僕はいつもの様に仕事に向かい、高田君とコンビを組んで、新規開拓をしながら従来のお客さま巡りをしていた。高田君は守るべき女(紀子)が出来たせいか、更に仕事にうちこみ、その姿勢は社内でも評判になり、やがてトップクラスの成績を残す様になり、お客さまからの指名を受けることも多くなり…正に絶好調という感じだった。そんな高田君を見て、僕もまなみと結ばれた日からのことを思い起こし、僕もあんな感じで頑張っていたなぁ…と高田君と自分を重ねて見ていた。僕もそんな高田君に負けじと頑張っていた時に律子が家にしゅんくんと一緒に来たとまなみからラインが入った。僕は(2人揃って来たってことは…結婚の話?いやいや2人が結婚するのはもうわかっている話だから、一体何をしに来たのかな?りっちゃんに会うのは随分久しぶりの様な気がする…りっちゃんには幸せになって欲しいな…)なんて思いながら仕事を終えて家に帰った。玄関に入るとゆりなが「おかえりっー!パパ」と言って飛びついて来た。「ただいま、ゆりな。」と応えゆりなを抱き上げ高い高いしてあやしていると…「…おかえり…ゆうさん…」とはにかみながら律子が姿を見せて言った。僕はりっちゃんの姿を見て、(りっちゃんは一体どこまで綺麗になるのだろう?少し見ないうちにこんなに綺麗になって…りっちゃんが綺麗になるのは限界がない感じがする…)と思いながら「ただいま、りっちゃん。」と笑顔で応えた。すると律子の背後からしゅんくんが「お邪魔してます。裕介さん。」とゆういちを抱っこして顔を下げて言った。「瞬一くんも久しぶりだね?元気そうで良かった。いつも…子供たちの面倒みてくれてありがとう。」とお礼を言った。僕はしゅんくんも…しばらく見ないうちに顔が変わった、凛々しくなったというか…律子の側にいる姿がすごく自然だ…あんな事件があってどうなるかと思ったが…もう大丈夫。しゅんくんに任せたら、律子はきっと幸せになれる!そう2人並ぶ姿を見て僕はそう確信した。すると律子が「ね、ゆうさん?あたし…瞬一と先に籍だけ入れることにしたんだ。それで…届けの保証人だけど…片方は星野の方のお義父にお願いしようと思う。もう片方なんだけど…」と言って僕とまなみの手を握って目を細めた。なんだこの間は…何か深刻そうな顔してる…まさか僕に頼むつもりなのか?いやいやそんなことはある訳ない…でも是非と律子に言われたら…なんてドキドキして話の続きを待っていると…「宮島のおじさまにお願いしたいんだ…両親ともに亡くなったあたしにとって、父と言える人は…相応しい人はあの人しかいないから…」なんて言われて僕は納得した。確かに星野のおじさんにお願いするのだからまなみのお義父さんじゃないと釣り合いが取れないし、義父が一番相応しい!バカな事を思った僕が恥ずかしい!穴があったら入りたい気分だ。と思って俯いていると「りつのお願いなら、たぶん涙流して喜ぶと思う。ねっ?裕介?」とまなみにふられ「たぶんじゃなくて、絶対泣いて喜ぶと思うよ?だって律子のこと娘の様に思っているんだから…」と動揺を隠す様に言った。するとまなみが「そうだ、今度の連休、予定合わせて久しぶりにあっちいかない?直接会ってお願いしちゃいなよ、りつ?」と聞くと「あ…あたしは…その方がありがたいけど…みんな、いいの?」と律子が珍しく遠慮がちに聞くので「もちろん良いよ?おめでたい話をお願いしに行くのだから喜んで行くよ?僕も久しぶりにお義父さんに会いたい。」と答えた。しゅんくんも「僕もまなさんのお父さんに会ってお願いしたい。」とノリノリで言った。こうして話はすんなり纏まり、僕たち夫妻と律子と瞬一くんと連休で行く予定を決めた。ただ僕はなぜ律子があんなに躊躇って言ったのか疑問だった。【まなみさん、お待たせ。帰省してどんな事件起きるかな?お義父さんびっくりするだろうなぁ~】
