ててベランダの扉を開ける京子、しかしそこに男の姿はない。
そして朝方の衝撃、数を減らす下着。
しかし、下着は数を減らしてはいなかった。
ただ…、京子の鼻腔を擽る「記憶に新しい臭い」
ポトッ…。
雫のようなものが目の前で滴り、ベランダの床に落ちる。
それは男がつい今しがたまでそこにいたことを、そして果てたものが大量に付着、汚された直後だということを知らせた。
そして添えられたメモ、それは封筒の中に下着と入っていたものと同じ柄のメモ。
<楽しんでいただけているようですね…。
明日はもっと良い物を…差し上げますよ…、竹本…京子さん…。>
封筒を届ける際に偶然見かけた郵便物、そこに掛かれた宛名。
変質者がそこにいた。
そして流されるように乱れた自身。
そんな男に名前を知られる。
崩れていく理性、晒される内なる欲求。
瓦解、崩落していくプライバシーという名の絶対的な防衛線が、少しずつ確実にもろくなっていくのを感じさせる。
これ以上従えば、どうなるのか…。
男は下着をもっと晒せ…と言っているわけではない。
ただただ、京子という女が狂い始めていることを喜んでいるかのように。
メモは、そんな京子をあざ笑っているかのように、雑で…くしゃくしゃで…、言葉とは裏腹にぼろぼろの走り書きだった。