2026/05/17 18:48:32
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その後も、子作りにはチャレンジしながら
私達は並行して条件に合う相手を探していた。
「……本当に、やるの?」
妻が小さく聞くと、私は少しだけ間を置いてから頷いた。
「うん。でも、誰でもいいわけじゃないよ」
そう言って、私は自分のスマホを妻に見せる。
画面に表示されているのは、匿名の出会い掲示板。
「弥優が望む条件、ちゃんと書いて募集しよう」
「どんな人がいい?」
妻は少し考えてから、ゆっくり言葉を選ぶ。
「30代か40代くらいで…落ち着いてる人」
「うん」
「あと、体は…ちゃんとしてる人がいい。筋肉質だけど、ゴツすぎない感じ」
私は思わず苦笑する。
「結構具体的だね」
「だって怖いじゃん、変な人だったら」
妻は真剣な顔で続ける。
「優しくて、紳士的な人。無理矢理とか絶対しない人」
「それは大事だね…」
「あと、清潔感。ここ一番重要」
そう言って、少しだけ笑う。
その笑顔に、私はほんの少しだけ胸がざわつく。
「…なんか、リアルな感じになってきたね」
少しだけ照れたように笑いながらも、その目はどこか覚悟が決まっている。
「じゃあ、書くね」
――――――――――
【募集内容】
私達夫婦に協力して頂ける方を探しています。
妊活に関する事情があり、段階的に関係を進めていける方を希望します。
具体的には、私公認で妻と少し大人の関係になって頂ける男性を探しています。
いきなりするとかではなく、まずはマッサージなど軽いスキンシップからと考えています。
オイルマッサージが得意な方だと嬉しいです。
妻は年齢29歳、身長158cm、体重46kg。
細身ですが胸はDカップで女性らしい体型です。
顔は目が大きく、いわゆる可愛い系です。
【希望する方】
・年上の男性 30代まで
・清潔感のある方
・筋肉質で細身(体型に気を使われている方)
・穏やかで紳士的、ルールを守れる方
妻の気持ちを尊重できる方でお願いします。
――――――――――
「こんな感じで良いかな?」
書き込んだ内容を確認する妻。
「……うん。.......本当に良いの?やめるなら、今だよ」
私の顔を見て、妻がぽつりと呟いた。
私は目を閉じる。
頭の中には、これまで見てきた映像の断片がよぎる。
そして同時に、目の前にいる“現実の妻”の存在。
葛藤の末――
指が、ゆっくりと動いた。
送信。
その瞬間、画面が切り替わる。
もう戻れない。
しばらく沈黙が続いたあと、妻が小さく息を吐いた。
「……どんな人が来るんだろうね」
無理に明るく言おうとしているのが分かる。
けれど、その声はわずかに揺れていた。
私は答えられなかった。
数時間後。
「……来てる」
「え?」
「メッセージ、何件か」
画面には、いくつかの通知。
妻と画面を見つめながら一つずつ開いていく
「この人は…ちょっと違うかな」
「どんな?」
「いきなり距離近い感じ。こういうのは怖い」
次のメッセージ。
「……この人もダメ。条件ちゃんと読んでない」
少しずつ選別していく中で、
妻の指が止まった。
「……あ、この人」
「どうしたの?」
妻はスマホを私に向ける。
落ち着いた文章で書かれたメッセージ。
はじめまして。プロフィールを拝見しました。
とても丁寧に条件を書かれていて、真剣さが伝わってきました。
もしご迷惑でなければ、少しお話しできれば嬉しいです。
「……ちゃんとしてるね」
「うん」
妻も同じことを感じているようだった。
プロフィールを開く。
名前はOさんとしておきます。
年齢:36歳
体型:細身・筋肉質
仕事:会社員
写真は顔がはっきり分からないものの、清潔感がある。
オイルマッサージの経験もあるとの記載もある。
「……条件、ほぼ当てはまってるね」
「だね…」
妻は少し迷うように画面を見つめる。
「返す?」
その問いに、妻は一瞬だけ躊躇する。
「……うん。無理そうだったらやめればいいし」
私は小さく頷いて、返信を打ち始める。
数分後。
返信が返ってきた。
お返事ありがとうございます。
無理なことは一切しませんので、安心してください。
お二人でしっかり話し合って進められているのが伝わってきて、素敵だなと思いました。
それを読んだ瞬間、妻が少し息を止めた。
「……ちゃんとしてる人だね」
「うん…」
私は続けて打つ。
ありがとうございます。まだ少し不安もあるので、まずはお話からお願いできますか?
