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1:祖母・昭子
投稿者:
雄一
女の人の、男子として妙に気持ちをそそられそうな甘い化粧のような匂いを、
僕は鼻孔に感じ、同時に薄くすべすべとした布地の感触を通して、人肌の温み を頬肉の表皮に感じさせられて、茫漠とした気持ちで薄目を開けた。 すぐ間近に人のような気配を感じ、顔を少し動かせて目を大きく開けると、 畳に寝転んでいる僕の身体に、誰かが覆い被さってきているようだった。 開けた目の真ん前に、薄い水色のすべすべとした布地が揺れていて、その布 地の中の人肌の温みが、感じのいい化粧の匂いを含ませて、僕の顔のあたりの 空気をほんのりと包み込んできているのだ。 少し慌て気味に顔を上げた時、僕の鼻先と頬に水色の薄い布地の中の柔らか い肉が触れてきたのがわかった。 居間の畳の上に僕は身体を横たえて、うたた寝よりももう少し深い眠りの中 に落ちていたのだ。 そこへ風呂から上がってパジャマ着替えた祖母が来て、寝入っている僕にタ オルケットを掛けてくれていたのだ。 寝がえりか何かでタオルケットがずれたのを、祖母がまた掛け直してくれる のに身体を僕に寄せてきた時に、僕が目を覚ましたのだった。 「風邪ひくわよ、こんなとこで寝ちゃ」 身体を少し離して、祖母がかたちのいい唇から白い歯を覗かせて微笑んでき た。 「あっ、ごめん。婆ちゃんにおやすみの挨拶しようと思っ てたら、つい寝込 んじゃった」 「そんな気を使わなくていいのに」 「あ、それとね、婆ちゃんにいい忘れてたことあって」 「何、いい忘れててことって?」 「あのね、僕の発見なんだけど…演歌の歌手でね、三味線抱えて歌う人で、 その人の顔が婆ちゃんにそっくりなんだよ。名前はたしか…長山、何とかってい う人。スタイルも婆ちゃんと一緒で小さくて奇麗な人。何日か前にテレビに出て たんで母さんにもいったら、驚いてた。」 「そうなの。婆ちゃん喜ばなくちゃいけないわね」 「ああ、そういえば、婆ちゃんの娘の母さんもチョイ似てるね。でも婆ちゃん はほんとに瓜二つだよ」 「はいはい、もういいから早く寝なさい」 「うん、おやすみ」 他愛のない話を祖母とし終えて、寝室の布団に身体を横たえると、現実の状況 がすぐに僕の頭にもたがってきた。 竹野という男のことだった。 当然に、僕はまだ竹野本人には会ってはいなくて、知っていることといったら、 年齢が祖母よりも二十二も年下の四十二歳で、例の高明寺のお守り役として働い ていて、坊主頭であることと、性格的には自分の書いた下品で下劣としか思えな いような拙文をわざわざ祖母にメールに書き写させて、それを読ませたりとか、 相当な偏執狂のような面があったりという変人的な人物のようである。 祖母のスマホのメール情報では、過去に離婚歴があり、この村へは四年ほど前 に流れ着いたとのことだが、それまでの住まいとか仕事歴はわかっていないよう だ。 祖母との性の関係もそうだが、推測するまでもなく、所謂SM嗜好者であるのは 間違いないようだ。 性の問題は、たかだか十六歳でしかない、著しく若輩の僕が偉そうにいうべき ことでないことはわかっているので、どうこうと意見はいわないが、SM嗜好その ものについては、僕自身は侮蔑や軽蔑の対象外だと胸の奥では密かに思っている。 恥ずかしいことだが、思春期真っ盛りの一年ほど前のある時期、僕は女性の生 理について、唐突に歪んだ好奇心を持つようになり、自宅の便所の汚物入れにあ った自分の母親が捨てた汚物を手に取り、テッシュに包まれたものを開いて、赤 い血や黄色い沁みを見て、訳もなく興奮したことがある。 人はさまざまなのだと僕は思う。 つつましく穏やかで清廉な僕の祖母を、恥ずかしく凌辱し虐げる竹野という人 物には、憎悪や嫌悪や憤怒といった感情が、何故かあまり湧いてきていないこと に内心で少し驚いているというのが、僕の正直な気持ちで、肉親である祖母には 申し訳ないのだが、性行為に伴うSM嗜好への興味の思いのほうが強いのかも知れ ないと恥ずかしながら思っているのだ。 「明日の夜ね、婆ちゃん、また寄り合いがあるの。雄ちゃん、留守番お願いね」 祖母の口から待望(?)の言葉が出たのは、それから三日後のことだった…。
