早朝の静寂が支配する、荒川沿いの広大な河川敷。
まだ夜の冷気がアスファルトに低く漂う午前5時、私は愛車を誰もいない駐車場へと滑り込ませました。
フロントガラス越しに見えるのは、どこまでも続く土手のシルエットと、朝靄に煙る野球場。人影ひとつないその光景を確認した瞬間、私の心臓は、走り出す前から激しく警鐘を鳴らし始めました。
私は車内で、あらかじめ用意していた「それ」に履き替えました。
一見すればただの白いスポーツレギンス。
その白いレギンスは、もはや衣服としての体をなしていない、肉体を辱めるためだけに誂えられた「装置」のようでした。
まず目を引くのは、そのあまりにも頼りない生地の薄さです。混じり気のない純白でありながら、ひとたび肌に密着すれば、吸い付くような質感で肉体のディテールを際立たせます。下着を一切許さないその薄さは、私の体温を瞬時に外気へと逃がし、同時に、秘部の瑞々しい曲線や、複雑に重なり合う粘膜の震えまでもが、薄い膜一枚を隔てて今にも透けて見えてしまいそうな、暴力的なまでの生々しさを湛えています。
そして、サイドを大胆に貫く「網目」の意匠。
腰から太ももにかけて、左右の肉を無理やり繋ぎ止めるように編み上げられたそのレースアップは、一歩踏み出すたびに私の動きに合わせて歪み、隙間から剥き出しの白い肌を「菱形」に切り取って、無防備に、執拗に覗かせます。編み上げの間から溢れ出す柔らかな肉感は、見る者に「その紐を解けば、一瞬ですべてが崩壊する」という、破滅的な予感を抱かせずにはいられません。
何より淫靡なのは、その極限まで削ぎ落とされたウエストのラインです。
「超ローライズ」と呼ぶにはあまりに危うい、腰の骨のさらに下、恥骨の際ギリギリを這うようなカッティング。おへその遥か下で踏みとどまっているフロントに対し、背後へと回れば、そこには何の慈悲も残されていません。
前かがみの姿勢をとれば、ウエストの縁は無慈悲に滑り落ち、お尻の割れ目の「始まり」から、その奥深くの闇へと繋がる曲線までを、白日の下にさらけ出します。そこには、朝靄に濡れた産毛の質感さえも隠す術はなく、走るたびにお尻の肉が左右に分かたれ、中心の深い溝が冷たい朝の空気を「ゴクリ」と飲み込む音が聞こえてきそうなほど、無防備で、無垢なエロティシズムが凝縮されていました。
白という清潔な色彩が、その過激な露出と、サイドの網目から覗く肉の「生」の質感によって、逆に生理的な嫌らしさを引き立てる。このレギンスを纏って走る私は、清廉な朝の景色の中で、自らの淫らな記号をこれ以上ないほど雄弁に語り散らしている・・・そんな倒錯した快感に、意識が遠のくのを感じていました。
(誰もいない。今なら、私とこの風だけの世界・・・)
私は意を決して、車のドアを開けました。
「ひゃっ・・・! あ、ぁっ・・・」
車内の生温い空気から一転、黎明の鋭い冷気が、極薄の白い生地を易々と透過して私の肌を蹂躙します。ジャージを脱ぎ捨て、あの「白」一枚になった瞬間、私はこの広大な河川敷公園に捧げられた、一輪の淫らな供物へと成り下がったのです。
地面を蹴り出すたび、レギンスがお尻の肉を締め付け、左右に分かたれた割れ目の深淵に、鋭い風が「ズブッ」と直接突き刺さる。その氷のような冷たさが、逆に腰の奥底に澱んでいたドロドロとした熱を、一気に沸点まで引き上げました。
(ああ、とろけちゃう・・・このまま、風に溶かされてしまいそう・・・)
サイドの網目から入り込む空気が、私の体温を奪う代わりに、耐え難いほどの背徳感を肉体に刻みつけていく。極限まで低いウエストラインは、走る衝撃でさらに数ミリずつ滑り落ち、お尻の割れ目はもはや隠すことを放棄して、朝靄の中で生々しいV字の溝を晒しています。
それだけではありません。薄すぎる生地の下で、外気に晒された乳首は羞恥と冷感で石のように硬く尖り、歩を進める振動でレギンスの内側をチリチリと擦り上げます。
(私、今、とんでもなく汚い格好をしてる。でも、それがこんなに愛おしくて、誇らしいなんて・・・っ)
誰もいない駐車場を抜け、私は逃げ込むように公衆トイレの建物へと滑り込みました。
無機質なコンクリートの壁に囲まれた女子トイレ。個室の鍵を閉めた瞬間、外の世界から切り離された安堵感と、先ほどまでの「晒されていた記憶」が混ざり合い、私の理性は音を立てて崩壊しました。
狭い空間に、自分の荒い呼吸と、ドクドクと脈打つ心臓の音が反響します。
震える手でレギンスに右手を滑り込ませました。
「ぁ、あぁっ・・・! あつい、ここだけ、狂ったみたいに・・・っ!」
氷のように冷え切った指先が、愛液でドロドロになった秘部の粘膜に触れた瞬間、あまりの温度差に脳が真っ白に染まりました。レギンスを脱ぐことすらもどかしく、白い生地を内側から押し広げるようにして、中指を一番奥の弱点へと突き立てます。
「クチュッ、ズブッ・・・はぁっ、はぁっ、んんっ・・・!」
指を抜き差しするたびに、薄い白の生地に、内側からじわじわと濃い「シミ」が広がっていく。自分の蜜で変色していくそのレギンスを見つめながら、私は狂ったように腰を跳ねさせました。サイドの網目からは、私の指が肉を蹂躙するたびに「グチュ、グチュ」という淫らな破壊音が漏れ出し、個室の壁に跳ね返って私の耳を汚します。
もし今、誰かがトイレに入ってきたら?
