8 望まぬ再会
その日もさとみは、山間にひっそりと佇む高級温泉旅館の、最も奥まった場所にある特別室の給仕を任されていた。
一か月前、息子である弘樹と境界を越えて以来、さとみの内側には静かな熱が常に宿っている。
「……ねえ、さとみさん。最近、なんだか雰囲気変わったわよね?」
着替えを終えたばかりの帳場で、同僚の仲居がいたずらっぽく顔を覗き込んできた。
「え……そうかしら」
「そうよ。なんていうか……周りの人間が、つい何度も見ちゃうほど、艶っぽくなったっていうか。何かいいことでもあったんじゃないの? もしかして、素敵な人でも現れたとか?」
「……まさか。そんなこと、あるわけないでしょ」
さとみは努めて冷静に返し、帯の結び目を確認する振りをしたが、胸の奥が鋭く、甘く脈打つのを感じていた。
自分の変化を悟られ、最大の秘密を知られる恐怖。けれどそれ以上に、自分の変化が他人の目に見えるほど顕著であるということに、ゾクりとするような昂揚感を覚えていた。
『あの子が……弘樹が、私をこんなふうに塗り替えてしまったのね……』
毎日のように息子に抱かれることで、自分でも気づかないうちに、女としての「色」が肌の端々から溢れ出していたのだ。
鏡に映るさとみの瞳は、以前よりも潤み、どこか他人を拒絶するような、それでいて無自覚に男を誘うような光を帯びている。それが、弘樹という存在によって引き出された「女の顔」であることに、さとみは怯えながらも、どうしようもない優越感と歓喜を抱いていた。
『弘樹······こんなことを言われるのも、あなたのせいなんだからね……』
内側に疼く、弘樹から与えられた女の悦びを味わいながらも、仕事モードに気持ちを切り替えるために深く息を吐き出し、さとみは凛とした表情で「失礼いたします」と、特別室の襖に手をかけた。
「失礼いたします」
さとみは静かに声をかけ、滑らかな動作で襖を開けた。
部屋には、到着したばかりの四人の男たちが座卓を囲んでいた。どことなく落ち着きのない彼らを、さとみから溢れ出る、凛とした空気が静かに圧倒していく。
彼女は部屋に入ると、三つ指をついて深く一礼した。
「本日は、当旅館をご利用いただきまして、誠にありがとうございます。お部屋係を務めさせていただきます、大場と申します。まずは、温かいお茶をおいれいたしますね」
顔を上げ、柔らかな接客用の微笑みを浮かべた瞬間だった。
上座に座っていた男――真壁の視線が、さとみの顔に向けられた。
さとみの着物の腰元に慎ましく付けられた『大場』という名札。
真壁の目が、見開かれる。彼は手に取ろうとしたおしぼりを放り出し、身を乗り出すようにしてさとみの顔を覗き込んだ。
「……あぁ、やっぱりそうだ。名札を見て確信したよ。さとみさん、じゃないか!」
さとみは茶托を並べる手を一瞬だけ止め、それから何事もなかったかのように視線を上げた。
「……お久しぶりでございます。真壁様」
「やっぱり! いやあ、驚いたな。4年……いや、5年ぶりか? 離婚したって噂は聞いてたけど、まさかこんなところで働いてるなんて」
真壁は隣の男を肘で突きながら、自慢げに声を張り上げた。
「彼女、俺の親友の元奥さんで、ご覧のとおりの美人で気遣いも素晴らしい女性なんだよ。昔はよく家にお邪魔してね。いやあ、それにしても……」
真壁の視線は名札から離れ、今度はさとみの顔、そして着物の上からでもわかるしなやかな体のラインへと、品定めするように執拗に這い回った。
「……変わったなぁ、さとみさん。前の君はもっと地味な『奥様』って感じだったのに。名札を見なきゃ、見違えるところだったよ。なんだか凄く……艶っぽくなったな」
さとみは茶碗にお茶を注ぎながら、真壁の言葉を静かに受け流した。
