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初恋のひと
カテゴリ: 官能小説の館    掲示板名:ノンジャンル 官能小説   
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1:初恋のひと
投稿者: はるまき ◆8sA8xtnAbg
1番古い彼女の記憶。

制服姿の彼女は僕に笑いかけ、そっと頭を撫でてくれていた。

昔から美しい人だと思っていたその人は、僕の初恋のひと。


*************

「綾乃ちゃん、離婚して帰ってきたのよ」

夕食の片付けをしながら母親が言った。
その一言は、就職も早々と決まった悠々自適な大学生の僕にとって青天の霹靂だった。


「へ…?あ、あや姉…帰ってくんの?」

「そーなのよ。あんた、大きな声じゃ言えないけど、旦那さん…浮気してたんですって!
凛太郎くんもまだ4歳?5歳?…小さいのに大変よねぇ~」

「あや姉、帰ってくるんだ…」

「侑人、あんたどうせ暇なんだから、綾ちゃんが忙しい時は凛太郎くんの面倒でも見てあげなさいよ!
覚えてないかもしれないけど、あんた小さいときは綾ちゃんに本当に良くしてもらったんだからね~」

覚えてる。
ちゃんと、全部覚えてるよ。

あや姉と過ごした時間を、僕は宝物みたいに心にしまってきたんだ。


あや姉こと大原綾乃は、我が家の隣人の娘さんだ。
11歳上の彼女は、僕を本当の弟のように可愛がってくれた。
僕もあや姉が大好きで、四六時中くっついていた記憶がある。

小学校に上がる頃には、完全に僕の気持ちは「恋心」になっていた。
「おっきくなったらあや姉とけっこんする!」と何度伝えたことだろう。

4年生の時、偶然彼氏といるあや姉を見たときはひとりでこっそり泣いた。

どんどん綺麗な女性になっていくあや姉を想いながら、中学1年のときに一度だけ自慰行為をした。
なんだか彼女を汚してしまった気がして、ひどく後悔してしまった。

密やかな恋心を抱き続けていたが、僕は中学3年生で完全に失恋をした。

あや姉が結婚して、家を出ていってしまったのだ。

書いて字のごとく、一晩中「枕を濡らした」僕は、あや姉のことを心の奥の、さらに奥の方に押し込むことにした。

正月には帰ってきていたようだが、会うのは辛いのでいろいろ口実をつけて避け続けてきたので、もう6年会っていない。


「あや姉…だ、大丈夫なの?その、離婚とか落ち込んでるんじゃ…」

「それが元気そうよ~。あの子、昔っからしっかりしてたしね」

ピンポーン

「あ、来たかしら?綾ちゃん、あんたが居るっていったら、あとで会いに行くって…」

バタバタバタバタ!!!

母親の言葉を最後まで聞かず、僕は玄関に走り出す。

ガチャンッッ!!

