8月中旬。世のお盆休み期間が終わろうとしている頃でした。その日はバイトも休みでトモミも帰省しており、1人寂しく部屋で高校野球をゴロゴロとしながら観ていたら、2つ年下の妹から電話がきました。「お兄、誕生日って帰ってくるの?」「いや、帰らないけど」「あのね、ばぁちゃんが『お盆も帰って来なかったし、ハタチの誕生日だから帰ってこないのかしら・・・』って今にも泣きそうなんだけど・・・(汗)」ここまで聞いて、ばぁちゃんのことだからあり得ることだなと思っていました。僕は小さい頃じいちゃんっ子(5年前に他界)、ばぁちゃんっ子でした。小学校2~3年生ごろまで毎晩、祖父母の部屋でどちらかの布団で一緒に寝ていました。部屋に枕だけ置いていて、その日の気分でどちらかの布団に入るヤドカリ生活です。そして出かけるじいちゃん、ばぁちゃんに、よく付いて行っていました。じいちゃんの将棋クラブや釣り、ばぁちゃんのカラオケサークル。僕はこうやって、将棋を覚えました。また音楽が好きなのもこのカラオケサークルも影響していたのかもしれません。また、小さい頃はよく「やすは、じいちゃんと同じ○○大学へ行くんだよ」と言われていたので、無意識のうちにじいちゃんの母校へと大学を決めたのかもしれません。模試の判定が芳しいものではなかったのもあって、実際に合格した時は、ばあちゃんが「おじいちゃんが合格させてくれたんだわ」と泣いて喜び仏壇にそれを報告していました。僕はそんな『孫』だったので、妹が言っていることは「あり得ることだ」なと思ったのです。ただ今年の誕生日はその、ばぁちゃんの想いを天秤にかけても帰ることはできないと思いました。妹に「ばぁちゃんには悪いけど、やっぱ帰れないな」「えー絶対に泣くよ?」「それも、なんとなく分かるんだけど・・・今年は彼女と過ごすことにしてるから」「!?!?・・・嘘でしょ?お兄に彼女??」「本当だっつーの!まぁ、そういうことだから。ばぁちゃんには悪いけど・・・」初めて家族にトモミの存在を明かし電話を切りました。その日の夜に今度は母親から電話がきました。「○○(妹)に聞いたけど、あなた彼女できたんだってね?」「うん。まぁ」「おばあちゃん、誕生日に帰ってくるの楽しみにしてるのよ~。彼女も一緒でいいから帰ってらっしゃい」「そうしたいのは山々なんだけど、今、訳あってあんまりお金遣いたくないし、それに彼女も急にそんなこと言われても困るよ・・・(汗)」「なに、家族にも紹介できないような子なの??」「そうじゃないけどさ・・・」「じゃ、二人分の旅費仕送りするから帰ってらっしゃい。いいわね?」「えぇ・・・(汗)」「ついでに『夢の国』でも連れて行ってあげたら、彼女も喜ぶんじゃないの?」(書いていて思いましたが、こういう相手の『できない理由』にオプションを付帯させてでも自分の思惑通りにコトをすすめようとする母親に僕は似ているところがあります)すぐにトモミにこのことを連絡すると「行きたい!行きたい!」と高揚しました。この年の僕の誕生日は平日だったので、母親が「お客さん」をゆっくりもてなしたいからと土日にしなさいと言ってきました。僕とトモミはアルバイト先で急なシフト変更をしてもらって、誕生日直前の土曜日に実家に帰ることになりました。母親は本当に2人分の旅費を仕送りしてきました。事前にトモミに「どこか行きたい所ある?」と聞いたのですが「やす君の通ってた学校を見てみたい!」
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9月中旬。僕はまだまだ夏休みですが、トモミの学校はスタートしていました。今回はそれが僕にとって、とても都合がよいものでした。この日の為に、コソコソと準備が進められるからです。僕の誕生日から二週間後がトモミの誕生日です。この日の為にコツコツ立案・計画し実行のために動いていました。その為、なるべく無駄なお金を遣いたくなくて、お盆も帰省せずアルバイトに勤しんでいたのです。トモミとは18時に待ち合わせをして、可愛らしいニワトリのイラストが模された外観が特徴の焼き鳥屋にはいりました。入店すると店員さんが「いらっしゃいませー」と勢いよく挨拶してくれて「ご予約のお客様ですか?」「はい、〇〇で予約しています」「〇〇様、お待ちしておりました、失礼ですが身分証の確認をさせて頂いても宜しいですか?」てっきり、トモミのことだと決めつけて「トモミ、身分証ある?」と僕が聞くと、店員さんが「申し訳ありません、お二人とも・・・」トモミがニヤニヤと僕の方を見ていまいた。無事に成人であることを確認してもらい、テーブル席に通されました。事前にトモミに誕生日に行ってみたい所や食べたいものを聞き出していました。すると、「ハタチになるんだから、普通の居酒屋に行ってみたい!」と言います。「えっ??」と思わず聞き返すと「焼き鳥屋さんとか大人が普通に行く居酒屋に行ってみたい!」と言います。こちらの財布には大助かりだけれども本当にいいの?と言っても譲りません。というわけで、焼き鳥屋さんに来ました。トモミにとっても、僕にとっても初めての居酒屋です。店員さんが「まず、お飲み物から」とオーダーを取りにきて、トモミが巨峰グレープサワーを頼んだので僕も同じ物にしました。数分後に、お酒とオーダーしていない「お通し」が出てきて少し驚きます。メニュー表を見て、あれやこれやと焼鳥を注文して、食べながら話をしていると、トモミから今日はどうしてたの?と聞かれて、初めて『嘘』をつきました。逆にトモミに「今日は学校どうだった?」と聞くと今日はああだったとか、こうだったと話すので、その聞き役に徹しました。初めての居酒屋の雰囲気を楽しみつつ、お酒を飲んでいると少しだけ大人になったような気分になりました。トモミはチューハイを3杯、僕も頑張って2杯飲みました。大進歩です。「席のお時間です」と告げられて会計をすませて、お店を出るとトモミが「ごちそうさまでした」とペコっと頭を下げました。その日は僕の部屋行くことにしていました。ここからは電車に乗らなければ行けません。けれど、僕はトモミの手を取って、駅とは方角が違う方向へと歩きました。その異変にすぐ気付いたトモミは「あれ、どこ行くの?」と聞いてきます。まぁまぁと行って歩みを進めました。そして学生には少々、値の張るホテルに入ります。トモミが「ここに泊まるの?えっ、高いんじゃない??お家でいいよぉ」「いいから、いいから」と言って、トモミの手を引いてフロントまで行きました。フロントの方に「〇〇○です」
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