2025/08/21 22:42:32
(viwivztv)
「…。」
久美子と分かれる際、その背中を見つめる友人、雅美の表情はどこか心ここにあらず、そんな表情。
その黒い瞳も少し澱んでいたかもしれない。
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「さすがにどこも…か…。」
電柱の足場釘を分厚い靴底で捉え、慣れた手つき…もとい、足つきで昇っていく男。
頭にはかなりの傷がついた黄色いヘルメット。
腰のベルトにはドライバーにハンマー、モンキーレンチなどの工具が収めらている。
薄汚れた作業着がところどころに解れや痛みも見える。
ペンキの類に触れる機会があったのだろうか、生地の色が変色しているところも見受けられる。
電気工事士の類だろうか。
様相、雰囲気を見ても10人に9人はそう答えるはず。
そんな男が今日も、電柱に登っている…。
しかし…。
「どこも…部屋の中か…。」
男が見ているのは電柱あるいは電線などではなく、周囲のアパートやマンションだった。
時間も夕刻時、作業をしているにしては時間的にも怪しい。
そう…、男はただただ獲物を高い位置から探るためにこの格好をしていた。
アパート、ハイツ、マンション…。
それも一人暮らしの女性が住んでいそうなところを見定めては、電柱に登り覗き見る。
手の込んだ卑劣な犯罪者だった。
作業員の恰好際していれば、誰も男に声などかけない。
堂々と、物色できるのだ。
しかし、男の言動は少し違和感がある。
部屋の中…か…。
部屋の中を覗き込むには少し口にする言葉がおかしい。
そして踵を返し向ける視線の先に、男の求めるモノが目に入った。
「っと…。あるじゃねぇか…。」
そう…、男の目的は覗き…ではなく、女の下着。
昨今、いや、昔から女性の下着を狙う者は少なくない。
しかし、空調設備、家電の進化で昔こそ洗濯物は屋外で干すのが当たり前だったが、そんなものは本当に昔の話と言わんばかりに、どこの家庭も、特に下着は室内で干されるようになっていた。
それでもなお、女性の下着、にこの上ない興奮を覚える男は追い続けていたのだ。
暑い時期も最中…、しかし夕暮れも徐々に早くなってきた頃。
男が主に活動する夜半。
この地域は人通りが一気に減少する。
日中の内にあたりをつけ、生活状況、住人の情報などを精査。
万全を期して、盗み、に入るのだ。
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一度その場を離れれば、再度現れるのは深夜帯。
周囲の状況を確認し、先ほどとは違う身軽な恰好、履物は足音が完全に消える軽い物を選択していた。
(良いねぇ…。
ピンクか…、淡い色…悪くない…。
挑発的な赤…、黒…なんかも捨てがたいが、ピンクは正統…、白に並んで正統派と言える。)
すっと足音なくベランダに飛び込む。
高鳴る心臓の鼓動…、目的はあくまで女の下着だが、忍び込むときの高揚感も好んでいた。
すっと固定されている状態から解放すると
(最高じゃないか…。
洗濯後…、ってことだけが残念だが…、洗濯前の下着を干すバカはいない…。
これで我慢…いや、これで満足するしかない…。
といっても、こんなところで長居しては危険だ…。)
すっとポケットの中へとしまい込むと、再び足早にベランダから去っていく。
その下着がまさか…、下着泥棒の友人に感化されて行動してしまった、まだ見ぬ雌の一歩だとはまだ知らず…。