日付が変わる少し前から、何度も久美子の家のベランダの前を通りかかっていた。どのタイミングで下着が吊るされるのか、そもそも吊るされない可能性もあるが、男の感覚は後者を完全に否定していた。ともすればどのタイミングかだけ…。(そろそろ帰ってくる頃かな…?)雅美からの連絡を受け、早々にメッセージを準備した男はドアノブに袋をひっかけていた。言い知れぬ非現実的な刺激に心を強引に昂らされたのだろうか。(まさか雅美を遠ざけようとまでするとはね…。)近くからベランダの様子を伺いつつ、雅美のメッセージを見返している男の口元は緩んで見えた。手に取るようにわかる久美子の焦り、不安、必死さ…。よほどこの刺激の虜となったのだろうか。たったの二日でこの変わりよう。おそらく過去でも何らかの変態行為に身を委ねていた、あるいは強いられた可能性を示唆しているように感じた。しかし、久美子自身の懸念、とは裏腹に事実は少し異なっていた。『大丈夫…心配しなくても、ちゃんと新しい玩具を提供してくれたんだ…。捨てないし、ちゃんとこれからも遊んであげるよ…。』スマホで手早くメッセージを送る男。送信先は雅美。そう…、久美子もある程度想像できていただろう、男と雅美は繋がっていた。しかしそれ以上に、久美子を下着泥棒と引き合わせたのも雅美の意志であり、男からの指示だった。結果から言えば、雅美自身も下着泥棒から飽きられないために、捨てられないために新しいネタを提供した…ということ。自分で楽しんでもらうために生贄を捧げた雅美。自分で楽しむ為に、別の対象を排除しようとした久美子。手段こそ違えど、卑劣で卑猥な男に翻弄されたい雌としての行動であることに変わりはなかった。とはいえ、そんな事実を久美子は知るわけもない。できるだけ雅美から遠ざけたい、自分に引き寄せたいという気持ちを利用し、従い続ける、男を悦ばせ続ける、雅美よりも価値のある雌であろうと思わせられれば…。男の目論見はそうだった。自分のところにいない時は、雅美のところにいるんだ…。そういう先入観も擦り付けることができれば、ある意味で週4日以上の泥棒との遭遇で、雅美より価値があると思えるのだろうか…。思考回路が狂った雌で遊ぶのはとてもじゃないがやめられない。------予想通り、久美子は下着を吊るした。それも雅美からのメッセージを受けて程ない時間。真っすぐ二人が落ち合った場所から帰宅したとしても、帰宅後すぐだと思えるほどの時間だ。「ククッ…よっぽど欲しいんだな…。下着を…ぱんつをどろどろに汚してくれる精液が…。」メッセージ通り男は日付が変わるころを見極めてベランダへとやってくる。無音…、足音など立てるわけがない。しかし、完全に音を立てずに下着を外して持ち去ることは至難の業とも言える。しかも今夜は宣言していた、時間まで指定して。すっとベランダに降り立つも、カーテンは閉まったままのよう。もちろんカーテンを開けはなって待っているとは思ってはいなかったが…。(でも…来るとわかっているなら…見たいだろ…?)こちらからカーテンの隙間さえ見えないと言う事は、その角度ではこちらを見ることができないと言う事。見たいなら自分でカーテンを開くしかない。男はあらかじめ用意していた少し長めの棒を手にすると、窓のレールにそっと置く。
...省略されました。