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祖母・昭子 その後
カテゴリ: 官能小説の館    掲示板名:SM・調教 官能小説   
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1:祖母・昭子 その後
投稿者: 雄一
「凄い人ね…」
 「だから近場の神社でいいといったのに」
 「いいじゃない。あなたも私も東京っ子なのに、日本一の明治神宮に一度もお参りして
ないんだから。それに…」
 「え?何だって?」
 「来年の雄ちゃんに栄光がありますように」
 「栄光って?」
 「東大の入学試験に合格しますようにって、日本一の神様にお願いするの」
 「あ、あれはだな…ものの弾みでいっただけで…」
 「だめっ。指切りして約束したんだから」
 明治神宮の入り口から御社殿までの参道は、大晦日のこの夜、当然のように人、人、人
でごった返していた。
 紀子に無理矢理誘われて、僕は彼女が言うように、まだ一度も来たことのない明治神宮
に来ていた。
 一ヶ月ほど前、奥多摩の祖母の家で、初めて紀子を抱いた時、その後の寝物語で、
 「俺、まだ将来の夢なんて何もないんだけど、何かのテッペンに立ってみたいから、東
大でも狙ってみようかな?」
 と何の脈絡も、勿論、見込みもなしに、ぼそっと言ってしまったことを、紀子のほうが
真に受けてしまって、喜色満面の笑顔で僕に抱きついてきたことを、大晦日のこの日まで
引き摺ってきているのだ。
 後で、冗談だよ、と何度も訂正と取り消しの言葉を言ったのだが、紀子はまるで聞く耳
を持とうとしなかった。 
 今夜のここへの参拝をいい出したのも紀子で、まるで大奥のお局にでもなったように、
僕に自宅まで迎えに来させ、人で混雑するに決まってる大晦日の、中央線から山手線の電
車内でも、人混みと痴漢から自分を守れと言ってきたり、言いたい放題、したい放題の有
様だった。
 自惚れていうのではないが、紀子をほんとの女性にしてやったのは僕のほうで、もう少
ししおらしくなるのかと思っていたら、真逆の結果になってしまっていて、人生経験のま
だ浅い僕は、女ってわからん、と思うしかなかった。
 それにしても、この人の多さはまるで東京中の人が全部集まってきているような喧噪さ
で、僕は早く退散したい思いで一杯だったが、紀子のほうは僕の片腕を両手で痛いくらい
に掴み取ってきていて、
 「お前、そんなにくっついてくるなよ」
 とぼやきながら僕がいうと、
 「恋人同士だからいいじゃん」
 と悪戯っぽく白い歯を見せて笑ってくるだけだった。
 少し前にあった紀子の両親の離婚問題も、不倫騒動を起こした父親のほうの全面的謝罪
を母親が、娘のためにと渋々ながら許諾したことで、元の鞘に戻ったようで、その頃は半
泣き状態だった紀子も、生来の小煩い小娘に完全復活していた。
 紀子との東北への一泊旅行も滞りなく済ませていて、仙台のシテイホテルで、僕は彼女
とベッドを共にしていた。
 僕の祖母のように、長い人生を経験を踏まえた官能的な深さは無論なかったが、清流の
川で弾け泳ぐ若鮎のように清々しさに、他の女性の時にはないような感動にまたしても取
り込まれ、早々の撃沈に陥っていた。
 ひたすら陸上競技に打ち込んできている、紀子自身は自分の躍動的な身体の特性にはま
だ気づいてはいないようで、
 「私たちってまだ十六なのに、こんなことばかりしてたら、不純異性交遊か淫行罪で逮
捕されない?」
 などと無邪気な顔をして言ってきたりするのだ。
 押し競饅頭のような身動きできない人混みの中で、紀子は最後まで僕の腕を、両手で強
く掴み取ったまま、どうにか本殿の参拝所の前に辿り着き、僕は型通り五円玉を、紀子は
と見ると、硬貨で一番大きい五百円玉を惜しげもなく投入していた。
 騒然とした人の群れの声と熱気の中で、
 「これ、私からの雄ちゃんへの投資だからね。これから受験勉強頑張ってね」
 と横の何人かが振り返るような、大きな声を張り上げて言ってきた。
 そう言われても、半分は口から出まかせで出た言葉だし、僕には自信の欠片すらなかっ
たので、曖昧な笑顔を見せて曖昧に頷いてやるしかなかった。
 大鳥居を抜けようやく境内の外に出ても、駅のほうから歩いてくる人の波は引きも切ら
なかったが、僕はそこで奥多摩の祖母の顔を、はたと思い出した。
 毎年のことだが、大晦日の新年のカウントダウン前後には、いつも祖母に電話をするの
が僕の慣例になっていた。
 スマホで時刻を見ると、零時に七分前だった。
 「婆ちゃんに電話したい」
 まだ僕の腕から手を放さずにいる、紀子に独り言のように言って周囲を見廻したが、ど
こも蟻の群れのような人だかりで、静寂なスポットなどどこにもあるわけがなかった。
 かまわずに、スマホの画面に祖母の番号を出し、発信ボタンを押すと、やはり一回のコ
ールで祖母が出た。
 「雄ちゃん…」 
 周囲の喧騒の中でも、祖母のもう泣き出しそうな声が、はっきりと聞こえた。
 「婆ちゃん、今、明治神宮に来てる」
 片方の耳を抑えて、僕も精一杯声を張り上げて祖母に言った。
 横にいる紀子と初めて契りを交わした翌日に、雑貨屋の前の無人駅で言葉を交わして以
来、長い間、会ってはいない、祖母の色白で小さな顔が僕の脳裏に、懐かしくそして妙に
物悲しげに浮かんだ。
 あの時は紀子も一緒だった。
 二人はともに笑顔で言葉を交わしてはいたが、十六と六十代の女同士の瞬時の視線の交
錯に、鈍感な僕でも気づくくらいの、小さな火花のようなものが散っていたのを思い出し、
僕は思わず目を瞬かせた。
 若い紀子はともかくも、年齢を重ねている祖母の女の勘は鋭い。
 僕ら二人を駅で見送り、帰宅した祖母はきっと何かを嗅ぎ取るような、そんな気が僕は
していた。
 狭い歩道を歩く人だかりの中で、カウントダウンを叫ぶ声が合唱のように聞こえてきた。
 「婆ちゃん、おめでとう!」
 零時になった時、僕はありったけの声でスマホに口を寄せて叫び、横にいる紀子に目を
向けた。
 紀子の少し大人ぶって化粧した、艶やかな顔がいきなり僕の顔の前に近づいてきて、周
囲の人だかりを気にもせず、大胆にも唇に唇を強く押し当ててきた。
 耳に当てたスマホから、祖母のおめでとうの声がどうにか聞こえたが、紀子の思いがけ
ない行動に、僕の気持ちは完全に奪われていた。
 僕のマフラーの上に手を廻してきて、重なった唇は十秒近く離れなかった。
 唇が離れてすぐに、
 「冬休みの終わりに、また行くね」
 と祖母に声を張り上げて言って、僕はスマホのオフボタンを、慌てた素振りで押して、
改めて紀子の顔を見た。
 「おめでとう。これ私の新年のサービス。…それと」
 「何…?」
 「あなたのお婆ちゃんへの、小さなジェラシー」
 歩道の雑多な流れの一部を止めるように、紀子は少し上気した顔で、僕を本気とも冗
談ともつかぬ顔で見つめてきていた。
 祖母とのことについては、紀子には絶対に話せない、大きな秘密を抱えている僕は背
筋を少しヒヤリとさせながら、それでも普通の顔で彼女の目を見返した。
 「年越し蕎麦食べよ」
 紀子は明るい声でそう言って、まだまだ人通りの絶えない歩道を、原宿のほうに向か
って歩き出した。
 腕はしっかりと紀子の手で掴まれたままだった。
 若者の街といわれる原宿は、普段の平日でも夜の更けるのは、遅いのが当たり前なの
だが、大晦日のこの夜は、まさに老若男女を問わない人混みで、雑多なネオンも煌々と
していて、元旦の日の出まで、この喧噪は続けっ放しになるのではないかと思えるくら
いの賑やかさだった。
 僕にミノムシのように、しっかりとくっついている紀子からの声も聞き取りにくく、
こちらも大声を出さないと、会話が成り立たない。
 芋洗いの芋になって歩きながら、僕は虫と蛙の鳴き声しか聞こえない、、奥多摩の静
寂の夜をふいに思い出していた。
 綿入れを着込んで、蜜柑の置かれた炬燵の前で、一人静かにテレビの紅白歌合戦を見
入っている、祖母の小さな顔が、僕の目の奥のほうに続いて浮かび出てきて、この冬休
みの最後には、絶対に奥多摩へ行こうと、横の紀子には内緒で、そう決心した。
 