この音を聞きつけ、ドアの隙間から、白いレギンスに指を根元まで飲み込ませて、目を剥き出しにして喘ぐ私を見つけたら?
(いい・・・見つかってもいい。このまま、この不潔な場所で、誰にも知られず壊されたい・・・っ!)
お尻の割れ目からは冷たい汗が伝い落ち、前方は自分の熱い蜜で溢れかえっている。その矛盾した感覚の中で、私は最後の力を振り絞り、クリを押し潰すように執拗にグリグリと回し続けました。
「んああああぁっ・・・!!」
声にならない叫びが、個室の天井へと吸い込まれていく。
激しい絶頂の余韻で、私は汚れきったレギンスを穿いたまま、しばらくの間、冷たい便座の横で崩れ落ちていました。
外からは、遠くで散歩をする人の気配がし始めています。私は、まだ震えが止まらない手でレギンスの乱れを整えました。
個室の重い扉を一枚隔てた向こう側で、朝の空気が動き始めていました。
「カラン、カラン・・・」
自転車のベルの音、そして遠くの土手から聞こえる、誰かの規則正しい足音。
(やだ・・・人がきた。もう、外には人がいるんだ・・・)
その瞬間、先ほどまでの陶酔感は一気に冷ややかな「恐怖」と、取り返しのつかないことをしてしまったという「後悔」に塗り替えられました。私は震える手で、自らの蜜でぐっしょりと色を変えてしまったレギンスのフロントに触れました。
純白だったはずの薄い生地は、一番隠さなければならない場所だけが、内側からの熱い愛液を吸い込んで、重く、そして透けるような灰色に変色しています。
(こんな、一目で『何をしたか』わかるような格好で、あの駐車場まで戻らなきゃいけないの・・・?)
ジャージは、遥か遠くの車の中。今の私を隠してくれるものは、もうどこにもありません。
立ち上がるたびに、濡れた生地が粘膜に「ペチャリ」と冷たく吸い付き、歩く振動でお尻の割れ目から朝の風が容赦なく入り込んでくる。
(恥ずかしい・・・死ぬほど恥ずかしい。もし、さっきの散歩の人がこっちに来たら。もし、駐車場の隣に誰かの車が停まっていたら・・・)
一歩、トイレの出口へ向かうごとに、足が鉛のように重くなります。お尻の割れ目まで晒し、股間を自分の蜜で汚したまま、朝陽の下を歩く。その事実が、自分を「異常者」だと突きつけてくるようで、喉の奥がヒリヒリと焼け付くような痛みに支配されました。
それでも、私は行かなければなりません。
私は個室の鍵を、震える指先でゆっくりと開けました。鏡に映る自分の顔は、羞恥と恐怖、そして隠しきれない背徳の火照りで、信じられないほど赤く、淫らに歪んでいました。
(戻るしかない。この汚れきった『白』を、世界に晒しながら・・・)
私は意を決して、まだ人の気配が薄い廊下へ、そして残酷なほど明るくなり始めた外の世界へと、逃げるように足を踏み出したのです。
駐車場へ続く道の中ほどまで来た時でした。
(・・・! 誰かくる・・・っ)
前方、カーブの向こう側から「シャッ、シャッ」という、軽快なランニングシューズがアスファルトを叩く音が聞こえてきました。まだ距離はありますが、確実にこちらへ向かってきています。
私は心臓が口から飛び出しそうな衝撃を受け、咄嗟に道沿いにある大きな木の陰へと飛び込みました。
木肌に背中を押し当て、息を殺します。しかし、激しい自慰と疾走の直後である私の体は、酸素を求めて悲鳴を上げていました。
「はぁっ、はぁっ、んぅ・・・っ!」
喉の奥がカラカラに乾き、唾液を飲み込むことすら困難なほど、口の中は砂を噛んだような不快感に満ちています。肺が激しく上下するたびに、超ローライズのレギンスがズレ、お尻の割れ目に冷たい木の幹の感触が直接触れました。
(だめ、静かにしなきゃ・・・でも、呼吸が止まらない。喉が、焼けるように痛い・・・!)
