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肉食女ト草食男
カテゴリ: 官能小説の館    掲示板名:ノンジャンル 官能小説   
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1:肉食女ト草食男
投稿者: ◆WCdvFbDQIA


・・何を・・

何をそんな哀しいこと・・女々しいこと言ってんだよ・・。

だったら・・だったら・・・

「だったらアンタの残りの人生、アタシに寄越せよ!」

パーテーションで囲われた喫煙ルームの中、彼と私は二人きり。
私は激昂の余り絶叫していた。
後から聞いた話では、パーテーションが小刻みに振動していたらしい。

・・・ホントかよ・・。

・・それは盛り過ぎ・・だろ?

やや前傾姿勢の私は心身ともに臨戦態勢。
私は左右の脚を肩幅より、やや開き気味、握り締めた左右の拳を両肩から真下に垂らしていた。
腕と背中がワナワナと震える。

まるで獲物に飛び掛かる寸前の肉食獣であるかのように。
吊り上がった眼がギラギラしているのが自分でも分かる。
紅潮して強張った頬。
そんな睨め付けるような視線を向けられながら、彼は戸惑っていた。
だが彼が浮かべた表情の変遷、、困惑は躊躇いに変わり、ついには何かを決心したかのような。

・・・ん?

猛るアタシに向かって彼は足を進める。
ゆっくりと二人の間の距離が詰められていく。
残り三歩、二歩、最後の一歩分は詰めない。

何故か狼狽える私。
私が彼の顔から視線を逸らした次の瞬間だった。
視野の端、ゆっくりと動き始めた彼の右手が、そっと私の頭の上に載せられる。

「んじゃ、そういうことで。」

「・・・・え?」

「貰ってくれるんだろ?残りの人生。」

・・・え?ウソ?

本当・・なの・・・?

一瞬にして全身の緊張が解ける。
辛うじて立っていることは出来るが、それだけだ。
そっと動かした視線の先、彼の顔。
寂しげで、、だけど嬉しげな。

・・あれ?

最初は自分に何が起きているのかが分からなかった。
左右の眼からボロボロと大粒の涙が溢れ続ける。

ア、アタシ・・泣いてる・・?

何で・・?

『何で』じゃなかった。

『嬉しいから』だ。

『渇望していたから』だ。

二度と埋まることはないと諦めていた十年以上に渡る心の欠損が埋まったからだ。

激昂の余り絶叫した女が、その場で、、仁王立ちのまま、、歓喜の余り号泣していた。

うぉおおおぉおおおぉおおおぉ・・

いつの間にかパーテーションの外には、人、人、人。社内の人間で人だかりが出来ている。
彼ら彼女らの醸す大歓声。

・・み、見世物じゃねーぞ・・。

激昂の余り紅潮した顔は見せることはあっても、羞らいの余り頬を染めた姿なぞ見せたことはない。
いわんや、衆人環視の下、泣き出すだなんて空前絶後だ。
その場で私は両手で顔を覆って泣き顔を隠す。

うぉおおおぉおおおぉおおおぉ・・

再びの大歓声。

うるせぇ・・。

見世物じゃねーからな・・。

そして時間は十二年程、巻き戻る。

 
2021/03/07 09:19:37(W3ew8Sq.)
12
投稿者: J ◆WCdvFbDQIA

「・・ガリ酎、頂戴・・。」

私はイキツケの立ち飲み屋でクダを巻く。
まだ早い時間帯の為か他に客はいない。
いくら呑んでも酔わない。
酔えるわけがない。

チビチビと。
ダラダラと。
三杯、四杯と酒は進む。
呑めば呑む程、心が荒む。

「・・タバコ・・いいよね・・?」

店のオヤジに断った私は電子タバコを取り出した。と、そこに訪れた新たな客、彼だ。

・・何だよ・・オメーはよぉ・・。

尾いてくんなよ・・。

「・・ハイボールお願いします・・。」

並んで、、しかも黙って酒を呑む二人。

アタシら店の雰囲気、悪くしてね・・?