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(そして帰省の当日。今回もまた車を選びました。人数が多い事もあり大きめの車を借りて、運転はゆうすけさんとしゅんくん。はしゃぐ子供達を相手にするのはまなみと律子。子供らの騒ぎも一段落して、車内が落ち着き出します。律子は裕一を膝枕しながら流れる車窓の風景を頬杖ついて見ています。)…りつ?もしかして、ホントにいいのかな?って思ってる…?「…あたり。さすがまなだね?お見通しか…あたしのわがままにみんな付き合ってくれて…しゅんいちもゆうさんも忙しいのに…前にも言ったけど、あたし達は誓ってもうこれからずっと一緒に添い遂げるんだけど、それでも…それに…」(言葉を濁らせた律子の手を、まなみは優しく笑みをこぼしながら握り締めます。目を細めてただ頷くだけ。律子はそれにすまなさそうに苦笑いして応えます。)「みんなおつかれさま。よくきたね?あなた?りっちゃん来たわよ?ちょっと見ない間にうんと綺麗になっちゃって!」「おばさま、やめてください…恥ずかしい…」(まなみの実家に着いてからの律子は、普段と変わらずにいました。落ち着いてリラックスした笑顔を見せてまなみの母と談笑しています。その様子をにこやかに見守るまなみの腕をひくのは…)「お、おいまなみ…」おとうさん!そんな隠れてないでいいのにぃ「りっちゃん、何か話があるんだって?なんか聞いてるか?」気になるんだったら、本人に聞いてみれば?「ちょ、おいっ!」「あ、おじさま。ご無沙汰してます。お元気そうで何よりです!」(まなみの父も何となく察してはいます。ですがやはり気になってそわそわしていたようです。おまけにまた一段と綺麗になった律子に会って照れているようで…そして、夕飯前のひと時…)「おじさま?実は折り入ってお願いがあるんです…あたし、この人と一緒になる事にしました。今回あたしのわがままで、式より先に籍を入れようかと思ってまして。それで、保証人をお願いしたいと思います。あたしにとってこの家は第二の実家。おじさま、おばさまは両親のように思ってます。だから…」「やっぱりね?言った通りでしょ、あなた?りっちゃん、この人ね?言われる前から名乗りでるくらいにヤル気まんまんなのよ?式にも父親がわりに出るんだって息巻いててねぇ?」「お、おい!余計な事言うなよ!ま、まあ…うちにとってもりっちゃんはまなみと同じく娘と同じだと思ってるからな。頼まれなくても喜んで引き受けるよ?星野くん…か?2人の空気を感じると何も言う事はないよ。りっちゃんを…よろしく頼む。」「はい、きまり!それじゃあご飯にしましょ?」(その夜はおおいに盛り上がりました。お父さんは飲み口が増えた事を喜び、いつになく上機嫌です。律子も楽しそうに笑い、その輪の中にいます。まなみはその輪を楽しそうに見つめて、律子の心残りを察します。やがて宴席はお開きになり、子供達とまなみの父は眠ってしまい…)りつ、たのしかったねぇ?「うん、こんなに笑ったの久しぶり。おじさまも相変わらずでよかったわ。」そだねえ?はりきりすぎて見てるこっちが恥ずかしいくらい…「ふふ…ね、まな、後で散歩行かない?ちょっと夜風にあたりたいな…」それなら、今行っておいでよ?まな、まだお母さんの片付け手伝うし。ゆうすけぇ?りっちゃんにつきあってあげて?(それなら僕が…と動こうとするしゅんくんを制して、まなみはごめんね?と目配せします。たぶん2人で一つに溶けて、ゆうすけさんへの気持ちも吹っ切った。そんな顔をしてますが、律子はそれを誰でもないゆうすけさん自身に伝えたかったのです。まなみでなければわからないくらいの小さな気持ち。しゅんくんもここでその想いを察します。大丈夫。そうわかってても家を出る2人の姿に手を伸ばそうとしてしまいます。)…ごめん、これはまなのわがまま…今までのりつの…卒業なんだ…これから、あなたをさらにまっすぐ見据えて貰うため…不安なら…まなが付き合うよ?(その大きな背中にぽふっと抱きついて、まなみは静かに話します。この夜だけは何が起こっても赦そう…そんな気持ちも感じ取れる話し方…しゅんくんは、前に回したまなみの手をそっと握ってくれました。)ありがとう…【このまますんなりは終わらせませんよ?まだまだりっちゃんには、幸せな気持ちでたくさん泣いてもらうんですから。