足音は刻一刻と近づいてきます。
今の私は、股間を自分の蜜でどろどろに汚し、お尻を半分以上さらけ出した、正視に耐えない変態的な姿。もし、この木の陰を覗き込まれたら、私の人生はそこで終わる。その恐怖が、狂おしいほどの緊張となって全身の筋肉を硬直させました。
すぐ横を、一人のランナーが通り過ぎていきます。
風を切る音、その人の規則正しい呼吸音。
私は、自分の「ヒューッ、ヒューッ」という過呼吸気味の悲鳴のような吐息を、震える手で口を覆い、必死に押し殺しました。指先に残る自分の匂いと、極限の緊張からくる酸っぱい脂汗の匂いが混ざり合い、目眩がするほどの羞恥が脳を焼きます。
(お願い、気づかないで。見ないで。でも・・・もし見つかったら、私はどうなってしまうの・・・?)
足音が遠ざかり、再び公園に静寂が戻るまでの数分間が、永遠の地獄のように感じられました。緊張で指先は酸欠のようにピリピリと痺れ、喉の渇きは極限に達し、呼吸を隠すための絶望的な努力が、私の体力を根こそぎ奪い去っていきました。
ようやく人影が見えなくなった時、私はその場にへなへなと崩れ落ちそうになるのを、震える膝で必死に堪えました。車までは、あと数十メートル。
木陰の湿った土の匂いと、冷え切った空気。私はもはや立ち上がって歩く気力すら失い、本能に突き動かされるようにして、駐車場へ続く植え込みの影を這いつくばりながら進みました。
手のひらに砂利が食い込み、四つん這いになるたびに、超ローライズのレギンスは無慈悲なほどにずり落ちます。お尻の割れ目は完全に露出し、冷たい外気が容赦なくその深淵へと吹き抜けていく。自分の蜜で濡れ、重く変色した股間の生地が、地面との距離を縮めるたびに「ペチャリ」と音を立てて内腿に吸い付き、その不潔な感触に、私は羞恥で頭がおかしくなりそうでした。
(あと少し・・・あと少しで、あの車という檻に戻れる・・・っ)
その時です。背後から「シャーッ」という、細いタイヤがアスファルトを高速で切り裂く不穏な音が迫ってきました。
(嘘、また誰か・・・!)
スポーツタイプの自転車です。
逃げる場所もなく、私は植え込みの低い影に顔を伏せ、祈るような気持ちで体を硬直させました。自転車は私のわずか数メートル横を、凄まじい速度で通り過ぎていきます。
「カチ、カチカチッ」
変速機が噛み合う乾いた金属音。サイクリストのカラフルなウェアが一瞬だけ視界の端をかすめました。もし、彼がふと視線を落としていたら。この生い茂る草むらの中に、真っ白なレギンスをドロドロに汚し、お尻を剥き出しにして這いつくばっている女の姿を、その網膜に焼き付けていたはずです。
(見られたかもしれない。あの高さからなら、私のこの無様な後ろ姿が丸見えだったはず・・・!)
心臓が喉元までせり上がり、喉の渇きはもはや痛みとなって私を襲います。乱れる呼吸を押し殺すたび、肺の奥がヒリヒリと焼け、脂汗が目に入って視界を白く滲ませました。
自転車の音が遠ざかった後も、私はしばらく動くことができませんでした。
四つん這いのまま、自分の吐く熱い息が地面の枯れ葉を揺らすのを見つめ、自分がどれほど異常で、壊れた存在になってしまったのかを痛感しました。
這いつくばったせいで、白いレギンスの膝やサイドの網目には泥がこびり付き、それはまるで、野外で誰かに手酷く蹂躙された後のような、凄惨で淫らな姿。
私は乾ききった喉を震わせ、最後の一歩を振り絞るようにして、朝日を反射して鈍く光る愛車の方へと、這い進んでいったのです。
ようやく、指先が冷たいドアノブに触れました。鍵を開け、滑り込むようにして車内へ転がり込むと、私は鍵を閉めるのももどかしく、すべての窓のカーテンを、1ミリの隙間もないよう必死の思いで閉め切りました。
(助かった・・・戻ってこれた・・・っ!)
