「はぁ…はぁ…はぁ…。」隣のブースに背中を預けるように凭れかかりながら立ち竦む。今、凭れている薄い壁の向こう側。そこには先ほどの私の言葉を耳にした誰かが、頬を擦りつけるように壁に耳を寄せ、こちらの様子を窺っているのかもしれない。そんな事を妄想してしまえば、心は高揚し身体は火照りを増していく。と、同時に呼吸までも乱すように荒くなり、震える脚は身体の重みを支えきれないと言わんばかりに膝を左右に開き壁を背中が滑り落ちるそうになる。慌てて元の姿勢に戻そうと、背中を滑らせながら身体が這い上がっていく。『こんなに…みんな…私にこんなにイヤらしい言葉を…。』始めは顔をしかめる程に毛嫌いするような荒々しい言葉すら、心を揺さぶられて弄ばれた心はそれすらも受け入れようとし始めていた。私に向けられる心無い言葉達…。このサイトに集う男性達が各々にコミュニケーションを取るかのように交わされる言葉達。その言葉のどれもが私を中心に交わされていることに気づいてしまうと、これほどの男性達が私みたいな普通の真面目な人妻に興味を示している事になる。『こんなに…たくさんの男の人達に注目されるなんて…。』サイトの画面上では言葉のやり取りしかできないものの、いつしかその言葉の向こう側に多くの視線が隠されていることに気づく…。『覗かれちゃったら…パンティ見えちゃう…。ブラも…胸の谷間も…見えちゃうよ…。』膝を開き沈み込む身体を力の限りを尽くして引き起こす…何度となくそんな事を繰り返す私の手は、何かを求めるように彷徨い始め、それを制するように元に戻る…。それは言葉によって昂りを与えられた身体を弄りたい衝動に駆られた行為。まさに欲望と理性がぶつかり合っているような…。『えっ…?ウソっ…!?見えちゃってるの…!?真ん中のところの…色が変わってるなんて…。』言葉の向こう側の視線を意識してしまうようなコメントに心をくすぐられてしまう。『興奮なんて…そんなんじゃない…。でも…でもこの感覚…なんだろう…。』浴びせられる言葉を受け入れがたい真面目さ故の抵抗。その抵抗も既に時間の問題と言うところまで追い詰められているのかもしれない。『そんな…私がこんなところで…こんなイヤらしい格好をして…パンティ汚しちゃうなんて…。』恐る恐ると言う名目で震える指先を股間に向けて動かす。それは『確認してみて』と言われたことを言い訳にする為…本音を言えば先程から何度となくそこを目指そうとする無意識の指先の動きを制してきたのだから…。震える指先がワンピースの上を這いながら開かれた裾の隙間に忍び込む。ワンピースとは違う感触が指先に伝わり、下着の上を滑り落ちるように指先が股間へと運ばれ…。『ウソっ…!こんなに…!?』色が変わるどころのものではない状態を思い知らされ戸惑う心。夫から愛撫された時であっても、これ程に濡らしてしまった記憶はない。未だに指一本触れたわけでもないと言うのに、洪水のように溢れていた。『あぁ…どうして…。どうしてこんなに…!?』力を失うように開かれていく膝。はしたなく開かれた脚。『変態だなんて…そんな言葉…言われたこと無い…。』このサイトに来て、幾度となく浴びせられた『変態』と言う言葉。自分とは無縁と思えた言葉であっても、言われ続ける事で
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とても他人に見せられるような姿でない事はわかっていた。ワンピースの前側のジッパーを上からも下からも開いてしまえば、お腹の辺りだけがキツく閉じられているものの、上下の下着は露わになる…。しかもその下着は通常の下着にあらず…。何かのプレイに用いられるようなシースルーの下着なのだから。ブラもパンティも透ける生地は地肌を覗かせ、ブラにいたっては有るべきカップもパットも存在せず、ワンピースの上からでもその小さな突起を確認できるほどに…。下着としての機能を持ち合わせない下着は、その特長故に私の心をより乱れに染め上げていくものなのだろうか…。『返事…そうだよね…みんな集まってくれてるんだし…コメント…しなきゃ…。』私からのコメントが途絶えた事に話題は集まり、様々な意見が飛び交うサイト。疑心暗鬼なもの…急かすようなもの…。自分自身を守る為なのか始めから存在しないと言い張るもの…。思い通りにならない事を逆恨みするもの…。にわかに荒れ始めたかと思いきや、やはりあの人のコメントがその場を鎮めるように働いている。『やっぱり…あの人の言う事が…一番しっくりくる感じ…。』