「っ…!!びっ…くりしたぁ~」

「あ…あや姉…」

「うそ…ゆ、侑人?おっきくなったねぇ!!えっ…背も伸びて…やだぁ~大人になってる!!」

頬を薔薇色に色づかせ、硝子玉のような瞳を輝かせながら、あや姉が目の前に立っていた。

あぁやっぱり、昔からこの人は美しいなぁ。


つづく
 
2017/12/26 07:48:06(FgXt.lHx)
7
投稿者: はるまき ◆8sA8xtnAbg
あや姉たちが帰ってきて2週間が経った。

僕と凛太郎はずいぶん仲良くなり、先日からはライダーになりきる凛太郎に何度も退治されるはめになっていた。

凛太郎の中ではヒロインはあや姉で『お姫さま(あや姉)に悪さをする敵(僕)をやっつける』という設定らしい。

今日も見事にやられた僕だったが、遊び終わったあとに凛太郎がこっそり話しかけてきた。


「ゆうと…おれ、もっとつよくなってね、ママをなかせる人をやっつけるんだよ」

「えっ…ママ、泣いてるの?」

ドクンッと心臓が動く。

「ううん、今はないてないけど、前のおうちではときどきないてた。
…パパとケンカして、ないてたの見たよ」

「パパとケンカして…」


『大きな声じゃ言えないけど、旦那さん浮気してたんですって!』

拳にグッと力が入る。


「ねぇ、ゆうと…ゆうとはママにひどいことしないよね?」

「えっ…」

「おれ、まだちっちゃいから…うまくできなくて。
ゆうとはおとなだから、ママのことまもってあげられるよね?」

泣きそうな顔をしながら凛太郎は口を尖らせている。

凛太郎は、前の家で何を見たんだろう。

誰の、どんな言葉を聞いたんだろう。

きっとこの小さな胸は、ピッピの時の僕以上に傷ついており、悔しい思いを詰まらせている。

僕までも泣きそうになり、思わず凛太郎を抱き寄せた。

「…大丈夫、大丈夫だよ。ママが泣いてたら、僕が助けに行くから…」

「うん。
…でも、ゆうとよわっちいからなぁ~
おとなのくせに、いつもおれにたいじされちゃうからなぁ~」

本気で困ったような言い方をする凛太郎が可笑しかったが、

「じゃあ、ふたりでママのことを守ってあげよう」

と、僕らは男同士の約束を交わしたのだった。


つづく
17/12/27 19:14 (sZJXMlof)
8
投稿者: はるまき ◆8sA8xtnAbg
*******

『ママのことまもってあげられるよね?』

昼間の凛太郎の言葉が頭から離れない。

モヤモヤとした気持ちを少しでも吐き出したくて、煙草を吸いながら窓の外を見ていた。

「守る、かぁ…」

はぁぁ~とため息と煙が一緒に吐き出される。

ガチャッ

窓の向こうの部屋の扉が開き、電気がついた瞬間、ぎょっとした顔のあや姉と目があった。

バタバタバタッ!ガランッ!!

「ちょっと!な、なに煙草なんか吸ってんの!!?」

「えっ…えっ?あの…」

すごい剣幕で咎められた僕はポカンとしてしまったが「あっ!」とあや姉が声をあげ、カーッと顔を赤らめた。

「ご、ごめん。侑人、もう成人してたんだったわ。
なんかこの部屋に入ったら、昔にタイムスリップしたみたいになって…」

えへへ、と恥ずかしそうに笑うあや姉の手には、缶ビールがあった。

「飲むの?」

「たまにね」

プシュッと開けられ、勢いよくビールはあや姉の喉を流れていく。

「っくぅぅーおいしー!
ふぅ…本当、この部屋にいたら、小学生の侑人がこっちに手を振ってくれてた映像が蘇るよ」

「毎日してたからね。ほとんどストーカー(笑)」

「ふふっ…朝、侑人の「おはよー!」が聞こえたら、なんか私、元気もらってたんだよね」

「…今も、あや姉に元気あげたいけど」

「だからぁ、私は元気だってば~
離婚して落ち込んでると思ってるんでしょ?
残念でした、せいせいしてるんだから~」

「…でも、凛太郎も心配してる」

ピクッとあや姉の動きが止まった。

「ママを守りたいって言ってた」

「…やめてよ」

「あれ、ただのライダーごっこじゃないんだって。
あや姉を守るためのトレーニングしてるって…」

「やめてってば!!」

ダァンッと缶が机に叩きつけられ、中のビールが弾け飛ぶ。

あや姉のこんな声を聞いたのが初めてで、僕はビクンッと固まってしまった。

「…っもぉぉ~~なんなのよぉ…子どもにまで心配させて…私すっごいダメじゃん…
…っ…寂しい思いさせないように、お母さんたちにも気を使わせないように…私、元気でやってるのに…