2023/01/27 22:12:19(7WqPo0xO)
投稿者:
雄一
…まるで好餌を前にした獣のように、淫猥な視線になっているのに、私は気づかされました。
「肌の色艶は、さすがにモノホンの親子だけあって、そっくりだな」 男は私の身体を、下から上へ、上から下へ何度も顔を上下させながら、満足そうに下卑た声 でいってきて、 「こっちへ来いや」 といって片手で手招きをしてきました。 男と私との間隔は三メートルもないほどでした。 逃れる手立ての何jもない私は、剥き出しにされた乳房を両手で覆い隠しながら白足袋の足 で床を擦るようにして、男の前ににじり寄りました。 「あっ…」 と私が短い声を挙げた時には、胸を覆っていた片手を掴み取られ、強い力で引き寄せられて いました。 私の身体はあっけなくバランスを失い、男の前に傅いていた息子の洋一の肩に倒れ込むよう に姿勢を崩していました。 それでも洋一は、私のほうを振り向くこともなく、一心不乱に自分がしていることを続けて いました。 私を引き寄せた男の手が、無防備になった私の乳房の両方を、がっしりと受け止めるように 掴み取ってきました。 「ああっ…」 ソファーに座り込んだ男の前で、身体のバランスを崩したまま、男の浅黒い肌をした身体に 凭れかかっている私に、咄嗟にできる行動は何もありませんでした。 「ふむ、五十前にしちゃいい膨らみで、弾力も充分だな」 私の両方の乳房を掴み取った男の手が、荒々しく動き廻ってきていましたが、目の前で男の股 間に顔を埋めつくしている、洋一のことも気になり、私の抗いの動きのどれもが中途半端になり、 サングラスの男の胸に包まれたまま、されるがままの状態でした。 やがて男から洋一に向けての指示が出ました。 離れて前で見てろ、という指示でした。 洋一は素直に男から離れ、汗を滲ませた顔を俯かせながら、前のソファに丸裸の身を座らせま した。 「さ、お母さん、大事な息子の見学する前で、身も知らない男に、たっぷりと愛される気分は どうだい?」 男は嘯くようにそういって、自分の胸の前で怯えた顔を晒している、私に向けてそういってき ました。 「お、お願いですから、こ、子供の前でだけは…」 哀訴と哀願の思いのすべてを込めて、もう三十センチもないほど間近にある、男の顔に私は泣 きそうな声で訴えました。 そんな私の哀訴哀願の声など、男は私の顎を手で挟み込んできて、いきなり唇を強引に塞いで きたのです。 私の切なる願いへの答えがそれなのでした。 お酒と煙草の臭いが、固く閉じた私の歯の周辺に強く漂ってきていました。 男の片方の手は、私の片側の乳房を強い力で掴み取っています。 私の唇を塞いできている男の唇は、長く離れようとはしませんでした。 そして息苦しさで、私が少し歯を開いた時、男はその機を逃さずに、私の口の中へ狡猾に自分 の舌を滑らせてきました。 どうにかして、私は男の顔を突き放そうとしたのですが、細身の引き締まった身体の男の力は 思いの外強く、長い時間、唇を塞がれ続けました。 長いソファで足をばたつかせるだけが、この時の私にできた唯一の抗いでした。 こじ開けられた口の中で、舌を自在に弄ばれながら、目を薄く開けて前にいる洋一に向けると、 何か思い詰めたような強い視線で、私のほうを見つめてきているのが朧げにわかりました。 もう時の経過を待つしかないと、私は唇を塞がれている息苦しさの中でそんなことを考えてい ました。 そんな考えの中へ、唐突に私の身体のどこかで、小さな炎が弾け出たような気がしました。 本能的に女としての危険が、どこかから湧き出てきそうな、危険な予感めいたものが、私の脳 裏を何の予兆もなく過ったのです。 