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1:第二章 妻として、母として
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マイペース
◆e5QcYAlxuU
『1』
七月下旬、幸子が事務所を辞めて約一ヶ月が経った。 相変わらず、周りには幸子の美貌を付け狙う野蛮な淫獣達で溢れていた。 やはり何処へ行っても、幸子の悩みは解消されないらしい。 しかし、唯一変わった事があった。 それは幸子にとって生き甲斐とも言えるべき、家族との生活だった。 家族の元へ戻ってきてからは毎日が楽しかった。 毎日顔を合わせ会話をする、こんな幸せな事は無い。 幸子にはそれだけで十分だった。 以前までは一人暮らしで寂しい思いをしてきたのだ。 いくら気丈な幸子でも、淫獣を一人で相手にするのでは身体がもたなかった。 それが家族が傍にいる、たったそれだけで幸子の心身が崩れる事はないのだろう。 そんな幸子は今日、遂に個人事務所開業の日を迎えた。 とはいえ、決して全てが順調にいった訳ではない。 幸子を悩ませる出来事が起こりながらも、何とかこの日まで来た。 幸子は戻ってきてからの約半月、主婦の生活を送っていた。 何故なら、事務所の経営に関する手続きがまだ終わっていなかったからだ。 前の事務所にいた時から話を進めてはいたが、予定よりも遅れる事になった。 だが、幸子にとってそれも悪くなかった。 もちろん事務所を開業しても家族との時間を潰すつもりはなかったが、今までの懺悔も含めて数日間でも家族だけに尽くす時間が出来たのは好都合だった。 手続きが完了するまでの間、幸子は主婦として二人を支えた。 朝に二人を見送り、夕方には出迎える。 その間、掃除や洗濯を済ませる。 毎日そんな日々の繰り返しだが、幸子には新鮮で幸せだった。 もちろん、夫婦の営みも忘れていない。 今まで離ればなれで、なかなか愛を確かめあう事が出来なかったのだから当然だろう。 というより、由英の方が積極的だった。 夫から見ても、幸子の美貌は興奮に耐えられるものではない。 正直、幸子が一人暮らしを始めた時は不安で仕方なかった。 夫の自分がこれだけ興奮するのだ、他の男達もどう視ているか心配だった。 その幸子が毎日一緒にいるのだから抑制できるはずがない。 由英は、何度も妻の極上の身体に愛液を注いだ。 どちらかといえば消極的な幸子も、しばらくは由英の愛を拒む事をしなかった。 そんな事がありながら半月程経ち、ようやく手続きが完了したという連絡が入った。
2012/06/09 01:23:28(TVMZFPJg)
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マイペース
◆e5QcYAlxuU
『50』
「いやぁ、見事な裁判でした。さすが負け知らずの女弁護士と言われただけはある」 「・・・あなた!?」 一瞬、誰かは分からなかったが幸子はその男の正体に気付いた。 廣瀬志郎(ひろせしろう)、年齢は幸子より十歳ほど上のはず。 職業は、幸子にとって商売敵ともいえる検察官。 都内の高等検察庁に務めていた検事、いわゆるエリート検事だ。 幸子が前の事務所にいた頃は、何度も法廷で顔を合わせて闘ったものだ。 そのエリート検事が何故こんな所にいるのか、実はその事には幸子も関わっていた。 その出来事は三年程前、ある刑事事件の裁判を担当した時だ。 幸子が弁護士側、そして検察側にいたのが廣瀬だった。 前評判では、検察側が有利だというのが大半の見立ての裁判だった。 幸子の事務所も、勝ち目はないと思っていたらしい。 そこで、事務所はまだキャリアの浅い幸子に任せたのだった。 実績のある弁護士を立てて、裁判に敗けてしまっては看板にキズがつくと考えたのだ。 しかし、幸子はその大半の予想を覆してしまった。 