外はもう完全に朝の光に満たされているというのに、密閉された車内は、私の吐き出す熱い呼気と、逃げ場を失った雌の匂いで、瞬く間にじっとりと湿った「熱帯の檻」へと変貌していきます。
私は運転席のシートを深く倒し、仰向けに横たわりました。
泥と脂汗、そして自分の蜜で汚れきった白いレギンス。サイドの網目から覗く肌は赤く火照り、超ローライズのウエストからは、先ほどまで外気に晒されていたお尻の割れ目が、今度は本革シートの冷たさに驚いてビクンと跳ねます。
(あんなに怖かったのに・・・人が、外の空気が、あんなに恐ろしかったのに・・・!)
喉の渇きは極限に達しているのに、下腹部の疼きはさらに激しさを増していました。外の世界で「死」を意識するほどの緊張感に晒された反動が、今、暴力的なまでの快楽の濁流となって押し寄せてきたのです。
もはや、泥と蜜にまみれたレギンスを身に着けていることさえ、皮膚を焦がすような苛立ちに変わっていました。私は震える手で、ウエストの縁を掴むと、力任せにそれを引きずり下ろしました。
「あ、ぁっ・・・んんっ・・・!」
サイドの網目が肌に食い込んでいた跡が、ミミズ腫れのように赤く浮き上がっています。お尻の割れ目から、股間の奥深くまで、自らの熱い愛液と脂汗でドロドロになったレギンスを脱ぎ捨てた瞬間、車内の澱んだ熱気が剥き出しの肉体に吸い付きました。
一糸纏わぬ全裸になった私は、陽を吸って生温かくなった黒い革シートの上で、ただの「発情した肉塊」へと成り下がっていました。
(怖い・・・あんなに怖かったのに、どうしてこんなに身体が疼くの・・・?)
喉の渇きは極限に達し、呼吸をするたびに肺の奥がヒリヒリと痛む。けれど、その「生きている」という生々しい苦痛が、先ほど外の世界で味わった「死の恐怖」と結びつき、私の官能を狂わせる劇薬となりました。
私は本革のシートに深く背中を預け、震える指先を、まずは自分の胸へと這わせました。朝の光をカーテン越しに浴び、石のように硬く、はち切れんばかりに尖りきった乳首。それを指先で押し潰し、火が出るほどに執拗に回し続けます。
「ヒューッ、ヒューッ・・・あ、ああぁっ・・・!」
過呼吸の悲鳴が、密閉された車内で反響します。私は開いたままのサンルーフから見える、ビルや鉄塔の無機質な先端を見上げながら、右手の三本の指を、愛液で洪水のように溢れかえった割れ目へと、根元まで一気に突き立てました。
「ヌチュッ、ズブゥッ・・・! はぁっ、はぁっ・・・!!」
指が粘膜を強引に押し広げる、生々しく破壊的な音がフロアマットにまで響き渡る。カーテンのすぐ向こう側では、散歩をする人々や、仕事へ向かう車が通り過ぎていく。その「日常」のすぐ隣で、全裸の女が理性のタガを外してのたうち回っている。その圧倒的な背徳感が、私の腰を痙攣に近い速度で跳ね上げさせました。
指を抜き差しするたびに、熱い蜜が「ベチャッ、ベチャッ」と革シートを汚し、飛沫が私の腹部まで跳ね上がります。お尻の割れ目はシートに吸い付き、腰を浮かすたびに粘着質な音を立てて離れる。
(もっと・・・もっと汚して・・・あの人たちのすぐそばで、私はこんなに壊れてるの・・・っ!!)
意識の輪郭が、絶頂という名の真っ白な光の中にドロドロに溶け出していきます。指先はもはや私の意思を離れ、暴走する獣のように自分の肉体を蹂躙し、弄び続けました。
「んああああぁっ・・・!!」
声にならない叫びが喉から絞り出された瞬間、視界の裏側で爆発が起きました。全身の細胞が一度に弾け飛ぶような、暴力的なまでの絶頂。私は何度も何度も腰を跳ねさせ、汚れきったシートの上で、自分を誇示するように蜜を撒き散らしながら痙攣し続けました。
静寂が戻った車内。
静寂が戻った車内。
自分の荒い呼吸と、耳の奥でドクドクと鳴る拍動だけが支配していた世界に、ふと、エンジンのアイドリング音が割り込んできました。
(あ・・・エンジンの音・・・いつから鳴ってたの? 外に誰かいる・・・?)