けれど、かつて夫と飲みながら、毎回のように彼が口にしていた「女は、俺の顔と金でどうにかなる」という傲慢な言葉が耳の奥で蘇る。
それと同時に、自分にまとわりつく視線に、さとみは嫌悪感を抱かずにはいられなかった。
夜の酒宴も進み、男たちの声がどんどん大きくなる騒がしい部屋の隅で、真壁はタイミングを見計らって配膳中のさとみを呼び止めた。
「さとみさん、少しだけ……いいかな」
彼は、仲間たちに見せていた下世話な成金の顔をすっと消し、いかにも落ち着いた「分別のある男」の顔を作って囁く。
かつて親友の家で、さとみが注ぐ酒を飲みながら、男は何度も彼女の白い手指や、胸のふくらみを盗み見ていた。
当時は、複数の女性相手に欲望を散らしてはいたが、親友には分不相応なこの清楚な女を、いつか自分の力で屈服させてみたいという暗い渇望を、ずっと秘めていたのだ。
「突然驚かせて悪かったね。でも……君があの家を出たと聞いたときから、ずっと君のことが気がかりだったんだ。こんな場所で一人、苦労しているのを見ると、居ても立ってもいられなくてね」
真壁は、さとみの瞳をじっと見つめながら、意識的にトーンを落として言葉を紡ぐ。その瞳の奥には、今すぐにでも着物の合わせに手をかけたいという獣のような熱が潜んでいる。
しかし、その時の彼は、それを「理解を示す誠実な支援者」の仮面で、懸命に覆い隠していた。
「僕も君と同じように離婚を経験して、色々と学んだよ。……まぁ俺の場合は、自業自得って感じだけどね。でも、さとみさん、君のような女性が、こんな場所で終わるべきじゃない。俺は少しでも、君の力になりたいんだよ。」
彼はあえて身体には触れず、けれど吐息が届くほどの距離まで顔を寄せた。
自分を「救世主」か何かのように信じ込んでいるその眼差しが、さとみにはたまらなく滑稽に見えた。
「幸運だよ、今日こうして再会できたのは。運命だとさえ思っている。……君さえよければ、個人的に相談に乗らせてくれないかな」
真壁は、さとみがその「提案」の裏にある対価を当然理解しているだろうと確信し、下卑た笑みを浮かべた。
さとみは伏し目がちに、静かに頭を下げる。
「ありがとうございます、真壁様。……そのお気持ちにだけ、深く感謝いたします」
さとみの柔らかな拒絶すら、真壁は「恥じらい」として都合よく解釈した。胸の内側で舌なめずりをする音が聞こえてきそうなほど、彼の視線は不気味な熱を帯びていた。
(そうだ、最初はこれでいい……。だけど結局、この最高の女も、俺の腕の中に落ちてくる)
真壁は満足げに身を引き、勝利を確信した足取りで仲間の輪に戻っていった。
それから2週間ほどが経った金曜日の夜。
再びあの特別室に予約が入った。予約してきたのは、あの真壁たった一人だった。そして、自分の担当には「ぜひ、大場さんを」という条件付きだった。
山を渡る風の音が廊下に低く響く中、さとみが膳を手に部屋へ向かうと、真壁はすでに浴衣に着替え、窓の外を眺めながら彼女が来るのを待ちわびていた。
「また会えたね、さとみさん。今回は誰にも邪魔されずに、ゆっくり話がしたくてね」
真壁は窓際のソファーから立ち上がると、さとみとの距離を詰めてくる。その足取りには、金と経験に裏打ちされた、身勝手な自信が満ち溢れていた。
「……真壁様、本日はお一人でのご宿泊と伺っております。すぐにお食事のご用意をいたしますね」
さとみが手際よく料理を並べ、食前酒を注ごうとすると、真壁はその手元をじっと見つめながら、わざとらしくため息をついた。
「そんな堅苦しいのは抜きにしよう。ほら、これ。……今回は、さとみさん目当てに来たんだ。俺の世話はすべて君に頼むよ」
真壁はそう言いながら、さとみの白くて美しい手に、恩着せがましくチップを握らせる。肌が触れ合う瞬間、真壁の指がねっとりとさとみの手の甲をなぞった。
