先に誘い水を向けたのが彼女であっても、欲情に身を任せ、行動に移していたのは自分の過失。3年振りのセックスを妻以外の女性と交え、何時もより1時間以上も早く目覚めを覚えた私は、全身に浴びせるシャワーに未だ名残惜しそうな造形を下半身に浮かべると、それは私の心の中に巣食い始めた、小山恵美子そのものを欲するかのようでした。それから1週間、9日と過ぎる中。あたかも意識し合うように、お互いに連絡を取り交わす事も無く、何事も無かったかのように9月の末日を迎えると、巷では緊急事態宣言となった全域が延長解除となったのですが、街行く人々のマスクが外される事は無く、混沌とした10月度を迎えていたのです。そして忘れもしない10月第2週の金曜日。今でも良く覚えていますが、辺りはすっかり初秋を感じさせる気候になり、早めに仕事を切り上げた私は、クリーニング店の保管サービスで預けた合物のスーツを数着引き取って帰宅したのですが、届けられていた宅配食材を部屋の中に入れ、着替えを終えた私が夕食の準備に取り掛かろうと、保冷ケースの食材を取り出し、配達書兼納品書を眼にした時でした。『身勝手な真似をしてごめんなさい、関根さんを怒らせてしまったんですね?ずっと連絡を待っていたんですけど、全然貰えなかったので…。それと私の公休日に代配を務めて貰っている女性なんですけど、9/24(金)にコロナの陽性反応がみられ、診察の結果、10/08(金)迄の2週間、自宅での投薬治療をする事になって、その間の私は休日返上での勤務シフトとなったんですけど、ずっと関根さんの事が気掛かりでいました。身勝手で軽率な真似をした事を心から恥じています。不愉快な思いをさせて本当にごめんなさい!見苦しい物は処分して貰って構いませんので。小山』 私は彼女からのメッセージを読み終え、そんな状況下で在った事も露知らず、6歳年上の自分の方こそ、彼女と躰の関係を持ちながら、その後の連絡を躊躇っていた度量の小ささを恥じ、居ても立っても居られなくなった私は、その場で彼女の携帯に連絡を入れていました。17日振りに聞く彼女の声を携帯越しに耳にすると、神妙な語り口に疲れを感じさせる彼女に、私は連絡をしなかった事を素直に詫び、洗面台のミラーボックスに忍ばせたスキンの意味も、妻が赴任先に来た時にでも使ってくれと言うのか?或いは他の女性とのワンナイトの時にでも…。と言っているのか?と如何様にも取れなくは無い事に、考えあぐねていたと告げたのです。『関根さん、私そんなに物分かりの良い女神の様な女じゃないですよ?』と小気味良い笑い声を弾ませ、見た目と同様に少年の心を遺している私が可愛いと言う彼女は、休日返上の勤務が明ける10/09(土)と翌10(日)が振替の公休らしく、翌週の月曜日から火曜日に至っても、代配の女性には予備日として休んで貰い、営業所の所長が4日間代配をすると言うのです。9/22(水)から10/08(金)迄の17日間。連続勤務から解放され、4連休を貰える事となったせいか、沈んでいた彼女の声も俄かにトーンアップし、4連休初日の10/09(土)には、また私の部屋で過ごしたいと言う彼女に二つ返事で快諾すると、手作りのカレーライスを持参するので、一緒に昼食を摂りたいと言う彼女。あの夜の事は彼女にとっては火遊びで、このまま沈静化するものと思っていただけに、想定外な展開に私の心も弾んでいました。そして当日を迎えた土曜日。雲一つ無い秋晴れの下、ベランダ越しに望む表通りには黄色に染まる銀杏並木が陽の光を浴びて煌めき、逸る思いに駆られた私は部屋の隅々まで入念に掃除機をかけ、浴室からトイレ、そして寝室のリネン類も全て洗い替えの清潔な物に交換し、彼女が備え置いていったスキンをヘッドレストの小引き出しに忍ばせると、赴任地の変わり易い気温の変化にも備え、乾燥の恐れの無いオイルヒーターまで早々に準備し、寝室に備えるほどの気の入れようだったのです。やがて正午を目前とし、鳴動するインターフォンが彼女の訪れを告げ、意気揚々と玄関のドアを開ける私に満面の笑顔を滲ませた彼女。玄関先でまじまじと顔を覗き込む私に、恥ずかし気な素振りを覗かせる横顔は少しだけ頬がやつれて見えたものの、以前より肌の色艶は良く、透き通るような肌に浮かぶ青い静脈が、私をそそるかのようでした。
...省略されました。