私は自分で自分に驚いていました。 実の息子のいる前で、こんな卑劣なかたちで凌辱を受けている身に、女としての官能の炎がじ わりとでも湧き上がってこようとしている、自分自身に私は驚き、忽ちにして戸惑いと狼狽を意 識したのでした。 風船の空気が抜けていくように、私の身体のどこかから力と気持ちが、次第に萎えていくよう な、そんな思いに襲われ出したのでした。 いけない、いけないと私は心の中で、自分を激しく叱咤して、唐突に湧き出た女としての疼き のようなものを打ち消そうとしました。 身体の内面の不埒な思いと戦っていた私は、男の片方の手が、自分の下腹部に下りていたこと に気づきませんでした。 ショーツの上への、いきなりの手の触感に気づいた私は、唇を塞がれたまま、思わず目を大き く見開いて、身体を揺り動かそうとしたのですが、それも儚い徒労に終わり、男の為すがままの 状況に追い込まれたのです。 ようやく男の唇が私の唇から離れ、 「お母さん、あんた、濡れてきてるぜ」 と最初にいわれた時、私はもうただ狼狽えるしかありませんでした。 身体の中のどこかに火が点いたと感じた私の、その証しが自分のショーツに沁みになって、現 れ出ていることを、私は男の言葉で知らされたのでした。 自分の顔の頬や首筋の辺りが、熱風を吹き当てられたように、赤く染まるのが自分でもわかり ました。 羞恥を露わにした私の顔の真上で、男が口元を歪めながら、気色の悪い薄笑みを浮かべていま した。 「息子の見てる前でも、お母さんは女になれるんだな、ふふ。今からたっぷりと、女として楽 しませてやるぜ」 男は勝ち誇ったようにそういうと、いきなり動き出し、 「お母さん、もう余分な手間は必要ねえな」 とそういって、ソファ横たわらされている、私の足元に身体を移してきて、私の足の間に身体 を入れると、乱暴な手つきでショーツを引き剥がしてきました。 休むことなく男は動き、私の両足を手で抱え込むと、いきなりつらぬいてきたのです。 「あっ…ああっ!」 私の身体の中へ突き刺さってきた男のものは、私の内臓を抉って脳髄にまでつらぬき通してく るような衝撃でした。 傍に息子の洋一がいるということも、一瞬にして忘れ去らせるほどの快感が、私の全身だけで なく心の中にまで深く伝わってきていたのです。 初めて対面した男で、息子の洋一を散々に甚振り、男子でありながら、その若い身体を女性の ように犯している非道極まりない男につらぬかれているということを、私は慙愧にも堪えないこ とでしたが、愚かにも一瞬にして忘却してしまっていたのでした。 男の私へのその一撃は、あなたにも申し訳ない気持ちで一杯ですが、私の女としての人生で一 度も感じたことのない、衝撃のつらぬきでした。 男の強烈極まりないその一撃だけで、私の女としての、いえ、人としての人生は終焉したのか も知れません。 その後は、憎んでも憎みきれないはずの、男の手練手管の術中に私は深く嵌り、為すがまま、 されるがままの身となり、地獄の紅蓮の炎の中に深く沈み堕ちたのでした。 憎悪と唾棄すべきしかない、男のつらぬきの迸りを何度か受け、私はここに書き記せないほど に激しく身悶え、愉悦と享楽の境地の渦の中に噎せ返るほど浸りきらされました。 息子の洋一とも男の命令に従い、親子の間を超えて身体を結び合い、その日、最初にエレベー ターの前で会った、男の配下の者たちにも抱かれました。 そして、本当にミイラ取りがミイラ取りの憂き目になってしまい、その日以降私と息子の洋一 は男たちの奴隷になり、接待用の恥ずかしい見世物になり下がっていったのです。 私を誰よりも大切にしてくれたあなたには、どうしてもこのことを正直に話すことはできませ んでした。 しかし、真実の神様はやはりこの世にいるようで、いつの日だったか、あなたの仕事の取引会 社の社長さんが、私と息子の洋一の性交実演の場に、あなたが落としていったという手帳を親切 心で、家に届けてくれた時、私は自分の人生の行く末が見えたような気がしました。 