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祖母・昭子 その後
カテゴリ: 官能小説の館    掲示板名:SM・調教 官能小説   
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1:祖母・昭子 その後
投稿者: 雄一
「凄い人ね…」
 「だから近場の神社でいいといったのに」
 「いいじゃない。あなたも私も東京っ子なのに、日本一の明治神宮に一度もお参りして
ないんだから。それに…」
 「え?何だって?」
 「来年の雄ちゃんに栄光がありますように」
 「栄光って?」
 「東大の入学試験に合格しますようにって、日本一の神様にお願いするの」
 「あ、あれはだな…ものの弾みでいっただけで…」
 「だめっ。指切りして約束したんだから」
 明治神宮の入り口から御社殿までの参道は、大晦日のこの夜、当然のように人、人、人
でごった返していた。
 紀子に無理矢理誘われて、僕は彼女が言うように、まだ一度も来たことのない明治神宮
に来ていた。
 一ヶ月ほど前、奥多摩の祖母の家で、初めて紀子を抱いた時、その後の寝物語で、
 「俺、まだ将来の夢なんて何もないんだけど、何かのテッペンに立ってみたいから、東
大でも狙ってみようかな?」
 と何の脈絡も、勿論、見込みもなしに、ぼそっと言ってしまったことを、紀子のほうが
真に受けてしまって、喜色満面の笑顔で僕に抱きついてきたことを、大晦日のこの日まで
引き摺ってきているのだ。
 後で、冗談だよ、と何度も訂正と取り消しの言葉を言ったのだが、紀子はまるで聞く耳
を持とうとしなかった。 
 今夜のここへの参拝をいい出したのも紀子で、まるで大奥のお局にでもなったように、
僕に自宅まで迎えに来させ、人で混雑するに決まってる大晦日の、中央線から山手線の電
車内でも、人混みと痴漢から自分を守れと言ってきたり、言いたい放題、したい放題の有
様だった。
 自惚れていうのではないが、紀子をほんとの女性にしてやったのは僕のほうで、もう少
ししおらしくなるのかと思っていたら、真逆の結果になってしまっていて、人生経験のま
だ浅い僕は、女ってわからん、と思うしかなかった。
 それにしても、この人の多さはまるで東京中の人が全部集まってきているような喧噪さ
で、僕は早く退散したい思いで一杯だったが、紀子のほうは僕の片腕を両手で痛いくらい
に掴み取ってきていて、
 「お前、そんなにくっついてくるなよ」
 とぼやきながら僕がいうと、
 「恋人同士だからいいじゃん」
 と悪戯っぽく白い歯を見せて笑ってくるだけだった。
 少し前にあった紀子の両親の離婚問題も、不倫騒動を起こした父親のほうの全面的謝罪
を母親が、娘のためにと渋々ながら許諾したことで、元の鞘に戻ったようで、その頃は半
泣き状態だった紀子も、生来の小煩い小娘に完全復活していた。
 紀子との東北への一泊旅行も滞りなく済ませていて、仙台のシテイホテルで、僕は彼女
とベッドを共にしていた。
 僕の祖母のように、長い人生を経験を踏まえた官能的な深さは無論なかったが、清流の
川で弾け泳ぐ若鮎のように清々しさに、他の女性の時にはないような感動にまたしても取
り込まれ、早々の撃沈に陥っていた。
 ひたすら陸上競技に打ち込んできている、紀子自身は自分の躍動的な身体の特性にはま
だ気づいてはいないようで、
 「私たちってまだ十六なのに、こんなことばかりしてたら、不純異性交遊か淫行罪で逮
捕されない?」
 などと無邪気な顔をして言ってきたりするのだ。
 押し競饅頭のような身動きできない人混みの中で、紀子は最後まで僕の腕を、両手で強
く掴み取ったまま、どうにか本殿の参拝所の前に辿り着き、僕は型通り五円玉を、紀子は
と見ると、硬貨で一番大きい五百円玉を惜しげもなく投入していた。
 騒然とした人の群れの声と熱気の中で、
 「これ、私からの雄ちゃんへの投資だからね。これから受験勉強頑張ってね」
 と横の何人かが振り返るような、大きな声を張り上げて言ってきた。
 そう言われても、半分は口から出まかせで出た言葉だし、僕には自信の欠片すらなかっ
たので、曖昧な笑顔を見せて曖昧に頷いてやるしかなかった。
 大鳥居を抜けようやく境内の外に出ても、駅のほうから歩いてくる人の波は引きも切ら
なかったが、僕はそこで奥多摩の祖母の顔を、はたと思い出した。
 毎年のことだが、大晦日の新年のカウントダウン前後には、いつも祖母に電話をするの
が僕の慣例になっていた。
 スマホで時刻を見ると、零時に七分前だった。
 「婆ちゃんに電話したい」
 まだ僕の腕から手を放さずにいる、紀子に独り言のように言って周囲を見廻したが、ど
こも蟻の群れのような人だかりで、静寂なスポットなどどこにもあるわけがなかった。
 かまわずに、スマホの画面に祖母の番号を出し、発信ボタンを押すと、やはり一回のコ
ールで祖母が出た。
 「雄ちゃん…」 
 周囲の喧騒の中でも、祖母のもう泣き出しそうな声が、はっきりと聞こえた。
 「婆ちゃん、今、明治神宮に来てる」
 片方の耳を抑えて、僕も精一杯声を張り上げて祖母に言った。
 横にいる紀子と初めて契りを交わした翌日に、雑貨屋の前の無人駅で言葉を交わして以
来、長い間、会ってはいない、祖母の色白で小さな顔が僕の脳裏に、懐かしくそして妙に
物悲しげに浮かんだ。
 あの時は紀子も一緒だった。
 二人はともに笑顔で言葉を交わしてはいたが、十六と六十代の女同士の瞬時の視線の交
錯に、鈍感な僕でも気づくくらいの、小さな火花のようなものが散っていたのを思い出し、
僕は思わず目を瞬かせた。
 若い紀子はともかくも、年齢を重ねている祖母の女の勘は鋭い。
 僕ら二人を駅で見送り、帰宅した祖母はきっと何かを嗅ぎ取るような、そんな気が僕は
していた。
 狭い歩道を歩く人だかりの中で、カウントダウンを叫ぶ声が合唱のように聞こえてきた。
 「婆ちゃん、おめでとう!」
 零時になった時、僕はありったけの声でスマホに口を寄せて叫び、横にいる紀子に目を
向けた。
 紀子の少し大人ぶって化粧した、艶やかな顔がいきなり僕の顔の前に近づいてきて、周
囲の人だかりを気にもせず、大胆にも唇に唇を強く押し当ててきた。
 耳に当てたスマホから、祖母のおめでとうの声がどうにか聞こえたが、紀子の思いがけ
ない行動に、僕の気持ちは完全に奪われていた。
 僕のマフラーの上に手を廻してきて、重なった唇は十秒近く離れなかった。
 唇が離れてすぐに、
 「冬休みの終わりに、また行くね」
 と祖母に声を張り上げて言って、僕はスマホのオフボタンを、慌てた素振りで押して、
改めて紀子の顔を見た。
 「おめでとう。これ私の新年のサービス。…それと」
 「何…?」
 「あなたのお婆ちゃんへの、小さなジェラシー」
 歩道の雑多な流れの一部を止めるように、紀子は少し上気した顔で、僕を本気とも冗
談ともつかぬ顔で見つめてきていた。
 祖母とのことについては、紀子には絶対に話せない、大きな秘密を抱えている僕は背
筋を少しヒヤリとさせながら、それでも普通の顔で彼女の目を見返した。
 「年越し蕎麦食べよ」
 紀子は明るい声でそう言って、まだまだ人通りの絶えない歩道を、原宿のほうに向か
って歩き出した。
 腕はしっかりと紀子の手で掴まれたままだった。
 若者の街といわれる原宿は、普段の平日でも夜の更けるのは、遅いのが当たり前なの
だが、大晦日のこの夜は、まさに老若男女を問わない人混みで、雑多なネオンも煌々と
していて、元旦の日の出まで、この喧噪は続けっ放しになるのではないかと思えるくら
いの賑やかさだった。
 僕にミノムシのように、しっかりとくっついている紀子からの声も聞き取りにくく、
こちらも大声を出さないと、会話が成り立たない。
 芋洗いの芋になって歩きながら、僕は虫と蛙の鳴き声しか聞こえない、、奥多摩の静
寂の夜をふいに思い出していた。
 綿入れを着込んで、蜜柑の置かれた炬燵の前で、一人静かにテレビの紅白歌合戦を見
入っている、祖母の小さな顔が、僕の目の奥のほうに続いて浮かび出てきて、この冬休
みの最後には、絶対に奥多摩へ行こうと、横の紀子には内緒で、そう決心した。
 
