第30章 本気のお仕置き
数日が経ったある朝。
海は鏡の前に立ち、自分の身体を見つめていた。
鞭跡が、薄れてきている。
深い傷は残っているものの、あれだけあった赤い線が、日に日に目立たなくなっていた。
それは、恐怖にも似た感情だった。
ピアスはある。舌も割れている。
なのに、身体中の傷が薄れていく焦燥感。
いつも矢島に抱きしめられているような安心感が、消えようとしているように感じた。
海はイヤーカフをつけた。
「おはようございます……梵様」
「おはよう、海。声が暗いな。何かあったか?」
「梵様……仕事休んで、伺ってもいいですか?」
「どうした?」
「梵様……寂しいです……すごく……寂しいです……」
矢島の声が、少し低くなった。
「悪い子だな……すぐ来なさい。お仕置きが必要なようだね」
「……はい。海は悪い子です……どうか……お仕置きを……」
「わかった」
海は会社に連絡を入れ、すぐにタクシーで向かった。
矢島の部屋に着くと、海は服を脱ぎ、床の「記し」に立った。
涙が、ポロポロと止まらない。
「梵様……!」
「さみしかった……です……」
朝の会話で海の情緒が不安定なことに気づいていた矢島は、なだめるように海を抱きしめた。
「悪い子の海は、どうした? 言ってごらん」
「ヒック……ヒック……」
「傷が……傷が……無くなりそうですぅぅぅぅ……」
「そうか。最近の海はいい子だったからな……お仕置きしてなかったな」
「はぃぃぃぃ……ヒック……ヒック……」
「梵様が居なくなるようで……うっ……うっ……」
「こわかったのぉぉ……」
矢島は海の頭を優しく撫でた。
「どこにも行かないよ。安心しなさい」
少し間を置いて、矢島は静かに続けた。
「そうか。私の淫欲だけで傷つけるのは、と思っていたが……」
「寂しいか……」
「私も、本気をぶつけてみようか……」
「おいで」
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緊縛部屋に到着した海は、いつもの高手小手ではなかった。
両手首を一つにまとめられ、そのまま天井のカラビナに掛けられて、思い切り引き上げられる。
「ああああんっ……!」
足先がようやく床に触れるか触れないかの状態。
背伸びを強いられ、身体のどこも隠れる所がない、無防備な姿勢だった。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
「今日のお仕置きからだな」
「……はぃ」
矢島はまず、手で海のお尻を一発強く叩いた。
「パァンッ」
「アンッ……」
「えっ……? これだけ……?」
「お仕置きはこんなものだよ」
矢島は海の顔を見上げるようにして、静かに言った。
「海。私の愛を注ぐ。本気だよ」
「……ありがとうございます」
背伸びの姿勢でふらつきながらも、海は情熱的な視線で矢島を見つめた。
矢島は部屋の隅から、一本の長い鞭を手に取った。
6フィート。ほぼ矢島の身長と同じ長さの一本鞭だった。
海の目の前で、素振りをする。
どこにも当たっていないのに、鋭い音が部屋に弾けた。
「パァンッ」
「パァンッ」
「これは一本鞭だ。6フィート。
今の音は、先端が音速を超えたときに出るクラック音だよ」
矢島は鞭を軽く揺らしながら、続ける。
「これをまともに当てると、大変なことになる。
身体に巻き付けば、激痛が走る」
海の喉が、くんと鳴った。
「……もう、止まらないよ」
矢島は構えた。
フルスイングではなく、サイドスロー。
横から、コントロールした軌道で鞭が走った。
「ピシッ」
「ぎゃーーーーっ……!」
お腹に、一本の赤い線が浮かび上がる。
熱く、鋭い痛みが、表面だけでなく奥まで響いた。
「ピシッ」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ……!」
「ピシッ」
「ひゃーーーーっ……!」
海は足をばたつかせ、天井に吊るされたまま身をよじる。
それでも逃げ場はない。
矢島は表情をほとんど変えず、サイドスローを重ねていく。
太腿、尻、腰、お腹。
一本、また一本と、赤い線が増えていく。
「ピシッ……ピシッ……パァンッ……」
小さなミミズ腫れが、熱を持って浮かび上がる。
皮が少しめくれるような浅い傷も交じり始めていたが、血が滴るほどではなかった。
「もっと、痛がっていいぞ」
「ひぃ……っ……あ゛っ……あ゛っ……!」