夕食が進み、さとみがデザートを運びに部屋に入ると、真壁はすでに酔った様子で、ソファに深く腰を掛けていた。
テーブルの上には、追加で注文した希少な銘酒が残っている。
「まあ座りなよ、さとみさん。今夜の担当は俺一人なんだろうから、仕事なんて程々でいいだろ。昔みたいに、友人として一杯どうだい」
「……真壁様、恐れ入ります。他にも仕事がございますので、お気持ちだけ頂戴いたします」
さとみは柔らかな、しかし一線を画した微笑で辞退したが、真壁はその拒絶さえも楽しむかのように、品のない視線を、指先から手首、そして、着物越しにも分かる、なだらかな曲線を描く胸へと這わせた。
さとみが片付けのためにテーブルの上に手を伸ばした、その時だった。真壁の手が、さとみの手首をそっと、だが逃げられない強さで包み込んだ。
「……真壁様?」
「いい香りだ。……実は俺、昔からずっと思ってたんだよ。あいつの隣で笑ってる君を見るたびに、この人には、もっと相応しい男がいるんじゃないかってね」
男は立ち上がり、さとみの耳元で囁くように距離を詰めてくる。酒の匂いと、隠しきれない欲望が混じった、脂ぎった熱気がさとみの肌をなでる。
「君のような女性が、こんな山の奥で埋もれているのはもったいないよ。あいつと別れてから、随分と苦労したんだろう?」
男の指が、さとみの耳たぶからうなじへと、ねっとりと這い進む。その指先からは、財力で女を振り向かせてきた傲慢さが伝わってきた。
「……ご冗談を。失礼いたします」
さとみは緊張で指先が震えるのを抑え、しなやかな動作でその拘束をかわした。背中に向けられる真壁の視線は、もはや隠そうともしない獣のような独占欲に満ちていた。
翌朝。他の宿泊客が次々とチェックアウトをしはじめた頃、真壁が再び、さとみを部屋に呼びつけた。
さとみが部屋に入ると、彼は昨夜の執拗さを微塵も感じさせない、爽やかな「支援者」の顔で、厚みのある封筒を差し出してきた。
「これは、昨夜の詫びだよ。それと……君へのちょっとした応援金だと思って受け取ってくれ」
さとみが受け取ろうとしないのを見ると、真壁はさらに声を低めて畳みかける。
「さとみさん、俺は本気だよ。俺も3年前に離婚して完全に自由の身だし、君と息子さんの面倒をみてあげてもいいと思ってる。母子家庭のつらさは、君自身が痛いほど感じているんだろう?……君さえその気になれば、それなりの条件で、俺の会社で働いてもらってもいいと考えているんだよ」
「救ってやる」と言わんばかりの偽善に満ちた言葉と、憐れみを含んだ笑い顔。
さとみはその封筒に視線を送ると、それまでの緊張を解いた雰囲気で、口を開いた。
「そうなんですか。本当にありがとうございます。真壁さんは、そこまで真剣に考えてくれていたんですね。」
さとみは業務的な言葉遣いを緩め、柔らかい表情で真壁を見た。
その変化を敏感に察した真壁の顔に、一気に喜びが広がる。
「そうなんだよ。俺のさとみさんへの気持ちは、もう何年も前からなんだよ。ここで俺たちが再会できたのも、運命だと思わないかい?俺の気持ちは、本当に遊びなんかじゃないんだよ。」
「嬉しいです。ただ今は、ご覧のとおり仕事中ですし、できれば日を改めてお会いしたいです。」
さとみの言葉に、真壁は舞い上がった。そして同時に「やっぱり女なんて、俺の容姿と金があれば···」とあらためて思った。
「もちろんだよ。君の仕事を邪魔しようなんて思わないよ。でも俺は、できるだけ早く会いたいな。いつにする?」
真壁の頭には、目の前の美人が、自分の体の下で身悶える姿が、早くも浮かび上がっていた。
「真壁さんさえよければ、うちに来ませんか。来週末は息子も、お友だちと泊りがけで出かけると言っていましたし···。」