 この二日前の、二十九日の午後、僕は国語教師の沢村俶子の住むマンションにいた。
 前日の夜、高校教師で三十五歳の俶子から、生徒で十六歳の僕に、相談事があるので、
昼前に自宅に来て欲しいとのメールが入っていたのだ。
 (美味しいビーフシチューご馳走するから、明日のお昼前に来て)
 これまでにこのビーフシチューの誘いで、何回のに肉体労働を見返りに強いられてき
たか憶えてないが、続いてのメール送信で、私の結婚のことで…と書かれていたので、
僕は「りょ」と返信して、今、俶子の家のリビングに座っていた。
 「お話は食べてから」
 そういって、俶子はデミグラスソースのいい匂いのする、ビーフシチューと野菜サラ
ダの盛り合わせを目の前に置いてくれた。
 年明けの月末に、俶子は隣の市で同じ教師をしている五つ年下の男性と、晴れて華燭
の典を挙げるのだ。
 そのことは前から知らされていて、僕はこれまでの二人の関係を抜きにして、心から
の祝いの言葉を言って祝福していた。
 「私が高校の時の教頭先生の紹介で、昔風のお見合いみたいな場からお付き合いした
んだけど、高校では化学を教えている人で、真面目一筋で、誰かさんみたいな戸っぽい
面が一つもなくて…面白味には欠けるけど、私もそうそう贅沢言える顔でも年齢でもな
いし、この辺が年貢の治め時かなって思って、プロポーズ受けちゃったの」
 口ではそういいながら、眼鏡の奥の目を艶っぽく緩めたりして、僕に話していたのは、
ついまだ最近のことだった。
 「よかったじゃないですか。先生が幸せになってくれたら僕も嬉しい」
 いつもと違う丁寧語で、僕は俶子に祝福の言葉を送った。
 二人のこれまでの関係は、これで自然消滅ということになるのだったが、僕のほうに
は何の拘りも未練がましい思いもなかったので、
 「明日からは、沢村先生と一生徒に戻って、学校では仲良くしましょ」
 といってやると、俶子は目から涙をぼろぼろと零して、
 「そんなに明るくいわれると、逆にすごく寂しくなるじゃない」
 といって眼鏡を外して、ハンカチで目を拭ってきた。
 その俶子からの誘いが、目の間前のビーフシチューだったのだが、何故かあの時のよ
うな、恥ずかしながらも嬉しそうだった表情ではないようだったので、
 「何かあった?」
 と目ざとく僕は尋ねた。
 俶子の驚きの告白を聞くまで、多少の時間を要したが、話を聞いた僕も暫くは返答の
しようがなかった。
 結婚相手が今になってどうこうというのではなく、相手の父親の実の弟の顔を見て、
俶子は愕然としたというのだった。
 俶子が大学を出て高校の国語教師として、最初に赴任した高校の先輩教師と、何かの
教育セミナーで県外へ一泊二日で出かけた時、新人の彼女に優しく接してくれ、それが
きっかけで男女の関係に陥ったのが、今度結婚することになった相手の叔父になる人物
だったのだ。
 叔父という男は、俶子と関係を持った時にはすでに結婚していて、聡子もそれを承知
で、何年も肉体関係を続けたということのようだった。
 大学を出たばかりでまだ処女だった俶子に、男は縄で全身を縛り付けたりとか、蝋燭
を熱い蝋を身体に垂らしたりとかの、通常ではない行為で彼女を抱き続け、他にも野外
露出を強要したりとか、排尿や排便するところを見られたりと、恥ずかしいことを散々
に彼女の身体に沁み込ませた元凶のような男だった。
 女を女として扱わない、冷徹な甚振りや辱めに、何度も止めてくれるよう懇願し、つ
いには別れ話まで進展したのだが、それまでの恥ずかしい写真を種に、ずっと引き摺った
 その後に、その男は何の病気かは俶子にも記憶はないのだが、職場を休職し一年ほど
病院での入退院を繰り返し、交流は自然消滅のようになった。
 それから何年か後、俶子はある男性と結婚をしたのだが、どういう因果なのか、その
男も彼女の最初の男と同じ異常な性嗜好で、俶子自身は、男というのはみんな同じ性嗜
好者であるという曲がった思い込みが観念的に、身体にも心にも宿りついてしまってい
たということのようだった。
 十日ほど前に、俶子は婚約者から家族と親戚一同が介した集合写真を見せられ、その
時に、自分の処女を捧げた、相手の男の顔を見つけてしまったのだと、聡子は顔面を少
し蒼白にして、僕に話してきたのだ。
 婚約者にその男の今の素性を聞くと、現在は教職員を辞めて妻の父親が経営している
不動産会社に、専務という肩書で勤務しているとのことだった。
 俶子にとって、自分の女としての人生を捻じ曲げた、淫獣のような男が身内にいると
ころへ嫁いでいくのは、屈辱的な人身御供か、悪魔への生贄でしかないというのだった
が、話を聞いた聞いた僕もその通りだと思った。
 しかし、そのことを結婚式を一ヶ月後に控えた婚約者に、正直に告白する勇気は自分
にはないと俶子はいうのだったが、十六の僕には事情が重すぎて、何とも応える術も手
段も思い浮かばなかった。
 見ると、俶子は自分の前に置いたビーフシチューを、一度も口に入れていないようだ
った。
 「いいの。まだ若いあなたに、どうにかしてもらおうなんて思ってないから…ただ、
誰かに聞いて欲しいと思ったら、あなたの顔しか思い浮かばなかっただけなの。気にし
ないでね」
 無理そうな笑顔を見せて、俶子は逆に重々しく顔を沈ませている僕を、歳の離れた姉
のような口調で、慰めるように言ってきた。
 「で、でも、婚約者に黙ったまま結婚したとしても、きっと幸せな結婚生活にはなら
ないと思うけど…」
 正直な僕の気持ちを、僕は声を詰まらせながら、どうにか正直に言った。
 「そうね、余計な不幸者をまた作ってしまうだけかもね。ありがとう、雄一君。いい
意見を言ってくれて…私のこと真剣に考えてくれてるのが、すごく嬉しい」
 俶子のその声が、急に気丈な響きで聞こえてきたので、顔を上げると、
 「あなたの助言で、私、決めたわ。これからもあなたの下部で生きてく」
 と明るい声で言ってきた。
 それもどうか、といおうと思ったが、その時は僕は喉の奥にぐっと詰め込んだ。
 「あ、そうだ。あなた、東大目指すんだって?」
 「えっ、だ、誰に?」
 聞いた瞬間に、犯人が誰かすぐにわかった。
 あのバカ、と腹の中で僕は舌打ちしていた。
 「いいことよ、あなたなら一生懸命頑張ったら行けると思う。私も全面的に応援する
からね」
 「どうかな?…僕の学力は片輪みたいなものだから…」
 「数学がまるで弱いもんね」
 「弱いなんてもんじゃない。それにしても、あのクソバカ」
 「いいじゃない。彼女、すっごい嬉しそうな顔していってたよ」
 「女の口軽は最低だ」
 「未来の奥さんになる人を、そんなに言うもんじゃないわ」
 「えっ、そ、そんなことまで、あいつ」
 ほどなくして、僕と俶子はいつもの決まりごとのように、彼女の室のベッドにいた。
 どうしようもないお喋り娘への、僕の憤怒はまだ収まってはいなかったが、聡子のほ
うは、僕との対話で気持ちがすっきり振り切れたのか、
 「どこで誰と浮気してたのか、この僕ちゃんは」
 聖職の人とは思えないような、艶めかしい目をこちらに向けてきていた。
 着ていたセーターとスカートは、すでにカーペットの下に落ちて包まっている。
 紺色のブラジャーと揃いのショーツが、僕自身も久しぶりに見る白い裸身に好対照に映
えて、若い僕の下腹部の一ヶ所に集中し始めていることを知らされていた。
 「俺が欲しいか、叔母さん?」
 僕は徐に俶子が仰向けになっているベッドに駆け上がり、その場で身に付けていた衣服
のすべてを脱ぎ晒して、両足を少し拡げて仁王立ちの姿勢をとった。
 「叔母さん、そんなとこで偉そうに寝そべってんじゃないよ。お前の一番欲しいものに、
きちんと挨拶しろよ」
 急に芝居がかった声で言う僕の意を理解したかのように、俶子も眼鏡の顔を真顔に引き
締めてきて、おずおずとした動作で上半身を、ベッドから起こしてきた。
 どこでどういうスイッチが入ったのか、僕自身もわからないでいたが、俶子の身体への
嗜虐の衝動がどこからともなく湧き上がってきていた。
 十六の自分よりも二十近くも年上のこの女には、何をしても許される、という妙な自惚
れめいたものが、聡子と知り合った頃から漠然とだがあった。
 僕の二面性の性格の裏側にある、嗜虐の嗜好と、俶子のこれまでの、ある意味、不幸な
男性遍歴で知らぬ間に培われていた、被虐の思いが、歯車の歯が噛み合うように合致して
いるのかも知れなかったが、とにかく僕自身が淫猥な気持ちになってくるのは事実だった。
 ベッドに座り込んだ俶子の顔のすぐ前の、僕の下腹部のものはすでに半勃起状態になっ
ていた。
 俶子の両手がそこへ添えられてきて、間髪を置かず彼女の赤い唇が半開きになって、僕
の股間に迫ってきた。
 濡れて生温かい感触が心地よかった。
 俶子の身体を抱くのはいつ以来だろうと思い返しながら、僕は背中を少し屈めて、彼女
のブラジャーのホックを外しにかかっていた。
 室には暖房が入っていて温かかったが、聡子の背中はそれだけではない汗のようなもの
で肌は湿っていた。
 僕の下腹部のものは、俶子の口の中で早くも臨戦態勢を整えていて、学校のグラウンド
にある鉄棒のように固く屹立していた。
 満を持した態勢で、僕は俶子の口から刀を抜くように、唾液でしとどに濡れそぼった屹
立を抜き、彼女の上体をベッドに押し倒し、小さな布地のショーツを一気に剥ぎ取り、熟
れて脂の乗り切った太腿を大きく押し広げて、自分の身体をその間に割り込ませた。
 「ああっ…う、嬉しい!」
 感極まったような声でいいながら、聡子は僕の両腕を両手でがっしと掴み取ってきた。
 俶子の大きく拡げられた、股間の漆黒の下に目をやると、薄黒い肉襞が開いていて、そ
の中の濃い桜色をした柔らかな肉が、滴り濡れているのがはっきりと見えた。
 僕は固く怒張しきった自分のものに手を添え、狙いを定めるようにして、濃し全体を前
に押し進めた。
 「あ、ああっ…す、すごい!…は、入ってきてるわ…ああっ」
 久し振りに聞く俶子の咆哮の声は、室一杯に響くくらいに大きくけたたましかった。
 僕の腕を掴み取っている彼女の手の指も、痙攣を起こした人のように強い力が込められ
てきていた。
 じわりと締め付けるような圧迫の間に、三十五歳の女の身体から発酵したねっとりとし
た脂が潤滑油のようになって、俶子の胎内に僕のものは深く沈み込んだ。
 僕の腰が動くと、その潤滑油は温みのある摩擦を、僕のものに心地のいい刺激となって
与えてきて、俶子は俶子で僕の腰の淫靡な動きに幾度となく呼応し、眼鏡の奥の目を瞬か
せ、喘ぎと悶えの声を間断なく挙げ続けたのだった。
 「は、恥ずかしい…こ、こんな」
 「俶子の顔がしっかり見れるから、俺は好きだよ」
 僕はベッドに胡坐座りをして、俶子と胸と胸を合わせて重なるように抱き合っていた。
 俶子が汗に濡れそぼった裸身を晒して、僕の腰に跨り座っていて、重なった腰の下で、
列車の連結器のように、二人の身体は深く繋がっていた。
 顔と顔が否応もなく触れ合い、相手の息遣いまではっきりと聞こえるほどに密着してい
て、俶子の胸の膨らみの柔らかな感触が、汗に濡れた僕の胸に心地よく伝わってきていた。
 「あ、あなたの汗の匂いって、いい匂い」
 「俶子の女の匂いも、俺は好きだよ」
 「わ、私って、悪い女?」
 「どうして?」
 「の、紀子さんのこと知ってて…こんな」
 「そしたら、俺は大悪党だ」
 「大悪党でも好き!…キスして」
 お互いの歯と歯のぶつかる音が聞こえるくらいに、僕は唇を強く俶子の唇に重ねていっ
た。
 閉じた口の中に広がってくる、俶子の息が、燃え上った身体の熱の上昇を訴えるように、
ひどく熱っぽかった。
 結果を先にいうと、国語教師の俶子とその教え子の僕との、身体の交わりはその日が最
後になった…。



