2012/05/10 10:34:26
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1時に模擬店に移動して、ホットドッグの売り子に。
2時間頑張れば、3時からはフリーだ。
30分もすると例の三人組がやつて来た。
「お兄さん来たよ。」
屈託ない笑顔でテントに設えた椅子に座る。
「今から焼くから待ってて。」
三人はおしゃべりに夢中だ。
話から三人の名前が分かった。
小さい方から、リコ、ユウ、トモだ。
どうやらこのまま6時からの屋外コンサートまで待つか、一度家に帰って出直すか迷っているらしい。
結局リコとユウは家が近い事もあって、帰宅するがトモはブラブラして過ごす事に決まった。
5時半にこのテントに集合すると打ち合わせ、二人は帰って行った。
一人残されたトモは、何処へ行くでも無くテントの中で私達の仕事ぶりを見ていた。
「ねぇお兄さん、ずっとホットドッグ焼いてるの?」
「いや3時からはフリーだよ。」
トモは微笑みながら、「だったら一緒に見て廻ろうよ。」
私もコンサートまでは、特に何をしようと決めていなかったので、トモの話に乗る事にした。
3時になると交代の同級生がやって来た。
トモを見てちょっと冷やかされたが、トモはまんざらでも無い様だった。
それからトモを連れ、友人のいる各クラブを見て廻った。
一時間もうろつけば行く宛ても無くなり、化学部のやってるカフェで休む事にした。
このカフェは、ビーカーやメスシリンダで飲み物が出てくる。
アイスコーヒーとレモンスカッシュを頼んだ。
トモは出て来た容器に目を丸くして、笑いの壷に嵌まったのか、しばらく笑い転げていた。
じっくりトモを観察すると、背が高いせいか少し大人びて見える。
トモは学校の事や友達について饒舌に喋った。
リコとユウとは同じダンス部で、クラスは別々らしい。
三年生は三人だけなので、結構仲良しだと言う。
友達の事をあれこれ話してくれるが、ほとんど頭に入ってこなかった。
トモの胸が気になり、裸体を想像してみる。
私の少ない経験では、なかなか実像にはならなかった。
「お兄さん、名前なんて言うの?」
一瞬隙をつかれた。
「あぁ、園田裕二。」
「トモちゃんは、長田智子。」
「家ちょっと遠いような事言ってたけど、何処らへん?」
話を菊地と私の下宿の近くだった。
バイクならすぐたが、自転車ならちょっと面倒臭い距離かもしれない。
テントに戻るとリコとユウはすでに来ていて、クラブの連中と談笑していた。
コンサートと言っても入場料がある訳ではない。
軽音楽部や吹奏楽部が演奏するだけだ。
ステージ前にいくつか椅子はあるが、立見が基本だ。
三人組はこのテントから、観賞する事に決めたらしい。
上級生もやって来て、テント内は鮨詰め状態になった。
人息れで暑苦しくなってきた頃、トモが私の袖を引っ張り耳元で囁いた。
「外へでよう。」
私はトモの手を取り、テントを出た。
「人が多くて気分悪くなっちゃった。」
「あまり人の居ない所が良いのか?」
トモは小さく頷いた。
塀際の銀杏並木まで、手を繋ぎ歩いた。
かろうじて、テントとテントの隙間からステージが見える。
しばらく無言でステージに見入った。
「ねぇお兄ちゃん、彼女いるの?」
お兄さんからお兄ちゃんに、呼び方が変わっていた。
「居るには居るけど、最近はやばい雰囲気だし、捨てられそうだな。」
「本当?」
「本当。遠距離恋愛は難しいな。」
少し自嘲きみに笑うと、トモは黙ってしまった。
「私、お兄ちゃんの彼女になれないかな?」
ドキッとしたが、何処か期待ましていた様に思う。
でも中学生とは、ちょっと有り得ない。
「駄目?」
「う~ん、とりあえずお兄ちゃんで良いんじゃないか。」
トモは素早く私の頬にキスをして、「宜しく。」と言って微笑んだ。