男なら嫌と云うぐらい見てきた。規則正しいように一列に並ぶ姿は毎日の事である。黙っている者、他愛もない無い話しをする者…用事が済めば何事も無かったようにトイレを後にした。自分もその一人である。女性用のトイレなんかには入れる訳もない。間違ってもそんな真似をしたら変質者その者である。でも今は違っていた。希少な美術品でも見るように彼女を観察しているのだ。力士が蹲踞をしているかのような姿に見入っていた。(やはり男とは違うな…なんと云うか…静かなる佇まいとでも云おうか…)ましてや、六十路の御婦人である。脳裏に感じる羞恥心も半端で無いはず…息子以上に歳の離れた少年に観賞物のように扱われているのだから…。至る方向からその姿を眺めてしまっていた。「おばさん…そのままおしっこしてもらって良いですか?」あろうことか、観賞を超えて行為そのものを求める声を出してしまった。願望が声と言う形に変化したのである。彼女は返事をする訳でも無く、表情を変える訳でも無かった。ただ、足元のコンクリートの床が少しづつ水気を帯びてきた。次第に蛇口の栓を緩めたかのように勢いを増していった。
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