2012/05/09 02:43:12
(1gwB/mEX)
少しずつ、部屋の暗さにも慣れてきた。
部屋の脇には母の小さな鏡台が置いてあり、反対側に一間の押入れがあった。襖を開け二段収納の下段に、いつもはないスペースがぽっかり空いていた。私はそこへ入り襖を数センチ残したまま閉めると沢木にメールした。もし本当にここで行為が行われたとしたら、私の視界にはその全てが見えることになる。
ゴクリという自分の生唾を飲み込む音の大きさに驚くと同時に、我が母がこれから自分の友達と行為をするのを、まるで期待しているかのような心持ちでいるとは、なんという不謹慎な・・・という複雑な心境に、どっちが自分の本心なのか判らなくなっていた。
部屋へ入ってきた沢木は堂々としていた。ベッドをスルーすると窓の方へ行きカーテンを開けた。月明かりが入り、部屋は一気に明るくなった。隣は塀垣と木々に覆われているので見えることはないが、この月明かりで父が起きるのではないかと心配した。
沢木は寝ている母の脇に腰かけると、「おーい」呼びかけながら頬をペシペシ叩いた。
うーん、と母が寝返りをうち、違和感に気づいたのか、ガバッと起き上がり、
「な、あ、あんた、何しているの! 」と小声で沢木を睨んだ。
母は少し寝乱れた髪に、白いシンプルなパジャマを着ていた。月明かりに照らされた母は妙な色気があり、私の息は荒くなっていった。
沢木は少しも慌てることなく、「へへへ、来ちゃった」とおどけた。
「なにやってんのよ! 」と小声で怒りながら、母は周りをキョロキョロと見渡した。それに気づいた沢木が、「息子? 部屋で寝ているよ。旦那さんもごらんの通り寝ているし、この家で起きているのは俺とおばさんだけだよ。へへへ、いい機会だから・・・、久しぶりにやろうか? 」
母は父が寝ていることと私がこの場にいないことにホッとしたような表情をしたが、一変、キッと沢木を睨んだ。
「馬鹿なこと言ってんじゃないよ! ここに来たことは黙っていてあげるから、早く出ていきな」
小声だがその声には迫力があった。私は思わずビクリとしたが、沢木は臆すことなく、「別に俺は黙っていてもらわなくてもいいんだけどね。むしろみんなを起こして見てもらってもいいくらいだよ」と言った。
「な、何言ってるの? 」
「はははは、冗談冗談。ねえ、そんなの嫌でしょ、だからコッソリとやろうよ」
「馬鹿! 隣にお父さんが寝てるんだよ」
「寝てなきゃいいの? 」
「バ、違う! いいから早く出ていきな! 本気で怒るよ! 」
母の言葉を無視するかのように、沢木は母との距離を詰めていった。母は両手で胸のあたりを覆い隠すようにし、体を身じろぎながら父のいる方へ逃げようとしたが、沢木に右手を掴まれグイッと引っ張られた。沢木の力が強いのか母が軽いのか、まるで赤ん坊を抱き寄せるように、母は軽々と沢木の胸元へ引き寄せられた。沢木は母のあごに指をかけそのまま上を向かせた。一瞬、母が緊張したのが判った。
「ねえ、俺がこの家に泊まりにきたっていうのに、何もないと本気で思っていた訳じゃないだろ? 」
母は一生懸命沢木から逃れようとしていたが、沢木にがっちりと押さえられているために身動きを取ることも難しそうだった。
「あの一週間の出来事・・・覚えているよね。あんなに愛し合ったよね・・・。いっぱいキスもしたよね。そう、こんな風に・・・」
「むふー! んん、んぐっ」
沢木の唇が母のものと重なった。母は最初大きく目を見開き抵抗したが、それはすぐに沈静化していった。レイプされる恐怖から・・・ではなく、諦め・・・でもなかった。
「んんんっ」
聞いたことのない高さの声がした。
受け入れ。
母は沢木のキスに身を委ねていた。
時間にして一分ほどだったと思うが、すごく長く感じた。
母と沢木がキスをしている・・・。
私は興奮が止まらなかった。
ぷはっ、と息継ぎのように酸素を求めると、母は「終わり! もう終わりにしよう」と隣に寝ている父をチラリと見ながら言った。母の顔は紅潮しており手が微かに震えているようにも見えた。母は父に気づかれることを恐れていたのだろう。
「ふふふ、どうしたの? そんなに旦那さんが気になるの? 」
「あ、あのね・・・。当たり前でしょ。お父さんだけじゃないよ。・・・あんたがここにいたら、あの子が探しに来るかもしれないでしょ」
「あいつは俺たちの関係を知っているんだぜ。今更現場を見たって・・・」
「関係が『あった』ことでしょ。過去形なんだよ、過去形。今は何もないんだから・・・」
「関係があったことは話せても、現場は見られたくない・・・か? 」
「!」
母の表情が変わった。
「何で知ってるの。あの子が喋ったの? 」
「真っ赤な顔して『うん』なんて言っちゃって・・・、あははは、可愛いよね」
パシッと乾いた音がした。
母が沢木の頬を叩いた。
ふるふると全身を振るわせながら、母が言った。
「ふざけんじゃないよ! あ、あたしはね・・・、後悔してんだよ! 一時とはいえ、家族を顧みず、あ、あんたと、か、関係をもったことを! 」
沢木は叩かれた頬を触りながら、鋭い目で母を睨んだ。それはとても冷たい目だった。
「いっとき・・・? 一週間毎日朝から晩までセックスしっぱなしが『イットキ』・・・? はは、随分長い一時だね」
沢木は今叩いたばかりの母の手をサッと掴んだ。母は何かされると思ったのか顔が強ばり体は固まった。沢木はその母の手を優しく撫でながら「ごめんなさい。叩かれるようなことをしてしまって・・・。痛かったでしょ」といたわった。
「寂しかったんだよ。とても・・・。おばさんと過ごした日々が楽しすぎて・・・。わかっている。おばさんには家庭があって、それも僕の大親友のお母さんで・・・。すてきな旦那さんがいて・・・。家族が大切だというおばさんの気持ちはよく判っている。だけど、あの時も言ったけど、僕は本気でおばさんを愛しているんだ。この気持ちに嘘偽りはない。・・・あの日、彼が家に来て僕に『お母さんと別れてくれ』と言われた日・・・、僕はあなたが部屋に入るやすぐに伝えたよね、『息子さんが来たよ』って。笑顔で部屋に入ってきたあなたの表情が一気に曇ったのが判り、僕はすごく悲しくなったんだ。・・・あなたはせっかく作ってきてくれた朝食が入っていたバッグを落とし、床に崩れ落ちたよね。そして・・・、ああ、とてもとても悲しい顔をしたんだ。あなたは悪夢から覚めたかのようだったかもしれないけど、僕は最高の夢から覚めてしまったんだ。・・・あの日、最後にセックスしたけど、おばさん言ってくれたよね。『短い間だったけど、楽しかった』って。この言葉がどんなに憔悴しきっていた僕の心を支えてくれたか・・・。でも同時にすごく苦しくなってしまったんだ。・・・さっきはお酒に酔ってしまった、下品な言い方をしてしまったけど、本当はおばさんとこうして一緒にいられるだけでいいんだ。ごめんね、キスまでしてしまって・・・。でも、やっぱりおばさんとのキス・・・、最高に良い! 」