 この二日前の、二十九日の午後、僕は国語教師の沢村俶子の住むマンションにいた。
 前日の夜、高校教師で三十五歳の俶子から、生徒で十六歳の僕に、相談事があるので、
昼前に自宅に来て欲しいとのメールが入っていたのだ。
 (美味しいビーフシチューご馳走するから、明日のお昼前に来て)
 これまでにこのビーフシチューの誘いで、何回のに肉体労働を見返りに強いられてき
たか憶えてないが、続いてのメール送信で、私の結婚のことで…と書かれていたので、
僕は「りょ」と返信して、今、俶子の家のリビングに座っていた。
 「お話は食べてから」
 そういって、俶子はデミグラスソースのいい匂いのする、ビーフシチューと野菜サラ
ダの盛り合わせを目の前に置いてくれた。
 年明けの月末に、俶子は隣の市で同じ教師をしている五つ年下の男性と、晴れて華燭
の典を挙げるのだ。
 そのことは前から知らされていて、僕はこれまでの二人の関係を抜きにして、心から
の祝いの言葉を言って祝福していた。
 「私が高校の時の教頭先生の紹介で、昔風のお見合いみたいな場からお付き合いした
んだけど、高校では化学を教えている人で、真面目一筋で、誰かさんみたいな戸っぽい
面が一つもなくて…面白味には欠けるけど、私もそうそう贅沢言える顔でも年齢でもな
いし、この辺が年貢の治め時かなって思って、プロポーズ受けちゃったの」
 口ではそういいながら、眼鏡の奥の目を艶っぽく緩めたりして、僕に話していたのは、
ついまだ最近のことだった。
 「よかったじゃないですか。先生が幸せになってくれたら僕も嬉しい」
 いつもと違う丁寧語で、僕は俶子に祝福の言葉を送った。
 二人のこれまでの関係は、これで自然消滅ということになるのだったが、僕のほうに
は何の拘りも未練がましい思いもなかったので、
 「明日からは、沢村先生と一生徒に戻って、学校では仲良くしましょ」
 といってやると、俶子は目から涙をぼろぼろと零して、
 「そんなに明るくいわれると、逆にすごく寂しくなるじゃない」
 といって眼鏡を外して、ハンカチで目を拭ってきた。
 その俶子からの誘いが、目の間前のビーフシチューだったのだが、何故かあの時のよ
うな、恥ずかしながらも嬉しそうだった表情ではないようだったので、
 「何かあった?」
 と目ざとく僕は尋ねた。
 俶子の驚きの告白を聞くまで、多少の時間を要したが、話を聞いた僕も暫くは返答の
しようがなかった。
 結婚相手が今になってどうこうというのではなく、相手の父親の実の弟の顔を見て、
俶子は愕然としたというのだった。
 俶子が大学を出て高校の国語教師として、最初に赴任した高校の先輩教師と、何かの
教育セミナーで県外へ一泊二日で出かけた時、新人の彼女に優しく接してくれ、それが
きっかけで男女の関係に陥ったのが、今度結婚することになった相手の叔父になる人物
だったのだ。
 叔父という男は、俶子と関係を持った時にはすでに結婚していて、聡子もそれを承知
で、何年も肉体関係を続けたということのようだった。
 大学を出たばかりでまだ処女だった俶子に、男は縄で全身を縛り付けたりとか、蝋燭
を熱い蝋を身体に垂らしたりとかの、通常ではない行為で彼女を抱き続け、他にも野外
露出を強要したりとか、排尿や排便するところを見られたりと、恥ずかしいことを散々
に彼女の身体に沁み込ませた元凶のような男だった。
 女を女として扱わない、冷徹な甚振りや辱めに、何度も止めてくれるよう懇願し、つ
いには別れ話まで進展したのだが、それまでの恥ずかしい写真を種に、ずっと引き摺った
 その後に、その男は何の病気かは俶子にも記憶はないのだが、職場を休職し一年ほど
病院での入退院を繰り返し、交流は自然消滅のようになった。
 それから何年か後、俶子はある男性と結婚をしたのだが、どういう因果なのか、その
男も彼女の最初の男と同じ異常な性嗜好で、俶子自身は、男というのはみんな同じ性嗜
好者であるという曲がった思い込みが観念的に、身体にも心にも宿りついてしまってい
たということのようだった。
 十日ほど前に、俶子は婚約者から家族と親戚一同が介した集合写真を見せられ、その
時に、自分の処女を捧げた、相手の男の顔を見つけてしまったのだと、聡子は顔面を少
し蒼白にして、僕に話してきたのだ。
 婚約者にその男の今の素性を聞くと、現在は教職員を辞めて妻の父親が経営している
不動産会社に、専務という肩書で勤務しているとのことだった。
 俶子にとって、自分の女としての人生を捻じ曲げた、淫獣のような男が身内にいると
ころへ嫁いでいくのは、屈辱的な人身御供か、悪魔への生贄でしかないというのだった
が、話を聞いた聞いた僕もその通りだと思った。
 しかし、そのことを結婚式を一ヶ月後に控えた婚約者に、正直に告白する勇気は自分
にはないと俶子はいうのだったが、十六の僕には事情が重すぎて、何とも応える術も手
段も思い浮かばなかった。
 見ると、俶子は自分の前に置いたビーフシチューを、一度も口に入れていないようだ
った。
 「いいの。まだ若いあなたに、どうにかしてもらおうなんて思ってないから…ただ、
誰かに聞いて欲しいと思ったら、あなたの顔しか思い浮かばなかっただけなの。気にし
ないでね」
 無理そうな笑顔を見せて、俶子は逆に重々しく顔を沈ませている僕を、歳の離れた姉
のような口調で、慰めるように言ってきた。
 「で、でも、婚約者に黙ったまま結婚したとしても、きっと幸せな結婚生活にはなら
ないと思うけど…」
 正直な僕の気持ちを、僕は声を詰まらせながら、どうにか正直に言った。
 「そうね、余計な不幸者をまた作ってしまうだけかもね。ありがとう、雄一君。いい
意見を言ってくれて…私のこと真剣に考えてくれてるのが、すごく嬉しい」
 俶子のその声が、急に気丈な響きで聞こえてきたので、顔を上げると、
 「あなたの助言で、私、決めたわ。これからもあなたの下部で生きてく」