真壁の表情は、ごちそうの予約にありつけた、情けない男のものに一気に変化した。
「うん、分かった。···1週間後だね。俺はもう、今からその日が待ち切れないよ。」
「こちらはそれまで、真壁さんがお持ちくださいね」
さとみは優しい表情でそう言うと、真壁が差し出した封筒を、やんわりと差し戻した。
1週間後の日曜日。真壁が待ち望んだその日がやってきた。
その日の真壁は、落ち着かない気分で1日を過ごした後、自分が経営する会社名入りの封筒に50万円を入れ、入念に体を洗い、新しい下着を身に着ける。
さとみとの約束は、夜の9時。
その日のさとみは泊まり明けで、その後、所用をこなし「その時間には、必ず帰宅しているようにする。」とのことだった。
高級ワインと、女性に人気の焼き菓子を手土産に、約束の時刻ぴったりに真壁は着いた。
約束の21時。真壁は期待に胸を膨らませて玄関の前に立った。
インターホンを押すが、応答はない。しかし、見上げれば2階の窓にはたしかに明かりが点っている。
「なんだ、いるじゃないか。所用からの帰宅が遅れて、俺の到着前に慌ててシャワーでも浴びてるのかな?」
真壁は自分に都合の良い想像を膨らませ、ドアノブを回した。鍵はかかっていない。彼は「歓迎の合図」だと確信して、玄関のドアを開けた。
だが、玄関に足を踏み入れた瞬間、異様な気配が彼を襲う。
静まり返った家の中に響いていたのは、聞いたこともないような女の呻き声だった。しかもそれは苦痛ではなく、喉の奥から絞り出されるような、濃密で、抑えようもないほどの快楽の響きだった。
真壁の背中に嫌な汗が流れる。彼は吸い寄せられるように、玄関とリビングを隔てるドアへ手をかけた。
「さとみ……さん?」
ドアをゆっくりと押し開ける。
薄暗いリビング、青白い月光が差し込むソファの上。そこには、真壁が想像もしていなかった光景が広がっていた。
明らかに全裸のさとみが、男性と獣のように激しく絡み合っている。
さとみはソファに四つん這いになり、乱れた髪を振り乱しながら、背後から自分を貫く男を受け止めていた。その表情は、真壁が知る清楚なさとみの姿とはかけ離れた、ただ一人の男に心も体も捧げ尽くした「女」の顔だった。
あまりに刺激的で、あまりに異質なその光景に、真壁は金縛りにあったように立ち尽くした。
「アッ··· アッ··· オッ··· ウッ、ウゥ··· オゥ…… あ、弘くん……っ、あなた、やっぱり……すごい……っ」
その声は、間違いなくさとみのものだった。しかし、色気と快感に満ちたその呻き声は、一気に真壁の脳内の奥深くに届くほど、この上なく妖艶なものだった。
そして、重なり合う男の口から漏れた言葉が、真壁の鼓膜を容赦なく引き裂いた。
「ああ、母さん……やっぱり、母さんの体は最高だよ……」
真壁の脳内が、真っ白に弾けた。
「母さん」――。
今、目の前でこの美貌の女性を、狂おしいほどの愛で抱き潰しているのは、真壁も何度か会ったことがある、彼女の実の息子だった。
真壁の手から、紙袋に入った高級ワインが滑り落ちた。
ガシャン、という音と共に真っ赤な液体が床にぶちまけられる。
その音を聴いた弘樹が、まったく慌てた様子も見せずに、母と繋がったままの状態で、蔑むような目で真壁を見る。
「お久しぶりです、真壁さん。昔は時々、家に遊びに来ていましたよね。」
「······お··· お前たち···ッ···」
真壁はこの言葉を口にするのが精いっぱいだった。それだけをどうにか口にすると、再び呆然と立ち尽くしている。
「こういうことなんですよ、真壁さん。あなたがストーカーまがいのことをしているので、このままだとヤバいと思って、僕から母に提案しました。」
