わたくしが、あの方との間に、何事をも望んではゐなかつた、と申しましたなら、それは偽りでございませう。
あの方には、たしかに、女の心を知らず識らずのうちに惹き寄せる、何とも名状しがたいものがございました。
それを慕情と申すべきか、或ひはただ一時の迷ひと申すべきか、今となつては、わたくし自身にも分りませぬ。
ただ、夫ある身のわたくしが、他の殿方に心を許すなど、もとよりあるまじきことでございました。
操ある女のなすべきことではない。
これは恋などではない、ただの誘惑なのだ――さう幾度となく、わが心を戒めたことでございませう。
されど、人の理といふものは、情の前には、なんと脆いものでございませう。
心では否と申してをりますのに、身の裡にいつしか燈つた熱ばかりは、どうしても鎮めることが叶ひませんでした。
あの方の傍らにありますれば、胸は騒ぎ、頬は熱を帯び、ただ袖の触れ合ふことさへ、わたくしには恐ろしく思はれました。
恐ろしい――さう思ひながら、その恐ろしさから逃れようとはしなかつたのでございます。
いいえ。
逃れたくなかつた、と申す方が、ほんたうなのでございませう。
そして、とうとう、わたくしは道ならぬことを致しました。
それを過ちと申すならば、まことにその通りでございます。
夫に背き、己が操に背き、女として守るべきものを自ら踏み越えたのでございますから。
されど――
あの夜のことを、ただ悔恨の二字のみをもつて語れと仰せられましたなら、わたくしには、それが出来ませぬ。
あれは罪でございました。
許されぬ、道ならぬ罪でございました。
けれども、その罪のうちに、わたくしは、生れて初めて知つた甘美を見出してしまつたのでございます。
それゆゑにこそ、あれは恐ろしく、
また、それゆゑにこそ、
忘れがたいのでございます。
では次回!エッチな話していきましょう☺️
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