なんで私、こんなにみんなから心配されてるの?
私ってそんなに可哀想なの?…そんな…やめてよ、めちゃくちゃ惨めじゃない…」

あや姉の目から、大粒の涙が零れ落ちる。

「か、可哀想とかじゃなくて…あまりに元気に振る舞うから…無理してるんじゃないかって…」

「無理?…無理するに決まってるでしょ?
私がメソメソ泣いててどうするの?
誰かが手を差しのべてくれる?
この不安で堪らない気持ちを消してくれる?」

「あや姉…ちょ、落ち着いて…」

「毎日…毎日めちゃくちゃ不安だよ!
離婚して仕事ちゃんと続けられるのかな、経済的には大丈夫かなって。
いつまでも親に頼るわけにはいかないし、凛太郎だって…」

「あ…いや、違…」

「みんなに優しくされるほど、私ってダメな母親だって…思…っ…ひ、ひとりじゃ、何にもできないくせにって…うっ…く…」

「そ、そんなこと、ダメとか思ってないよ!
ただ、あや姉はひとりで抱え込みすぎてないかって思って…」

ウゥーーーウゥーーウゥーン…
ピーポーピーポーピーポーピーポー…

けたたましいパトカーと救急車のサイレンが響き、空気が強制的に絶ち切られた後、シーンと静寂に包まれる。

「…じ、事故、かな…」

「……」

あや姉はなにも言わず、ふぅぅ…と深く息を吐いた。

「あ、あの…」

「旦那の会社の後輩だったの、浮気相手」

「え?」

「私も知ってる子だった。可愛らしくて、愛想も良い子だって思ってた。

凛太郎の誕生日、毎年夫婦ふたりで盛大にお祝いようねって言ってたの。
それなのに、4歳の誕生日の時、旦那は帰ってこなかった」

静かに、あや姉は喋りだした。

「おかしいって、ちょっとずつ思った。
仕事とか言って…帰ってくるのはいつも遅いし。

…実は凛太郎が産まれる前から関係を持ってたんだって。
私、全然気づかなくて。
凛太郎の出産祝いにやって来て「めっちゃ可愛い~私も赤ちゃん欲しいですぅ~」って言ってた。

…思い出しただけでも虫酸が走るよ。
赤ちゃん欲しいって、誰の子?
旦那とイチャイチャした手で凛太郎を触ったの?

めちゃくちゃムカついたけど、それでも私は許そうって思った。
やっぱり旦那のことは愛してたから」

俯いて喋るから、あや姉の顔は見えない。

だけど、静かに肩が震えていた。

「別れて欲しい、二度と会わないで欲しいって頼んだの。
そうしたら…出来ないって。

もう、私のこと女に見れないから、後輩とは別れたくないって。

こいつ頭おかしいんじゃない?って思ったけど、私も引き下がれなくて毎日大喧嘩してた。

凛太郎はいつも子供部屋に隠れてたけど、ある日「やめてよ」って泣きながら止めに来たの。

旦那の足にしがみついて「ママをいじめないで」って…

そしたらあいつ……凛太郎のこと、ぶったの。

「うるさい!」って…」


『おれ、まだちっちゃいから、うまくできなくて…』


「あ、無理だ…って思った。
浮気されて、お前を女と思えないって言われて、プライドがズタズタになってたけど…それでも耐えられた。
でも凛太郎に手を上げたことを私はどうしても許せなくて、翌日離婚届を取りに行ったの」

はぁ…っと息をつく。

「向こうの親は離婚に大反対。何回も説得の電話がかかってきて、終いには「たかが亭主の浮気くらいで、子どもに不自由な思いをさせるな」って言われた。
…優しい人たちだと思ってたんだけどねぇ」


あや姉は、こんなにも傷ついていた。

そんなことを微塵にも思わず、自分の都合で彼女を避け続けていたことが情けなかった。

会っていても、気付けなかったかもしれない。

でも…気付いてあげられたかもしれない。


「ほらね、実際私、めちゃくちゃ惨めなの。
だから絶対みんなから可哀想って思われたくないし、凛太郎のこと幸せにしてあげたいし、離婚して楽しくやってまーすって言いたいし…

