目の前を歩く男性達に好奇な視線を浴びせられてるとはつゆ知らず…時計をチラチラと見ながら俊幸の到着を待ち続ける…陽子。(あれ?!もう時間過ぎてますけど…)
約束時間を少し過ぎた頃、俊幸は陽子の目の前に現れた。
『もう…少しだけど遅刻は遅刻だからね…
うんっ…空いた、空いた…
遅刻した人は何を食べさせてくれるのかな?!』
俊幸に甘えるように腕に絡みつき顔を覗き込みながら答える。
(そう言えば2人きりで外出するのも久しぶりだもんね…)
『えっ…いきなりバーへ?!まぁ、食べる物があるなら別に構わないけど…』
(バーって…ハプニングバーだよね?!)美味しい物を食べて満足して、あわよくばそこには行かないとさえ考えていた陽子に急に緊張が走り…俊幸の腕に絡めた手に力が入る。
『ねぇ…俊幸さん…本当に食べる物とかあるの?!
本当に行くの?!』
陽子は最後の抗いを見せるも、俊幸は真剣な眼差しで繁華街を抜けたとあるマンションへと陽子を誘ってゆく。
『ここ…?!』
少し不安気だった陽子の意表をつき普通に立派なマンションの玄関先に到着した。俊幸がインターフォンを鳴らすと…セクシーなバーテンの衣装を身にまとった女性が受付をしてくれた。
『こんばんは…初めての方ですか?!身分証の提示お願いします。』
『電話した…島田です。』少し興奮気味に答える…俊幸。
『お待ちしておりました。ご夫婦なんですね。最近…ご夫婦で楽しまれるお客様が多いもので…』
2人を頭の先からつま先までチラチラと見ながら軽く微笑むと…
『島田様…奥様素晴らしいスタイルをしてますし楽しんで頂けると思いますよ。
ご来店頂いてるお客様は身分もはっきりしていて安心して遊べますから…
さぁ…既に先客のご夫婦様、単独男性様も多数ありなんで…
こちらにどうぞ…』
マンションの薄暗い長い廊下を抜けると…広いリビングにはバーカウンター…広場のようになった中央にはランダムにソファーが並べられていた。2人はそのソファー席の1つを勧められ借りて来た猫のように腰掛けるのであった。薄暗い店内に未だ目が慣れずうっすらと人影が確認出来る程度…
陽子は不安気に俊幸の手をしっかりと握り…『と、俊幸さん…?!』(本当にハプニングバーに来ちゃったけど…私…?!)握った手が自然と汗ばむ…陽子。
妻の了承を得ると歩き出す。週末のターミナルビルの前には大勢の人々が行き交い賑わう中、私達夫婦だけが淫らな想いを抱いて歩いているようで気恥ずかしく感じる。『そんな事…誰にも気づかれる訳はないのに…。』一人心の中で苦笑いを浮かべ、横を俯きながら歩く妻を見つめる。「こんなに綺麗で清楚な陽子を…これからハプニングバーに連れて行こうなんて…。」不意に罪悪感のようなものが芽生えるものの、それでも思い詰めるほどに考え抜いて決めた今日これからの事…。妻を自分たった一人のものにしておかなければと言う常識のようなものが膨れ上がった欲望に敵うはずもなかった。せめてもの罪ほろぼしと自分自身に言い聞かせるように隣を歩く妻の腰に腕を回し、自らへと引き寄せる。『何年ぶりだろう…こんな風に歩くのは…。』結婚前には人目を気にすることのないデートの時は、今みたいに妻をいたわり愛を表すように接していたはず…。しかしながら妻がそこに居る事が当たり前だと感じるようになったのはいつの頃だっただろう…。最愛の妻はいつの間にか空気のような存在に変わってしまっていた。いや…私自身が妻を空気のような存在に変えてしまっていたのだ…。それがあの日の居酒屋の出来事で、妻への愛情を再認識させられ、それだけではなく歪んだ欲望までも心の中に宿してしまうことになるなんて…。無言で歩く妻の腰に回した手が妻の些細な変化を私に伝えてくる。『震えてる…?』僅かに伝わる妻の震え。申し訳なさを感じながらも、今日これからの事を無かったことにしようと言い出すことはできなかった。「もうすぐ…だから…。」高木に教えられたハプニングバーは、都会のド真ん中に立つ高級マンションの一室にあった。場末の薄汚れた店であったなら計画を中止する事もできたかもしれない。「こっ…ここみたいだな…。」妻に向かって言った言葉なのか、自分自身への言葉だったのか…僅かに震える声色が緊張している事を透かし見られてしまいそうで、思わず腰に回した腕を解き、エントランスへと向かう。「1524…。」部屋番号を呟きながらインターホンを操作する。