 と明るい声で言ってきた。
 それもどうか、といおうと思ったが、その時は僕は喉の奥にぐっと詰め込んだ。
 「あ、そうだ。あなた、東大目指すんだって?」
 「えっ、だ、誰に?」
 聞いた瞬間に、犯人が誰かすぐにわかった。
 あのバカ、と腹の中で僕は舌打ちしていた。
 「いいことよ、あなたなら一生懸命頑張ったら行けると思う。私も全面的に応援する
からね」
 「どうかな?…僕の学力は片輪みたいなものだから…」
 「数学がまるで弱いもんね」
 「弱いなんてもんじゃない。それにしても、あのクソバカ」
 「いいじゃない。彼女、すっごい嬉しそうな顔していってたよ」
 「女の口軽は最低だ」
 「未来の奥さんになる人を、そんなに言うもんじゃないわ」
 「えっ、そ、そんなことまで、あいつ」
 ほどなくして、僕と俶子はいつもの決まりごとのように、彼女の室のベッドにいた。
 どうしようもないお喋り娘への、僕の憤怒はまだ収まってはいなかったが、聡子のほ
うは、僕との対話で気持ちがすっきり振り切れたのか、
 「どこで誰と浮気してたのか、この僕ちゃんは」
 聖職の人とは思えないような、艶めかしい目をこちらに向けてきていた。
 着ていたセーターとスカートは、すでにカーペットの下に落ちて包まっている。
 紺色のブラジャーと揃いのショーツが、僕自身も久しぶりに見る白い裸身に好対照に映
えて、若い僕の下腹部の一ヶ所に集中し始めていることを知らされていた。
 「俺が欲しいか、叔母さん?」
 僕は徐に俶子が仰向けになっているベッドに駆け上がり、その場で身に付けていた衣服
のすべてを脱ぎ晒して、両足を少し拡げて仁王立ちの姿勢をとった。
 「叔母さん、そんなとこで偉そうに寝そべってんじゃないよ。お前の一番欲しいものに、
きちんと挨拶しろよ」
 急に芝居がかった声で言う僕の意を理解したかのように、俶子も眼鏡の顔を真顔に引き
締めてきて、おずおずとした動作で上半身を、ベッドから起こしてきた。
 どこでどういうスイッチが入ったのか、僕自身もわからないでいたが、俶子の身体への
嗜虐の衝動がどこからともなく湧き上がってきていた。
 十六の自分よりも二十近くも年上のこの女には、何をしても許される、という妙な自惚
れめいたものが、聡子と知り合った頃から漠然とだがあった。
 僕の二面性の性格の裏側にある、嗜虐の嗜好と、俶子のこれまでの、ある意味、不幸な
男性遍歴で知らぬ間に培われていた、被虐の思いが、歯車の歯が噛み合うように合致して
いるのかも知れなかったが、とにかく僕自身が淫猥な気持ちになってくるのは事実だった。
 ベッドに座り込んだ俶子の顔のすぐ前の、僕の下腹部のものはすでに半勃起状態になっ
ていた。
 俶子の両手がそこへ添えられてきて、間髪を置かず彼女の赤い唇が半開きになって、僕
の股間に迫ってきた。
 濡れて生温かい感触が心地よかった。
 俶子の身体を抱くのはいつ以来だろうと思い返しながら、僕は背中を少し屈めて、彼女
のブラジャーのホックを外しにかかっていた。
 室には暖房が入っていて温かかったが、聡子の背中はそれだけではない汗のようなもの
で肌は湿っていた。
 僕の下腹部のものは、俶子の口の中で早くも臨戦態勢を整えていて、学校のグラウンド
にある鉄棒のように固く屹立していた。
 満を持した態勢で、僕は俶子の口から刀を抜くように、唾液でしとどに濡れそぼった屹
立を抜き、彼女の上体をベッドに押し倒し、小さな布地のショーツを一気に剥ぎ取り、熟
れて脂の乗り切った太腿を大きく押し広げて、自分の身体をその間に割り込ませた。
 「ああっ…う、嬉しい!」
 感極まったような声でいいながら、聡子は僕の両腕を両手でがっしと掴み取ってきた。
 俶子の大きく拡げられた、股間の漆黒の下に目をやると、薄黒い肉襞が開いていて、そ
の中の濃い桜色をした柔らかな肉が、滴り濡れているのがはっきりと見えた。
 僕は固く怒張しきった自分のものに手を添え、狙いを定めるようにして、濃し全体を前
に押し進めた。
 「あ、ああっ…す、すごい!…は、入ってきてるわ…ああっ」
 久し振りに聞く俶子の咆哮の声は、室一杯に響くくらいに大きくけたたましかった。
 僕の腕を掴み取っている彼女の手の指も、痙攣を起こした人のように強い力が込められ
てきていた。
 じわりと締め付けるような圧迫の間に、三十五歳の女の身体から発酵したねっとりとし
た脂が潤滑油のようになって、俶子の胎内に僕のものは深く沈み込んだ。
 僕の腰が動くと、その潤滑油は温みのある摩擦を、僕のものに心地のいい刺激となって
与えてきて、俶子は俶子で僕の腰の淫靡な動きに幾度となく呼応し、眼鏡の奥の目を瞬か
せ、喘ぎと悶えの声を間断なく挙げ続けたのだった。
 「は、恥ずかしい…こ、こんな」
 「俶子の顔がしっかり見れるから、俺は好きだよ」
 僕はベッドに胡坐座りをして、俶子と胸と胸を合わせて重なるように抱き合っていた。
 俶子が汗に濡れそぼった裸身を晒して、僕の腰に跨り座っていて、重なった腰の下で、
列車の連結器のように、二人の身体は深く繋がっていた。
 顔と顔が否応もなく触れ合い、相手の息遣いまではっきりと聞こえるほどに密着してい
て、俶子の胸の膨らみの柔らかな感触が、汗に濡れた僕の胸に心地よく伝わってきていた。
 「あ、あなたの汗の匂いって、いい匂い」
 「俶子の女の匂いも、俺は好きだよ」
 「わ、私って、悪い女?」
 「どうして?」
 「の、紀子さんのこと知ってて…こんな」
 「そしたら、俺は大悪党だ」
 「大悪党でも好き!…キスして」
 お互いの歯と歯のぶつかる音が聞こえるくらいに、僕は唇を強く俶子の唇に重ねていっ
た。
 閉じた口の中に広がってくる、俶子の息が、燃え上った身体の熱の上昇を訴えるように、
ひどく熱っぽかった。
 結果を先にいうと、国語教師の俶子とその教え子の僕との、身体の交わりはその日が最
後になった…。