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帰省当日、僕はまなみからの希望で大きめのワンボックスカーを借りて、しゅんくんと運転を代わりながらまなみの実家に向かった。しゅんくんはバイクも乗っているだけあって、運転は上手で安心して任せられた。久しぶりの帰省ということもあって、いつも以上にはしゃぐ子供たちの相手を律子とまなみがしていた。やがて子供たちが落ち着き、はしゃぎ疲れた裕一が律子の膝枕で寝て、ゆりなも裕一にもたれて寝ていた。するとまなが頬杖ついて車窓の外の景色を眺めていた律子に声をかけて、話をしていた。話の内容は瞬一くんと話をしていた事もあって良く聞き取れなかったが、何かしら律子が悩んでいる様に僕には思えた。そんな風に思いながら運転しているうちにまなの実家に着いて、荷物を持って呼び鈴を鳴らして、中に入ると「みんなお疲れさま、よく来たね?あなた?りっちゃん来たわよ?ちょっと見ないうちにうんと綺麗になっちゃって!」「おばさま、やめて下さい…恥ずかしい…」って顔を赤くして照れながら言う律子がいつもより余計に可愛く見えた。落ち着いてリラックスした笑顔で話をしている律子…すると「お、おいまなみ…」とお義父がまなみの腕を引いて声かけると「おとうさん!そんな隠れてないでいいのにぃ」「いやいや…そんなことより、りっちゃん、何か話があるんだって?まなみ何か聞いてるか?」と身体を隠す様にして聞くと「気になるんだったら、本人に聞いたら?」とまなみが言って押したので「ちょ、おいっ!」とお義父さんは言いながら姿を現し、「あ、おじさま。ご無沙汰してます。お元気そうで何よりです!」と言われて…「あ、ありがとう。りっちゃんも元気そうで…よかった。」となんとなくりっちゃんが今回わざわざ訪ねて来た意味が察しているけど、りっちゃんから聞くまではそわそわした気分でいて益々綺麗になったりっちゃんを目の当たりにして、照れてしまい変な感じで返事をしたみたいだった。そして夕食前に律子が瞬一と一緒にお義父さんの前に行き、「おじさま?実は折り入ってお願いがあるんです…」と口火を切るとしゅんくんが隣に行き「あたし、この人と一緒になる事を決めました。今回あたしの我儘で式より先に籍を入れようかと思ってまして、保証人をお願いしたいと思います。あたしにとってこの家は第二の実家。おじさま、おばさまは両親の様に思っています。だから…」「どうか僕からもお願いいたします。」と律子と一緒に瞬一は頭を下げた。「やっぱりね?あたしが言った通りでしょ、あなた?りっちゃん、この人ね?言われる前から名乗り出るくらいにヤル気満々なのよ?式にも父親代わりに出るだって息巻いて…」「母さん!余計なことは言わなくていい!ま、まぁ…うちにとってりっちゃんはまなみと同じ娘の様に思っているから…頼まれなくても喜んで引き受けるよ?星野君…か?…こう2人並んで纏う空気を感じると、何も言うことはない。りっちゃんを宜しく頼む。」と笑顔でお義父さんが言った。瞬君もその想いに応える様に大きく頷いた。そんな様子を見て、僕が結婚の挨拶しに行った時を思い出す…お義父さんも娘の様に思っていた律子からこんな挨拶されるなんて…と僕まで胸の奥が熱くなるのを感じた。「はい、決まり!それじゃあお食事にしましょう。」とお義母が言って、みんなで食事を始めた。その夜は大いに盛り上がり、「星野君!本当、りっちゃんのこと、宜しく頼むよ!まぁ飲みなさい。」「はい!僕がこれから律子を幸せにします!」と話ながら乾杯をして飲み始め…お義父さんは僕以外の飲み手が増えた事が嬉しい様子で、いつになく上機嫌でお酒のペースが自然とあがり、お義父さんは宴会がお開きになる頃には酔いつぶれ、子供たちと同じように寝てしまった。その一方で「りつ、たのしかったねぇ?」「うん、こんなに笑ったの久しぶり。おじさまも相変わらずでよかったわ。」「そうだねぇ…」とまならが話をしてたら「ね、まな、後で散歩行かない?ちょっと夜風にあたりたいな…」と律子が誘うとまなはすぐに応じるだろうと思っていたところに「それなら、今行っておいでよ?まな、まだお母さんの片付け手伝うし。ゆうすけぇ?りっちゃんに付き合ってあげて?」と声かけられて驚いた。しゅんくんがそれなら僕が…と動こうとしたのがわかったがまなが制してしゅんくんに目配せをした。僕は律子が僕に何か話があるんだと思って、「それじゃ…りっちゃん…僕が散歩につきあうよ?じゃあ行こうか?」と言って律子と一緒に家から出た。「こうして、2人で歩くのもずいぶん久しぶりだね?