その証拠に店内に客は増えない。
来たと思えば出て行く。

「・・交通事故でさ・・。」

奥さんの死因だ。
死に目にも会えなかったらしい。
ポツリポツリと独り言のように語る彼。

・・聞いてねぇっつーの。

聞きたくも・・ねーよ・・。

私は黙って酒を呑み、タバコを吸う。
充電が切れた。

しゃーねーな・・。

煙が出るやつ・・で・・いっか。

私は彼の言葉を遮って入り口にある自動販売機に向かう。

「・・ライター・・あります?」

店内で買い求めたタバコに店員さんから借りたライターで火を点ける。
煙を吸い込むのは久しぶりだ。
一気に肺まで吸い込んでみた。
クラクラする。

「うぉっ。」

クラクラどころじゃない。
視界が揺れる。

ヤベ・・。

一気に酒が廻ったらしい。
ひっくり返りそうになった私を間一髪で抱き留めてくれた彼。

既視感。

十二年前と同じ。

・・ヤ、ヤ、ヤられちゃう・・の?

あ、いや・・あん時は・・・

アタシから・・だった。


21/03/09 21:34 (Gya.rGNn)
13
投稿者: J ◆WCdvFbDQIA

結局、ヤられなかった。
ホッと安心、やや・・・・・残念。

・・でもヤってもらう資格・・無いよ。

アタシ・・あんたの不幸・・

・・一瞬とはいえ喜んだんだもん・・。

しかもヒトの生き死にで、だぜ・・。

サイテー・・だ。

いや、その場においては、そこが問題ではないのだが・・。
いずれにせよ、マトモに歩くことすら出来ない程に酩酊した私は、タクシーに放り込まれて深夜の帰宅。
翌日の朝はアタマが痛くて遅刻。
ショボショボする眼を擦すりながら資料の作成を進めるが、一向に生産性は上がらない。

・・気分転換、と。

私は喫煙室でタバコに火を点ける。
お、ライター借りパクしちゃったい。
電子タバコは充電を切らしたまま、しかも自宅に忘れたのだ。

紫煙を燻らせつつも昨夜の彼の話が断片的に頭を過ぎる。

『最初、現実感がなくてさ・・。』

目立った外傷が無かったからか、眠っているだけのような奥さんの遺体。
バタバタと進む弔いの儀式と手続き。
取り乱す彼女の両親への対応。
有能な彼にしてみればオチャノコサイサイだ。
だが、その内実を誰が知っているのだろうか。

『それに出張続きで自宅で寝るのも少なかったからさ。』

月に半分は出張の彼。
すれ違い夫婦ではあったが八年に及ぶ円満な夫婦関係であったらしい。
ケンカらしいケンカすらなかったそうな。
だが、それ故にだろうか。
二人の長いような短いような共同生活に関する憶い出は希薄だったという。

『しかもさ、最初は全然、悲しくねーの。』

は?

何だ、それ・・?

・・薄情なヤツ。

『まるで現実感が無えの。』

淡々と語る彼。
ただ聴くコトしか出来ない私。
居た堪まれなかった。
誰かの不幸を聴くのが、こんなに辛いだなんて初めて知った。
きっと・・これは罰だ。
『誰かの不幸』を喜んだ罰。

・・・謹んでお受けします。

『夢でうなされるようになったんだよね。』

葬儀を済ませて半年が経った頃だという。
具体的な内容の無い、感情だけに満たされた曖昧模糊とした悪夢。
それは現実的なまでにプリミティブな孤独感と寂寥感だけが渦巻く精神的な地獄。
夢の中故に逃げ場は何処にも無く、ただただ剥き出しの意識が晒される。

『普段の精神的なテンションが、これくらいとするだろ?』

自分の胸の高さの位置、彼は指先で空中に水平な直線を描く。
温和で物静かな彼ならそうであろう。
ちなみに感情の起伏が激しい私であれば、三元方程式を表すグラフのように不規則に乱高下するに違いない。