「はい…。」てっきり男が対応してくれるものだと思っていた考えを裏切り、若い女の声が聞こえる。「ご連絡いたしました…島田と申します…。」高木に言われて連絡を入れておいた。どうやらハプニングバーと言うヤツは合法的な店舗ではないようで、摘発を逃れる為に知る人ぞ知ると言った立ち位置のようだった。予約通りの者から確認したいのか、何かを警戒してなのか…念入りに本人確認が為された後、ようやくエントランスの自動ドアが開いた…。「いいね…?行くよ…。」最後に妻の意思確認をしながらも、その答えを聞かぬままにマンションの中へと足を踏み入れる。『いよいよか…。俺の目の前で…淫らな視線を浴びせられる陽子を見られるんだ…。』エレベーターで15階へ上がり、示された部屋の前に立つと再びインターホンを押す。「島田です…。」その声を確認すると静かに扉が開き、薄暗いダウンライトが照らす室内へと入る。「高木様からご紹介でしたね…。こういったお店は初めてでいらっしゃいますか…?」
...省略されました。
私の手を握る妻の手からも妻の緊張が伝わってくる。極度の緊張も無理はない。夫婦の絆の為と言ったところで、ここまで着いてきてくれる妻などそうは居ないだろう…。『きっと…凄く無理をしているはず…。』そうは思ってみても、正直なところ昂りは増して何かを期待している自分がいる。「ん…?いや…そんなことは…。」カクテルを運んできた女性の胸元が無防備に露わになった様を唖然として見つめていたのは事実。しかし、俊幸一筋であろう妻を嫉妬させようとする意図が無かったとは言えなかった。『少しは妬いてくれたのかな…?嫉妬はある意味スパイスになるからな…。』手のひらを抓る妻の仕草がそれを物語っていた。そんな互いの想いを打ち消すように更なる緊張が走る。見学のはずだったこの場に他人が同席するという…。この薄暗がりではよほど近寄らないと何も見えないだろう。見学とは言ってもこの場の雰囲気を感じ取る事しかできない。それはそれで初めての私達夫婦にとってちょうど良いのかもしれない。しかし…俊幸は更なる刺激を求めてしまっていた…。「ど…どうも…。」紳士的に挨拶をするオトコを目の前に少し緊張気味に言葉を交わす。こういった場に慣れているのだろう…妻を褒める事を怠らない辺り、社交性に優れているのだろうか…。『しかし…この声色…。どこかで聞いたことがあるような…。』記憶のどこかに引っ掛かっているような男の声…。ハッキリとした記憶ではない為に判断できない。『どこかで…確かに…。似た声なだけか…。でも…わからない…。』そんな俊幸の歯案を他所に男の饒舌は止まらない。妻を褒め妻から笑みを勝ち取るように引き出す話力。一瞬の隙を見せてしまった妻につけ込むように、男の本領が発揮し始まる。「解放…そうですね…。」男の言葉に気持ちの入ってないような曖昧な答えをしてみる。その言葉を聞いて妻の様子は先程の笑みは消え俯いて恥ずかしそうに…。『そりゃそうだろう…面と向かってエッチだろうなんて言われたことも無いんだから…。』清楚で真面目な妻には少し刺激が強すぎるかもしれない。しかしこの最初の壁を乗り越えなければ次はない…。『焦るな…焦っても結果は伴わない…。せっかくここまで連れてくる事ができたんだ…。次に繋がるように仕向けないと…。』暗闇に慣れてきた目が、周りの状況を克明に映しだす。肩に手を回しゆっくりと酒を楽しむ男女もいれば、男達数人に囲まれるように談笑している女性。中には胸元をはだけ柔らかな胸の膨らみを晒し、スカートも捲れ上がり細く白い脚が物欲しげに蠢く様までも見えてきた…。男に促されて周りに視線を向ける私達夫婦。呆気にとられていたのは私だけではなかったようで、妻も他人の秘め事を食い入るように見つめていた。その頬は薄らと明るく染まっているようにも思えた。『陽子は…他人の行為を見る事なんて初めてだろう…。とは言っても俺だって生で見るのは初めてだけど…。』俊幸の手を握る妻の手は更に汗ばみ、時折キュッキュッと強く握ってきたりもする…。「あそこの女性…大胆だな…。周りを男達に囲まれてるのに…あんなに服をはだけて…。」妻を抱き寄せるように引き寄せ、耳元で囁く言葉と共に吐き出される吐息が耳朶を擽るように…。「陽子は…何ができるって…言ってたよね…?」あの夜の妻の言葉を思い出させるように呟いた。
...省略されました。