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ちょっと…みんあたしの事綺麗綺麗っていうけど…あたし、そんな自覚ないよ?(並んで歩く道すがら、あたしたちは何気ない話をします。最初は他愛もない会話でした。言ってしまえば簡単な事を口に出さずに、はにかんで笑いながら少しずつゆうさんの後をついていくように歩みが遅くなります。目の前の背中を見つめながら、何度手を繋ごうかと差し出してはためらう手。やがて2人はあの公園の前を通ります。そして律子は歩みをとめ…)…ゆうさん?なんだか、あっという間だよね?ここであたしはまなと再会して大泣きして。あなたはここでまなを救ってくれた……振り返らないで?そのままで…あたしね?あなたの事、最初は気に入らなかった。いくらまなが心を預けたからと言っても、あたしのまなを取られたくなかったから。たとえ…それが報われない想いでもいい。あの子があたしの気持ちに応えてくれなくてもいいって…でもね?そんなあたしを変えてくれたのはあなた。他でもない、気に入らなかったはずのあなたなんだ…(いつになく澄んでいる…自分でもわかるその声を、あたしは目の前の背中に届けます。振り向かないで…今振り向かれて優しい顔で見つめられたら…いつの間にかゆうさんの手を両手で握り、あたしはその背中に身を預けます)あなたは…あたしの、黒い殻を破ってくれた。あたしを、女にしてくれた。あたしに、人を愛する勇気をくれた。好きになった気持ちに溺れて狂って壊れた事もあった…でも…それも含めて、今のあたしになってるんだ…そして…しゅんいちとまた出会えた…(その名前を出したゆうさんの手があたしの手を強く握り返します。この人はいま、どんな気持ちなんだろう?あたしのこの想い…わかってくれるかな?そう思いながら、あたしはその背中から離れます。数歩距離を取り、初めてあたしにゆうさんは振り向き…)ゆうさん、ありがとう。あなたがいたから、あたしはここまで歩いてこれた。好き、大好き、愛してる…それは今でも変わらないわ…(何も言わずに黙ってあたしを見つめてくれるゆうさん。だめ…こみあげる気持ちが涙となってポロポロとこぼれ始めます。それでもあたしは笑ってその顔を見返して…)もう…もう大丈夫だから…あたし、竹田律子は…あなたのその背中を離れても…歩いていける。だから…だから…(言え!言うんだ!あたしの中の気持ちがフル動員であたし自身を奮い立たせます。もう少し…もう少しだけ甘えていたいかもしれない…でも…)だから…今まで…あたしの…あた…あたしのこと…ずっとずっと…支えてくれて…ありがとう…あたしは…いま、この場で…あなたから…あなたから…卒業…します…(笑おう。せめてこの気持ちの最期は笑おう。あたしは泣き笑いの笑顔でゆうさんを見つめます。途端堰を切ったように目頭が熱くなり、涙が溢れ出します。その場に崩れ落ちようとした瞬間、あたしはゆうさんの胸の中に抱きとめられていました…)…そっか。しゅんくん、りつの中のまなを感じたんだ…普通は信じられないだろうね?こんな事…でも、確かにあの夜、まなたちは溶けて一つになって、そしてまたお互いに戻ったの。(さっきまであれほど騒がしかった部屋には、まな達だけがいました。まなとしゅんくんは背中合わせにもたれかかり話をします。伸ばした足先をパタパタと振りながら、ちゃんとりつの中にまなはいる…それを嬉しく思いながら…)まなね?りつをゆうすけに会わせる事ができたの、本当によかったって思ってるんだ。決して皆が皆手放しで賛成してくれない関係。でも、それでよかったって…だってそのおかげで、こうしていま、あの子はあなたを見つけて、そして…あなたの元に行くんだから…(もうどこに行っても、何をしていてもりつを感じるから平気。大丈夫。そうわかっていても…)でも…まな、少し不安かな…?りつがあなたと一緒にどこまでも遠くに行く事が。まなたちはへんてこな家族。その輪にあなたも入って…でも、あなたは、そんなまなたちを少しだけ、一歩引いたとこで優しく見てるような気がするんだ…(籍を入れるとりつが話してくれた時から感じていた漠然と感じていた不安。後で思い返す時、この時のまなは臆する事なく、湧き出る言葉をストレートに彼に伝えていました)ゆうすけはね?あなたになら…りつを託せられるって…想ってるよ?それはあの2人の間には、まなとは違う濃くて深い繋がりがあるから。話さなくても気持ちが繋がるってのかなぁ?でも、まなは…あなたにならりつを…っていう気持ちにい
