2025/04/25 21:57:00
(8NlPycXP)
ーーーーーーーーーー夜が明け翌朝のあばらや--------
「(リュウトったら駄目よ…まだ駄目だったら笑」
熾火になった暖炉の前に置かれたクッションの上では、魔族の姿に戻ったジギタリスとサマエルが裸で抱き合い眠っている。
サマエルの顔はジギタリスの胸の膨らみに押し付けられている。
程なくして目を覚ましたジギタリス。
「きゃあ……(ちょ…ちょっと…サマ…)」パシッ。
今の状況が呑み込めずないまま、サマエルの頬を平手打ち。
「(夢か…なんで隣にいるのがサマエルなのよ?それになんで裸?…ここはどこなの?)」
「痛ってえなぁ…急に何するんだよタリス。」
平手打ちの痛さで目覚めるサマエル。その頬には赤くくっきりとした手形が残されている。
「離れ…離れなさいったら…」
再度手を振り上げるジギタリス。
「ちょ…ちょい待ち…」
自分の姿をしげしげとみて
「おぉ…兄上の言った通り魔族の姿の戻れた…」
「どうした?どうした?朝っぱらから騒がしいな。」
その騒ぎで別室から、リルベルとヨハンセンが姿を現す。
二人の姿を見て全て思い出すジギタリス。
「(そうか…叔父様に不意を突かれて、子猫の姿にされ、タリスと一緒に逃げ出して……放浪してるところをお兄様に。)」
「思い出した?ジギタリス。思い出したなら何か言うことあるでしょ(笑)」
そう言い覗き込むサマエルの顔には、赤い手形。
「ご……ごめん…。」
「全くタリスはいつもいつも…そんなことだと、リュウト…」
「それくらいにしといてやれ、サマエル。二人にそれぞれシーツをかけてあげなかった、私も悪かった。」
そう言いながら、何事か呪文を唱えるヨハンセン。
次の瞬間、空中から服と湯気の立ったスープやサラダ、パンなどが現れる。
「サマエル、ジギタリス。先ずは服を着なさい。」
サマエルとジギタリスが身形を整え終えると、朝食。
その席上ヨハンセンが
「それと私とリルベルは今日は戻らないか、戻っても遅くなるから、このあばら家は好きに使うといい、食料も用意してあるから、体力回復に努めるがいい。」
ーーーーーーーーーー人間国王宮、舞踏会会場--------
「さあもう少しだ、精を出しておくれ。」
会場準備は恙なく最終局面、視察に訪れた前国王は、平静を装い、準備に追われる一人一人に声をかけていたが、内心は穏やかではなかった。
「(〇〇(現国王)め。本当に今日やる気なのか?もし、舞踏会の席上でそんな報告が入ってきたら…仕方ないが、皆の目の前で勇者と現国王の非道さを公開するしかあるまいな。)」
次の瞬間前国王の意識は、執務室控室にいる魔の子村から来た男女の若者二人に向いていた。
ーーーーーーーーーー前国王執務室控室--------
「本当にここは、私達なんかがいていい場所なんだろうか?」
孫娘の幼馴染が何度目かの同じ問いを口にする。
「大丈夫よ。前王様もヨハンセンって名乗った方も、優しく話を聞いてくれて、ここで待っててくれって言ったんだから。それにしてもこの部屋は質素な造りね。王様のお部屋って、もっと煌びやかなものかと勝手に思ってた。質素って言っても貧しい私たちの家とは大違いだけど(笑)」
「あぁ、ベットのふかふかさといい、出してくれる食事といい、何もかもが違ってまだ騙されてる感じだ……それはそうと、舞踏会とやらで証言することになったら……俺は全く問題ないけど君はまた傷口抉られる思いじゃない?大丈夫?」
「もう何度聞くの(笑)?大丈夫よ。あの獣のような自称勇者とやらを追い落とせるのだったら…村の皆のためにも、ねっ。」
「だったらいいけど…あ、あのさ〇〇〇。こういう時に言うことじゃないとは思うけど、復讐が終わって帰ったら……村に帰ったら、け…けっこ……結婚してくれないか。勿論犠牲になった皆の弔いを終わらせてからだけど。」
「ほ…本当にいいの、私で。。私もう傷物に……」
「あれは、自己中心的な獣のようなやつに、ちょっと噛まれただけのようなもの……〇〇〇がいいんだ、いや、〇〇〇じゃなきゃ駄目なんだ。お願いします結婚してください。」
孫娘の前に跪き手を差し出す幼馴染。
目から涙があふれだす孫娘。
「嬉しい…〇〇〇〇。こちらこそよろしくお願いします。」
差し出された手をしっかりと握り答える孫娘。
ーーーーーーーーーー現国王執務室--------
「おい、メルヒルからまだ報告は入らんのか。」
「はっ、未だ何も…」
「そうか…前王主催の舞踏会の席上、未だかつて誰の手でも成しえなかった魔国の平定、そしてその地下に眠る資源の独占に成功したと高らかに宣言できれば、前王派の連中もこちらになびくであろうに。」
「お言葉ながら、舞踏会の席上を逃しても、この後いくらでもタイミングはあるかと。」
「……そうか…それもそうだな。急いては事をなんとかか。」
現王と側近が話す執務室とその控室は、前王のものと比べ何十倍も煌びやかで豪華なものであったが、見ていない孫娘と幼馴染には分からないこと。
ーーーーーーーーーーサキュバスとインキュバスの村ーーーーーーーーーー
いきなり現れた現魔王。
「ちょうどいい。向こうから来てくれたか。ハイル、ここは俺がやるから、いいというまで入って来るなよ。」
「はっ、分かりました。(馬鹿が、いくら力が劣る現魔王とはいえ、人間のお前では手も足も出んわ(笑) といって、ここは勇者に勝ってもらわなければ…魔法で現魔王のスピードと力を弱くしてやるか。)〘ベル、お前は勇者が傷ついたらすぐに直すんだぞ、いいな。〙」
〘分かったわ、気が進まないけど、しょうがないわね。勇者に勝って貰わなきゃだもんね。〙
ーーーーーーーーーー再びあばらや--------
食事を終え、
「リルベル、私たちはそろそろ用意を始めようか。」
服を着替え、身だしなみを整え終えると、石付きのイヤーカフスを手にして困った顔をするヨハンセン。
「すまんリルベル。これはどうやって付ければいいんだ?悪いが付けてくれないか。」
ヨハンセンがリルベルにそう言った時に、ハイルとベルのテレパシー通信が聞こえてくる。
「リルベルそれにサマエル、ジギタリス。勇者と叔父上の戦いが始まるようだ。リルベル、君の復讐も始まる。最初の獲物は騎士だったな。方法はもう考えているんだろ(笑)」