冷静にこう言い放ちながら、さとみを攻める動きを、まったく止めようとしない弘樹。
「あん あぁあ アッ アッ··· ウゥ··· イィ······」
真壁の方を、心の底から軽蔑するように一瞬見たさとみは、再び正面を向いて、息子の攻めに喘ぎ続ける。
それはまさに、最愛の男性に身も心も捧げた、美しくも淫らな女の姿だった。
常識からかけ離れた、親子の絡みを間近で見せつけられていながら、真壁は、一言の非難もできなかった。
「それともう一つ。あなたが母にしたセクハラ行為も、僕の指示でバッチリ録音してあるので、頭に入れておいてくださいね。僕たちの関係を知っているのはあなただけですから、もしも口外したら、その時はその録音を···。覚悟してくださいね。」
真壁は、小さく震えながら、打ちのめされた表情で、無言で頷くしかなかった。
弘樹は、これだけ言うと、用は済んだと言わんばかりに、さとみへの攻めをさらに加速させ、母の臀部を若い腰で叩きはじめる。
「パン! パンッ!」という、二人の結合部がぶつかる音がリビング中に響く。
「ほらっ··· 母さん··· どうやら、セクハラ男は··· ようやく、分かってくれたようだよ」
「うぅうう··· あぁあああ··· 弘樹···っ すごい... 好きっ 大好きよ··· でも···あなた、激しすぎるぅうっ······」
目の前で繰り広げられる母と息子の情交は、とてつもない興奮と、ある種の感動を備えながら、真壁に襲いかかっている。
今夜にでも堕とせると思っていた憧れの女性と、その息子に軽蔑されながらも、真壁の股間は、恥ずかしいほどに猛っていた。
気がつくと、真壁はズボンのファスナーを下ろし、惨めに勃起したソレを取り出して鷲掴みにしていた。
それに気づいた弘樹が蔑むように声をかける。
「おやおや··· 人の家で、さすがにそれはマズいんじゃない? どうしても我慢できないなら、早く車に戻った方が良いよ」
真壁は、自分が手段を選ばずに得てきた「金」も「プライド」も「人としての価値」も、この狂気じみた純愛の前では、ゴミ屑ほどの意味も持たないことを悟り、その場に崩れ落ちた。
さとみは激しい喘ぎの合間に、床に転がった封筒に、汚いものを見るかのような視線を送る。
「……そんなもの、持って帰って……。私たちの家を、あなたの腐った金で汚さないで……っ!」
突き放すようなさとみの言葉は、真壁の耳にはもはや罵倒ですらなかった。弘樹に組み敷かれ、悦びに震える彼女から放たれたその言葉は、真壁の「支援者」という最後の仮面を剥ぎ取った。
真壁は、床に広がるワインの海に浸り、赤黒く染まった封筒を震える手で掴み取った。優越感の象徴であるはずの『50万円』が、今は自分が罵倒される材料となっている。彼はそれを鷲掴みにしたまま、這いつくばるようにして玄関を出て、夜の闇へと逃げ出した。
車に乗り込み、荒い息を吐きながらも、彼の脳裏に焼き付いて離れないのは、自分をゴミのように見るさとみの視線と、熱く幸福に満ちた絶頂の表情、そして、真壁の想像をはるかに超えた、あこがれの女性の美しい全裸姿だった。
助手席に放り出された封筒からは、持参した赤ワインの「甘さの終わり際」のような香りが漂っている。
ズタズタになった自尊心と、これまで一度も味わったことがない、最高の興奮の中、真壁は、己の情けない塊を荒々しくしごき、あっけなく車内を汚した。
真壁が逃げ去り、玄関の扉が閉まる音がリビングに響いた。
その瞬間、二人の「見せつけるためのセックス」の時間は終わり、さとみの身体から力が抜ける。
四つん這いのまま、彼女は深く、震えるような吐息を漏らした。
「……もう大丈夫だよ、母さん。もう二度と、あいつは現れない」