荒れた場を治め、私の心を掘り起こすように向けられる言葉。何故かは分からなくとも、心地よいことだけは理解できた…。『そう…私は…あの人に支持されて…こんなにイヤらしい格好を…してるんだから…。』隣のブースとの間の壁に凭れながら、改めて自分自身の姿に視線を向ける。「イヤらしい格好…。」つい言葉にしてしまった声が口からこぼれ落ちる。先程言わされた言葉と言い、つい漏れてしまった声と言い…言葉として口にした瞬間に心と身体の昂りが増していく。興奮と言うには自分自身、信じがたい心持ちであり、それを認めまいとする理性が辛うじて私の人格を繋ぎとめる。ゆっくりと椅子に腰を下ろすと、パソコン画面に向かいキーボードを叩き始める。《コメント…遅くなってごめんなさい…。指示された事を実行している間に…いつの間にか時間が経ってしまって…。》私がコメントを疎かにした事で、この場所が荒れ始めてしまったことを謝罪するあたり、本来の真面目さが顔を出したのだろう。《えっと…その…私は…変態さん…なのでしょうか…?》柔らかな物言いの中に、私の心を支配するような力強さを感じるコメントに、反応を見せる。《パンティは…確認してみてとの指示でしたので…。はい…濡れていました…。夫に愛撫されても…これ程にはならないだろうと言う程に…。原因…ですか…?そうですね…。夫ではない…男の人に指示されたから…でしょうか…。見知らぬ男の人に…恥ずかしい姿にされて…恥ずかしい言葉を…口にしたから…。》そんなコメントを打つ時には、間違いなく夫の顔が頭の中に浮かんでいた。こんな事を言ってしまうのは申し訳ないと思いながらも、夫と比較するような言葉を口にする事が、心の奥からゾクゾクしたような感覚に襲われる…それが堪らなく気持ちのいいものだった…。《見られたい…それは変態さん…ですよね…?見えちゃったなら…事故…なんですよね…?本心を言えば…少し…見てもらいたい…のかも…しれません…。見えちゃう…そんな事故を望む心は…見せちゃう…事と…何か違いがあるのでしょうか…?》そんなコメントをあげると、椅子の音を響かせながら立ち上がり、隣のブースとの間の壁に無造作に両手をついて凭れかかると、わずかにドスン…と音が響いてしまう。
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静まり返っているはずのネットカフェ店内。しかし、一部のブースでは卑猥な水音、あるいは艶やかな喘ぎが聞こえてくること自体はさほど珍しくないのかもしれない。よほどのモノ好きでなければ覗き込むこともないだろう。加えて、日本人特有の控えめな人間性。ある意味それが身の危険を最小限に抑えつつも、見知らぬ誰かを近くに感じながらはしたない行為に耽ることができるこの環境は、変態さん、にとっては夢のような空間かもしれない。《お、返事が来たな…。》《やっぱり、ちゃんとやってたんだね…。待ってた甲斐があったよ。》《誰だよ、逃げたとか嘘とか言ってたやつはよ。》《さっきの兄ちゃんの言ってた通りじゃねぇか。》《つか、このスレやばくね…?立ってから1時間くらいなのにレス数三桁超えてんだけど…。》美優が何かを発すれば、沸き立つスレッド。美優を中心に盛り上がりを見せるスレは、他とは雲泥の差。中には積極的に、指示に従い、画像まで晒している女さえいるが結局それどまり。応えきれなくなって音信不通、あるいはスレ削除。生々しくもリアリティを感じさせる美優の存在が、画面を介して数多の男を彷彿とさせていた。《つか、兄ちゃん…名前なんていうんだよ…。名無し、のままじゃ呼びにくくて仕方ないぜ…。》《んだよ、男の名前なんか聞いてどうすんだ…ゲイか?笑》《馬鹿か…。この兄ちゃんが、美優ちゃんを動かしているようなもんだろ。外野が絡んでんじゃねぇ。》不意に出る、男の名前を求める声。ありきたりなサイトの匿名性「名無し」。誰もが特に指定もせずに発言すればこの状態。美優を突き動かす男も当然、名無し。一人の男が言うように、何人もがその男によって美優は揺れ、滾り、昂っていることを理解していた。《名前…何でもいいじゃないですか…。といっても、無視は良くないですね…、佐藤…にでもしておきましょうか。》その発言で、発言時の名前の表示が佐藤に切り替わる。《ちょっと話が逸れちゃってますね…。事故を望むのと、見せちゃうの違い…でしたっけ…?貴女の行動が伴っているかどうかですよ…美優さん。隙間から誰か覗いていたら…、あるいは、覗いてほしいな…。は望んでいるだけですが。