                          続く
 
 

 
 
 

 
 
 
 
 
 

 
 
 
2023/06/01 13:19:07(.AwPQuri)
22
投稿者: (無名)
最高です!!
いつも最高の作品をありがとうございます!!
美人は目立ちますもんね。
そのはかなさと強さ、読んでいてやるせなさとか、色々な感情がわいてきました。
この後の展開が楽しみです。

23/06/15 15:52 (V277RmRn)
23
投稿者: 雄一
朝、目を覚ますと、多香子は横にいなかった。
 スマホを覗くと、まだ八時前だった。
 寝ぐせの一杯ついた頭を掻き掻きしながら、室を出て階段を降りて、昨夜、美味しいすき焼きを
鱈腹食ったリビングにいくと、白のブラウスに紺のロングスカートというシンプルな身なりで、花
柄のエプロンをした多香子が、忙しなげに動き廻っていた。
 顔の化粧も済ませているようで、白い顔に赤い唇が美しく映えていた。
 「おはよう」
 と声をかけると、僕がいることに気づいていなかったのか、驚いたように振り返って、
 「あら、おはよう。何、その頭。顔洗ってきて」
 可笑しそうな笑みを浮かべながら、コーヒーカップにコーヒーを注いでいた。
 洗面所で顔を洗って鏡を見ると、髪の毛が寝たままだったり、ピンと針金のように右左に立って
いたりして、雷が落ちたようになっているのを見て、自分でも笑いたい気持ちになった。
 頭に水を塗してドライヤーをかけたが、半分は元に戻っていなかった。
 便器に座って小便を済ませて立ち上がり、水を流そうと便器にもう一度目を向けると、奥のほう
で、何か小さな紙の袋のようなものが見えていた。
 顔を覗き込ませると、封をされた薄い水色の紙袋で、それが何かは僕にはすぐにわかった。
 女性の生理用品だった。
 多香子が生理になったのか?
 少なくとも昨夜のことではない。
 僕とあれだけ激しく絡み合った時には、多香子のほうに、そんな素振りは何もなかった。
 多分、今朝のことだと思われたが、小さなその紙の袋一つだけで、僕の頭の中に、良からぬ発想
 が、朝の早々から浮かび出てきていた。
 少し高級な喫茶店のモーニングセットのような、多香子の手作りの朝食を、昨夜の激しい運動に
せいもあって、僕は全部平らげていた。
 窺い見るような表情で僕を見る多香子に、
 「ああ、美味しかった」
 と満足げな顔で言ってやると、子供のように嬉しそうな笑顔を見せてきた。
 「あなたのこと、まだすき焼きが好きってしか知らないから、チーズトーストはちょっと迷った
んだけどよかったわ」
 「チーズは好きだよ、俺。それにこのサラダのドレッシング美味しいね」
 「これからあなたのこと、一杯勉強しなけりゃいけない」
 「俺の嫌いなのはね、オクラとモロヘイヤとゴーヤ。チョコレートも先ず食べない」
 「チョコ以外は、みんな身体にいいものばかりなのに。粘っこいものが嫌なのね」
 「性格、淡白なんでね。あ、ぜんざいが大好き」
 話しながら、僕は便所で思いついた、不埒な発想を切り出す、タイミングを計っていた。
 「意外とと言ったら失礼だけど、多香子は家庭的なんだね」
 「そう?何もしないお嬢さんだと思ってたんだ?」
 「学校ではマドンナだと知ってはいたけど、自分のことを思うと、憧れてはいけない人だと、思っ
てたからね」
 「マドンナ扱いされるのが、ほんとに嫌だったわ」
 「俺は今、目の前にいる多香子が好きなだけだからね」
 「嬉しい…」
 「ところで、多香子、生理になった?」
 言い出すタイミングに窮して、僕はストレートに多香子に目を向けて尋ねた。
 多香子の目に驚きの表情が浮かび、白い顔に流れるように朱が指していた。
 「ど、どうして?」
 「便所の隅に落ちていた」
 そういって、僕はジーンズのポケットから、薄水色の小さな紙の袋を差し出した。
 多香子の顔の色の朱がさらに濃くなっていた。
 「い、一日早いんだけど…今朝、急にね」
 「昨夜、俺が張り切り過ぎたかな?」
 半分は冗談口調だったのだが、
 「そう…かも」
 と多香子は返してきて、細い首筋の辺りの朱色を、また濃くしていた。
 ここからが、僕の演技になる。
 「こんな…」
 そういって、僕は椅子から立ち上がって、ゆっくりと応接間のソファに足を向けた。
 ソファに座り込んだ僕に、予想通り多香子は付いてきていた。
 「いや、こんな美味しい朝食を食べた後で、言うことじゃないから、もういい」
 多香子が声をかけてくる前に、僕は真顔になって口を開いた。
 「気になる。何か言って」
 僕の横に、不安そうな顔で座ってきた多香子に、
 「多香子の生理が見たい…」
 「えっ?」
 「お前の生理になったあそこが、どんなだか見たい」
 「そ、そんな…」
 「無理ならいい」
 「よ、汚れてるのよ」
 「だから、嫌ならいいって言ってるだろ」
 「…………」
 「ごめん、俺が悪い」
 「…い、いいわ。あ、あなたが見たいというのなら…」
 「こんなこと、女の人に言うの初めてだ。…昨夜の余韻が、まだ残ってるのかな?俺」
 「ど、どうすればいいの?私」
 多香子への籠絡作戦は成功したが、実際にどうしたいのか、ということ迂闊にも考えてはいな
かった。
 「こ、ここでいけない?」
 戦国の武人小説にも、いざとなると女のほうが強くて、腹も座ると書いてあるのを読んだこと
があるが、今の多香子がまさにそうだった。
 或いは僕の突飛で、卑猥極まりない倒錯的な申し出に、彼女自身にも同じ思考に、故意に陥っ
てくれたのかも知れないと僕は思った。
 多香子はソファから立ち上がり、室を出て行って、手にバスタオル何枚かを持って戻ってきた。
 ソファの上に、多香子は持ってきたバスタオルを重ねて敷き並べると、
 「脱ぐわね」
 と短く言って、さすがに僕から視線を逸らし、ロングスカートのホックに手をかけた。
 細長く白い足と、白のショーツが現れ出て、僕は少し目を見張らせた。
 多香子はもう気持ちを決めきっているのか、僕のすぐ前で立ったまま、ショーツに手をかけ、
そのまま下に下ろしていった。
 薄水色の生理帯が、多香子の白い股間に貼りついているのが見えた。
 僕の横に敷かれたバスタオルの上に、多香子は下半身だけを晒した裸身で、横向きに座ってき
た。
 手を伸ばせば触れるくらいのところで、多香子は僕のほうに、白くて細長い足を向けてソファ
の上に載せてきた。
 多香子の股間は、薄水色の生理帯を挟み込むようにして閉じられていた。
 「恥ずかしい…」
 僕に目を合わさずに小さな声で言って、多香子は長いソファの上に、ブラウスを着込んだ上体
を後ろに向けて倒していった。
 言い出しっぺの僕だったが、その有様は、目を一点に集中させて、喉を鳴らして生唾を何度も
呑み込むという、多分、何とも形容のしがたい体たらくというか、情けない姿だったと思う。
 両手で顔を包み隠している多香子が、
 「あ、あなたが外して…き、汚いから手を汚さないでね」
 とくぐもったような声で言ってきた。
 多香子の足がゆっくりと開いてきて、薄水色の生理帯が、僕が手を差し出せば届くところに見
えていた。