…でも不安で…怖くて…やっぱ間違えた?って思うときもあるし…でも、でも…っう…」


『あや姉が悲しい時は僕が慰めてあげるんだ!』

小さい頃の僕の声が、頭の中に響いた。

気が付くと僕は、窓の桟(さん)に足を掛けていた。

「あや姉、ちょっと避けてて…そっち行くから」

自分の部屋の窓に足を伸ばそうとしている僕を見て、あや姉は慌てて止めに入った。

「えっ!?な、ば、バカバカ!危ないでしょ!やめなさい!落ちて怪我でもしたら…」

「あや姉」

「ちょ、ほんと…お、おばちゃんに叱られるよ!やめなって!!」

「あや姉、僕…大人になったよ」

「ゆ、侑人…?」

「だから…こんな距離、何てことない。

 あや姉に、ちゃんと届くから」

ギシッ…ミシッ…

左足に力を入れて、僕は向こう側に飛び移った。


つづく
17/12/27 20:27 (sZJXMlof)
9
投稿者: 日本茶々!
ジーンときましたっ!


続きをお願いします!



17/12/28 10:53 (azlPgeo5)
10
投稿者: (無名)
続き楽しみにしてます!
17/12/28 12:21 (CqKWM1ea)
11
投稿者: はるまき ◆8sA8xtnAbg
コメント嬉しいです♪
ありがとうございます!


********


僕はもう子どもじゃない。

自分の力で、あや姉のところへ行くことができる。


…ズルッ!


「あっ…」

「え?」

踏み切った左足が窓の桟に着地した瞬間、思いきり滑った。

「あっ!わ…わ!!」

「侑人!」

間一髪であや姉が僕を引っ張り、ドスンッと彼女に覆い被さるように落ちてしまった。


「いったぁ…」

「え……あぁー!!あや姉っ!ごめんっ!え、だ、大丈夫?ごめんね、重かったよね!うわー!ご、ごめん~本当に…」

彼女を下敷きにしてしまい、慌てながら僕は必死で謝った。


「……信じらんない」

「えっ…」

「あ、あんな…決めゼリフ言っといて…最後滑って落ちそうになるとか…っふふ…

か、カッコ悪~~ふ…っくく…」

「あ、あや姉…」

頭をガーンと殴られたようになるが、あや姉はぷるぷる震えながら笑っている。

「ふっ…ふ、普通…バシッと決める…とこなのに…ふっ…ふふ…あはっ…ははっ…だ、台無しじゃん~~」

「そっ、そんな笑わないでよぉ!」

カーッと赤面しながら言うが、あや姉はツボに入ったようでヒィヒィと苦しそうに笑っていた。


「あーっ…もう…何の涙か分かんなくなったじゃん」

やっと身体を起こし、涙を拭きながらあや姉は言った。

「はぁ~~ごめんね、侑人にまで心配かけちゃったね」


うまく伝えられるだろうか。


「…僕は、あや姉が頑張ってるのを…知ってる。

凛太郎も、あや姉が頑張ってる姿を見てきてる。

だから、僕たちはあや姉のことを守りたいって、元気になって欲しいって…思うんだよ」


ちゃんと、彼女に届くだろうか。


「僕たちだけじゃない。
おじさんやおばさんだって、うちの親だって…
誰もあや姉のこと可哀想だからなんて思ってない。

頑張ってるの知ってるから、心配だし、力になりたいし…な、何とかしたいって…思うんじゃないか…」

「侑人…」

「確かに…中には同情とか憐れみ…とか、そんな奴もいるかもしれないけど、でも…でもそいつらはあや姉のこと、ちゃんと知らない人たちだよ。

でも…僕や凛太郎たちはみんな、あや姉のことが大好きなんだよ!

だから…お願いだから……心配させてよ。

元気かな?…泣いてないかな?って思わせてよ。
自分にできることはないかなって…僕にも…思わせて…ほし…」


喉の奥が熱い。

どうしよう、涙が出そうだ。

耐えきれずポロッと涙が零れた瞬間、あや姉が僕の胸元に勢いよく飛び込んできた。


「あ…」

「っ……うぅ…ぐすっ…ひっ…ひく…ぅあぁぁ…」


泣きじゃくる彼女の背中を、ゆっくりとさする。

昔この人にしてもらったように、僕は上手に慰められないかもしれない。

だけど、あや姉の辛さや苦しさが少しでも外に出ていくことを祈りながら、僕は彼女の熱くなった背中をさすり続けた。

つづく
17/12/28 15:16 (4sUzDHLL)
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