あなたが私に何一つ告げようとせず、一人で苦悶の縁を彷徨っていたことを思うと、今でも胸 が張り裂けそうな思いです。 ある日、息子が交通事故で亡くなったと聞いた時、最後まで親らしいことを何もしてやれなか った私は、自分がこの世から消える時には、せめて息子と同じ状況に合わせてあげたいと思って います。 吉野氏の重過ぎる一章を読み終えた時、さすがに僕も気が滅入って、パソコンの前から暫く立 ち上がれなかった。 人の人生なあ、と真面目に瞑想の世界へ入ろうとしたら、僕の周囲で今、一番うるさい同学年 の紀子から電話が入った。 「雄ちゃん」 僕が声を出す前に、紀子が名前を呼びつけてきた。 「何だよ」 面倒臭そうな声で僕がいうと、 「雄ちゃん、前に奥多摩で話した時、SMの世界って話したよね?」 「バーカ、お前あじゃないかよ。その話持ち出したの」 「あれ、そうだっけ?」 「お前がさ、憧れの生徒会長さんから、そんな類の本読めなんていわれたっていう」 「ああ、ごめん、私だった」 相手に悪びれた声では少しもないのが、少しイラッときたが、 「それがどうしたっていうんだよ」 と僕は我慢して聞き返した。 「明日行く、叔母さんちね。どちらかがSM愛好者なんだって。昨日、お父さんとお母さんが寝 室で話してるの聞いちゃったの」 「趣味悪いな、お前。親の寝室覗くなんて」 「そんなんじゃないわよ、バカ」 「ややこしくなるの嫌だぜ」 「そうなったら手を引けばいいじゃん」 「あ、そう。じゃあな」 電話は僕のほうから切ってやった。 嫌な予感がしていた…。 続く (筆者お詫び) 何度も途中投稿になってしまいすみません。 パソコンが古くて、その不具合のようです。 またあるかもしれませんのでご容赦ください。
23/03/27 15:54
(BsmVqa2q)
投稿者:
(無名)
いつも最高の作品をありがとうございます!!
続きを楽しみにしております。 母親が少し出てくるようになったのは、伏線ですかね?! 楽しみです。この作品のおかげで愛妾のことが 違う見方や楽しみができて、改めて大切に思うようになりました。ありがとうございます。
23/03/27 21:59
(ODKliCje)
投稿者:
雄一
家を出る時、何の気なしに着込んできたスタジャンを、駅前のガストに入った時、僕は
大いに後悔した。 先に来て待っていた紀子も同じスタジャンだったのだ。 店に入るとすぐに、紀子は辺りも憚らず、大きな声でまた僕の名前を呼びつけてきた。 駅側に面したテーブルで、嬉しそうな顔をして手を振ってきた。 「お前、どこでも俺を名前で呼びつけにするな」 席につくなり、僕は不機嫌な声でそういってやったのだが、 「衣装も同じで、仲もいいんだからいいじゃん。それに…」 とまるで僕のいうことなど聞こうとしない。 「それにって?」 「私たち、もうキスもしてる」 「バカか、お前。あんなものはほんとのキスじゃないよ」 「知ってるの?…ほんとのキス」 「お前ほど初心じゃないからな、俺は」 「不潔」 紀子は不機嫌な顔のまま、ハンバーグランチを平らげ、奢るといっていた支払いも割 り勘にされ、店を出て駅に向かった。 山手線に乗り二つ目の駅で降り、駅前のアーケード商店街を抜けたところに建つ、八 階建ての瀟洒な外壁のマンションが、目指す目的地だった。 紀子の叔母さんが最近、借りたばかりの賃貸マンションで、自宅はこの雑然とした下 町とは違う、高級住宅街に大きな邸宅を構えているとのことのようだ。 駅を降りてアーケード商店街に入った時、ふと目についたアクセサリー店で、二百円 の携帯ストラップを買ってやったら、すぐに機嫌を直していた。 五階の一室を訪ねると、ボア風の髪を薄茶色に染めた、派手な顔立ちをした、細身で スタイルのいい中年女性が、にこやかな笑みを浮かべて迎えてくれた。 女性の一人住まいというせいもあってか、室内は蕩けそうになるくらいのいい匂いが 充満していた。 