2024/08/17 23:46:47
(yQwK90VI)
「…。」
どの程度の話をするのか、そもそも話の場を設けられているのか…。
さすがに極力面識を持たないようにしていただけに、場所も時間もそしてそもそもあるかどうかもわからない二人の接触に、リアルタイムで耳を傾けられる準備をすることはできなかった。
しかし、想定外だったのは真弓からの返信。
普段は了承の旨すら送られてくることはなかったが、翌朝、場所と時間だけがメールで送られてくる。
「直接自分の耳でも聞けってことか…?それとも俺をおびき出したいのかねぇ…。」
仕事の時間を調整し、何とか出向くことに成功する。
真弓の行動にも驚いたが、何が幸運かと言えば、一方的に真弓や京子の顔を拝めるということ。
冷静さを欠いた真弓が、そのリスクを理解しているとは考えにくい。
「それなら、俺も好意に甘えるとしようか。
自分でどろどろに下着を汚した京子の次の日の顔ってやつも…気になるしな…。」
指定したのはカフェ。
ビジネスマンを装い、スーツ姿にビジネスバッグ。
カフェには女の二人組が数組いたが、年齢層…そして少し不審な挙動を見せている女…。
「あれか…。」
はっきりと顔は知らないが、雰囲気、纏っている空気がその推測を容易にさせる。
席は奥まった角の席。
近くのテーブルに男が腰を掛けるのを見て、真弓は怪訝な表情を浮かべるがさすがにそんなことで文句は言えないのはわかりきったこと。
そのままノートPCを開き、仕事をする振りが始まる。
…
……
………
「はあぁ!?真弓…あんたおかしいよ…!そんな事…信じられない…。」
真弓の赤裸々な告白に緩みそうな顔を上手く誤魔化しながら聞き耳を立てていると、突然の大声。
内容的には確かに大きな声を上げたくなるタイミングなのはわかっていた。
吹き出しそうになるのを堪えながら、惨めな女のやり取りを楽しむ。
片や言いなりの生活に興奮を感じ始め、内なる自分を楽しみ始めたことを惜しげもなく友人に晒させられる情けない女。
片や相談を受けていながら、女の行動と言動に理解できないふりをしつつも、結局自分も同じような興奮を感じ始めている哀れな女。
全てを知っているからこそ、二人のやり取りに一回りも二回りも興奮を増して感じられる。
メールという文字のやり取り、あるいは盗撮という聞かれていることは知りつつもそこに男はいない状況。
そんな中で、脅しがかかっているとはいえ友人だと思っている女に全てを晒すのは、屈辱以外の何物でもないだろう。
まるで目の前でオナニーするからイクまで見てて…、と突然友人の前で全裸になって行為を始めているようなもの。
いや、内に秘めている気持ちを晒すのだから恥ずかしさはその日ではないかもしれない。
合間合間でコーヒーのおかわりの為に店員を呼ぶ。
その店員が注文を取りに来る度、コーヒーを持ってくるたびに真弓の声が小さくなり、俯きがちになるのがひどく滑稽に映る。
真弓の話が終わるのにはさほど時間はかからなかった…と思っていたが、気づけば小一時間が経過していた。
それだけ二人の会話に集中していたのかもしれない。
精液まみれの下着を履かされ…、あろうことかそれをそのまま身に着けてきているとまで口にする真弓。
京子の心情は如何に…。
終始怪訝な表情、困惑…冒頭こそ軽蔑するあの演技を見せてはいたが、徐々に聞き入るように真弓の目を、その言葉の発せられる口元を見つめていた。
高揚する真弓の表情を、どこか艶やかで悦びを感じさせる真弓の表情を、京子はどんな気持ちで眺めていたのだろうか。
この先自分に待ち受けるイメージなのか、あるいはそんな行為をさせられている自分を想像させただろうか。
それとも、ここまで堕ちる前に手を打たないと…とおもったか…。
早く私も…、いや私にはもっと…。そう思ったのだろうか。
ひとしきり話し終えてやってくる沈黙。
これ以上はあっても送られてくるデータを確認すればいいか…、と考えなおし、男は席を立つことにした。
「店員さん…、この席、なんか生臭い変な臭いするんですよ…?
後でちょっと確認しておいてもらっていいですか…?」
二人の耳に入るように少し大きめの声で。
びくっと肩を震わす真弓、その様子に反応してしまう京子。
とても、そんな言葉を発した男の顔を見る余裕などない。
直ぐに立ち上がる雰囲気ではない二人をカフェの外から確認すると、男はおもむろに二人にメールを送る。
当たり前だが、二人それぞれ違うメールを使っている。
連絡している相手が同じ…だとバレる心配は、そこにはない。
ブーン…。
先にスマホの震えに気づいたのは京子だった。
「いやぁ…いい眺めですねぇ…。
ちゃんと約束を守ってくださっている…。
昨日は行けなくて、すいませんでした…。
今日はちゃんとお伺いしますので…楽しみにしててくださいね…。」
添付されているのは、カフェに来る前に撮っておいた京子のベランダの下着の写真。
そしてまるで、絡みにいかなかったことが申し訳なかったかのような言い回しのメッセージ。
どちらかがスマホの通知に反応すれば、片方もスマホに目をやるタイミングが生まれるだろうと思っていた。
そして、次に送るのは真弓。
「そうそう…、最後に…この話は、一番気心が知れた親友みたいな人に話せって…言われたってちゃんと伝えろよ。
話さなかったら、全部バレることになるからなって。」
反応までを確認はせず、男はいったんカフェを後にする。
帰宅後、男は二人の会話を思い返していた。
「生の声で聴けるってのも悪くないな…。
にしても、真弓って女があそこまで陶酔していたとは…悪くない…。
京子の方はあんまりわかりやすい反応を見せなかったが…、まぁ、今日明日で…、またわかることもあるか…。」
収穫の多い日。
二人の顔がはっきり見えたこと、真弓の感情、本心。それが京子に伝わったことも大きい。
再びPCを立ち上げれば、京子を試すように。
「今夜はどうやら雨が降るようですね…。
そんな時に、下着をベランダに干すなんて…どう考えてもおかしい…。
干してない下着は使いようがないですね…。残念だ…。
「干してあれば」、私も楽しめるのに…。
結構な雨風があるそうです…、くれぐれも窓…カーテンは閉めておいてくださいね…。」
幸か不幸か、夜中に迫るにつれて崩れる予報。
それは今日の話を経ての京子の心境の変化を知るいい予報でもあった。
変わらない日付変更が迫る時間。
それなりの風が吹きつける中、男は変わらず京子のベランダの傍へ。
万が一にでも窓が開いていれば、風で確実にカーテンは揺れる。
幸いにも、雨で洗濯物が濡れる心配はあまりないほど、ベランダの天井は深くなってはいたが…。
【一気に…ありがとうございます。
脱線は感じませんでした、素敵な脱線ですよ…?
色々感じることができてよかったです。】