その瞬間、体中に回っていた快楽の余韻が、氷水を浴びせられたように一気に引き引いていきました。先ほどまで、狂ったように腰を跳ねさせ、隠すことも忘れて漏らしていたあの喘ぎ声。
(もし、あの隙間から聞かれていたら・・・?)
見上げれば、急いで閉めたはずのカーテンの端に、指一本分にも満たない「数ミリの隙間」が開いていました。そこからは、容赦のない朝の光が鋭く差し込み、車内の淫らな光景を冷酷に照らし出しています。
「はぁっ、はぁっ・・・! やだ、見られてた・・・?」
喉の渇きは極限に達し、呼吸を隠すために震える手で自分の口を覆いました。私はパニックに近い状態で、座席に投げ出されていたグレーのジャージを掴み、まだ汗でじっとりと濡れた肌に、無理やり袖を通しました。ジッパーを引き上げる手が、金属の擦れる音さえ立てないように、病的なまでに震えています。
私は息を殺し、指先でカーテンの端をミリ単位で動かし、恐る恐る外の様子を伺いました。
駐車場の、私の車から二つ離れた区画。
いつの間にか、一台の黒いミニバンが静かに停車していました。
(嘘、さっきはいなかったのに・・・)
運転席には、五十代ほどの中年男性の姿がありました。シートを少し後ろへ倒し、首を傾けて、眠っているようにも、あるいは――スマホを操作するふりをして、こちらを伺っているようにも見えます。
(見られた? 私は全裸だった。あそこの隙間からなら、私の腰の動きや、あの汚れきったシートが、角度によっては丸見えだったかもしれない・・・)
おじさんの顔は、逆光でよく見えません。ただ、その動かないシルエットが、かえって得体の知れない恐怖となって私を襲いました。もし彼が、さっきの私の「醜態」をすべて目撃していたとしたら。もし、スマホのレンズがあのカーテンの隙間に向けられていたとしたら。
「ヒュッ・・・」
肺の奥がヒリヒリと痛み、冷たい汗が背中を伝い落ちます。
疑心暗鬼。
彼がふと顔を上げただけで、私はすべてを暴かれたような錯覚に陥り、身を縮めました。
平穏な朝の駐車場。けれど今の私にとって、あの動かないミニバンの存在は、私の理性を粉々に砕く、巨大な「監視の目」そのものでした。
私は、彼が目を開ける前に、そしてこの心臓の音が外まで漏れ出す前に、震える手でエンジンをかけました。
エンジンの始動音が、静まり返った駐車場に無機質に響き渡りました。
その瞬間、隣のミニバンにいたおじさんが、ゆっくりと、まるで機械のような予備動作もなく、こちらをスッと振り返りました。
(あっ・・・!)
心臓が跳ね上がり、喉の奥がキュッと締まりました。合わせるつもりのなかった視線が、フロントガラス越しに、まっすぐにぶつかり合います。
おじさんの顔は、驚きも、卑猥な笑みも、嫌悪すらも浮かべていない、完璧な「無表情」でした。その感情の欠落した瞳が、かえって私の脳内に、先ほどまでの醜態をすべてスキャンされたような恐怖を植え付けます。
(見てたんだわ。あの無表情は、私が全裸でのたうち回っていたのを知っている人の顔だ・・・)
全裸で腰を跳ねさせ、指を突き立てていた私。その記憶が、おじさんの網膜の中に「事実」として保存されている。そう確信した瞬間、ジャージの下の肌が、まるで今この場で剥き出しにされたかのように、激しく粟立ちました。
おじさんは、ただじっと、こちらを見つめ続けています。その視線は、私の車の窓を通り抜け、私の身体の奥底、まだ絶頂の熱を孕んで疼いている場所まで見透かしているようでした。
「はぁっ、はぁっ・・・!」
喉の渇きが痛みに変わり、私は逃げるようにシフトレバーを叩き込みました。
アクセルを踏み込む足が、小刻みに震えます。
バックミラーの中で、おじさんの無表情な顔が少しずつ遠ざかっていく。
(あの人は誰にも言わないかもしれない。でも、あの人の記憶の中で、私は永遠に『あの姿』のまま生き続けるんだわ・・・)
朝日を浴びて走り出した車内。
エアコンの冷気が、汗で湿ったジャージを冷たく冷やしていきます。
私は、バックミラーに映る、憔悴しきっていながらも、どこか毒に当てられたような自分の瞳から、いつまでも目を逸らすことができませんでした。