2010/09/30 20:27:59
ファイル8
脱衣場から宴会場にシーンが替わる、ここ2年に比べ宴会場が狭い、ステー
ジも無かった。
上座で例の本部長の挨拶が始まる、彼の話を聞くのは既に三回目だ。
続いて乾杯、いつもの歓談のシーンとお決まり流れだ。
妻やおばちゃん達、それにカメラマンは何時も一番下座に居る。
例年乾杯の後 しばらくすると皆、お酌に回る為上座へと席を立つのだが
この年は歩くのも容易ではない程のすし詰め状態の為 下っ端には好都合
だった筈だ。
しばらくして司会が 上座のマイクで話し出した。
「今年は会場の都合で 申し訳ありませんが、恒例の出し物が 出来ませ
ん」
会場は「えぇ~!!!!」と大ブーイング
「つきましては 本部長からの提案で営業所対抗飲み比べ対決!を実施する
事に決まりました」
「ルールは まず営業所ごとに6人を選抜してもらいます。」
「そして くじで対戦する営業所を決めます。」
「各チームは4人づつを出し、一対一で焼酎をショットグラスで飲んでもらい
ます。一人目がギブアップしたら二人目の人に交代し 先に4人目がギブアッ
プした方が負けです。」
「勝った3チームには金一封を賭けて 優勝決定戦をしてもらいます。」
「チームは6人ですから、一回戦で使った4人の内、2人は次の試合入れ替える
事が出来ます。営業所の威信にかけて死力尽くしてください。」
と告げられると会場がどよめく、(流石は体育会系、今時こんなゲームに異
常にテンションが上がっている)。
各営業所があちこちで集まりだした、カメラがチームのミーティングを映
し出す、どのチームも甲子園にでも来たかの様な真剣そのものだった。
シーンは飛び、各チームの戦いをダイジェスト的に撮ってあった。
女性では唯一妻が参加している。
妻はかなり飲める方なので不思議はなかった。
シーンは一気に決勝戦に、
妻のチームは一回戦で負けているので映っていない。
その後 決勝が終了し、金一封が本部長から授与された直後、
司会がマイクで「一回戦で敗退した3チームに、罰ゲームを賭けて再度決戦し
てもらう事に 今 決まりました」と告げられた。
妻の営業所を含む、3チームのサドンデスマッチが始まった。
映像はギブアップのシーンだけをダイジェスト的に映している、
その時
ショットグラスが置かれた お膳の前に妻が座った。
「木佐!アンカーなんだから絶対負けんな!俺、肛門見せるのなんか、ごめ
んだからな!!!」と気合を入れた。
(え?肛門)私が思った瞬間、妻も「え?肛門て、何ですか?」
と素に戻った顔で聞き返す、「おまえ聞いて無かったのか、負けたら裸で人
間ピラミッドなんだよ!判ったら負けんな!!」とチームメイトが気合を入
れている。
妻はアンカー、対戦相手は両方2人目だった。
妻はあまり愚痴もこぼさず、ゲームについた。
それもその筈、妻の圧倒的な強さに、他の2チームは一気に二人抜きされた。
しかし妻の表情に余裕は感じられない、全チームアンカーが座ったところ
で、
お膳の上に 次のショットグラスが3つ並んだ、アンカー3人が(あ!)と
いう顔をした。
妻のグラスに白い物が混じっている、司会が「木佐さんリタイヤします
か?」
と尋ねる。
短い沈黙の後、妻は溜息をつきながらも 白く濁ったグラスを握り閉め、
一気に飲み干した。
「オ~」と拍手が起こる。
全員が飲み干し 次のグラスが並ぶ、また妻のグラスは濁っている。
今度は明らかに さっきより濃度が濃い、恐らく半分位は精子だと見て取れ
る。
小さなショットグラスの飲み口は 精液でドロドロの状態だが、妻も意地を
見せる。
グラスを手に取るとグッと飲み干した。
更に会場が沸く。
流石に喉越しが悪いのか、タンが絡んだ時の様な仕草をしている。
残りの二人はらくらくクリアー、妻にハンデが重く圧し掛かる。
三人の前に次のグラスが並んだ時、会場の少し沈黙しかけた。
妻のグラスにはどう見ても100%精子の飲み物が置かれた。
流石に妻も躊躇している、しかしなぜか妻の目は勝負を捨てていない
鋭い眼差しでグラスを凝視している。
なぜこんな事に真剣なのか不可解だった。
(肛門を見られる位なら、たくさん精子飲んだ方がマシ!)なんて人居るわ
けないし、その逆でも同じ事だ。
この会社には社員にしか解らない、理解不能な情熱や価値観があるのかも知
れない。
妻が決心してグラスを握る、真剣な顔で10人分は有ろうかと思う精子を飲み
込む、カメラは妻の一部始終を捉えていた。
飲み干してなおも、精子のこびり付くグラスを お膳に置いた妻が、呼吸を
整えている。
司会が「クリアー!」を宣言した所で妻が手で口を押さえて会場から走り去
った。
その瞬間司会が 大きく手を交差させ、「敗者、○○営業所」と」宣言す
る。
「それでは○○のみなさん、罰ゲームの準備お願いします。」と非情にも追
い討ちをかける。
妻はまだ戻って来ていない、恐らくトイレで嗚咽しているに違いない。
会場に残された妻のチーム5人はうなだれながら、廊下に出て行った。
場面には 幹事達がピラミッドのスペースを確保する為、忙しく働く姿が映
っている。
司会が廊下からもどって来て へらへらしながら「準備出来ました?」と
会場内のスタッフに確認をとっている。
司会は準備が整った事を確認すると、再びマイクを握り、「○○営業所のみ
なさん、お願いします!」とコールした。
負け組の男性社員たちがぞろぞろ入って来た、帯をしていないが浴衣は来て
いる、列の最後にと妻が居た。
私はてっきり、具合が悪くなってリタイヤしたのかと思っていたのだが、
甘かった・・。
会場内の全員が集まって来る(推定80人以上)お膳を片づけた壁際のスペー
スに座布団が敷き詰められている。
ギャラリーがその座布団を囲む、 カメラマンは最優先でいい場所に居る様
だ。
DVDを観ている私も 口がカラカラに乾くほど緊張する。
ピラミッドという事は 最上段の一人は間違いなく妻の筈だ。
座布団の前に並んだ6人が皆に背を向けた。
いよいよ始まってしまう・・・・・・