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僕は律子と並んで「ちょっとみんな、あたしの事綺麗綺麗っていうけど、あたしそんな自覚ないよ?」「それはそうだろうね?でも実際はりっちゃんを見る度に綺麗になっているよ?」と他愛もない話をしているうちに律子が僕の後ろを歩く様になった。
やがてあの公園入口にさしかかり、律子が歩みを止めて「ゆうさん?なんだか、あっと言う間だね?ここであたしはまなと再会して大泣きして。
ここであなたはまなを救ってくれた…」と言われて振り向こうとしたら「…振り向かないで?そのままで…」と言われてそのまま立ち止まると「あたしね?最初はあなたの事気に入らなかった。
いくらまなが心を預けたからと言っても、あたしのまなを取られたくなかったから。
たとえ…それが報われない想いでもいい。あの娘があたしの気持ちに応えくれなくていいって…
でもね?そんなあたしを変えてくれたのは他でもないあなた。気に入らなかったはずのあなただったんだ…」といつになく透き通る声で語る律子。
僕もまた律子と最初に会った時の事を思い出しその後、まなみと律子の身に起こった悲惨な事件を知る事になる。
僕がまなみにした事は本来なら許さない犯罪。でもまなみは僕の事を許すどころか愛してくれた。
そんなまなみを僕も心から愛して、守って行く覚悟を決めた…
それなのに、同じ境遇だった律子を立ち直らすつもりが、僕は律子をまなみと同じように愛してしまった。
まなみの親友と知っておきながら、律子の気持ちに甘えてしまった…律子もまなみも幸せにしてやる!と思い上がっていた。
律子は僕の手を両手で握り僕の背中に身体を預け「あなたは…
あたしの黒い殻を破ってくれた。
あたしを、女にしてくれた。
あたしに、人を愛する勇気をくれた。
好きになった気持ちに溺れて狂って壊れた事もあった…でも…それを含めて、今のあたしになっているんだ…
そして、瞬一とまた出会えた…」と瞬一の名が出たとたん、僕はびくっと思わず握られた手を強く握り返してしまった。
すると律子が背中から離れ、数歩下がって初めて僕に振り向き
「ゆうさん、ありがとう。
あなたがいたから、あたしはここまで歩いてこれた。
好き、大好き、愛してる…それは今でも変わらないわ…」と言う律子。
僕は色々言いたかった!でも…これからは律子が選んだ瞬一とこの先一緒に歩んで行く。
それがわかっているので、僕は何も言わす、律子を優しく見つめていた。
途端涙がぽろぽろと零れるが律子は笑顔で
「もう…もう大丈夫だから…
あたし、竹田律子は…あなたのその背中から離れても…歩いていける。だから…だから…」と一旦律子は言葉に詰まり、それでも「だから…今まで…あたしを…ずっとずっと…支えてくれて…ありがとう…あたしは…いま、この場で…あなたから…あなたから…卒業…します…」と泣き笑いの笑顔で…今まで見たどの笑顔の中でも最高の笑顔で見つめて言うと、涙が溢れ出て崩れ落ちそうになった律子を僕は胸の中で抱きとめた。
「りっちゃん…卒業おめでとう。
これからは…しゅんくんがいるから大丈夫。
淋しい気持ちはあるけど…
これからは家族として、もし何か有れば、助けるからな!」と言って律子を労る様に髪を撫で…唇にキスしたかったが、堪えておでこに軽くキスをした。
そのまましばらく律子が泣き止むまで抱きしめていた。