 恐る恐るの思いで、僕は手を伸ばし、生理帯の端を摘まむように持って、ゆっくりと開けた。
 生理帯の柔らかな生地のところに、赤い血が筋状に見えて、周辺に黄色っぽい沁みのようなも
のが点在して見えた。
 多香子自身の美しさと、持って生まれた気品の良さのせいもあってか、それほどの不潔感とい
ったものはなかった。
 鼻先で嗅いだわけではないが、酢のような匂いが少し鼻についた。
 股間の肉襞が少し開いていて、桜色の濡れた皮膜に血が少し滲んでいた。
 こんなものかというのが、第一感の感想だったが、恥ずかしさを堪えて足を開いてくれた、多
香子にはその表情は見せられず、
 「ありがとう、すまなかった」
 と礼の言葉を述べて、多香子に手に持った生理帯を返した。
 「何か…私まで変な気持ちになってきちゃったわ」
 確かに多香子の顔は、風呂上がりの後のように赤く火照っていた。
 「キスしてやろうか?」
 優しい声で言ってやると、多香子は嬉しそうに顔を綻ばせて、身体と顔を僕のほうに、にじり
寄せてきた。
 ブラウスの肩を抱いてやると、多香子も僕に同じようにしてきて、顔と顔が自然に触れ、唇と
唇が吸いつけられるように重なった。
 僕の口の中に多香子の熱っぽい息が入ってきて、今しがたの、僕の不埒な思い付きの行為で、
彼女が少し気持ちを昂らせていたことを知った。
 多香子の手作りのモーニング朝食も美味しかったが、キスの味も僕には、極上のデザートとな
った。
 軽井沢の観光スポットを、多香子があれこれと僕に説明してくれたが、僕があまり気乗りして
いない表情を見て取ったのか、強引には誘ってはこなかった。
 帰りの新幹線もまたグリーン車だったので、さすがに僕も、この旅行費用の応分の負担を申し
出たが、
 「私の高校生活最後の旅行に、お付き合いししてくれたんだからいいわ。素敵な夜もプレゼン
トしてくれたし」
 と笑って固辞してくれた。
 軽井沢観光を、僕の我儘みたいな気持ちでキャンセルして、帰りの新幹線に乗ったのは、十時
少し前だった。
 電車が東京駅に着く少し前、
 「あーあ、もう一年、あなたと一緒に高校生活してみたかったなぁ」
 多香子が窓の外に目を向けながら、残念そうな声で呟いてきた。
 「そういえば、大学は六大学のどこだっけ?」
 「早稲田」
 「都の西北かぁ」
 「そうだ、あなたも来年受験でしょ?」
 「まあ…」
 「早稲田に来たら?」
 密かに東大を目指してるとは、さすがに僕も言えなかった。
 「会えなくなるの、寂しい…」
 窓に向けていた顔を僕に向けてきて、多香子は切なそうな表情で、いきなり手を握ってきた。
 「SNSとかあるし」
 「あなたの生の声や、匂いを感じていたいの」
 ここでいたわりや思いやりの気持ちを出して、会う手段をどうこうと、こちらから話すのは避け
るべきだと、僕の本能が僕の頭を必死に制御していた。
 「会いたくなったら、また会えばいい」
 精一杯の言葉を僕が言うと、
 「あなたって、クールなのね」
 と多香子は口を噤むような表情で、僕を可愛く怒った目で睨んできた。
 東京駅で多香子からの昼食の誘いも断り、彼女と別れた後、喧噪な駅構内を一人歩きながら、た
め息のような息を何度もついていたのだが、色々な人の顔が揺れるペンライトのように浮かんでき
ていたのだ。
 多香子という女性を知ったことで、何か自分の男子としての、スキルが見えてきているような気
持が、少し僕の頭の中に擡げかけてきていた。。
 山手線に乗り換えて、自分の住む家の近くの駅を降りた僕は、区立図書館横のいつもの、僕だけ
の安息地である芝生公園に来ていた。
 昨日からずっと一緒にいて、愛のようなものを確かめ合った、多香子がどうこうというのでは毛
頭なく、何か違う人の声を聞きたいと、僕は無性に思っていたのだ。
 誰もいないベンチに腰を下ろし、スマホを見ると、正午を五分ほど過ぎていた。
 空腹感もそれほどなかったので、意味もなくスマホを弄っていた僕の頭の中に、最初に二人の顔
がほぼ同時に浮かんでいた。
 年の功を優先して、僕はスマホ画面に名前を出してプッシュした。
 予想通り、一回のコールで相手は出た。
 「婆ちゃん…」
 「どうしたの?」
 祖母の驚いたような声が耳に響いてきた。
 畑に来ていて、お昼で小屋に戻ったらすぐに、スマホがなってびっくりしたのだと、祖母は嬉し
そうに言った。
 「何もないんだけどね、急に声聞きたくなって」
 「何もないというのが、あなたは何かあるのよね」
 見透かされたように、祖母に言われたが、図書館に来ている、とだけ言って、僕は近況だけ話し
て、
 「婆ちゃんの声聞きたかっただけ」
 と言ってスマホを切った。
 少しハスキーがかった、祖母の声を聞けただけで、僕の気持ちが、何故か少し落ち着いた。
 さて、次は厄介な相手だ。
 こちらも偶然か、一回のコールだった。
 「よう」
 「何…どうしたの?」
 祖母と同じ見透かしたような声だった。
 部活で学校に来ていて、昼食中ということだった。
 「図書館に来てた」
 「あら、やる気満々じゃん。よしよし」
 昨日からの多香子とのことがあったので、僕の声のイントネーションに、何となく疚しさのよう
なものが出たのか、
 「何かあったの?」
 と紀子が、得意の女の勘を働かすような声で聞いてきた。
 「何にもねぇよ。煩い声でも、ふいに聞きたくなっただけだ」
 「ふぅん。喜んでいいのかな?私。あ、三時に私終わるから、どこかでお茶する?」
 「あ、あぁ、午後から母親の買い物のお供で、秋葉原へ行くことになってるんだ。掃除機が壊れ
たって」
 「そう…」
 妙にしおらしく残念そうな声だったが、さすがに昨日の今日で、紀子の顔を真面に見る勇気は僕
にもなかった。
 「また、いつか、コーヒーくらいなら奢るよ」
 僕のこの余計な一言に、紀子がピラニアのようにすぐに食いついてきた。
 「じゃ、明日の学校の帰り。部活休みなの」
 「あ、あぁ、でもいつものとこじゃなく、違うとこにしようぜ」
 「何、気にしてるの?」
 「な、何も気になんかしてねぇし」
 「次期マドンナ候補のお誘いだぞ、ありがたく思え」
 冗談口調の声に押し切られて、僕は渋々といつもの喫茶店を約束させられた。
 何か風に飛ばされている風船のような、ふらついた気持ちで帰宅すると、家には誰もいなかった。
 リビングのテーブルの上にメモ。
 (お父さんと買い物デート  母)
 食欲もなかったので、二階の自分の室に上がり、ベッドに倒れ込む。
 枕の横にノートパソコンが置きっ放しになっていたので、何気にスイッチを入れて立ち上げる。
 友達の少ない僕なので、メールの類もほとんどないのが常だったが、同じ人物から三回もメール
が届いているのが、目に留まったので開けてみた。
 国語教師の沢村俶子からのメールだった。
 一通目はともかく、二通目と三通目は、間違いなく僕の心に、大きなドリルを突き刺してくるく
らいの衝撃で、驚愕と愕然の淵へ落とし込むような内容だった…。



                                    続く
 
 
 
 
 


 


 
       

  



 
  
 


