その日もいつもの通勤風景だった。脇目も振らず、急ぎ足で目的の電車を目指す男女の波が流れてゆく。見慣れている風景
だが、うんざりする時間でもあった。しかもこの暑さが加わり、人波は一段と忙しなく、ある種の殺気さえ放っているよう
だ。
(この無数の人々は、一体何処から沸いてくるんだ。しかも毎日のように…)
毛羽だったような苛立ちをぶつけるように呟き、俺もその人波の中を急いだ。
今日もぎゅうぎゅう詰め、足を置く場所さえ自由にならない。(どうにかならないのかよ…)
苛立ってくる感情を逆撫でするような、駅員の甲高い声が響く。
(何やってんだ?時間が押してるだろ?発車が遅れるとヤバイんだけどな…)
もう一度、二度と人波が揺れ、更に圧迫されるとドアの閉まる、あの間延びしたような音と共にドアが閉まった。
(やれやれ、定時に発車出来そうだな…)
(うん?いおいお、後ろの奴、そんなに押すなよ…)
(隣のおっさん、その手邪魔だよ…)
(おいおい、この足、誰のだ?人の足の間に入れてくるなよな…)
(お互い様とは言え、うんざりだね…)
電車がブレーキを緩める音を立て、ガタンと揺れ、動き出した反動で、人波は一斉に後方に押され、叉揺れも度してきた。
(今日の運ちゃん、操作がちょい荒いね…)
(そこのOLさんよ、寝不足かよ?そのまま一眠りする気かよ…夜遊びし過ぎだって…)
(勘弁してくれよ、OLさんの髪が鼻先をくすぐって来るじゃねえか…)
(寝不足だったら、どうせ髪だって洗ってねえだろ?… … うん?良い匂いじゃねえか…)
(そうだな、髪は女の命。大事に手入れしてるじゃないか。よしよし…^^)
(髪は女の命…ふふ…髪は抜け始めて分かるなが~い友達ってか。なんかそんなCMがあったよな?…そう言えば、俺の髪
大丈夫かな?…)
自分の頭の髪の毛を気にしながらも、思わず顔をほころばせていた。
(有り難うな、うんざりするこのラッシュ地獄を和ませてくれる髪の香り…)
(うん?おいおいマジかよ、そこのOLさん、爆睡状態かよ…)
電車が揺れるたびに益々密着してくる。この状況はヤバイですよ。嫌いじゃないけど。最近は何かとうるさいからね。
(おいおい、誰だよ、押して来るなよ、俺の手を押すなって…)
更に電車は右に左にと揺れ、その度に手が押され、そのOLさんの胸の方に近づいて行くが、どうしようもない。
(本当にヤバイって。勘弁してくれよ…間違われるぜ…)
必死に手を戻そうとするが、自由はきかず、益々近づいて行く。
(仕方ないな、こうなったら、手のひらじゃあヤバイから、せめて手の向き変え、手の甲の方を…)(あっ 触ってしまっ
た…まずい…胸の下の方に振れてしまったぜ…)
(頼む、気付かず、そのまま寝ててくれよ…でも良い感触だったな…)
ガタン 電車が揺れ、叉手の甲がOLさんの胸の下の方を押すように触れてしまった。
必死に遠ざけようとしてるせいで、その触り方は羽のように軽い触り方になっていた。
(大丈夫だよな、殆ど触れてない筈だ。気付く筈ないよな…こんな中で、痴漢です!!って叫ばれるのだけは…)
しかし、そんな思いを嘲笑うように電車は大きく左右に揺れ、俺の手の甲はOLさんの胸の下辺りを、しかも左右を往復する
ように撫でていった。
(ダメだ。今のは気付かれた…これは不可抗力なんだ、分かってくれ…明日のワイドショーに出されるのだけは勘弁してく
れ… 同僚の話し:あの人が痴漢するなんて、そんな人じゃ無いはずですよ。真面目で親切で、後輩にも優しい人ですよ。
その後、コメンテーターが、一見真面目なタイプって分かりませんよね。あの○○大学の教授の例もありますからね~ お
いおい俺は全国に晒し者にされるのかよ…)
(・・・・・・・・)
(おや?反応無しか?気付かなかったのか?やれやれ…しかし、良い感触だな…こんな状況で、なに考えてるんだよ、俺は
…)
電車が揺れ、下半身までOLさんに密着してゆく。
(今日の電車はどうなってるんだ、益々ヤバイ状況じゃないか…これは…言い逃れ出来ないぞ…)
柔らかい感触が下半身に押し付けられ、鼻元を甘い髪の香りがくすぐり、手は胸の間近に迫っている。
これから、ッて時だけど、出掛けないといけないので、ひとまずここまでで。
※元投稿はこちら >>