                          続く
 
 

 
 
 

 
 
 
 
 
 

 
 
 
2023/06/01 13:19:07(.AwPQuri)
12
投稿者: 雄一
午後四時きっかりに、僕は待ち合わせの喫茶店に入った。
 入口に立った僕は、自分と同じ制服を着ている、人間がいるかどうかを最初に探した。
 店内を見廻すと相当数のボックス席があって、席の四割ほどが埋まっている感じだったが、
同じ制服が見当たらなかったことに、先ずは安堵した。
 その後でもう一度店内に目を向けようとした時、奥のほうのボックス席から手を上げて立
ち上がってきた、真っ赤なダウンジャケット姿の女性が、僕の視界に入った。
 遠いところから見ても、相手が美人だというのがわかるくらいに、そのボックス席の周辺
が華やいで見えた。
 一つ大きな息を吐いて、僕は手を上げてきた女性のほうへ足を向けた。
 「どうもお待たせして、初めまして」
 僕のほうから頭を少し下げて、声掛けの挨拶をした。
 同じ学校で、ごくたまにだが顔を見合わせたりしていたが、言葉を交わすのは今日が初め
てなので、挨拶の初めましては間違ってはいない。
 「わ、私も今来たばかりで…あ、ごめんなさい。細野多香子です」
 間近、で見ると噂に違わぬ美人で、普段着のせいかとても高校生には見えない、大人びた
z用品さと清楚さが、女子にしては長身で細身の身体の、あらゆる部分から滲み出ている感じ
だった。
 香水でもしているのか、全身から漂ってきている匂いも、僕の鼻孔を痛いくらいに擽って
きていた。
 立ったままの二人だったので、お互いに着ているダウンジャケットを脱ぎながら、席に腰
を下ろした。
 ウエイターが注文を聞きにきたので、僕はアイスコーヒーを注文してから、改めて目の前
の細野多香子に目を向けた。
 真っ白なタートルネックのセーターが、細く引きまった身体にピッタリとフィットしてい
て胸の膨らみの豊かなラインがはっきり見え、僕は喉の奥で思わず生唾を呑んでいた。
 色白の顔も、どこにも欠点がないというくらいに、何もかもが整然と整っていて、噤んだ
唇の薄赤く塗った口紅が、かたちよく際立って見えた。
 学校内では、これほどに近いところで顔を合わしたこともなく、長い時間、対面したこと
も一度もなかったが、校内アイドルランキングのトップの座を、ずっと保持してきている理
由が僕にもはっきりとわかった。
 周囲の客の何人かの、横目窺いの視線にも臆することなく、僕のほうに奇麗な白い歯を覗
かせて、慎ましい声で自己紹介をしてきたのだが、僕はこの時、第一感として、贅沢で身の
程知らずといわれるかも知れなかったが、この人とは感性が違うという印象を、会ってから
の数分で感じていた。
 感性という簡単な二文字では、明確な僕の意思の表現にはならないかも知れないが、僕の
心の中には、女性として、どこにも非の打ちどころのない、細野多香子と堂々と比較対象で
きる女性がいた。
 小煩くてお喋りで、色気のほうもあまりない対象物だが、あいつに言ったら烈火の如く怒
るだろうが、人間には分相応というものがある。
 出されたアイスコーヒーを一口啜り、内心でそういう気分になると、最初の時の緊張感が
僕の全身から嘘のように消えていた。
 頭の中に、ふいに思い浮かべたあいつの小麦色の顔が、僕の気持ちを一気にリラックスさ
せてくれて、
 「…で、何でしたっけ?」
 アイスコーヒーを半分近く飲み干した時、僕は正面で上品そうな細い指で、紅茶のカップ
を口元に運んでいる、多香子を普通の女性を見る時と、同じ視線を投げかけて尋ねた。
 僕の気楽な眼差しに、多香子の切れ長の目の端が、微かに泳いだような気がした。
 「すみません。わ、私の祖父が、何か私のことで、よ、余計な気を廻したようになってし
まって」
 輪郭のはっきりとした口元に、白い歯を覗かせて小さな笑みを見せていたが、ソプラノ系
の声が心なしか狼狽しているようだった。
 「いや、僕のほうこそ、学校ナンバーワンの美貌の、細野さんのそういうありがたい思い
を気づかずにいたことを申し訳なく思ってます。でも、三年生のいる三階には、二年生は中
々行けなくて。それに僕は部活も何もやってない、ただの怠け者ですから」
 僕の声はあの小煩い紀子の顔のお陰で、澱みや詰まりは一つもなかった。
 自分の思惑と少し違う、というような顔をして、多香子は目を瞬かせていたが、
 「前に、この店であなたと目を合わせた時、何か、私…初めてといっていいくらいの、電
流のようなものを感じてしまったものですから」
 と正直と思えるようなことを言ってきた。
 「すみません、全然気づいちなくて。あの時は待ち合わせした人を探してて。それに最近、
僕も、大した勉強もしてないのに、目が悪くなってて」
 「いえ、私の勘違いなら、それでいいんです」
 「電流なら…今、僕が感じてますよ」
 またしても、僕自身が思いも寄らない言葉が、何の悪意もなく出てしまっていた。
 「えっ?」
 「学校中で、あれだけ騒がれている人だから、心密かには憧れてはいたんですよ。でもマ
ドンナの多香子さんと、帰宅部一筋の僕では、高嶺の花、月とスッポン、豚に真珠、猫に小
判…数え上げたら、まだ一杯の形容詞があります。あっ、もう一つありました。分不相応」
 自分ではまるで用意していない言葉だったが、授業の教室で本を読まされる時よりも、は
るかに澱みも詰まりもなく、すらすらと出てきたのだった。
 僕のその言葉に、多香子が口に手を当て、初めて声を出して笑ってきた。