もし覗いていることに気づいて、わざと…見えやすいように足を開いたら…。もうそれは事故ではありません…。見せちゃっていることに…なりますね…。》揺れる美優の心が抱く疑問を解説するように、男は丁寧に答えていく。不思議と、男が話し始めると周囲は少し静けさを取り戻す。まるで、男の言動で次の美優の行動を待つかのように。《なんて…。もうどっちでも良いんでしょ…?お姉さん…。結局後付け…、あれは事故、事故だったのって言い訳するのか…。見られたかった、見られたくなっちゃった…って認めるのか…。貴女の心ひとつ…お姉さんの心ひとつ…ってね。ほら…つぐんだ唇を開いて…舌先をだらしなく伸ばして…。ほとんど丸見えの下着…その中心のシミを…ゆっくりとなぞってみて…。えっちな声が出ちゃっても…それは事故…。お隣さんを…音で興奮させちゃいなよ…。お姉さんの…えっちな音…えっちな喘ぎ声…聞かせてあげなよ…。》男からの指示が徐々に卑猥なモノへと変わり始める。確実に、美優の心を揺らし、誘うように。-同刻-
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「今…覗いたら…私のパンティ…見えちゃいますよ…。私の…イヤらしい姿…見えちゃいます…。」壁に両手をついて頬を擦りつけるように呟く私。その声色は最初に発したものと明らかに変化していた。指示されて初めて声を発したそれは、不安に慄きながら指示されて仕方なく…。そんな控えめな声だった。それが今は…。聞こえても構わない…。もしかしたら薄い壁の向こう側…私の頬に壁一枚を挟んで耳を擦りつけるように様子を窺っているかもしれない誰かに…その耳に届いて欲しいと感じているのかもしれない…。『想像しただけで…こんなになっちゃうなんて…。』その心の呟きの裏側には、もし見られたら…どんな感情に包まれるのだろう…。そんな興味のようなものが私の理性の叫びを黙らせるのに十分過ぎるほどの魅力があった。自分でも信じられない程に移りゆく感情。まさか…まさか私がこんな感情に包まれる事になろうとは夢にも思っていなかった。何故…?どうして…?そんな想いが心の中で何度も自分に問いかけるものの、その答えは私を納得させるものなどではなく、自分でも気づかなかったもう一人の自分自身を思い知らされるだけ…。『うそ…そんなのうそよ…。でも…でもこの感覚…。』心の中で葛藤を続けながらも、ブースの中では指示に従うように隣のブースに向かって声を発し続けていた。『私なんて…誰も見向きもしないと…思ってた…。』自信の無さの表れなのか、夫一筋に尽くして来たからなのか…。恋愛経験も乏しく、夫以外を知らない私にとって、一番の理解者である夫にすがる事しか考えて来なかったからなのか…。『ここのサイト…こんなにたくさんの男の人が…。』これほどまでに多くの男性から一斉に声をかけられる事などなかった私。もちろんこれからもそんな事は無いと信じて疑わなかった私にとって、初めて女としての自信というものを感じられたのかもしれない。『みんなが…私の姿を見たいと…思ってるのかな…?私を見てくれる人なんて…居るのかな…?』サイトで褒め言葉を賜ったとしても、それはただの社交辞令で、サイトに集まる男の人達の欲望を満たすための手段に過ぎないのかもしれない。自分自身に…本当に魅力などと言うのもが備わっているのか…。半信半疑の心の隙間に入り込んできたあの人の言葉。なぜか素直にあの人の言葉だけは自然と心の中に染み込んでいた。『あの人が言うなら…。事故だって…言い訳するのか…。見られたい…見せたいと認めてしまうのか…。そうだよね…それは私が決めること…。』夫との生活に不満があったわけでもない。しかし私が知らない世界は数多く存在し、何かを選択する時には必ず夫に決めてもらっていた。それが今は…自分自身での決断を迫られている。「あなた…私が決めて…いいの…?私が決めるなんて…初めてだよね…?」夫の心に届けと言わんばかりに心を込めた呟き。恐らく薄いながらも隔てる壁に阻まれて、私の言葉は伝わらないだろう…。しかし…夫に対して一応のケジメがついたように感じた私は…。「いつの間にか…あの人の名前…佐藤さんになってたんだね…。あなた…私は…佐藤さんの言葉に従います…。佐藤さんに言われたように…行動します…。」再び夫に対して声を発する。決意を表すかのような言葉は夫への報告でもあり、自分自身への戒めでもあったのかもしれない。
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