『んで、寝てるからこれくらいのテンションだとするでしょ?』

最初の直線の二十センチ程下、再び空中に描かれた水平な直線。
就寝中のテンションは低めで安定傾向、と。
なるほど、そりゃそうだ。

『夢の中でさ・・・』

妻を失った事実、それに伴う孤独。
そして生前の妻に対する後悔の念。

『してあげられなかったコト、つい言っちゃったコトとかさ・・』

悪夢の中、テンションはマイナスの係数を持つ急激なタンジェントカーブを描きながら急下降。
まるで真っ逆様に墜落するかのような。
そして巨大な渦の中心に逆らうことも出来ずに引き込まれるかのように。

『もうダメだぁ・・って思った瞬間、眼が醒めるわけよ・・』

じっとりとした嫌な汗に塗みれて覚醒した彼は安堵する。
夢に過ぎない事実に胸を撫で下ろす彼。
だが違う。
先刻までは確かに夢だ。
だが、起きてしまった事実は、、妻を失ったことは揺るぎない真実。

『夢だぁって思った瞬間、さ・・』

覚醒と同時、放り出されるようにして彼のテンションは平常時のレベルまで復す。
束の間の安堵。
だが、次の瞬間、真実が彼を襲う。

『あ。俺、独りだ・・って事実を唐突に・・心底、理解すんだよね・・』

私は黙り込む。
黙り込むことしか出来なかった。


21/03/11 05:52 (n2v.Kknf)
14
投稿者: J ◆WCdvFbDQIA

安堵した次の瞬間、再び彼は底無しの孤独感に苛まれる。
いや、苛まれるどころではなかろう。
まるで冷え切った泥まみれの手で、いきなり内臓を鷲掴みにされたかのような感覚。
悪夢にうなされ、ようやく覚醒し、悪夢から脱出して辿り着いた安堵にすら裏切られた彼のテンションは再び急降下。

『こんな感じ。』

就寝中のテンションを示す低い位置に描かれた水平な直線、その一点から始まり、悪夢の始まりを示すマイナス係数のタンジェントカーブを空中に描く。
そして彼の指先は一転して覚醒を表しながら急上昇、高い位置にある水平な直線に至るが、その瞬間、真下に向かい下落。
漸近線に沿って描かれたかのような垂直の直線。
そしてその直線は、彼の指先が届く限界まで下方に向かう。

『このギャップがキツイんだよ・・』

さもあろう。

悪夢の始まり、そして終わり。
時を同じくして覚醒が始まる。
ようやく至る安堵の瞬間。
直後、彼は突き落とされるようにして絶望に至る。

四箇所の感情的な頂点をアップダウン。
そんな彼の精神にかかる負荷は想像に難くない。
いや、想像しきれない、が正解か。
何故なら私は彼ではないのだから。

分かったと思うことも、そして分かったつもりになることすら許されない。

21/03/11 05:55 (n2v.Kknf)
15
投稿者: J ◆WCdvFbDQIA

ええっと・・?

ダメだ・・。

思い出せない・・。

この辺りから私の記憶は飛ぶ。
その場の雰囲気に耐えられず、重ねたグラスは数知れぬ。
会計したかどうかすら定かではない。

奢らせちゃったか?
ま、いっか。
部長さんだし。
それに独身貴族様だしな。
あ、アタシもか。

「!」

その時だった。

21/03/11 06:03 (n2v.Kknf)
16
投稿者: J ◆WCdvFbDQIA

私しかいない喫煙室に姿を表したのは他でもない彼。

「よう。平気?」

「あ、昨夜は・・・」

ご迷惑をお掛けしました。
会計の件には・・触れないことにする。

「酒、弱くなったんじゃない?」

「もう、若くないんで・・。」

「何をおっしゃる。まぁ俺は確実に弱くなったけど。」

アルコールに関しては兎も角、確実に彼は衰えていた。
見た目の、外観上の姿ではない。
気力の問題、か?
生気が無いというか生命力が枯渇しているというか。
何て言うか・・・『死にかけ』、だ。

そんなにも辛かったのかよ・・・。

そんなにも大切だったのかよ・・。

そんな存在、失ったら・・

・・耐えらんねーよ、な。

そんで・・アタシは・・あの瞬間・・

・・自分のことしか考えなかった。

21/03/12 06:13 (sSIE1i9P)
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