親睦旅行の日がやってきた。
このころには、もうカナは清水さんなんだろうなと思っていた。
ホテルで会った清水さんの服装はちょっと余所行きな感じだったが、メイクはばっちりで少し髪の毛を巻いていた。
大人の艶っぽさが感じられ、確かに美人だった。メイクで人はこんなに変わるもんなんだな。
そして、カナに似ていた。
「山崎君、お疲れさま。なんか、いつもよりもカッコイイやん。」
「清水さんもいつもと雰囲気が全然違いますよ~。」
そこで、すごく綺麗ですよって言えたら合格だったのかもしれないが、言えてたらもっと人付き合いがうまくいっている。
照れもあったが、話しかけてもらった時に背筋がゾワゾワとして耳が熱くなった。
そんなに大人数ではないが、宴会が開かれた。乾杯の後あちこちでビール、酒の注ぎあいが始まったのだが、
自分といえば何故かアホなバイトの高校生にビールを注ぎまくられていた。
それでも酔えず、清水さんが気になって仕方がなくって、ちらちら目で追ってしまい、事務方のグループで楽しそうにしているのを見て「いいなぁ」と思った。
前のほうでは今年の新入社員が歌っていて、いかにもありがちな宴会が進む中、自分はずっとアホな高校生に懐かれて根ほり葉ほり聞かれている間に宴会が終わってしまった。
自分の部屋は何故か一人だけ結構オンボロな別館になっていて、しかも一部が改修中となっていた。どうやら男で禁煙ルームを希望してるのが一人だけで、仕方なくそうなったらしい。
近くに温泉があるので出ていく人、近くのスナックへ出かける人が結構いる中、自分はアホな高校生を追い払っている間に清水さんを見失った。
だからと言ってどこかに誘う勇気もないが…。
今日の清水さんはズリネタには十分、部屋に帰ろうとエレベータに乗った。
扉を閉めようとすると、「ちょっと待って。」と扉が開いた。
乗ってきたのは清水さんだった。
「私もこっちやねん、汚いとこでごめんな~。今年の部屋取担当、私やねん。」
「そうなんですか、こういう準備って結構大変ですね、事務の人がやらなあかんのですね。」
清水さんの微笑みは少しこわばっているように見えた。
「山崎君、由里ちゃんにめっちゃ絡まれてたなぁ、相当気に入られてるんと違う?」
「あの子知りたがりやから質問攻めやろ?何聞かれてたん?今日かっこいいなぁとか言われてたん?」
「う~ん、なんなんでしょ、脳みそを吸い取られる感じでした。あ、自分はここで降りますから…」
「知ってるで、私がとったから」
と言って清水さんも降りてきた。
「清水さんもこの階?」
と聞くと、清水さんは不安そうな顔をして黙ってしまった。
沈黙が続いたまま歩くのが嫌で、自分が何か言おうとしたとき、
「…由里ちゃんじゃないんやけど、私も山崎君に聞きたいことあるねんか…」
「って言うか、…ありがとう…って言ったほうが良いんかな…」
自分はどう返していいのか分からず、
「え、えっと…」
としか言えなかった。
「…サキちゃんっていう子、知ってるやんな…?」
ドキッとして清水さんの顔を見ると、やっぱりっと言った顔をしたと思うと、いつもの優しい表情に戻った。
「入っていい?」
心臓が他の生物のように早鐘をうち、息が切れそうな感じだった。
返事をしたかどうかどうだったか、いつの間にか二人は部屋に入っていた。