 「面白い人。そんなに素直に自分のこと卑下できるなんて」
 いいながら、多香子はまだ笑いを止めていなかった。
 「普段がいつもそうだから、すらすらと言えるんですよ」
 「でも…」
 白い歯を見せ続けていた多香子が、急に真顔になって言ってきた。
 「私、高嶺の花でも何でもありません。普通の女子高生です」
 「僕は小学校から、ずっと普通のままでした」
 そこでまた、二人揃っての笑いがどっと出て、近くの席の何人かが、こちらに目を向けて
きたりして、そこからは一気に打ち解けた雰囲気になり、まるで恋人同士のような他愛のな
い会話が、暫くの間続いた。
 音楽の話も当然に出て、多香子は洋楽が好きで、自分の母の影響で、現在よりも古い楽曲
が好きだと言って、カーペンターズの「アイニーズ、ツ、ビ、イン、ラブ」とか、「イエス
タデイワンスモア」がお気に入りだと言ったので、僕もやはり父親の影響で、サイモンとガ
ーハンクルの「明日に架ける橋」が好きだと言って、話はどんどんと盛り上がった。
 高校生の男子と女子らしい、屈託のない会話が続いていた、どの辺りからかわからなかっ
たが、僕の胸奥のどこかに、この女を抱きたい、という不埒な願望が芽生え出してきていた。
 話をしている時の何気ない表情や、自然に出る仕草も、すべてが一画の絵になりそうな、
天性的な魔力のようなものを、多香子は、本人が自覚しているいないに拘わらず、保持して
いる感じだった。
 話に熱心になっている多香子の、三日月のような眉や牝鹿のような目や、輪郭のはっきり
とした薄赤い唇の、なよやかな動きを見ていると、誰にもそう思わせるだけの魅力があるの
は当然のことのようだった。
 自分の身体の中で、不遜で良からぬ血流が騒ぎ出してきているのを、僕は内心で感じ出し
ていた。
 二人はオレンジジュースを追加注文をして、すっかりと打ち解けた雰囲気になり、多香子
は自身の願望が叶ったこともあり、本心から喜んでいるようだった。
 テーブルに置いたスマホに、何気に目を向けると、もう五時を過ぎていて、窓に目を向け
ると、薄暮に近い色になっていた。
 幸いにも、これまで僕と同じ制服を着た客は誰もいなくて、誰も入ってはこなかった。
 「旅行か…いいなぁ。僕もどこかへ行きたいなぁ」
 多香子が今年の正月を、家族でハワイで過ごしたという話になっていて、この店を出るき
っかけを考えながら、僕は独り言のように言った。
 「遠いところじゃなくてね、近場でのんびりできるとこ…」
 続けて僕がそういうと、
 「私の祖父の別荘が軽井沢にあるの」
 と多香子が身を乗り出して反応してきた。
 僕にも奥多摩に、気分を癒せる別荘があるとは、何故か多香子には言えず、
 「軽井沢って、僕ら平民では行けないよ」
 と言って、僕が何気に伝票を取りかけた時、
 「一緒に行かない?」
 と多香子のほうから思いがけないことを言ってきたので、僕は伝票から手を離していた。
 二つ返事で、
 「行こ」
 と僕は応えていた。
 「私はもう学校行かなくていいから、あなたの予定次第。決まったら教えて」
 「すぐ決める」
 そういって僕はもう一度窓のほうに目を向けた。
 それが合図になって、二人は席を立ち、伝票をもう一度取ろうとしたら、
 「今日は私が着てもらったんだから。それに私、あなたより年上だから」
 多香子がすっかりと打ち解けた、悪戯っぽい目をして先に歩いて行った。
 「寒いわね。…でも、今日はとても楽しかったわ。やっぱり、あの時の電流は、間違い
はなかったのが嬉しい」
 外に出てすぐに多香子は、思わずぞくっとするような妖艶な笑顔でそう言って、手を振
って僕から離れていった。
 店の前で佇んだまま、僕は暫く茫然としていた。
 楽しかったという思いと、何かまた違う、やるせなさみたいな気分がない交ぜになって
いるような複雑な思いに囚われていた。
 その場に座り込みたい気分だったが、歩道の人の流れに任せたように、どこへ行くアテ
もなく僕は歩き出した。
 予定では、どんなことがあっても、多香子を拒否拒絶するつもりだった。
 それが、どこでどうなったのか、一緒にいた時間の大半以上が、明るい笑顔の交歓で終
わってしまっている。
 電話番号もメアドも交換し、旅行を口実にして、次に会う約束までしてしまっている。
 これが、校内ベスト女子ランキングトップの、多香子の実力で、自分は知らず知らずの
間に、彼女の魔性の力に屈してしまったのだろうか。
 そうなら僕も大したことのない人間だ。
 東大受験も鼻で笑うしかない。
 だが待てよ。
 最初は自信なさげにモジモジしていたのは、多香子のほうで、僕が電流云々の話でキザ
なこと言って誘ったのだ。
 この女性を抱きたいという、僕の突飛な願望がそう言わせ、そこから多香子は俄然に変
貌したのだ。 
 そうだ、主導権は多香子ではなく僕にあるのだ。
 この身勝手で自分本意な結論を出すのに、僕は相当歩いたようで、自分が今、どこにい
るのかもわからなかったが、身体を反転させ、来た道を元に戻った。
 帰路の途中で、やっぱり紀子が出てきた。
 例の、こらっ、という顔だ。
 あいつにバレないように、細心にも細心の注意を払って、何とか潜り抜けるしかない。
 幸いにも相手の女性は、もう同じ学校には来ないのだ。
 自分がしっかりしていれば。
 結局のところ、大仏の手の上ではないが、僕は紀子という仏様の手の上で踊り狂ってい
るだけでしかないということに、僕はその時には全然、気づいてはいなかった。
 単細胞な僕の頭に残ったのは、「軽井沢」というキーワードだけだった…。




