返事は来るだろう、理由は二つある。一つはリスク。あくまで保険程度で付け足した脅しのような文句。普段の身だしなみ、きちんとした身なりで出勤する様子からも、ある程度信用に関わってくる仕事に就いていることは想像出来る。加えて、住んでいるマンションもオートロックこそ無いものの、部屋数も多く住人も多い。一人暮らしよりも家族で住む層が多く、プライベート、勤務先問わず顔を合わせる住人が多いのも確か。音声データ、あるいは不鮮明ながらも撮影された動画がマンション中の住民に晒されるリスクは想像を絶する。比較にならない人口比率とはいえ、まだネットにたれ流されるほうがマシかもしれないと思えるほど。それほどに避けたい事だろう。二つ目はシンプルな好奇心。性癖、欲求に突き動かされ、従うことで煽られる被虐心、あるいは更なる非現実的な刺激、興奮を得られると考えてしまうだろうということだ。きっかけこそ男は知る由もなかったが、その日からの京子の行動は男の想像を超えたと言える。そんな女が、この期に及んで黙りを決め込むとは考えにくい。そんな根拠を持って、男は京子からの連絡を待った。差し出したこちらの情報はフリーのメールアドレスだけ。そんなものだけではどうしようも無い。むしろ、被害状況の報告以上の興奮を感じ、変態的な行為に耽っているの京子の方。抵抗するにしろ従う意思を見せるにしろ、誰かの手を借りることなど有り得ないだろう。唯一相談できるとすれば、先日相談を受けた友人くらいのものだろうか。もっとも…。興奮した…?匂い嗅いだ…?舐めた…?擦り付けた…?犯される妄想をした…?なんて露骨な言葉を掛けられるはずも無い。可能性があるとすれば、男に直接的問いかけることだろうか。同じ被害に会っている女性のことを…、いや、むしろ同類の存在についてを…。彼女、かもしれないその同類は今はどうしているのか…。どこまで応えたのか…。心のどこかで感じたい、私だけじゃないという安心感。自分のリアクションはおかしくは無いと、試しただけ、捕まえるための努力、あるいは脅されて仕方なく、そんな自分正当化できる要素がそこにあるかもしれない、と。その全てが男に更に都合のいい状況を差し出してしまうだけだと言うことに、気づく余裕もなく。そんなことを考えていると、メールの通知が入る。普段滅多に使用するものでは無いツールの通知。「犯罪…。そりゃそうだ、にしても冒頭は嫌に冷静に見えるな…。あくまで俺の機嫌を損ねないようにはしたいが、出来れば止めさせたいって所か…?」メールとはいえ、皆無だった京子からの連絡手段を与えたことに変わりはない。冒頭から全力で怒りを露わにする文脈が現れるか、あるいは命乞いに近い許しをこう文面が現れるくらいだと想像したが、そうでは無かった。断定ではなく、疑問形の文脈。そして、続くのはそのまま聞かれたことへの返事。もちろん、手紙に添えられたメッセージはその順番だった。それは間違いない。しかしどうだろう…?シンプルに解放されたい、あるいは何としても最悪、住民の前で丸裸にされるのは何としても避けたいはず。そこを哀願することがもっと重要なはず、それが冒頭ではなく後半。それも純粋な、感想を述べた後だというのは、どういう心理なのか。「最高だ…、最高だよ竹本京子…。」京子の心理状態を考えるだけで、そのメールの返信内容を読み返すだけで、興奮が高まってくる。いつしか、そのメールの文面だけを眺めながら、男は股間を露出させその竿を強く握り、上下させ始めていた。まるでゲーム。どういうルートで責め、追い込み、精神的に屈服させるのかというシミュレーション。
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友人の告白から迷い込んでしまったような非日常の世界。下着を盗まれ…悪戯されて…汚されたものが返されて…。どこかで行われていた卑劣な行為が、昨日は私の部屋のベランダで行われた脅威。確かにそこに…窓ガラス1枚隔てた外側に、何者かが侵入し下着を物色して汚していたと考えれば、それは不安や恐怖や嫌悪以外の何もでもないはず…。呆然と見つめるパソコンの画面には、そんな常識など感じさせない私の姿が映し出されている。「盗撮…されてたんだ…。ベランダで…立ったままの…私…。」映像は不鮮明ながらも、その行為そのものは雰囲気でわかる。淫らな言葉を口にしながら…甘い吐息…いや…喘ぎ声を響かせながら自分自身を慰める淫らな姿。ベランダに侵入された事は前回の盗難で確信はあった。しかし昨日は…私のテリトリーと言うべきベランダで下着が悪戯されて汚されるあり得ない行為が私を狂わせ、ベランダでの自慰行為へと導いた。