「急いで出てきなさい、ってことじゃないから。ちょっと心配になっただけだから…、落ち着いたらまた出ておいで。お薬は何か出しておくよ。」動揺の色が声を通しても想像できる。何時からいたのか…気にする声も聞こえるが、不審に思うことよりも自分のはしたない声を聴かれることへの懸念が大きいことが確認できれば、さほど心配する理由にはならなかった。「さぁ…何がいいか…。」先にリビングに戻ると、佳奈用に見繕って入れておいた薬箱を確認する。その種類、量たるや、どこまで綿密な計画を基に今に至っているのかを物語っている。佳奈の母と出会って数年、佳奈の存在を知ってからは内に秘めたどす黒い感情を成就させるために準備を進めてきた。結婚が決まった…その時点で決行は確定。一緒に住むようになってからは、少しずつ健康診断を受けてもわからない程度の微量の毒。それを毎日欠かさず与え続け半年…、佳奈の母は倒れた。殺意があるわけではない…、いずれは戻ってくるもので構わない。その間に、佳奈を…愛しい娘を…、自らの手中に収めること…、卑劣かつ醜悪なその計画。-火照りを冷ます薬…と言って、その副作用で眠くなる…というのがいいか…。それとも、風邪気味で菌が入っているかもしれない…と言って、排泄で毒を出させる名目で利尿剤…。生理そのものの影響だ…と、言いくるめて、火照り疼きを活性化しても、それを受け入れさせるか…。何がお気に召すかな…。うちの可愛い佳奈ちゃんには…。-分かりやすく、赤、青、黄の3色に分けたカプセル剤。そもそも…、佳奈から相談を受けなければ、服用させることは難しい。戻った佳奈が母親の容態について聞いてくる…当然だ、本来は自分も行きたかったところ。それを我慢して待っていたのだから…。「あ、あぁ…。ママはね…。どうも少し強い感染症にかかっているみたいなんだ。義父さんも…結局、直接顔を見ることはできなくてね…、ガラス越しで少し顔を見ただけなんだ…。看護師さんたちにもみんな、基本的には防菌スーツで全身を覆って対応してもらってる。まだ会えそうにないな…、でも、よく眠ってるみたいだったよ…。」そう言葉を返せば、やはり残念そうな表情の佳奈。しかし、駄々を捏ねるほど子どもではなく、それ以上は言葉にしなかった。「え、生理…?そ…そうか、そうだよな…女の子だもんな…。」かなり勇気を振り絞ったはずだ、しかし当然のように聞き入れても違和感か…。そう考えると、父親としての少し驚きながらも受け入れつつ、そこから少しずつ真剣に聞いていくような表情へと切りかえていく。「佳奈も大人になり始めたってことだね…。よく話してくれたね…、偉いぞ…?さぁ、ちょっとこっちにおいで。」と、腰掛けたソファに佳奈を呼び、隣に座らせる。「不安になる必要はない。全ての女性が必ず通る道に、佳奈も差し掛かった…その道を歩き始めただけだ。」そっと娘の肩を抱き、不安を取り除くような素振り。いろんな意味で、佳奈には今頼れる存在は、義父のみ、この局面でどう転がすかが肝になってくる。「よく聞いてね…佳奈。え…って思うこともあるかもしれないけれど…、落ち着いて聞いてくれると嬉しい。まず、ちゃんと生理かどうかの確認だ。義父さんも思い当たる節があるけど、一応聞いていくね…?そもそもだけど…出血はあったってことで大丈夫かな…?生理用品の準備とかは大丈夫…だよね、さすがに年齢的にもママが気にかけてくれてるとは思うんだ。あと、生理になると、特に女の子は体温が上がりやすい。分かりやすく言うと、熱っぽかったり、ぼーっとしたりすることが増えてくる。それと、ムズムズしたり…、ちょっと身体が疼いちゃうような感じも出てくる。
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