                                続く

 
 
 
23/06/09 15:36 (GIkDlDcv)
13
投稿者: (無名)
面白すぎです!
この何気ないやり取りが
青春で良いですね~。
どの様な展開になっていくのか楽しみです!!

23/06/10 17:51 (7C.4iFqu)
14
投稿者: 雄一
多香子の反応は、僕も驚くほどに早かった。
 会った翌日の夕方にはメールが届いていて、嫌も応もない積極的な書き出しで、僕に早く
返事を寄こせというものだった。
 (あなたに初メール。嬉しい。祖父に別荘のこと頼んだら、即OK。明日にでも別荘の管理
会社に連絡して、草刈りと掃除を頼んでおくとのこと。私のほうはどんなことがあっても、
あなたの決めた日に合わせます。お早いお返事を)
 僕は少しばかり顔を曇らせながら、
 (りょ)
 とだけ返信した。
 多香子という女性がどういう人なのか、少しわからなくなっていた。
 あれだけの美貌と知性があって、周囲には僕よりもはるかに教養豊かで、僕よりもイケメン
で、家柄的にも優れた男性たちがいたはずだろうに、僕如きに何でこんなに積極的にアプロー
チしてくるのかが、先ず最初にわからないことだった。
 現に、学校在籍時には当時の生徒会長で、東大合格も間違いなしと言われていた生徒との交
際が既成事実のように囁かれていたはずなのに、ことここにきて、僕のような平民に触手を伸
ばしてくるのは、明らかに座興に過ぎると、僕は思った。
 多香子に纏わる男性の噂は引きも切らずで、野球部のエースピッチャーとか、高校総体で陸
上のハイジャンプで優勝した選手とか、バレーボールのエースアタッカーとかの、校内に名の
知れた生徒が何人も恋人候補に挙がっていたはずだ。
 勿論、僕は完全にノーマークである。
 メールを受け取ったその日の夜、零時前に僕のスマホが、メール着信を告げてきた。
 (もう寝てる?寝てたらごめんなさい。こう見えて、私、料理得意だから。あなたは何が好
きなのかな?まだ起きてたらおやすみなさい)
 僕はすぐに返信を送りつけた。
 (今週の土日OK。干渉されるのは嫌いだ。好きなものはすき焼き)
 多少の怒りも込めたせいか、それに対する返信はなかった。
 翌日が水曜日だった。
 父が泊まり出張でいなくて、母親と二人だけの朝食の時、今週の週末に友達の家で進学の対
策と相談があるので泊まってくる、と事前工作をしておく。
 進学の話は嘘だが、友達というのは、多香子も今はまだその範囲内であることで、僕は自分
を納得させた。
 「あらそう。で、あなた大学はどこを目指すの?」
 「そんなのまだわからないよ」
 「国立は無理なんでしょ?」
 「そうかも…」
 小さな声で応えて僕は箸を置いた。
 自分の親さえがこうだ。
 東大などと口に出したら、間違いなく熱を測られる。
 登校して一時間目の授業が終わった時、一番前の席に座っている、三上恒夫が廊下に出よう
としていた僕を呼び止めてきて、袖を引っ張るようにして、人のいない階段の踊り場まで連れ
ていかれた。
 「何だよ」
 恒夫の話は、大抵が生徒間の噂話である。
 真剣に聞く気もないような声で、僕が尋ねると、恒夫が丸い目をさらに丸くして、妙に嬉し
そうな声で、
 「お前、中々やるじゃんか」
 冷やかし気味に言ってきた。
 「は?」
 「あの俺らの憧れの細野多香子と、お前、デートしたんだって?」
 「な、何言ってんだよ」
 「一年生の女の子がな、風邪で学校休んで、母親と病院へ行った帰りに入った喫茶店でな、
お前ら二人を見たっていう話が、もう二階まで伝わってきてるらしいぜ。楽し気に笑い合っ
てたというオマケ付きでだよ」
 「何、ヨタ言ってんだよ。会ってなんかいないよ、俺は」
 「目撃者が一年の女の子だからな。お前も顔も知らないだろうし、帰宅部のお前と、学校
のマドンナとの釣り合いが、どうしてもとれないから、俺も眉唾だとは思うんだけどな」
 「何だい、バカにしてんのか?」
 「そ、そうやってムキになると、余計怪しまれるぜ。じゃあな」
 そういって恒夫は逃げるように教室に戻っていったにのが、一年生の女の子の顔までは、
僕も覚えていなくて、まして制服でなく、私服では、僕にも気づくはずはなかった。
 恒夫の話を聞いた最初から、僕の頭に浮かんでいた顔は、当然に紀子だった。
 まだぼくたち二人の交際は、学校内にはほとんど知られてはいないと思うのだが、今の恒
夫みたいに、何の悪意もなしに、紀子に注進していく奴がいるかも知れないと思うと、背筋
の辺りが薄ら寒くなった。
 こればかりは止めようがないので、僕も諦めた顔で教室に戻った。
 昼休みにもう一つのニュースが、担任の教師からクラス全員に入った。
 国語教師の俶子が、今日から二週間の特別休暇に入ったというのだ。
 月末の結婚準備のためということだったが、これにも僕は疑問符を抱いた。
 俶子はある事情で、結婚はしないと思っていたし、俶子自身の口からも、確かにそう聞か
されていた。
 ある事情というのは、学校内でも僕しか知らないことで、あまり大っぴらに口に出せない
ことだった。
 そういえば、僕も最近は俶子との、秘密の連絡も取り合ってなかったので、少し腑に落ち
ない疑問が残った。
 ヤキモキした気分で、下校しようと玄関の靴箱に行ったら、
 「雄ちゃん」
 と背中のほうから、聞き覚えの間違いなくある声に呼び止められた。
 振り返ると紀子だった。
 黒のジャージの上下にダウンジャケットを羽織っていた。
 顔がにこやかに笑っているのを見て、僕は内心で思いきり安堵しながら、
 「おう、部活か?ご苦労さん」
 と少しばかり横柄な声で返してやった。
 「帰宅部は、いつも早く帰れていいわね」
 屈託のない声で言いながら、こちらのほうへ近づいてきた。
 周囲に数人の、同学年の女子生徒の塊りがいて、そのうちの何人かが、不思議そうな顔でこ
ちらを見ていた。
 紀子のほうはそんな目を気にすることなく、僕の目の前まで来たかと思うと、いきなり手を
伸ばしてきて、曲がっていたワイシャツの襟を直してきた。
 その後、さよなら、と笑顔を見せて、小走りでグラウンドのほうへ飛び出していった。
 あいつの神経はどうなっているんだ?と思いながら、僕は高門をとぼとぼと出た。
 多香子からメールが届いたのは、金曜の朝の登校時だった。
 最初に、
 (メールいいですか?)
 と確認の短文で、この前の僕の警告めいたメールを、気にしてのことだわかっていたが、こ
のことは無視して、次のメールを促した。
 (明日の出発は、東京駅九時三十二分発の北陸新幹線の二十三番ホームです。一時間で着き
ます。東京駅まで二十分だから、九時に駅の改札口で待っています。切符は往復で用意してま
す。楽しみにしています)
 馴れ馴れしさを抑えたような、丁寧な文章だったが、最後は多香子の本当の気持ちだと、僕
は勝手に解釈して、次のような返信を送った。
 (両親に俺と二人だと言ってあるのか?)
 (女性友達何人と…)
 (男だよ、俺は)
 (男のあなたが好きです)
 (何をするかわからない)
 (何をされても…)
 高校生同士とは思えないやり取りを、僕と多香子は交わしていた。
 面と向かって会ったのは一度だけで、言葉では、一度話しただけの多香子のはずなのに、電
極のプラスとマイナスが繋がって灯りが点くように、いつの間にか、二人の行く手を照らす何
かが、二人の心の中に灯ったようだった。
 軽井沢へ行く手順の何もかもを多香子に任せて、僕は着替えだけを入れたスポーツバッグを
肩にして、格子模様のシャツに黒のVネックセーターの上に、紺のダウンジャケットとジーンズ
姿で駅の改札口に、約束の七分前に行くと、もう多香子は待っていた。
 ピンクの毛糸の帽子に、赤のダウンジャケットとジーンズという、似たようないで立ちを、挨
拶言葉の後、多香子は、この前会った時よりも赤が際立つ唇を、にこやかに緩ませて喜んだ。
 「私、うっかりしてあなたに言うの忘れてたんだけど、軽井沢の冬ってとても寒いの。このダ