23/06/16 11:26 (/NKM9if2)
24
投稿者: 雄一
俶子からの三通のメールを、僕は最初は、また彼女の僕へのぼやきか、愚痴、文句の類
だと思って、流し読むようにスクロールしていたのだが、長い文章の中に、刺激的で生々
しい表現が、随所に出てきているようだったので、これは只事ではないと直感し、ベッド
から身体を起こして、室を出て一階に下り、ダイニングの冷蔵庫からミネラルウォーター
を取り出し、また室に戻った。
 ペットボトルの水を一口飲んで、ベッドに俯せになり、改めてパソコン画面に目を向け
熟読態勢に入った。
 
 (独りよがりで自分勝手で、そのくせ何故か憎めない風来坊さんは、どうしているのか
な?私が結婚すると言ったから、もうお見限りなのかしら?そんなことないよね?…きっ
と他で青春を謳歌してるのね。私のほうは、正直言うと、少し参ってる。前にあなたに、
嫌なものは嫌ってはっきり言って、決まったことでも断ればいいじゃん、と言われて、私
もその気になって、相手の彼に、結婚を断るつもりで会いに行ったの。…でも、二人だけ
で会うといっていた場所に、あの男がいたの。後見人とかいう立場で彼が連れて来ていた
の。料亭のお座敷で会ったんだけど、後継人の彼の顔を見た時、私は愕然とした思いにな
って、暫く言葉が出なかったんだけど、それでも、結婚相手の彼に、二人で会うという約
束を破ったことを詰って、そこから出ようとしたの。…立ち上がった私の手を握って、引
き留めてきたのは、結婚相手ではなく、私が一番恐れていた、後見人を名乗った男だった
の。…男に手を握られた瞬間、私にはその経験はないのだけど、痴漢防止のスタンガンを
撃ち込まれたようになってしまったの。男の手を振り払うこともできず、私は婚約者を残
すかたちで、別室に引き込まれてしまったの。…ほんとに、何もできなくなってしまって
いたの。…別室へ連れ込まれて、すぐに…私は彼にキスされてしまって。それでも、私、
何もできなくて、男の粘い舌も口の中に受け入れてしまっていたの。高校教師が鼻で笑う
くらいに、馬鹿で愚かな女よね。おまけに、その時の私の頭の中を駆け巡っていたのは、
大学を出て間もない私を犯し、長い間、性奴隷のように虐げられていた、あの頃の屈辱の
行為の幾つかだったの。唇が離れた時、男が私に言ったの。「うちの甥っ子と結婚しろ」
って。…私は黙って頷いていたの。その夜、男にホテルに呼び出され、私は男に抱かれた
の。…ごめんなさいね。あなたみたいな未来のある若者に、こんなどす黒い、大人も聞き
たくはない話をしてしまって。私よりもずっと年下のあなただけど、何故か安心した気持
ちで、あなたには書けるの。今、そんな私の、恥ずかしいことばかりだけど、私小説的な
ものを、誰に見せるというのでもなく書いているの。一応、国語教師だからね。純なばか
りのあなただけど、どこかに怖いというか、不可解な面も持っているあなたに…いえ、あ
なたにだけ読んでもらえたら、私的にはもう最高です。最後になりましたが、愚かな女の
結婚式は予定通りの日程です。  俶子)

 一通目を読み終えただけで、僕は喉がカラカラになっていた。
 ペットボトルのミネラルの塊りを、二度、喉の奥に飲み込んで、メールの二通目を開いた。
 
 「ふ、二人だけって言ったのに…」
 怒りと恨みを露わにした目で、私は目の前で座ったまま竦み切っている、婚約者の横井孝
に向けて声を荒げて言った。
 結婚式まで後二週間しかない日に、私は婚約者の横井孝に、結婚の破談を申し入れ、自分
の正直な気持ちの説明と、謝罪の気持ちも含めて、名前の知れたこの料亭に足労を願ったの
だった。
 だが、気弱でおとなしい性格の横井は、自分一人で、結婚の破談話を聞くのが堪えられな
かったのか、声がけした私に事前の相談もなく、後継人としての名目で、自分の叔父である
横井正和を伴って、この場に来たのだった。
 こちらからの、ある意味、一方的な破談の申し入れなので、式場のキャンセル料を含めた
諸々の費用の負担は、当然にすべて私のほうで受けて処理するつもりだった。
 それでも私的には、自分のこれからの人生を考えたら、貧しくなったとしても、そのほう
がより人間らしく生きられると、そう決断してのことだった。
 それより何よりも、私が横井孝との結婚の破談を決意した、唯一無二の根幹が、婚約者の
横で平然とした顔で座り込んでいる、横井孝の叔父の横井正和にあることを、相手の婚約者
にも話すことのできないという究極のジレンマに、私はその場で陥ってしまっていたのだ。
 「私、帰ります!」
 意を決して、私が立ち上がり廊下へ出ようとした時、
 「待ちなさいっ」
 と怒声のような鋭い声が、背後からいきなり飛んできた。
 それまでずっと黙っていた、孝の叔父の正和の声だった。
 私の全身が見る間に凍り付き、足が一歩も前に動かなくなっていた。
 婚約者の孝のほうは、完全に委縮してしまっていて、細身の身体を猶更に竦ませ、青白い
顔をひたすら俯かせたままのようだった。
 正和が席を立って、私のほうに近づいてくる気配があった。
 それでも私の足は一歩も動かなかった。
 「俶子さん、こちらへ」
 そういって、正和がいきなり私のツーピースの袖を掴み取ってきた。
 正しくスタンガンを突き当てられたように、私の全身は、意識の残ったままの凍結状態に
なってしまっていた。
   