すぐに既読がつく。
そして——
もちろんです。焦る必要はないと思っています。
まずは安心していただけることが一番なので、ゆっくりで大丈夫ですよ。
その一文に、空気が少し変わる。
妻の表情が、ほんの少しだけ緩んだ。
「……優しそう」
ぽつりと漏れる本音。
私の胸が、わずかにざわつく。
「そうだね…」
妻はスマホを握りしめたまま、小さく呟く。
「ちゃんと話せそうな人で、よかった」
その言葉には、安堵と——
ほんの少しの期待が混ざっていた。
それから数日。
妻の警戒心を解くためにも、妻のスマホから連絡してもらいメッセージのやりとりをお願いした。
やり取りは、思っていたよりもゆっくりと続いていた。
「……また返事きてる」
夕食のあと、妻がスマホを見ながら言う。
私も自然と隣に座る。
「どんな感じ?」
妻は少し画面をスクロールしてから見せる。
今日はお仕事でしたか?
無理に返信しなくても大丈夫なので、落ち着いたときにで構いません。
「……こういうところ、いいよね」
妻がぽつりと呟く。
「余裕がある感じする」
私も頷く。
「押してこないのは安心だね」
妻は少し考えてから、返信を打つ。
ありがとうございます。今日は仕事でした。
こうやって気遣っていただけると、少し安心します。
送信して、少しだけ間が空く。
既読がつくまでの時間が、妙に長く感じる。
そして——
お疲れさまでした。
少しでも安心してもらえるなら嬉しいです。
無理をさせるつもりはないので、ゆっくり慣れていけたらと思っています。
妻はその文章を何度か読み返す。
「……ちゃんと線引きしてくれる人だね」
「うん」
強引さがない代わりに、
じわじわと距離を詰めてくるような安心感。
妻が少しだけ視線を落とす。
「こういう人なら…会っても大丈夫かなって、ちょっと思っちゃう」
その一言に、私の心が小さく揺れる。
「……まだ早くない?」
思わず出た言葉。
「すぐじゃないよ。でも…このままずっとメッセージだけっていうのも、逆にちょっと」
その感覚は、私にも理解できた。
「じゃあ…もう少しやり取りしてから決めよう」
「うん」
妻は再びスマホに視線を戻す。
その夜、少し踏み込んだ話題になる。
差し支えなければですが、どういうきっかけでこういう形を考えられたんですか?
その質問に、妻の指が止まる。
「……来たね」
「どうする?」
少しの沈黙。
妻は私の方を見る。
「正直に書いていい?」
私は一瞬迷うが、頷く。
「俺たちで決めたことだしね」
妻はゆっくりと打ち始める。
妊活のこと、夫である私の性癖のこと
全てを正直に書いた上で.....。
夫婦で話し合って決めました。
不安もありますが、お互い納得したうえで進めています。
送信。
数分後——
そうなんですね。しっかり向き合われていて、すごいと思います。
だからこそ、より慎重に関わらせていただけたらと思っています。
その一文に、二人とも少し黙る。
「……なんか、ちゃんと“私たちごと”として見てくれてる感じする」
妻の声は、どこか柔らかい。
私もゆっくり頷く。
「うん…」
安心と同時に、
少しずつ“現実になっていく感覚”が滲んでくる。
「ねえ」
「ん?」
「もう少し話してみて、大丈夫そうだったら…会ってみない?」
「……いいと思う」
妻が静かにそう言った瞬間、
何かが一歩進んだ気がした。
妻は小さく頷き、またスマホを見つめる。
その横顔には、不安とほんの少しの高揚と好奇心が混ざっていたようにも感じた。