勝利を確信した廣瀬が油断していたというのもあるかもしれない。 だが、それ以上に幸子の負けず嫌いな性格が勝利に導いたのだ。 地道にあちこちを歩き回り、貴重な証言を手に入れての大逆転劇だった。 その結果、幸子の評価は一気に上がり『負け知らずの女弁護士』などと呼ばれるようになったのだ。 その一方で、逆に信頼を失ったのが廣瀬というわけだ。 勝って当然という裁判で敗れ、検察庁は面目丸潰れだった。 キャリアの浅い女弁護士に敗けたのだから当然だろう。 そして廣瀬はその責任を取らされ、地方検察庁へ左遷されたのだった。 あの後、廣瀬が地方へ飛ばされたという噂は幸子の耳にも入っていた。 まさかその場所が幸子のいる、この県内だったとは・・・。 「今日はここへ別件で来てましてねぇ。そうしたら聞き覚えのある名前を耳にしたもので。・・・先程の裁判、見せてもらいましたよ。いやぁ、相変わらず法廷内での姿は素晴らしかった」 「・・・そんな事はありませんわ。まだまだ未熟な身です」 「いやいや、本当に以前と変わらず見事です。特に・・・その美貌にはね。これでは裁く側も裁判どころではないはずだ」 そう言い、無遠慮に幸子の身体を眺めた。 幸子はその視線に気付いていたが、それ以上に無視できなかったのは廣瀬の発言だった。
12/12/29 03:26
(C1VLy4Le)
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マイペース
◆e5QcYAlxuU
『51』
まるで裁判に勝てたのは自らの美貌を利用し、誘惑をしていたからだと言わんばかりではないか。 つまりこの男は、地方へ左遷させられた原因である幸子に対して大人気なく嫌味を言っているのだろう。 女を見下すこの態度は昔からの様だ。 もちろん、卑猥な視線も相変わらずだ。 幸子は、廣瀬のその発言の意図に気付いていた。 だがそれは、幸子にはどうしても許せない事だった。 以前から弁護士としての力量ではなく、見た目だけが注目されてきた。 そんな世間の目が嫌で、必死に努力してきたのだ。 裁判で廣瀬に勝てたのも、その努力の賜なのだ。 それを、ましてや同じ法律に携わる者の発言とは思えなかった。 「・・・お褒めの言葉、ありがとうございます。でも廣瀬さんもお元気そうで何よりです。心配してたんですよ、私のせいで地検に飛ばされたと聞いていたので」 売り言葉に買い言葉だった。 幸子も、普段ならここまで言わなかったはずだ。 恐らく、再び悩まされているストーカー達のせいでストレスが溜まっていたのだろう。 幸子のその言葉に、廣瀬は一瞬ムッとした表情を見せたがそれ以上言い返す事はしなかった。 さすがに大人気ないとでも思ったのだろう。 「ハッハッハ。やはりあなたに勝つのは一苦労だ。その勢いがどこまで続くか楽しみですよ。・・・あっ、そろそろ時間なので私はこれで。また、法廷で闘える日を楽しみにしていますよ。それじゃあ」 廣瀬は会釈をし、その場を離れた。 (こんな時に会うなんて、最悪だわ・・・) 沈む気分を何とか持ち直し、幸子は歩き出した。 (今は・・・三時ね。弥生ちゃんには悪いけど今日は早引きして帰ろうかしら) 久しぶりに早く帰って夕飯を作り、家族の笑顔を見れば嫌な事も忘れるだろう。 幸子はそんな事を考え、裁判所を出た。 しかしこの日、幸子を更に地獄へ落とす最悪な人物が目の前に現れた。 裁判所を出て、車に乗り込もうとした時だ。 「・・・久しぶりだね、牧元くん」 「・・・!?」 その声に、幸子は身体が凍り付いてしまった。 聞き間違いであると思いたかった。 こんな所にあの男がいるはずがない。 「・・・」 幸子は、強張った表情で恐る恐る後ろを振り返った。 やはり、聞き間違いではなかった。 そこに立っていたのは元上司であり、幸子を手込めにしようとした鬼畜な淫獣、小倉に間違いなかったのだ。
