タクシーを降りた瞬間、夜風が少し冷たくて、私は無意識に雄馬の腕に軽く寄りかかった。
エレベーターの中で二人きりになると、さっきまでの甘い声とは少し違う、掠れた声で囁いた。
「本当に来てくれて、嬉しい」
指が自然と雄馬の手に絡む。
ドアが閉まる狭い空間で、私は彼の胸に額を軽く押しつけるようにして、甘えるような仕草をした。
普段、会議室で冷徹に指示を飛ばす女上司の姿とは、まるで別人だった。
部屋の鍵を開ける手が、少し震えていた。
照明を落としたリビングは、シンプルで落ち着いた雰囲気。
ソファに雄馬を座らせると、私はキッチンへ行き、冷蔵庫からワインのボトルを取り出した。
「もう少しだけ……飲む? それとも……お水でいい?」
グラスを二つ持って戻りながら、私は彼の隣に腰を下ろした。
距離はもう、ほとんどゼロ。
スカートの裾が少し捲れ上がり、白い太ももが露わになるのも構わず、雄馬の顔を真正面から見つめる。
「今森くん。さっきからずっと、変な顔してる」
くすっと小さく笑って、グラスを彼に渡しながら、自分のグラスを軽く傾ける。
ワインの赤が唇を濡らす。
「嫌々付き合ってくれたと思ってたのに……
こんなに素直に私の家まで来てくれるなんて。
ふふ、意外と可愛いところあるのね」
私はグラスを置くと、ゆっくりと雄馬のネクタイに指をかけ、緩めながら体を寄せた。
息がかかるほどの距離で、目を細めて囁く。
「今日は、帰らないくてもいいよね。
朝まで、ゆっくりしていって」
唇が、雄馬の耳たぶに軽く触れるくらい近づけて。
「どうしたの? そんなに固くなって。
女の家に来たくらいで、緊張してるの?」
私は自分の言葉に自分で頰を熱くしながらも、抑えきれない衝動で彼の胸に手を置いた。
心臓の鼓動が、速くなっているのが自分でもわかった。
「雄馬くん……」
名前を呼ぶ声が、甘く溶けるように低くなる。
「キス……しても、いい?」
その瞬間、私は目を閉じて、わずかに唇を開けた。
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