「こんなに…イヤらしいんだ…私って…。」今までは一方的な被害者であったはず。しかしこの姿を晒してしまえば状況は圧倒的に私が不利に変わってしまった。放って置けば何も起こらないのかもしれない。仮に業を煮やして映像がバラ撒かれたとしても、この映像の不鮮明さでは私だと特定することは難しかったかもしれない。それでも私がコンタクトを取ってしまった理由…。手紙の中に示されたもう一人の女性の存在。「もしかしたら…真弓かもしれない…。家も近いし…あの子の部屋も1階だし…夜は真っ暗…おまけに敷地にある高い生け垣が周りからの目隠しになるし…。」友人の部屋を知る私が立地から推測すれば、私の部屋よりも被害に遭う可能性は高い。そんな友人が…私よりも更に真面目で純情そうな友人が…本当に下着泥棒によって悦びを与えられてしまったのだろうか…。「いったいいつから…下着を盗まれてたの…?何回盗まれてたの…?いつも汚されて返されてたの…?いつから…悦びを覚えたの…?」そんな言葉が無意識に吐き出された私の視線は見るともなく虚ろな視線を意志とは無関係のように注がれる。パソコンの画面に映る私の淫らな姿。それは手紙に書かれていた悦びを…表しているようにしか見えなかった…。卑劣な行為によって引き出された快楽…。悔しさも混じる切ない悦びとも言える…。「あの子は…真弓は…悦びを与えられて…どうなってしまったの…?今は…あの子は…何をされているの…?」それでも『貴女ほど早くはなかった…』と言う言葉が気になっていた。その言葉はまさに他の女性と比較されている事に間違いはなく、不思議と対抗心のようなものが心の中に湧き上がる。あの子が悦んでるなら…私だって…。あの子が楽しませているなら…わたしはもっと楽しませることができる…。何故か湧き上がる得体の知れない対抗意識。ハッと何かを思いついたように顔を上げる。色々と想いを廻らせる中で気づいた事…。あの日、カフェで告白された時の友人の表情。羞恥に染まり俯く顔色。それは怒りや嫌悪といった負の感情だと思っていた。それに同調するように私も憤りを露わにし友人を慰めようとしたつもりだった…。しかし…今にして思えば…友人はその続きを語ろうとしていたのかもしれない。それを言わせなかったのは私の怒りの表情だったのか…。「あの表情…あの子…羞恥を与えられて…悦びを感じていたのかも…。」何故か燃やしてしまった対抗意識。友人の羞恥の表情の裏側に、どんな行為が隠されているのかという興味。それが今は羨ましさすら感じる…。ふと思いついたようにクローゼットの中の抽出から下着の
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「…出てきた出てきた…。」友人の相談を受けたことが、京子の中にある好奇心、秘められた欲望を刺激したのかもしれない。それが始まり、真面目で周囲からの信頼も厚く、人気も上々の彼女。そんな彼女の、何がそうさせたのか。たった2日間の出来事、しかし彼女の人生の中でもこれほど現実から逃避したような2日間は数えるほどしかなかったかもしれない。その日は朝から曇り空、どんよりとした雲が空を覆い快晴だった昨日と比べると少し薄暗い。まるで京子の心中を表すかのように、今後の展開を指し示すかのように、文字通り雲行きが怪しい。男にとってはありがたい状況。いくら車内にいるとはいえ、照り付ける太陽が遠慮なく車内にその陽光を照らせば相応に汗ばむ。それがないだけでも、天国のような状態だった。男はメッセージを送って小一時間も経たないうちに京子宅の傍まで来ていた。小腹を満たす程度の食事だけをさっと済ませ、くつろぐでもなくそのまま車に乗り込んでいた。大胆な時間の使い方。普段の仕事も決して楽なわけではない。特に今年は例年を凌ぐ暑さだと連日ひっきりなしにニュースが流れている。そんな炎天下、それを周囲の人間よりも高い位置で過ごすことも多い。精神的、肉体的にも過酷な労働環境で日々を過ごしていてもなお、男が週末を、休日をのんびりと家で過ごすことはほとんどない。まずは火遊び程度のアプローチ。下着を盗み、そこへ自らの欲を吐き出し…返す。そんな大胆な行動に直面してもなお、屋外に下着を干すという愚行がやまない女がいれば、本格的な行動を開始するのだ。京子も例に漏れず、そして彼女がしきりに気にかけ始めた真弓という女も同様。立て続いただけに勘違いしそうになるが、彼女たちは「稀」な存在であることを忘れてはいけない。そもそも下着を外に干すなど言語道断、それが不運にも汚されて返ってくれば、「普通」は怖いし、気持ち悪い。