12/12/29 11:52
(C1VLy4Le)
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マイペース
◆e5QcYAlxuU
『52』
夢でも幻でもない。 目の前に小倉がいるのは紛れもない現実だ。 「・・・何故、あなたがここに」 幸子は、その言葉しか出てこなかった。 弁護士界の中でも顔が広い小倉なら、いずれは居どころも突き止められるだろうと覚悟はしていた。 だが、まさか一年も経たない内に知れてしまうとは・・・。 犯されそうになったあの忌々しい記憶が、幸子を襲った。 しかし、この張り詰めた空間に割って入ってきた人物がいた。 「小倉さん、どうしました?あっ・・・お知り合いの方ですか?」 声を掛けてきたのはスーツを着た女だった。 幸子より年齢は若いが、外見では遠く及ばない。 (この娘は?・・・) 小倉は、その女に答えた。 「あぁ、去年までうちの事務所にいたんだよ。牧元幸子くん、君も知ってるんじゃないか?」 「えっ!もしかして、あの牧元さんですか!?」 その女の幸子を見る目は、尊敬の眼差しだった。 だが、幸子にはこの状況をまだ理解できていなかった。 小倉は、幸子のその反応を見て話し掛けた。 「あっ、そうだ。何故ここに私がいるのかと聞いていたね。まず、この娘は私の知人の娘なんだ。そして、実はこの娘も僕らと同じ弁護士なんだよ」 「えっ、弁護士?」 とりあえず、この女の素性は分かった。 「この娘は今年から弁護士として働いているんだ。この近くに務めている事務所があるんだけど、私も知人の娘だから気になってねぇ。様子を見に来てみたら丁度この娘も時間が空いていて。それで、ここの裁判所で行われている裁判でも見て勉強しようって事になったんだ。そうしたらその裁判の弁護士席に君がいるじゃないか。驚いたよ、本当に」 信じられないが、理には適っている。 しかし、解せないのは何といっても小倉の態度だ。 強姦未遂までした男が、何故これだけ平然とした態度で話し掛けて来れたのだろう。 あの出来事は無かった事にでもしようというのだろうか。 幸子は、沸々と怒りがわいてきた。 だが、幸子には何も出来なかった。 訴えた所で証拠は何も無い。 そもそも訴えて話を大きくすること自体、幸子には出来ないのだ。 小倉の態度も、それを見越しての事なのだろう。 そう思うとやはり目の前に現れたのは偶然ではなく、居どころを突き止められたと考えるのが自然なのかもしれない。 しかし、今の暮らしを邪魔されるわけには絶対にいかないのだ。
12/12/29 12:00
(C1VLy4Le)
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マイペース
◆e5QcYAlxuU
『53』
とにかく、この男と二人きりにならなければあんな屈辱を味わう事はない。 悔しいが、それが唯一の対処法だ。 幸子は、小倉達に構わず車に乗り込もうとした。 だが、小倉は簡単に幸子を帰そうとはしなかった。 「あっ!僕達、今から昼食なんだけど。せっかくだから一緒にどうかな?近くに美味しい料亭を知ってるんだ」 「結構です」 「そんな事言わずにさ。この娘、君に憧れて弁護士になったんだ。以前、君がマスコミに出てた時に見ていたらしいんだけど。第一線で活躍する君は女性の憧れの的らしい。そんな君から色々話が聞けたらこの娘も参考になると思うんだ。ね?」 「はい!牧元先生さえ良ければ是非!」 もちろん、小倉の本当の狙いが別にあるのではと疑わずにはいられない。 しかし若手弁護士には一日でも早く成長してもらいたい、幸子が常々願っている事だ。 小倉はどうであれ、この女の真っ直ぐで純粋な目は幸子の心を揺さぶった。 「駄目ですか?・・・」 「・・・そうね。じゃあ、ちょっとだけなら」 「本当ですか!?ありがとうございます!」 