23/06/16 14:49 (/NKM9if2)
25
投稿者: 雄一
「俶子さん、こちらへちょっと」
 慇懃な口調でそういって、正和が私の服の袖を強く引いてきた。
 正和は座り込んだままの甥の孝に向けて、
 「ちょっと話してくるから、待ってなさい」
 と言い残して、廊下のほうではなく、間仕切りの襖戸のほうに私を連れ込んでいった。
 灯りの点いていない八畳間だった。
 この時の私の気持ちがどんなだったのか、こうして書き綴っている今でも、よくわから
ないでいる。
 あったことだけを書くと、背中に廻した手で襖戸を閉めた正和は、何の言葉も発さず、
唐突に私を抱きしめてきた。
 私が絶対に声を出したり、抵抗したりしないということを確信しているかのように、正
和は私の肩を抱いて、顔を近づけてきて、いきなり唇を塞いできた。
 あまりに唐突なことで、私は思わず小さく呻いたが、そこで声を大きく荒げて逃げなか
ったことが、すでに私の敗北を示唆している動きだった。
 そのまま、正和の舌が、私の歯の間を割って侵入してきた時、十年以上も前の、正和の煙草と、少
し酒臭さの入り混じった匂いが、私の頭の中に蘇ってきていた。
 それを機に、私の頭の中に、自分の意思ではない何かが作用して、遠い昔に、正和から
受けた恥ずかしい凌辱の数々が、フラッシュバックのように一気に復元してきていた。
 されるがままに、私は口の中に、正和の粘液の沁みついたような舌の愛撫を受け続けた。
 おぞましいだけだったはずの、遠い昔の記憶が、正和の強引な舌の責めで、恥ずかしい
ことだったが、欲情の波のように、私の気持ちを昂らせにきていた。
 もう一度、この人に愛されたい。
 いや、そうではない。
 もう一度、この人に口にも出せないような辱めを受けてみたい。
 そういう感情が、私におどろおどろと芽生え出してきていた。
 唇が離れ、正和が私の両頬を手で挟み付けるようにして、
 「儂の甥っ子の孝と結婚しろ」
 と低く諭すような声で言ってきた。
 「は、はい…」
 と私は力のない声で、正和の悪魔のような目に頷いていた。
 「孝、喜べ。俶子さん、お前との結婚を改めて了解してくれたぞ。よかったな」
 にこやかな顔で正和は、不安そうな顔で待つ甥に、快活な声を挙げて席に座った。
 何も知らない孝は、安堵の表情を顔一杯に浮かべて、私に笑みを送ってきた。
 その室に戻る少し前に、
 「今夜、そうだな、九時に駅前のブルーホテルに来なさい。私の名前でリザーブしてお
く」
 と正和に言われ、私はそれにも首を頷かせていた。
 九時きっかりに、私はホテルの室のドアをノックした。
 室はスイートルームというのか、広い間取りになっていて、ガラステーブルを挟んで応
接のソファが三方に置かれていて、その奥のほうにベッドが二つ並んでいた。
 昔から時間の遅れには、正和は何故か厳しく、少しでも遅れると、折檻的な体罰を受け
るのを、私は過去に身を以って知っていた。
 鞭で身体を叩かれたりするのだが、遅刻するとその回数が増えたり、浣腸をされ排便を
我慢させられる時間を延ばされたりするのだった。
 ドアが内側から開き、出迎えに出てきたのは、六十代くらいの、背が少し高くほっそり
と痩せた女性だった。
 私には勿論面識はなかった。
 女性は一礼だけして、黙ったまま私を中に誘い、室の中央のソファに、バスローブ姿で
座り込んでいる正和の前に、私を誘導してくれた。
 私を迎えに出た女性のほうも、バスローブ姿だったが、腰紐はなく、乳房と下腹部もほ
ぼ丸見えのいで立ちだった。
 「おう、来たか。あ、先に紹介しておこう。こいつは佐野麻衣、俺の今日の奴隷だ。お
前もだが」
 ウイスキーの入った片手に持ち、もう一方には細長い煙草を持って、背中をソファに向
けて反り返らせていた。
 十年前と何一つ変わらない態度と素振りだった。
 大病をして、長く入院生活を送ったという話を聞いていたのだが、小柄で恰幅のいい体
型はすっかり元に戻っているようで、額が広くなっているのと、顔に何本かの皴が目立つ
くらいで、声にもまだ張りがあるようだった。
 「おい、麻衣。お前途中で俺をほったらかしだぞ」
 正和にそう叱咤された、麻衣という細身の体型の女性が、私のすぐ前で、慌てた素振り
でバスローブを脱ぎ、股を広げて座り込んでいる、正和の前に傅くように座り込み、顔を
前に俯けていった。
 何をしているのかは一目瞭然だった。
 「俶子、お前も客じゃないんだぞ。着ているもの脱いで奉仕の準備せんかい」
 呆然と立ち尽くしていた私は、正和の叱咤の声に、我に返ったようになり、
 「は、はい…」
 と返事して、正和の正面に立ったまま、ツーピースの上から順に拒もうともせず脱ぎ出
していた。
 今日の昼間に、十数年ぶりに正和に会って、あっという間に唇を奪われてからの私は、
自分でも気づかないうちに、二十代に頃の自分に、気持ちも身体の中の血も、一気にタイ
ムスリップしてしまっていることに、この時もまだはっきりと気づかずにいたようだった。
 私が衣服を脱いでいる間も、麻衣という女性は、細い背中を露わに晒して、正和の下腹
部への奉仕に一生懸命になっていた。
 「この女はな、亭主の借金のカタに、俺の奴隷になって奉仕している。歳は六十六の婆
ァだが、歯が全部総入れ歯でな。それでフェラされると気持ちよくてな。それだけが取り
柄の女だが、元は都庁のエリート官僚でな。テレビにも直々出てたようだ。それが今はた
だの老いぼれの牝犬だ」
 正和は私が聞いてもいないことを、煙草の煙を吹かせながら、得意満面な顔で到頭と喋
っていた。
 「おお、十年ぶりくらいに見るが、女の色気も増して、いい身体になってるじゃないか。
楽しみなことだ。若い頃から眼鏡も、欲似合ってたな。久し振りに奉仕してもらおうか。
おい、お前はもういいからどいてろ」
 麻衣という女性の身体を押し除けるようにして、全裸になった私を手招きしてきた。
 この室を訪ねた時点で、いや、昼間に唇を奪われた時から、私は通常の思考を放棄し、
人間性まで喪失してしまっていて、正和の淫猥な手招きにも従順に応じた。
 正和の年齢もあの頃から推測すると、六十代半ばくらいである。
 正和の前に麻衣と同じように傅くと、麻衣の分泌した唾液を全体に浴びて、そのものは
どす黒く光って、上に向かって固く屹立していた。
 口の中に正和のものを含み入れると、血流の音が聞こえそうなくらいに、脈々と波打っ
ていた。
 顔に汗が滲み出すまで、私は一心不乱に奉仕を続けた。
 十数年ぶりに会う、性のイロハも知らなかった自分を、普通とはまるで違う淫靡で淫猥
な世界へ引き摺り込んだ、憎悪しか抱かなかった、正和のはずなのに、私の身体と心は、
長い時間のブランクさえも超越して、じわりじわりと燃え上らせてきていた。
 自分のこの十何年間は、一体、何だったのだろうと、ふと思ったが、それはほんの何秒
ほどの時間でしかなかった。
 ソファに座り込んだ正和の腰の上に、私は彼に正面を向いて、跨り座らされていた。
 私の下腹部に、正和の年齢を感じさせない屹立が、深く突き刺さっていた。
 「どうだ、俶子。十何年ぶりの俺のチンボの味は?」
 私の背中を抱きかかえながら、あの頃より広くなった額に汗を滲ませて、正和が息を荒
立てて問いかけてきた。
 最初は頷きを返していただけの私だったが、それでは承服しない性癖を知っていた私は、
 「ああっ…い、いいわ、とても」
 と声を挙げて応え、自分で自分の腰を上下に上げ下げし、正和の首に腕を巻き付けてい
った。
 と、正和にしがみついていた私の斜め後ろのほうから、小さなモーター音が聞こえてき
ている気がした。
 その音に呼応するかのように、人の呻き声も耳に入ってきた。
 首を動かせると、左斜め後ろの一人用のソファに、いつの間にか麻衣が座っていた。
 裸身のままで、剥き出しの両足を折り曲げて、私と正和のほうに、自分の股間の漆黒の
茂みを露呈させていて、片手に電気マッサージ器を握っていた。
 モーター音はそこからで、麻衣が自らの意思で、その機器の先端を、顕わになっている
漆黒の茂みの下に当てがっていた。
 いずれ、正和の指示か意向なのかも知れなかったが、濃い化粧の顔は自らも昂っている
ように見えた。
 「と、俶子。お前はいい。おマンコの締りも、昔のままだ。こ、これからの儂の楽しみ
がまた増えた」
 満足そうな口ぶりで、正和は私の背中をさらに強く抱きしめてきた。
 ああ、この人は、言葉遣いも粗野で粗雑だったと、昔の記憶を思い出した。
 興奮するしないに関係なく、男性器や女性器を、ストレートな淫語で喋ってくるのが常
だったのだ。
 正和に絶頂が近づいてきているのか、私を抱きしめる腕の力が、私が息苦しくなるくら
いに強まってきていた。
 そのまま正和は、私の背中の骨が折れそうになるくらいに、強く抱きしめてきて、動物
の咆哮のような声を挙げて、絶頂に達していた。
 私のほうも、正和との過去の恥辱の遍歴が幾つも蘇ってきたりして、自分で自分を淫靡
方向へ思いを巡らせ、憎悪しかないはずの男の首に手を強く巻き付けていっていた。
 「甥っ子の孝と結婚しても、教師を続けるらしいな。ま、それはいいだろ。儂ももうこ
の歳だ。昔のような野暮は言わんが、儂が呼びつけた時には、必ず来るんだぞ」
 応接のソファは三方にあって、向かい合っているのが一人掛けが二つ並んで、もう一つ
が長いソファになっていて、正和と私がガラステーブルを挟んで、向かい合って座ってい
た。
 麻衣という女性がまた、正和の足の間に傅いていて、頭を頻りに前に動かし続けていた。
 私も麻衣も全裸のままで、正和だけがバスローブ姿で、ウイスキーグラスを片手に持っ
て、赤らんだ顔に満足げな表情を浮かべて、私のほうに特徴のある丸い大きな目を、私に
向けてきていた。
 もう一方の手で、麻衣の頭を撫でつけながら、
 「こいつはな、五年ほど前には、女ながら都庁の都市整備局の副局長のポストにいて、
一橋出の有能なエリート官僚をしていてな。儂らが進めていた羽田空港周辺の再開発整備
に、国土法とか建築基準法とかの法律をひけらかしてきて、横槍ばかりつけてきていた、
開発者の儂らにとっては何かと迷惑千万な役人だったんだが…」
 正和はそこで一息つくように、ウイスキーグラスを一気に呷って、また視線を私の向け
てきた。
 話を聞かされながら、私は少しうんざりした思いを抱きかけていた。
 十何年か前の正和も饒舌家で、話しに興が乗ると、講釈師のようにくどくどと喋り続け
るのが癖だったのを思い出したのだ。
 その大抵が、どこの女を犯して、どう甚振ったとか、誰を抱いてどう貶めたとかという
くだらない、自身の自慢めいた話を、延々と聞かせてくるのだった。
 陰険で淫猥な性志向と、喋り出すと相手のことなど考えもせずに、止めどなくなるのが
正和の特徴だった。
 一言の声も発さず、一心不乱に正和の下腹部への、口と舌での愛撫を続けている麻衣の
頭を、手で軽く叩きながら、また口を動かせ出した。
 「それが、こいつの亭主っていうのが、大手の証券会社に勤める、やはり、エリート
サラリーマンだったんだが、何をとち狂ったのか、会社の金を流用して先物取引に手を出
し、億単位の穴を出し、とどのつまりに闇金融の餌食になってしまってな。当然、その嫁
さんであるエリート官僚にも、当然に火の粉が飛んだわけだ…」
 正和の実も花もない、くだらない話を、私なりに要約して小説風に描写すると、概ねは
以下の通りになる。

