「…。」
緊張か、あるいは興奮か…。
少し潤みを感じるその瞳は捉えることができたのだろうか。
同意したその瞬間、男の口元が僅かに緩んだことを。
そして男は、その言葉を想定していたかのようにカルテを取り出す。
そのカルテは果歩の夫、の情けなく垂れさがった肉棒のレントゲン、その下から出てきた。
『長島様:ED治療の全容』
男の言葉、そして現状をさらに強く意識させてくる、活字で書かれたEDの文字。
そして細かい文字でびっしりとそのカルテを埋め尽くしているのがはた目にもわかる。
「こちらのカルテに詳細なプログラムが記載されています。
これをそのまま貴女にお見せしてもかまわないのですが、少々理解に追いつかない部分が出てくる恐れがある。
早々に物怖じされ、プログラムに差し支えても困るでしょう。
段階的に私が指示、指導していく形を取っていこうと思います。
宜しいですね…?」
女の視線の先に揺れるカルテ。
ちらっと見えた活字には、「奉仕」「フェラチオ」「オナニー」「肛門」など、露骨に卑猥と取れる単語が飛び込んでくる。
僅かに読み取れるような速度でカルテをちらつかせたのも男の策略。
ある程度具体的にどういう展開になるのかを予期させながらも、もう後には引けない状況が自ら選択したことを自覚させるのだ。
「まずは五感へのアプローチになります。
視覚、嗅覚、味覚、触覚、聴覚…。
とはいえ、どの感覚で色濃く興奮を覚えるかは個人差があります。
それに準する行為を学び、実践していく。
その行為に果歩さんが馴染んでいけば、次は精神的な部分へのアプローチへと変わっていく。
簡単に言えば、どういう状況が、関係が興奮に繋がっていくのかを検討するパートだ。
大きくは2ステップあるとお考え下さい。」
ゆっくりとした口調は相変わらず。
淡々とした口ぶりは、話す内容にかかわらず一定。
「説明ばかりでは話が進みませんね、案ずるより産むが易し、あれこれ考えすぎず実践しながら話を進めていきましょう。
と言っても、どうすればいいかわからないでしょう。
プログラムを一言で言うと、まずは私を勃起させることです。
健常な成人男性を勃起させる要素は、必ずご主人にもつながっていく。
そうですね…、視覚。
私に何かを見せることで、勃起を促してみてください。
私があれこれ指示するのは簡単ですが、実際は貴女とご主人の二人で取り組む事。
貴女が主導でご主人を導かなければいけない瞬間は必ず来る。
さぁ、始めましょう。
見せることで、私を勃起させてみてください。」
前置きこそあれど、本題に入ればことは唐突と言わざるを得ない。
性的な内容で女を質問攻めにすることも考えの内にはあったが、それでは単に自分を晒すだけになる。
それよりも重要なのは、男を夫に見立てて行動させること。
初動にしては少し高めのハードルだが、クリアできれば「それが基準」になる。
何より、ここで引き返せるようなまともな思考を持つ女なら、どの道どこかで弊害を生む。
勝手に勘違いし、勝手に思い込み、勝手に信頼し、勝手に委ねる、緩んだ思考の持ち主でなければそもそも事は始まらないのだ。
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