結局、小倉の狙い通りになった様で気に入らないが、少しだけという約束で幸子は付いていく事にした。 小倉が車で先導し、幸子は後ろを付いていく。 黒いセダンのその車は、見るからに高級外車だと分かる。 数分走らせると、小倉の言っていた料亭に着いた。 そこは木々に囲まれ、街中にあるにも関わらず閑静な雰囲気があった。 高級料亭とは、こういう所を言うのだろう。 座敷に案内されると、テーブルを挟んで幸子の向かいに二人が座った。 着くなり小倉の存在を無視して、幸子は今までの経験を女に話した。 小倉の知人の娘だという女も、熱心に話を聞いている。 すると、小倉がスッと立ち上がった。 一瞬、身構えたがどうやら余計な心配だった。 「事務所に電話を掛けるのを忘れていたよ。ちょっと失礼」 小倉は座敷を出ると、姿を消した。 その後も、女は熱心に幸子の話を聞いていた。 どうやら、ここまで来た甲斐はあったようだ。 小倉の姿が見えないが、恐らく外にでも出ていったのだろう。 「ごめんね。ちょっと御手洗いに行ってくるわ」 幸子は積極的に質問してくる女を制止して、立ち上がるとトイレへ向かった。
12/12/29 12:47
(C1VLy4Le)
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マイペース
◆e5QcYAlxuU
『54』
さすがは高級料亭だ。 廊下やトイレもキレイで、不快感は一切ない。 だが、幸子はもう帰る事にした。 ここに来た目的はもう果たしたのだ。 これ以上、小倉と一緒になど居たくはない。 とにかく急いでここから出よう、幸子はトイレを済ませるとバッグを取りに座敷へ向かおうとした。 しかし、やはり幸子の嫌な予感は的中してしまった。 トイレの前には憎き淫獣、小倉が立ちはだかっていたのだ。 「・・・」 幸子の中で、忘れ去りたいあの忌々しい記憶がまた甦ってしまった。 だが、今回はあんな卑猥な行為は出来まいと思った。 建物の一番奥にあるとはいえ、ここには従業員も多くいる。 悲鳴を上げれば誰かがすぐに駆けつけてくるに違いない。 幸子は小倉などお構い無しに、横を通り過ぎようとした。 すると、小倉の口から予想外の言葉が出てきた。 「待ってくれ、牧元くん。謝らせてくれないか」 「え?」 「君が私を避けているのは送別会の時、つまりあの事が原因なんだろ?だったら謝らせてくれ。本当に済まなかった。私もあの時は酔っていてどうかしてたんだ」 まさか、謝罪の言葉が出てくるとは意外だった。 しかし、それで幸子の気持ちが変わるはずもなかった。 「どいてください」 「普段、あれほど酔うまで酒を呑んだ事はなかったんだ。なのに何故あの時は酒におぼれたか分かるかい?・・・君を愛していたからだよ」 「なっ!?」 「君が初めてうちの事務所に来た時だった。私は君の美しさに心を奪われ、あっという間に牧元幸子という女の虜になっていたんだ」 小倉は続けた。 「・・・君に家族がいるのを知ったのはその後だった。何度も諦めようと思ったんだ。でも、君を見る度に私は感情を抑える事が出来なくなっていた。・・・そして昨年、とうとう君は事務所を辞めると言い出した。・・・君にした行為が許されるとは思っていない。でも、あれは君への想いが溢れ出してしまっただけなんだ!」 小倉の熱弁は、まだ続いた。 「君を苦しめた事は重々承知している。でも、どうしても君への想いは捨てられないんだ!・・・頼む牧元くん。私には君が必要なんだ」 「え、ちょっ・・・あなた何を言ってるか分かってるの!?」 「もちろん、家族を引き裂こうなんて考えていない。家族には秘密にしておけばいい。・・・牧元くん、私は本気だよ」 小倉の目は、確かに本気の様だった。
12/12/29 12:53
(C1VLy4Le)
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