そう言いながら、弘樹は結合部を外すと、さとみの体をリビングの床に仰向けにして、有無を言わさず再挿入した。
その顔は、冷徹な策士の顔から、一人の雄の顔になっている。
「あぁぁあああ······ もう、弘樹……っ。……あなたって人は……なんて、なんて恥ずかしいことを……」
さとみは乱れた髪の隙間から、潤んだ瞳で息子を睨み上げた。
その目には、一切の動揺なしに計画を成功させた息子への尊敬と、同時に、自分に「嫌な男に裸を晒す」という屈辱を与えたことへの、言葉にならないほどの羞恥が混じり合っている。
「……あんな男に、私の全部を見せて……私、本当に……すごく恥ずかしかったわ……。弘樹は、嫌じゃなかったの? あんな汚い視線で、私が見られることが……っ」
それは、女としての嫉妬だった。自分を愛しているはずの男が、他の男に自分の肢体を晒させたことへの、可愛くも切実な「恨み」だ。
しかし、そう言いながらも、さとみは弘樹の背中に両手をまわし、その指先は、息子の背中に強く食い込んでいる。
息子に命令され、その通りに従った自分。その事実が、彼女の内面に「もっと支配されたい」という、抗いがたい悦びを呼び起こしていた。
「嫌に決まってるだろう。……だから今から、母さんを全部『僕だけのもの』に書き換えるんだよ」
弘樹の低い声が鼓膜を震わせる。彼の大きな手が、真壁が執拗に見ていたさとみの肩や、うなじを、強く、削り取るような勢いで撫で上げた。
「あいつが……あの男の視線が触れたところ、全部、僕の熱で消毒してあげるよ」
その言葉が、さとみの最後の一線を決壊させた。
「っ、ああ……っ! お願い、弘樹……っ。……私の体、あの人の目に汚されちゃったの……。だから、めちゃくちゃにして……っ。あなたの色で、全部、塗り潰してぇ……っ!」
さとみは自ら腰を振り、息子の存在をより深く、奥へと求めた。
そこにあるのは、母としての理性ではない。自分が愛するただ一人の男に全てを委ね、凌辱されることで救いを求める、忠実な雌の姿だった。
弘樹の動きは、先ほどまでとは比べ物にならないほど獣じみた、荒々しいものへと変わる。
真壁という「異物」を排除したことで、彼の独占欲もまた限界を超えていた。
「ほらっ! これでどう? でも、母さん······ 母さんだってあいつの前でもだえ狂っていたじゃないか······っ」
「だってそれは······っ··· あなたが··· アッ、ウゥ……! すごい……弘樹、すごいわ……っ! そう、そこ……全部、あなたのものよ……、あなたの言う通りにするから……っ、私を、私を壊してぇっ!」
パチン、パチン、と肌と肌が激しくぶつかる音が、静まり返ったリビングに獣の叫び声のように響き渡る。
床にこぼれた情けないワインの香りが、二人の混じり合う汗の匂いと混ざり合い、この上なく淫靡な空間を作り上げていた。
さとみは絶頂の波に飲まれながら、確信していた。
自分を救い、自分を支配し、そしてこんなにも美しく、汚れた自分を「浄化」してくれるのは、世界でただ一人、この目の前にいる息子だけなのだと。
「……好きっ、大好きよ、弘樹……っ、私の……私の、最高な王様……っ! 私に命令できるのはあなただけなのよっ··· ぁぁああああ」
薄暗い灯りの下、二人の影は一つに溶け合い、真壁の名残を消し去るように、どこまでも深く、さらに激しさを増してゆく。
「っ、ああ……っ! あんな男に……私、こんな格好で……っ··· 全部見られちゃったの······」
さとみは弘樹に腰を突き上げられる衝撃に身を任せながら、先ほどまで真壁が立っていた玄関のほうを、恨めしげに、けれどどこか熱に浮かされたような瞳で見つめた。
「……弘樹、あなた……本当に酷い子ね……。実の母親をあんな男の前に晒して……っ。おもちゃみたいに扱って、私を……こんなに卑しい体に……っ!」