 …何枚かの借用証書の合計額は、一億七千万円を少し超えていた。
 借り受け人はすべて同じ名前で、例の都庁の都市整備局の副局長の夫になっている。
 その借用証書全部が、社会の裏道を幾通りも通って、不動産会社副社長の横井正和の手
元に集まってきていた。
 自分のデスクの上に、束になった十枚以上の借用書を見て、横井は自分のデスクの前で、
直立不動で立っている黒のスーツ姿の男に向けて、
 「…で、後の段取りは?」
 と問い質した。
 四十代半ばくらいの、でっぷりとした体格の男が、
 「はい、今夜の七時に赤坂の料亭に、ターゲットのエリート副局長が、亭主と一緒に来
る手配になってます。五分か十分ほど待たして副社長に入ってもらいます」
 「そうか。その後の手配は?…そこが大事だぞ」
 「はい、亭主のほうは先に返し、エリート局長さんは、例のホストクラブへ案内する手
筈になってます」
 「ホストは、この前の女性都議会議員の時に使った奴だな?」
 「はい、ぬかりなく」
 その夜の七時五分過ぎに、横井は赤坂の高級料亭の一室に入った。
 薄い栗毛色に染めてボブヘアの、上品そうな白のツーピースを着た五十代くらいの女と、
髪を七三に分けた四十代半ばに見える、グレーのスーツ姿の男が、料理の並び置かれた座
卓に、二人とも身を竦めるようにして座っていた。
 気弱そうな、七三の男のほうは、恐縮しきりの表情で身体を縮込ませていたが、仕立て
の良さそうな白のスーツ姿の女のほうは、毅然と細い背筋を伸ばして、気品の良さと教養
の高さを、それとなさげに鼓舞するような厳しい視線で座っていた。
 筋の通った高い鼻を上に向けて顔を上げてきた、白のスーツ姿の色白の彫りの深い顔立
ちをした女が、戸を開けて室に入ってきた横井の顔を見て、驚きを露わにしたような目で
見饐えてきていた。
 見識のある顔に思わぬ場所で、予期せずに遭遇してしまったという顔で、赤く塗られた
唇が半開きの状態になっていた。
 「やあ、これはこれは、副局長さんで。こんなところでお会いできますとは」
 横井はまるで政治家のそれのように、にこやかな顔で片手を上げて、鼠色のダブルのス
ーツ姿で、黒のスーツ姿の秘書らしき男を一人伴って、そら惚けたように言って、佐野夫
婦に向かい合うように座り込んできた。
 急にそわそわし出したのは、妻の麻衣のほうだったが、横井に付き添ってきた男が、
 「ご主人の負債の肩代わりを、当社副社長の横井が、全部肩代わりをしています。ここ
で席をお立ちになったら、明日の日から、私どもがすぐに取り立てに動きます。都庁舎ま
でも足を運びますよ」
 と慇懃無礼な口調で、佐野夫婦に向かって突きつけるように言ってきた。
 その後の、この如何にも不釣り合いさが明瞭な、奇妙な組み合わせの会談は、その秘書
らしき男が仲介的な立場になって、一方的に進行し、高額負債の弱みのある佐野夫婦に反
論の余地はほとんどなく、三十分ほどであっけなく終わった。
 その間、副社長の横井はほとんど口を開くことなく、散会になったのだが、秘書らしき
男の提案で、二次会にという運びになり、夫婦は別々の場所に案内するという段取りでこ
とは進み、夫のほうは赤坂の高級クラブへ、妻は銀座の高級ホストクラブへ行くという変
則的な二次会になった。
 すべては横井の秘書らしき男の差配で、佐野夫婦はその二次会の誘いを固辞したのだが、
一億七千万円の負債の重みには勝てはしなかった。
 妻で都庁都市整備局の副局長の麻衣は、羽田の都市再開発計画への手心を約束させられて
しまっていた。
 完全な敗北会談の後、横井の配下の男二人に連れられて、麻衣は銀座の高級ホストクラブ
へ、嫌々な気持ちのまま連れられて行ったのだ。
 それから二時間ほどが経過した。
 麻衣はベッドの上にいた。
 髪の長い、自分よりもはるかに若い男に抱かれていた。
 酒の強烈な酔いのせいもあって、麻衣にわかるのはそれだけで、その酒の酔いとはまるで
違う感覚に、五十六歳の彼女の身体は溺れ切って染まっていた。
 全裸にされた身体の上に、長髪の男が覆い被さってきていて、激しいつらぬきを受けてい
たのだ。
 「ああっ…わ、私…ど、どうして?」
 麻衣の顔の真上にいる、整った顔立ちの若い男の顔に、ぼんやりとした記憶があった。
 ホストクラブの店に入った時から、ずっと麻衣の傍に張り付いてきていて、確か、名前を
ヒカルとか言っていた。
 三十にはまだ年齢がいっていない感じで、長く伸ばした髪を、明るい金髪に染めていた。
 それくらいの知識しか持っていない、若者のような男に、自分がどうして裸にされ抱かれ
ているのかわからないまま、身体の内のほうから、まるで思ってもいなかった女としての官
能の刺激が、初めは夢現のようだったのが、今ははっきりとした体感で、麻衣の全身に襲い
かかってきていた。
 麻衣はもうこの半 年近くも、お互いの仕事の多忙さもあって、夫婦としての夫との身体
の接触は皆無の状態だった。
 それがどこか知らない室のベッドの上で、今夜、会ったばかりの、自分よりもはるかに年
の若い男に、一糸まとわぬ身で組み伏せられ、すでに官能の坩堝近くにまで追い込まれてし
まっていることに、自分自身が大きな驚きの中にいたのだった。
 剥き出しの下腹部に、熱く煮え滾ったようなものをつらぬかれながら、ヒカルという若い
男の顔が、自分の顔の真上近くに迫ってきていた。
 ヒカルの濡れたような唇が、磁石のように自分の唇に重なってきた時、何の抗いの気持ち
もなく五十代半ばの麻衣の歯は開き、押し入ってきた相手の舌を許容していた。
 自分が誰なのかもわからなくなっていた。
 飢えた獣同士が貪り合うような、唇での気持ちの交歓と同時に、ヒカルの片手が麻衣の、
それほどの豊かさはないが、艶やかな感触の乳房をなでつけるように揉みしだいていた。
 この少し後、すでに自分をも忘れ去ろうとしているほどに、昂っている麻衣の耳には入
らなかったが、少し前に室のドアが開き、鼠色のスーツ姿の男が中に入ってきていた。
 横井正和だった。
 「ああっ…こ、こんなの…は、初めて、初めてよ」
 ベッドの上で麻衣は、若いヒカルの腕に手をしがみつかせて、すでに忘我の境地近くま
で舞い上がっているような、高い喘ぎの声を漏らし続けていた。
 その途中で、身体の上にいたはずの、ヒカルの身体が突如として消えたような感覚に、
麻衣はふと気づいた。
 心地よい官能の疼きの中にいた麻衣が、不審げに目を薄く開けると、ベッドの横で、二
人の男が裸で抱き合っているのが朧に見えた。
 二人は抱き合って、唇を重ね、貪り合うよう吸い合っていた。
 細く締まった背中を見せて入っるのは、さっきまで自分の傍にいたヒカルだというのが
わかったが、相手の男の顔が見えなかった。
 訝りの目をもう一度凝らして見ると、ヒカルを抱きしめているのは、不動産会社副社長
の横井だった。
 自分の目の前で、男同士で、しかも、ついさっきまで自分を抱いていたヒカルと、横井
という組み合わせに、麻衣はわけのわからない気持ちになり、思わず言葉を失くしていた。
 「こういうことですよ、副局長さん」
 男二人の身体が離れた時、腹の贅肉のかなり出ている横井が、ベッドにどっかりと座り
込んできて、慄きの表情を濃くしている麻衣の顔に向けて、不敵そうな笑みを浮かべなが
らい言ってきた。
 「な、何を…ど、どうしてあなたが」
 口に手を当てながら震えた声で、麻衣は横井の顔を見つめていた。
 横井の背後に寄添うように座ってきた、ヒカルが、
 「麻衣、これからは三人で楽しむんだよ」
 と艶めかし気な眼差しで言ってきた。
 嫌も応もないまま、横井に両足の間に入り込まれ、麻衣はいきなりのつらぬきを受けた。
 「ああっ…」
 高い声を挙げた麻衣の顔の前に、ヒカルが素早く動いてきていて、膝を折りながら、自
分の下腹部の屹立したままのものを、彼女の口の前に突き出してきた。
 ヒカルの時とは違う感覚の刺激が、麻衣の下腹部に、絞り出した果物の汁が沁み出るよ
うに湧き上がってきていて、すぐ鼻先に若いヒカルのいきり立ったままのものが、何かを
督促するように蠢いていた。
 麻衣の手がヒカルのものに触れたかと思うと同時に、口紅の少し剥げた彼女の唇が大き
く開いて、若い屹立を中深くにまで呑み込んでいった。
 ずっと高い教養レベルと、気品を重んじる世界で生きてきて、高いレベルでの官僚競争
の中で、女性でありながら、トップに最も近い位置まで昇り詰めてきた麻衣には、まるで
思いつきもしない、男女の淫靡で倒錯的な世界へ、正しく何の予備知識もないまま引き摺
り込まれた彼女だったが、女としての本能の蘇りは早く、賢明な理性の心の湧き出る暇も
なかった。
 横井の麻衣へのつらぬきが終わって、休む間もなくヒカルが責め立ての態勢をとり、横
井が彼女の顔の前に来た時に、
 「こんな場で副局長は呼びにくいな。確か麻衣っていう名前だったか?…今からは麻衣
と呼ぼう、いいな?」
 と両手で麻衣の、それほどに膨らみのない乳房を揉みし抱きながら言った。
 身体の下からの、ヒカルの激しいつらぬきを受け、横井のものを口に含みながら、麻衣
は顎の細い顔を何度も頷かせていた。
 「今日から、あんたはもう儂の奴隷になるんだ、いいな」
 横井からのその声にも、真由美は幾度も首を縦に振って従順に応えた。
 敗北は明白だった。
 二人の男たちの飽くなき責めを長く受け続け、麻衣はこの一夜で、これまでの栄光と誉
れしかなかった人生を、忽ちにして崩壊させてしまっていた。
 その代償として、麻衣が受け取ったのは、これまでただの一度も感じることのなかった、
女としての性の深過ぎる喜悦と昂ぶりだった。
 一頻りの行為が済んで、横井がベッドの横の椅子に座り込んで、缶ビールを旨そうに喉
を鳴らして飲んでいた。
 ベッドには、二人の男のつらぬきと、執拗で丹念な愛撫を一人で受け続けた麻衣と、金
髪のヒカルが身体を密着させて座っていた。
 背の高いヒカルが、麻衣を背後から抱え込むようにして抱きながら、横井と正面に向き
合っていた。
 麻衣の細い両足が、ヒカルの腕でがっしりと掴み取られていて、彼女の股間が横井には
丸見えの態勢だった。
 親が幼児に排尿させる姿勢と同じだ。
 ヒカルの顎の下に麻衣の顔があり、男二人との倒錯的な交わりで、性も根も使い果たし
たというような顔を力なく項垂れさせていた。
 三人はともに全裸のままだった。
 「ほら、さっき教えたように、社長の前でちゃんと報告するんだ」
 背後から、ヒカルが言い諭すように言った。
 首を二度、三度、嫌々をするように振っていた麻衣だったが、ヒカルの執拗な督促の声
に諦めて、覚悟したのか、
 「わ、私の…こ、この、お…おマンコを、こ、これからも…あなたの…お、おチンポで
可愛がってください」
 と恥ずかし気に顔を歪めながら言ってきた。
 麻衣にとって、生まれてからただの一度も、口に出して言ったことのない淫語だった。
 「そうだな、これから儂のために一生懸命働いてくれたらな」
 缶ビールの最後を飲み干して、横井は椅子から立ち上がり、そそくさと帰り支度をした
後、
 「ひかる、今夜は朝までこの女を寝かせるんじゃないぞ」
 と捨て台詞を残して、室を出て行った。
 そしてヒカルは、忠実に横井の命令に従った。
 数日後の都庁で開かれた、羽田再開発計画の協議は、それまでの不採択の流れを一変さ
せて、承認を前提とした再協議をという、副局長のツルの一声で散会になったということ
だった…。