叔母さんの、というよりも、五十代とはとても思えないくらいの、若々しい顔を見て、 僕はテレビでたまに観る、ある芸能人を思い出した。 若い頃には、何とかの花嫁とか、何とかの城下町という歌で一世を風靡した女性歌手 に、顔もスタイルも、それに雰囲気もそっくりだった。 紀子は相手が自分の母親の妹ということもあって、会った早々から馴れ馴れしくして いたが、僕のほうは当然に初対面で、際立つような美人顔の婦人に会って、ただただ緊 張のしまくりだった。 おまけに紀子がつい調子に乗って、僕のことをボーイフレンドとしてでなく、恋人と 紹介したものだから、赤面させられるやら言葉に詰まらされるやらで、居心地の悪いと いったらなかった。 長い睫毛の下の切れ長の目がくっきりとしていて、鼻がつんと高く、その下の赤い唇 が微妙に肉感的で、どこからみてもその芸能人に瓜二つに見えた。 服装も若い僕たちが来ると意識してか、真っ白なTシャツにジーンズというラフない で立ちで、胸の膨らみの大きさにも、僕は一人こっそりと驚いていた。 広い応接間のソファでコーヒーや、高そうなケーキをご馳走になり、多少、僕も打ち 解けた時、その芸能人の話をすると、 「そういえば町を歩いていて、何回かその人に間違えられて、サインをねだられたり したことがあるわ」 と奢りや嫌味の少しもない温和な口調で、話してくれたりした。 今日は紀子のほうが、久し振りに叔母さんの顔が見たくなったからという理由で来た だけなので、叔母さんの恋愛事情にはいきなりは入り込めなかったのだが、 「うちのお母さんがね、叔母さんは奇麗でお金持ちだから、交際相手も多いだろうか ら、急に再婚何ていい出してこないで、もしそんなことあるんだったら、早めに教えて っていってた」 と自分本位の紀子にしては珍しく、機転の利いた聞き方でそれとなく質すと、叔母さ んのほうは白い歯を見せて笑いながら、 「あなたのお母さんは相変わらずの心配性ね。どうせ、あの噂好きの弟から聞いたん だろうけど、舞台俳優の男との結婚は絶対にないといっといて」 と一笑に伏した顔で紀子にいった。 僕も紀子も少しばかりアテが外れた感じで、思わず目を合わしたのだが、叔母さんの ほうから紀子が僕との関係を、冗談気味に問い質された時、先日の奥多摩での淡いやり 取りを話すと、 「奥多摩かぁ…もう何年もいってないけどいいところね。川の上流のお水が美味しく て。…あ、そういえば奥多摩に、私が昔、随分、お世話になった人がいるわ。もう五年 以上も会ってないけど、元気にしてるかしら?…奇麗な人だったのよ」 と唐突なことをいい出してきたので、僕は思わず目を丸くした。 「え、その人の名前って、もしかして…」 僕は喉が急に詰まったような声を出して、紀子の叔母さんに驚きの目を向けていた。 「苗字は何だたかなぁ…名前は昭子さんっていうの」 僕の驚きは仰天になった。 「日光の温泉宿で仲居さんをしてた人でね。私がまだ若い頃、大きな失恋をして、死 ぬつもりで日光に出かけて、泊まった旅館の仲居さんをしてたの」 叔母さんが続けていった言葉で、僕はほぼ確信していた。 「あ、あの…その人の旦那さんって、椎茸栽培か何か…」 「そ、そうそう。椎茸栽培の名人だとか。…でも、あなたどうして?」 「その昭子っていう人、僕の祖母何です」 「えっ、まあっ…」 叔母さんの奇麗な赤い唇がポカンと開いていた。 僕の横にいた紀子の口もポカンと開いていた。 叔母さんは信じられない偶然に驚き、紀子は何のことだか訳のわからないポカンだっ た。 「この広い東京でこんな偶然って、あるものなのねぇ。で、あなたのお婆さん、お元 気なの?…私より十くらい上だったと思うけど?」 「そうです。六十四歳です」 僕には見る間に紀子の叔母さんが近しく、そして親しげに見えていた。 「ああ、会いたいなぁ…会いに行こうかしら?」 「祖母も喜ぶと思いますよ」 「そうだわ、三人で今度、一緒に行きましょうよ。ね、典ちゃんも」 「うん、私も雄ちゃんのお婆さんにぜひ会ってみたい」 「私はいつでもいいけど、あなたたちは学生だから。