ウンの下に、私、セーター二枚着てるんだけど太って見えない?」
 微かな遠慮の表情を見せながら、それでも嬉しさに勝てないように、声を弾ませて聞いてきた
が、外見的にはまだまだ細く見えたので、
 「全然だよ。よく似合ってる。美人は得だね」
 と僕もおどけた顔で笑ってやった。
 ホームは休日のせいか、朝のこの時間帯にしては、それほどに混雑はしていなかったが、
 「ねぇ、腕組んでいい?」
 と眩しそうな顔で僕を見て、甘えるように言ってきた。
 少しキザっぽく、僕は薄笑みを浮かべて、顎を小さく頷かせた。
 周りの客の何人かが、多香子の色白の整い過ぎている顔を見て、芸能人に会ったような表情を
見せていた。
 東京駅について新幹線乗り場まで歩いた時も、多香子は僕の腕をずっと掴み続けていた。
 多香子のバッグは僕が肩に担いでいた。
 新幹線は何とグリーン車だった。
 乗客は半分程度で、僕たち二人の周囲には誰も乗っていなかった。
 乗車時間は一時間だと多香子が言った。
 「私も軽井沢は久し振りなの。高校一年の時、家族で来て以来」
 「軽井沢って、俺らの感覚では、金持ちばかりが住んでる町という概念しかないね。ここに別
荘を持ってる人と知り合えたのは、お前が初めてだよ」
 「私が持ってるんじゃないわ」
 「貧乏人のひがみの言葉だよ、気にするな」
 この新幹線が、どこをどう走っているのかもわからないまま、漫然と窓の外を見ている、僕の
鼻孔に多香子の身体から、香水のような豊潤で妖艶な匂いが漂ってきていた。
 窓側に座っていた僕は、通路側の多香子のほうに唐突に顔を向けた。
 驚いたように多香子が僕を見返してきたので、
 「キスしていいか?」
 と僕は平易な口調で言った。
 多香子は驚いた顔で、周囲を見渡す仕草を見せて、それほどの躊躇もなく、真剣な眼差しをし
て、白い顔を頷かせてきた。
 僕の口から零れ出たその言葉も、僕が事前に考えを巡らせていたものではない。
 僕の身体の中の、もう一人の僕が、言い方はややこしいが、僕の口を借りて発して出た言葉だ
った。
 ジーンズの上に手を置いて、多香子は黙って目を閉じた。
 周囲に客がいようといまいと、僕はどうでもよかった。
 顔を多香子の顔に近づけると、あの香水のような妖艶な匂いが一段と強く、僕の鼻先と身体の
中の血流を刺激してきていた。
 多香子の赤い唇に、僕の唇が当然だが音もなく触れた。
 柔らかな感触と口紅そのものの、心地のいい匂いに、僕は内心でひどく興奮していた。
 だが、その昂ぶりを抑制する気力が、いつの間にか僕に、備わっているのがっはっきりと自覚
できたので、焦ることなくゆっくりとした動作で、多香子の唇の中の歯を、抵抗なくおし開くこ
とができた。
 多香子の歯が、抵抗もなく開くということは、彼女の気持ちの中にも、僕と同じような感覚が
生じてきていることを、僕は半ば以上に強く確信していた。
 この女の内面の本心は、年齢の若さに関係なく、辱められ虐げられるのを待っている、という
ことを、ここで僕は喝破できたような気がしたのだ。
 本当は、僕も多香子も気づいていなかっただけで、初めて会った時から、そういう妖しげで淫
靡な感覚が芽吹いていたのかも知れなかった。
 それが、あの時に、お互いが電流が走ったと、図らずも言わしめた、要因の一つではなかった
かと、僕は今にして思うのだった。
 多香子の舌も滑らかで触れ心地がよく、吐く息の温かさも気持ちがよかったが、電車の中とい
うこともあり、僕のほうからわざと未練がましげに、顔と唇をゆっくりと離していった。
 「好きだから来たんだよ」
 またキザっぽい言葉を僕は言ってしまっていた。
 「私…泣いてしまいそう」
 多香子は瞳の奇麗な目を、何度も瞬かせながら、本当に泣きそうになっていた。
 僕たちを乗せたこの新幹線が、今、どの辺りを走っているのか、そのことへの関心は、残念な
がら僕には、いや、きっと多香子も一緒だと思うが、あまりなかった。
 軽井沢という町は裕福な人たちが、四季折々に風情のある景色の中で、選ばれし者という感覚
で優越感と高揚感に浸りながら優雅に暮らすところだという、浅薄な知識しか、平民の僕は持ち
合わせていなかったのだが、駅を降りて改札口を出ると、原宿辺りの商店街のミニ版みたいに、
賑やかな店が幾つも建ち並んでいて、女性の数が圧倒的に多い感じがした。
 昔は中山道の要衝として、それなりの威厳や日本的な風格も備えていたのだろうが、すっかり
と俗化の波に洗われた観光地に変貌しているという印象だった。
 右も左もわからず戸惑っている僕の腕を、多香子は姉のような顔をして、慣れた足取りで、洒
落た店が多く並んでいる通りへ、僕は引き連れていかれた。
 前に紀子と原宿の店舗街を歩いた時も、
 「もっと楽しそうな顔できないの?」
 と言われたこともあるくらいに、僕はショッピングというか、目的もなく人の多いところを歩
くのが、苦手で好きではなかった僕だったが、それは押し殺して、相変らず腕をがっしと掴まれ
ながら、多香子に引き回されるように歩かされた。
 十六ながら僕の感覚が古いのか、俗化の波そのものの小洒落た店先のどこを見ても、同じ色に
しか見えないままの、僕の表情を察したのか、
 「お昼もね、予約してあるの。行きましょ」
 と気遣うように言ってきて、駅から山のほうへ向かう道を歩き出した。
 十分ほどで着いたのが「軽井沢プリンスホテル」だった。
 我儘な僕への気遣いに、多香子は大変だったようで、ホテルのレストランでも、前以て僕が何
を食べたいのかを、聞かなかったことまで詫びてきたが、有名レストランの料理で不味いものな
どあるはずがなく、僕は正しく子供のように目を輝かせ、魚肉類が次から次に出てくる料理に舌
鼓を打った。
 テーブルに向かい合った多香子が、満面の笑みを浮かべながら、
 「こんなに美味しそうに食べてくれる人って、私、初めて。お陰でお腹一杯」
 と嬉しそうな声で言ってきた。
 ホテルから乗ったタクシーで、駐車場のだだっ広い、大型のスーパーに寄って、タクシーを待
機させて今夜の夕食の食材を買い込んで、山のほうに向かってひた走った。
 二十分ほど走ったところの、なだらかな山の斜面に、L字型で一部が二階建ての少し大きめの、
まだ真新しい感じのログハウスが見えてきて、積雪の跡が幾つも見える広い庭の前でタクシーは
止まった。
 玄関の鍵を多香子が開けて、買い物袋を抱えて中に入ると、広い玄関口から幅の広い廊下が左
右に伸びていた。
 玄関口に一番近いところのドアを開けると、洋風の大きな広間があって、瀟洒な感じのダイニ
ングと、食事用の広いテーブルがあり、その向こうに、中央にあるガラステーブルを挟むように、
高価そうなソファーが四方に置かれていた。
 畳にして何畳だろうか、わからないくらいの広さだった。
 意匠的な木目も露わな板壁に、これも値の張りそうな洋風の箪笥や本棚が、気品よく並び置か
れていて、外国映画の場面に出てきそうな雰囲気に、僕はただ圧倒されるだけだった。
 「そこに座ってて。片付け終わったら、コーヒーでも入れるわ」
 多香子はソファーを手で指して、自分は着ていたダウンジャケットを脱いで、買い込んできた
食材を冷蔵庫に入れたり、水で洗い物をしたりと、独楽鼠のようにせかせかと動き廻っていた。
 座ったソファの前の壁に、五十インチの大型テレビがあったので、リモコンスイッチを入れて、
僕は大型画面を観るともなしに観ていた。
 多香子が室に入ってすぐにつけた暖房が効き出した頃、コーヒーのいい匂いが漂ってきて、彼
女が盆に載せたカップをガラステーブルに置いてきた。
 広い応接セットなのに、多香子は僕の真横にくっつくように座り込んできていた。
 来る時の駅で言ってた通り、多香子はタートルネックの薄水色のセーターの上に、濃紺のVネッ
クの薄地のセーターを着こんでいた。
 片付け仕事に精を出した多香子の奇麗な額と、髪の生え際の辺りに汗のようなものが、小さく光
るように滲み出ていた。
 「暑い…」