叫び疲れた頃、海の身体は小刻みに痙攣し、火で焼かれたような熱が全身を支配していた。
矢島は鞭を置き、海の顔を両手で挟んだ。
「よく頑張ったな。本当に可愛い。愛おしい」
すでに興奮しきった矢島は、海の片足を抱え上げ、後ろからゆっくりと沈めていった。
「ああああんっ……!」
「ああん……ああん……あっ……あっ……」
「ああああんっ……気持ちいい……」
海は吊るされたまま、熱く腫れた肌を意識しながら、矢島の顔を見つめた。
「梵様……あっ……あああああん……」
「見てて……くれましたか……? あああああん……」
「この跡が……つくところを……ぉぉぉ……」
「ああああんっ……!」
矢島の腰が深く沈むたびに、新しく刻まれたミミズ腫れが引きつり、甘い痛みが走る。
海はそれを、恥ずかしがるでもなく、むしろ誇るように身体を震わせていた。
「梵様の……本気を……感じられて……あああん……嬉しい……」
「もっと……見てて……この身体を……っ」
感情が高ぶった海は、普段以上に素直に、自分の欲しがっているものを口にしていた。
矢島は抱えていた片足をゆっくりと下ろし、天井のカラビナから縄を外した。
かかとが床に着いた瞬間、海の膝ががくがくと震える。
それでも矢島は、まだ繋がったまま海を抱きかかえるように支えた。
鞭跡の残る乳房を、大きな手で優しく、しかし確実に掴む。
耳元で、低い声が落ちた。
「寂しい思いをさせたな。主失格だ」
海は首を小さく横に振った。
「そんなこと……ないです……。私が、勝手に……不安になっただけで……」
「お前の嗜好を知っていた。なのに、物足りない管理をしていたよ」
矢島の声には、はっきりとした反省の色があった。
「すまない」
「そんな……謝らないでください……」
「いや。もう、こんなことにはしない」
「……はぃ」
海は縛られたままの両手で、自分の秘部に触れた。
繋がっている部分を、指先で確かめるように撫でる。
(……まだ、入っている。梵様が、私の中にいる……)
「まだ、入ってます……」
矢島は海の耳を甘噛みした。
「あっ……んっ……ハア……」
続いて、首筋に歯を立てる。
「ああっ……」
さらに、結合部を触っている海の腕に、噛みつく。
「イッ……あああああん……」
「もっと……強く……」
矢島は言われるままに、歯に力を込めた。
海の肌に、はっきりと歯型が沈む。
「ハァ~~~ッ……イッ……あっ……んっ……」
「梵様……っ」
痛みで顔が仰け反る。
なのに、海の内側は熱く疼いていた。
矢島は血がにじんだ歯型を、ゆっくりと舌で舐めた。
「あああああん……」
しみるような痛みが、甘い快感に変わっていく。
「お前を傷つけていいのは、私だけだ。安心しなさい。誰にも傷つけさせない」
その言葉が、鞭の痛みより深く、海の身体を走り抜けた。
(……これだ。この声だ。この熱だ……)
「はい……あああああん……」
「気持ちいい……あああああん……梵様……気持ちいいのぉぉ……」
矢島は海に膝をつかせ、顔を床につけさせた。
縛られた両手は、それでも結合部から離れない。
自分の中に梵様がいることを、指で確認し続けている。
「ほら……梵様……っ」
「入ってる……入ってるぅ……」
矢島は海の尻を一発強く叩いた。
「パシッ」
「あああああん……もっと……」
叩きながら、深く沈める。
「パシッ」
「やんっ……気持ちいい……」
「パシッ」
「あっ……あっ……凄いっ……」
「パシッ」
「んーーーっ……お尻がジンジンする~~……」
矢島の動きが、徐々に激しくなっていく。
海は床に顔をつけたまま、甘い声を漏らし続けた。
「海……海……」
「梵様……っ……んっ……んーーーっ……」
「逝こう」
「はーーーーーーーっ……いっくぅーーーーーーっ……!」
深いところで矢島の腰が止まり、熱いものが注がれる。
「イッ…………てる……っ……」
二人とも大きく肩を上下させながら、荒い息を繰り返した。
矢島は海に覆い被さるようにして、ゴロンと海を乗せたまま仰向けに転がる。
まだ深く繋がったまま、互いの熱を感じ合いながら、ゆっくりと意識が沈んでいく。
海は横を向き、矢島の胸に顔を預けたまま、小さく呟いた。
(……消えない。梵様は、消えない……)
そのまま、重なったまま、眠りについた。
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