口では恨み言を言いながらも、さとみの体は弘樹の激しい攻めに、あどけないほど敏感に反応し、蜜を溢れさせている。
真壁に見られた屈辱は、彼女の中で最高のスパイスへと変わっていた。
息子に命じられるまま、かつての夫の友人にその全裸を見せつけ、絶頂の声を聞かせる。その常軌を逸した「辱め」が、さとみの内側に眠っていたМ的な本能を、完全に覚醒させていた。
「……いいじゃないか、母さん。あいつ、死ぬまで今日の母さんの姿を思い出して、一人でしごき続けて、惨めに果てるんだよ。……じゃあこれから、さっきあいつが見たところを全部、僕が消毒してあげるから」
弘樹の低い声が耳元をなぞると、さとみはゾクりと背筋を震わせ、自ら股間を高く突き出した。
「あああ……っ! そうよ……そう……! あいつが舐めるように見ていたところ……全部、弘樹がめちゃくちゃにして……っ! 視線がこびりついて、気持ち悪いの……っ。もっと、もっと汚い言葉で……私のこと、壊してぇっ!」
もはや、そこには旅館の凛とした仲居の影もない。
さとみは喉を鳴らし、しがみつく弘樹の肩に歯を立てながら、これまで口にしたこともないような卑猥な言葉を、自分から吐き出し始めた。
「……ほら、言ってごらんよ。母さんがあいつに見られたところって、どこなの?」
弘樹の意地悪な問いかけに、さとみは顔を真っ赤に染めながら、悦びに歪んだ表情を浮かべる。
「······おっぱい···母さんのおっぱいを見られたの······ あぁああ······それと···弘樹だけに見せるはずの、おまんこも見られたわ······。 それから··· ぁあああ 私たちが繋がっているところも、全部··· 全部見られたのよ······っ!」
「そうか···あいつは母さんの、そんなところまで見たのか···くっそぉお···だけど母さんだって、あいつに見られながらも声を上げていたじゃないか··· そんな母さんは···、ほらっ···こうしてやるっっ!」
真壁に見られながらも、歓喜の声をあげていた母の様子を思い出し、弘樹の突き上げがさらに深く、激しくなる。
「きゃあああああ···っ ……あ、あぁ……っ! 私は……私は、弘樹だけの……っ。だけど···実の息子に抱かれて、他人の前で絶頂する……っ、最低で、最高に……淫らな母犬よ……っ! あんな男に見られたせいで、私、もっと……おかしくなっちゃった……っ! 弘樹、もっと激しく……! 母さんのこと、壊れるまで犯して……っ!!」
さとみは自らも激しく腰を跳ね上げ、弘樹の体温を、その重みを、一滴も漏らさぬように貪り尽くす。
真壁の視線によって刻まれた屈辱を、弘樹という存在で塗りつぶしていくたびに、彼女の体はより淫靡に、より野性的な熱を帯びていった。
「……あ、あぁっ! 弘樹、ひろきぃ……っ! すき……大好きよ……っ! あなたが私を……こんな体に、変えちゃったの……っ。お願い……もっと私にのしかかって……全部の、全部の体重をかけて、圧迫しながら母さんを清めて……っ! あぁああああああ……っ!! ひろきぃいいいいいい……イクぅううううう......」
激しい衝突音と共に、さとみの体は大きくのけぞり、白目を剥きながら快楽の向こう側へと突き抜けた。
床に広がるワインの香りと、二人の放つ濃密な情欲の匂いが混じり合い、夜の静寂を深く塗り替えていく。
さとみの叫びは、もはや後悔も恥も含んではいない。
それは、ただひたすらに、自分を支配し、辱め、そして誰よりも愛してくれる息子への、狂おしいほどに純粋な忠誠の誓いだった。
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