 手にしていたハンカチで顔を仰ぎながら、呟くように言って、コーヒーを上品な唇で啜っていた。
 「案外、家庭的なんだな」
 僕もコーヒーを啜りながら、見直したような顔で声をかけた。
 「お嬢様育ちで、何もできないと思ってた?」
 「うん。でも、そうだとしても、君のその顔では嫌味には見えないだろうけどな」
 「祖母がね、両親より祖母のほうが躾は厳しかったの」
 「お婆ちゃんって幾つ?」
 「六十七かな」
 僕は自然に、自分の祖母を思い出していた。
 橙色の帯をして紺地の寝巻姿の祖母が、自分の寝室の鏡台の前に座っているところが、何故か、僕
の頭の中に浮かんでいた。
 続いて、祖母の紺の寝巻の襟がはだけて、小柄な身体とは、不釣り合いな感じの膨らみをした真っ
白な乳房が思い浮かび出て、思わず啜ったコーヒーを口から零しそうになった。
 「どうしたの?」
 「い、いや、お、俺の婆ちゃんをちょっと思い出して」
 正直にそういったが、詳しくは勿論、話せなかった。
 「お婆様も一緒に住んでるの?」
 「いや、田舎で一人暮らし」
 「田舎って、どこなの?」
 「あ…お、奥多摩」
 話が何となくまずい方向にいきそうなので、僕は頭のギアシフトをチェンジして、
 「いい匂いがする」
 と言って、顔を多香子に近づけ、犬のようにクンクンと鼻を鳴らした。
 「ほんと、暑いわね」
 僕の子供じみた行為を嫌がる素振りもなく、また手に持ったハンカチで顔を仰ぎ出した。
 「セーター脱いだらいいじゃん」
 「え…?」
 「全部脱ぐか?」
 そういって、僕は多香子の驚いたような目に、何かの意思を込めたような強い視線を送った。
 僕のいった言葉が、冗談なのか本心なのかをおし測っているようだったが、表情に怒りのような
気配は見えなかった。
 「脱ぐの?」
 「嫌ならいい」
 僕は多香子から、視線を逸らさずに言った。
 「今からは、お前は俺の奴隷になる」
 多香子に拒絶はないと、僕は確信して、独り言のように言った。
 僕のその声に、多香子の上半身がビクンと震えたのが見えた。
 決め手の言葉だと、僕は内心で自画自賛していた。
 いつの間にか僕は、自身の性格の裏モードに入っているようだった。
 黒い瞳を瞬かせるようにして、真横から僕の目を凝視していた多香子が、小さな息を一つ吐いて、
僕から視線を逸らした。
 朝からずっと僕の目の前を、美しい体型をした若鮎が蠱惑的な目をして、夢幻の境地へ誘うよう
に寄り添ってきているのだ。
 これを道義的な理性で制御できるくらいなら、僕はハナからこの旅行には出かけてきてはいない。
 元より、僕はそれほどに賢い人間ではないのだった。
 一度僕から逸らした目を、もう一度顔を上げて向けてきた、多香子の黒い瞳が妙に潤んでいるよ
うに見えた。
 焦点も僕に合わせているようで、どこか違うところに向けられているような気がした。
 濃紺のVネックのセーターの裾を掴んでいた、多香子の手が静かに上に向かって動いた。
 細長い首と顔からセーターが脱げた。
 多香子の手はさらに動き、薄水色のタートルネックの裾を掴んでいた。
 目は虚ろな感じだったが、黒い瞳は妖しげな光を放って、あらぬ方向を見ているようだった。
 喉の奥が渇いたような気がしたので、僕はコーヒーの残りを一気に飲み干して、目をまた多香子
に戻した。
 多香子の手に躊躇はなく、柔らかな毛糸のセーターも首と頭から脱げ、見ただけで滑らかさと沁
みや無駄肉のまるでない、真っ白で張りのある肌が露わになった。
 濃い水色のブラジャーが、白い肌と好対照に映えて見え、僕の喉の奥でごくりという音がしたよ
うな気がした。
 僕の視線が多香子を横から見てるので、ブラジャーに覆われた、彼女の乳房のかたちの良さと、
膨らみの豊かさがはっきりと見え、僕の気持ちをかなり動揺させた。
 多香子は目を少し下に向け、無表情を装っているようだったが、細い首筋と尖った顎と耳朶の辺
りに、それまでにはなかった朱色が指しているのがほの見えて、彼女が恥ずかしさに堪えているの
が垣間見えた。
 この春からは晴れて大学生になる、二十歳前の娘には過酷で恥辱的な、僕の指示だったかも知れ
なかったが、僕は自分のもう一つの推測を信じることにして、敢えて何もいたわりや制止の言葉は
かけずにいた。
 多香子の心の奥底に潜んでいるはずの、被虐嗜好に賭けたのだ。
 あの喫茶店で初めて間近で会って、直接、言葉をかけ合った時から、そのことを僕は何の根拠も
脈絡もなく肌に感じ、自分なりに看破したつもりでいたのだ。
 ここへ来る電車の中で、僕が強引にキスを強要した後で感じたことの、それは延長線上にあった
のだ。
 軽井沢という場所もさながら、昨日までに振ったと思われる積雪の跡もある冷え冷えとした窓の
外だが、室内の暖房は適度な温みになっていて、僕と多香子の異常なやり取りの熱気も相俟って、
上の衣服を脱いだ多香子への気遣いは不要のようだった。
 僕の非情な目が、多香子のジーンズに向いたことを、多香子は察知したのか、一呼吸の後、彼女
は徐にソファから立ち上がり、ジーンズのホックに手をかけていた。
 雪のように白くて細長い足が、付け根のところまで露呈し、ブラジャーと同色のショーツの小さ
な布地まで露わになった。
 細くて雪のように白い全身を、竦めるようにして立っている多香子の顔と目が、僕に向けられて
きた。
 恥辱に堪える憤怒の表情にも見えたが、切れ長でやや奥目がちの目の瞳は、どこか陶酔を窺わせ
るような光りを放ってきているように、穿った見方かも知れなかったが、僕にはそう見えた。
 多香子のそんな眼差しを無視して、僕は不平を意思表示するように、窓のほうに目を向けていた。
 窓に向けた僕の目の端に、多香子の細い両手が背中に廻っているのが窺い見えた。
 顔を少し戻すと、ブラジャーのホックを外しているところだった。
 細身には不釣り合いなくらいに、膨らみの豊かで、丸く張りのある乳房が、ぶるんと震え出るよ
うにして露呈した。
 その動きの続きで、ショーツまで、多香子は何かの意を決したように、一気に下に下ろし、両方
の足首から脱ぎ去った。
 機嫌を直したように、僕は窓に向けていた目を元に戻し、多香子に目を振って、口の端に薄笑み
を浮かべながら、
 「いい子だ。こっちへ」
 と大人びた声で言って、招き呼ぶように両手を前に差し出した。
 ソファに座っていた僕に崩れかかるようにして、多香子は抱きついてきた。
 裸身にされた羞恥をおし隠そうとしてか、多香子は僕の胸の中に蹲るようにしがみついてきていた。
 「こういうの、初めてだよな?」
 多香子の顔を、上から覗き込むようにして尋ねると、多香子は今にも泣き出しそうな顔で、何度も
顔を頷かせてきた。
 「俺もな…ほんとのところ、こういうのって初めてなんだよ。何でこうなったのかは、俺にもよく
わかってないんだけどな、原因はお前にもありそうだぜ」
 僕が不可思議そうな顔をしてそういうと、多香子は当然のように、どうして?という顔で睨みつけ
てきた。
 「つ、つまりだ。男をそういう気にさせる、何かを、多香子は身体や心に持っているんだよ、うん」
 

 
 
  
 
 
 
 
 
 
 
  
 
 
 


  
  
 
 
 
 
23/06/10 22:47 (iK8kOpI8)
15
投稿者: (無名)
4 煩いなぁ
そう思うなら読まなきゃいいだけでしょう?
23/06/11 12:51 (Zvq1pjVG)
16
投稿者: (無名)
良い話ですね~。
最高です!!
息子が狭いと怒っておりました。
私も高校に戻り、そのとき意気地がなくて行くことができなかった後輩の事を思い出し、胸が締め付けられます。
こういう展開もたまらないデスッ。
ちょくちょく出てくる母とのからみもいつかお願いしたいです。
いつも最高の作品をありがとうございます!!
23/06/12 12:45 (PPaaEiEv)
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