                               続く
 
 
 
 

 
 

23/06/19 14:59 (NPGKDnDm)
26
投稿者: 雄一
正和はそれだけの話を、得意満面な口調で滔々と喋り続け、話の途中で、私と麻衣さんとい
う人を交代させたりして、一人悦に入っているようだった。
 これほどに愚にもつかない男に、どうして自分は矍鑠とした態度と、毅然とした行動がとれ
ないのか、という情けないジレンマの中で、私は正和の足の間に、拒絶の意思表示も見せず傅
いてしまっている。
 多分、麻衣さんのほうも、私と同じ気持ちでいるのだろうと私は思っていた。
 何かの本で、若い時に受けた衝撃的な体験で、その人の人生が決定してしまう場合がある、
という文章を目にしたことがあるが、私も麻衣さんも間違いなく、この横井正和という男に、
本当の人生を奪われてしまっているに違いないと、私はほぼ確信している
 女の弱さ、というよりも、自分自身の弱さも、どこかにあるのだとは思うが。
 正和の愚の骨頂のような、滔々とした自慢話が終わって間もなく、私と麻衣さんは一つのベ
ッドに横たわるよう命令され、やはり二人は逆らうことなく、ベッドに並んで横になった。
 ベッドの横の椅子に、正和はウイスキーグラスを片手に、どっかりと座り込んで、淫猥な目
でこちらを凝視してきていた。
 正和が何を望んでいるのかを、私も麻衣さんも宣告に承知していた。
 正和に言われる前に、私から麻衣さんの乳房に手をかけた。
 うっ、と小さく彼女が呻いたのが聞こえた。
 私のほうが身体を起こして、麻衣さんの乳房に顔を埋めた。
 麻衣さんの手が、私の肩にかかり、力を入れて掴んできた。
 麻衣さんの体臭のような匂いが、心地よく私の鼻先をついてきていた。
 「いい匂い…」
 私が小さな声で言うと、麻衣さんも、
 「あ、あなたも」
 と小声で返してきていたが、総入れ歯の歯を外しているせいか、少しくぐもったように聞こ
えた。
 去年のいつだったか、学校の教え子の祖母という奇麗な人と、思わぬ流れから身体を交え、
気持ちをひどく昂らせてしまったことを、私は麻衣さんの乳房に、舌を這わしながら思い起
こしていた。
 その教え子の顔までが、何故か浮かんでいた。
 その思い出が、私の気持ちを少しばかり昂らせたのか、自然な動きで、私は麻衣さんの唇を
求めるように、顔を上に上げていった。
 歯を入れていないせいか、麻衣さんは口を固く噤んでいるようだった。
 恥ずかし気に目を薄くして、私を見つめてきた。
 かまわずに、私は唇を麻衣さんの唇に近づけていき、その勢いのまま彼女の唇を塞ぎにいっ
た。
 「ううっ…」
 藻槌くように麻衣さんが呻いた。
 口の中で私のほうが積極的に舌を動かせ、麻衣さんの逃げ惑うような舌を捉えて、激しく絡
めていった。
 この時も、何故か私は奥多摩の人を思い出していた。
 そういえば、麻衣さんも奥多摩の人と、年齢的にはあまり変わらないのだった。
 暫く、揉み合うように私と麻衣さんは、お互いがお互いを自然に求め合うように、身体と身
体を擦り合わせるように抱き合った。
 私もだが、麻衣さんのほうも、横で見ている、正和の視線は眼中にないようだった。
 今日、初めて会う麻衣さんだったが、こうして抱き合っていて、私は何気に、彼女とは波長
が合いそうな気になっていた。
 どこがどうというのではない。
 横で淫猥な目をぎらつかせて見ている、正和の性の餌食になっているという共通点も確かに
あるが、肌の感触と匂い的な感覚が、何もかも分かり合えるような、気がしてきているのだ。
 麻衣さんに驚かれるのを覚悟で、私は上体を起こし、頭を彼女の足のほうに向け、自分の下
腹部を彼女の顔に、軽く押し付けるような姿勢を、自分からとっていった。
 両手で、麻衣さんの力の入った両足をゆっくりと拡げてやると、漆黒の繊毛の下の肉の裂け
目がしっかりと見えた。
 結果的にはそうかも知れないが、正和を悦ばせたいという思いは、その時の私にはまるでな
かった。
 少し濃い桜色をした粘膜から、水滴のような滴りが滲み出ていた。
 私のほうの同じ部分に、麻衣さんの舌らしきものが触れてくる感触があり、
 「ああっ…」
 とつい口から声が漏れ出ていた。
 お互いがお互いの、何かを確かめ合うように、舌と舌で、私と麻衣さんは気持ちを込めて愛
撫し合った。
 奥多摩の人の舌の滑らかな愛撫が、麻衣さんの舌に乗り移ったように、私は正和に見られて
いることも忘れ、高い声を幾度も挙げて、身を悶えさせていた。
 淫猥な光沢を放って、私と麻衣さんを見つめ続けていた、正和が興奮したような面持ちで、
ベッドに駆け上がってきた時には、麻衣さんのほうも多分、同じだったと思うが、私も気持ち
的には絶頂の時を過ぎてしまっていた。
 忙しなげな動作で私を四つん這いにして、正和が貫いてきた時には、どこか冷静でいる自分
があった…。

 俶子のメールを読み終えて、また喉がカラカラになっていた僕は、俶子の文中の正和の最後
の時ではないが、慌てた動作で室を出て、階下の冷蔵庫から二本目のペットボトルを取り出し、
階段を小走るように上がり、ベッドに倒れ込んだ。
 そこでしかし、僕は俶子の文中の男とは違う冷静さを発揮して、横に置いていたスマホに目
を向け一息をついた。
 見ると着信が一本とメールが三通入っていた。
 マナーモードにしてあったとはいえ、自分が俶子の長文メールに、それなりに集中していた
ことがわかった。
 着信は紀子でメールの一本も紀子だった。
 (いつもほったらかしのおバカさん。どこに潜ってるの?…浮気?)
 予想通りのメール文だったが、最後だけが微妙に引っかかった。
 もう一つのメールは、奥多摩の高明寺の尼僧の綾子からだった。
 (お元気ですか?こちらは寒い冬です。お寺の総代さんから、副総代の人との再婚の話を、
三日に一度の割合で迫られています。あなたのお顔が見たい。…綾子)
 どれもこれも、下手に返信すると、墓穴を掘ってしまいそうな気がして、僕は思案の末、無
視を決め込んだ。
 もう一本は、俶子からだった。
 (メール、読んでくれた?ごめんなさいね。恥ずかしいことばかりで。…三通目は、止めよ
うかな、と思いながら書いたので、できれば読んでほしくなかった。…俶子)
 この文面で、僕は肩にも心にも、思わず力が入ってしまっていた…。




                                続く
 
 

 
23/06/19 18:30 (NPGKDnDm)
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