嫌悪感だけが心を満たし、下手をすればそれがトラウマとなり、大げさではなく2度と下着が屋外に姿を見せる事はなくなるだろう。それが「普通」なのだ。ほとんどの「女との出会い」は、そこで幕を下ろす。というより、そこから下着がなくなってしまえば、男にはどうすることもできないし、それ以上の行為は百害あって一利なし。ハイリスクローリターンどころか、ハイリスクノーリターンと言える。つまり、京子や真弓との出会いはもはや奇跡に近いのだ。そんな女たちとの「コミュニケーション」は、男の休日の過ごし方でも最も尊いもの。一見無駄に休日を車内で過ごしているだけの時間も、男にとっては至福の時なのである。そしてその褒められた行動ではないが、そのまめで細かいアプローチが余計に女たちを乱れさせる。時は金なり、ASAP、クイックレスポンス。あらゆる局面でしきりに言葉にされる時間の使い方、もとい、リアクションの速度感。1日空けば冷静さを取り戻し、余裕が生まれる。助けを求めるという選択肢も生まれる。そんな隙すら与えず、畳みかけるようにアプローチを続けることは、女たちから逃げ道を奪い、逃げようと考える意思を奪うことにつながる。「一枚…二枚…、三枚…。偉いじゃないか…、ちゃんと言われた通りに従っている…。邪魔なで余分な洗濯物もないな…。よしよし。」そっと車内から双眼鏡を覗き込み、京子の行動を確認する。僅かに確認できる京子の表情は複雑な物、只の嫌悪感…?そこに一抹の興奮もないのか…。残念ながらその表情だけで全てを読み取る技術を男は持ち合わせていない。それでもその行動は、男の思惑通りに進んでいることは事実。周囲を気にしながら一枚ずつ丁寧に晒されていく、いや、自らの手でその羞恥行動を晒していくその姿に男の股間は熱くなる。「はぁ…、はぁ…。良い…良いじゃないか…、最高だね…竹本京子…。煩わしい時間稼ぎをしてくる女もいたが、やはりレスポンスは早い方がいい。イライラさせて機嫌を損ねるリスクに比べたら…、下着を晒すくらいどうということはないだろう…?」さっと整えた身なり。下半身は融通の利きやすい、ラフなパンツを履くようにしていればこういう展開もより楽しめる。
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ベランダに出て物干しに下着達を吊している私は、何故か淡々と作業をこなしていた。ただ…下着を干しているだけのことだとしても、普通は一人暮らしの女が下着を外に干す事なんてあり得ない。悪戯されるまでは考えていなくとも、犯罪紛いの事に捲き込まれる可能性を自ら高めなくても…と言うのが理由だろうか…。たかが下着。裸を晒しているわけではない。とは言え下着などと言うものは見られない努力をするもの。ブラウスの下に何かを重ねることで浮き上がらせてしまわないように…。スカートの奥にしても、あえて見せようとしない限り見られる事はないだろう…。人の目に触れる機会の少ない下着。それを私は今、自ら晒すようにベランダに吊している…。「こんな事…何で私…。」自分の行為を正当化するための呟き。自らの不注意とは言っても、秘められた行為を盗撮され、他人に晒されない為に指示に従っているだけ…。そんな体を作りたかったのかもしれない。ユラユラと風に踊らされる下着を見ると、まるで今の私そのもののように思えてくる。ただ…言われるままに…抵抗することなく…踊らされる私…。全て私の意思ではないとの言い訳。強要されて仕方なくと言うスタンスのため…。しかしながら…本当は私の中に目覚め始めた被虐の性癖を認めたくないと言う想いがいちばん強かったのかもしれない…。窓辺にへたり込み、窓の外に揺れる下着を眺めているとスマホがメールの着信を知らせた。「えっ…もう…!?」メールを開くと私が下着を吊り下げた事を確認したと思われるメールが届いた。「もしかして…今近くに…!?」慌てて窓ガラス越しに道路の方に視線を向けてみても、風に揺れる下着が邪魔をして確認することができない。続きのメールを読み進めると貼付されていたファイルに気づき、そのデータを開いてみると…。「イヤっ…みんなが見てる…!私の下着に注目してる…!やだっ…やめて…撮影なんて…。」いいものを見つけたと言わんばかりの歪んだ笑みを浮かべた男性達が手にしたスマホをベランダに向けていた。中には偶然持ち合わせたのだろうか、高価なカメラの大砲のようなレンズを向けている人まで…。思わず目を瞑りたくなるような画像。無意識に視線を背けたくなるような動画が画面に映しだされた…。「イヤっ…こんなにたくさんの男の人に…私の下着が…。ブラも…パンティも…みんなに見られてるなんて…。」下着を盗まれ悪戯された揚げ句、汚されたとは言っても、その男の表情は妄想の世界だけの話。実際に見たことはない男の表情を目の当たりにすると、激しい羞恥に襲われた…。「イヤぁ…見ないで…そんなにイヤらしい目で見ないで…!」画面を閉じ、窓ガラス越しに道路の様子を窺う私の視界に風に揺れる下着の隙間から僅かに人の気配を感じられた。「まだ見てる人が…まだ私のパンティが…。」顔から火がでそうなほど赤く染めた頬が熱い。顔を赤らめるほどの羞恥は、もれなく私の身体すらも熱く昂らせていく。何故…私はこんな事になってしまったんだろう…。送られてきた画像から目をそらすようにキツく瞼を閉じ、頭を抱えながらブルブルと振るわせながら考えていた。あり得ない…こんな事…。そんな想いは自分でも気づいている想いを隠したいだけのこと…。友人への対抗心…あの子ができて私にできないはずはない…。あの子はどんな悦びを知っているの…?そんな対抗心や妬みや羨む気持ち…。そんなものが私の背
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わざとらしく、ちらつかせた別の女の存在。それがどれほど京子に影響を与えているのか、現時点で男は知らなかった。当然だが、下着を盗んで事に及んでいる対象は京子だけではない。真弓という女の下着も、対象になって…いるかもしれない。しかし、京子が真弓から話を聞いたことも、自分が手をかけている他の女の中に真弓が存在することも、知らないし確証もない。あるのは、対象は他にも確かに存在している…という一点のみ。そして京子にとっては、友人が被害に合って…自分も同じ目に合っている…という部分。不確定要素が混ざりつつも、結果として京子という女をより楽しむスパイスのようなものになっている可能性を感じていた。そんなことを考えながらメッセージを送った数時間後。太陽も姿を消し、徐々に少なくなる人通り、男は特に帰宅するでもなくそのまま車の中で休息もかねて横になっていた。決して遠くはない位置に自宅はあったが、震える身体、その興奮がその場を離れさせようとしなかった。「良い時間だな…。」日付を跨ごうか…という手前の時間。徐に車から降りると京子のいるであろう部屋のベランダまでやってくる。すっとその中へと入りこめば、今回の目的は下着ではない。鮮やかな色の下着たちが吊るされているその様を、名残惜しくも想いながら男がそこに設置したのはカメラ。今度は至近距離。きっとあらゆるものを逃すことはない。仮に気づかれたとしても、どれまでのデータが全てリアルタイムでデータ送信されている。加えて、別で脇に添えているのは昨日からの盗聴器。徐々に剝がされる京子の表の顔。そっと、その場を離れその時が過ぎるのを待つ。「さぁ…どうしますか…。京子さん…。今日という安息の時間を堪能しますか…?それとも、別の被害者を同じ行為を…、同じ状況に貴女も身を置きたくなったのでしょうか…。」時間が来る。案の定、カーテンの隙間から少し光が漏れた。それも一瞬ではない。こんな夜分、窓を開けることなどあり得ないが、確かに少しの風でカーテンがそよぐのが見えた。さらにはその状況がしばらく続く。そう、もう一人の女に送った指示と同じ状況を作ったのだ。「どれ…。」車内で早速とばかりにPCを開く。送られてくるデータの確認、ラグは数秒…というところだろうか。問題ない、欲しいのは内容の確認1分1秒の正確な情報が欲しいわけじゃない。そして情報の一つが漏れだしてくる。「なるほど…真弓…。そうか…、あの女と知り合いなのか…。それも、この口ぶりだと…、少なくとも相談を受けている…そんな感じだろう。」その夜初めて得る確証。京子と真弓の関係性、二人揃って獲物として男の慰み者になっているという事実。さらに高まる興奮。「上手く使えば、さらなる変態へと変貌してくれそうだな…京子…。」晒されていく二人の女。結果として真弓、という女の情報すらも、勝手に垂れ流している京子という極めて被虐性の高い女。溢れる妄想、盗聴器から鮮明に聞こえてくる喘ぎ…本心。カメラの存在には気づいていない。忠実に「真弓への」命令を実行しているのがよくわかる。そしてその口ぶり…、その様子をきっと盗撮されていると理解している。口ぶりは真弓が盗撮されている、と思っているのだろうが…、その指示が自分宛の物であっても変わらい振る舞いを見せただろうと思わせるほどに戸惑いも、躊躇もなく、ただただ艶やかに映える興奮の色だけを感じさせる。「盗撮されているよね…」はっきりとそう口にしながらもその手は止まらない。
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