典ちゃんが日程調整役やって」 当初の目的とは、まるで違う方向に話が進んでしまい、僕の戸惑いは大きかったが、 紀子はともかく、これほどの美人とこれからも近しくなれることは、僕にとっては何 かにつけ大きな楽しみになるのは、間違いないと僕は踏んだ。 帰りの電車の中で吊革にぶら下がりながら、、 「紀子の叔母さんって、めっちゃ奇麗だよな。俺の婆ちゃんもまぁ、奇麗なほうだ けど、奇麗さがまた違うわ」 と話しかけると、 「あなたの女性への間口って広いのねぇ」 と妙に嫌味っぽく返されたので、 「何だよ、自分の叔母さんにヤキモチかよ」 とまた切り返してやった。 「相変らずしょってるわね。可愛くないスケベ男」 紀子は僕に毒づきながら、何か悲しげな顔をしていた。 紀子と別れて自宅への道を一人で歩いている時、僕の頭の中にとんでもない光景が 思い浮かんでいた。 祖母と紀子の叔母さんと僕の三人が、一つの室で布団を川の字に敷いて寝ている構 図だった。 こんなことを紀子が知ったら、僕は絶対に殺されるだろうな、と思いながら家の玄 関の戸を開けた…。 続く
23/03/27 22:28
(BsmVqa2q)
投稿者:
雄一
珍しい人からのメールだった。
しかも例に寄っての長文だ。 十月に入っての最初の土曜日の午後、僕は区立図書館にいた。 読むのが途絶えていた山岡荘八の「徳川家康」を読みにきたのだが、第十三巻の茶色表紙を机の 上に置いて、目は片手に持ったスマホの小さな画面に集中させた。 メールの発信者は奥多摩の尼僧の綾子だった。 (お元気ですか?また突然の勝手なメールですみません。親子以上にも歳の離れているあなたが、 どうしてなのか自分でもよくわからないのですが、日々折々に気になっています。曲がりなりにも 剃髪得度式を終え、俗世から離脱した身で、このような不埒不遜な思慕に浸ることすらが、仏門に 対しても畏れ多いことですが、若過ぎるあなたのことが、どうしてもこの身体と心から消し去るこ とができずにいます…) ここまで読みかけて、これは完全なラブレターじゃないのかと思い、気が重くなったので、気が 向きそうな内容だけを抽出しようと、画面をスクロールしていたら、綾子の妹の栄子の名前が頻繁 に出てくる画面が出てきたので、スクロールを逆方向に戻して、途中から読み出した。 概ねのシチュエーションは、借金問題で逃げ廻っていた夫との離婚問題もカタがつき、思いがけ ない人からの援助もあって、元の場所で元の商売に戻れた妹が、姉の綾子の住む寺へ、自分の現況 報告も兼ねて訪問してきた前後の話を、綾子はまた、あの長文日記風に、段落も整理して書き記し ていたのだ。 読み出してすぐに、僕は椅子から立ち上がり、借りた本を書棚に戻して、いそいそと芝生公園の、 桜の木の下のベンチに腰を下ろし、大きく深呼吸してからスマホ画面に目を落とした。 …え?と、私は思わず自分の耳を疑い、妹の栄子の顔を凝視した。 「だからまだ、もう少し先の話だけど、姉ちゃんの教え子の野川、野川洋介と再婚するかもってこ と」 「あ、あの野川君って、あなたとは年齢が…」 「十八も年下よ。悪い?」 「わ、悪いなんて…」 「そうよね、お姉ちゃんも、野川よりもっと若い、あの雄一君とかいう可愛い少年と仲良くなっ てるものね」 「そ、それは…」 「私も、あの子好きよ。いい目してたもの」 夫の遺影のある八畳間だった。 床が二う並べて敷かれていて、その内の一つの布団の上に、私と栄子はいた。 栄子の布団にくるようにいわれ、私が従ったのだ。 妹の栄子の手が布団の中で、私の乳房の片側を蛇の頭のように這い廻っていた。 私の長襦袢の帯紐はすでに栄子の手で解かれ、両方の肩と乳房が露わにされている。 仰向けになった私の顔の真上に、栄子の妖しげな笑みを称えた顔があった。 栄子から唐突に電話があったのは、今日の午前のことだった。 「ちょっと報告したいこともあるし、それに姉ちゃんの肌にも、もう十日以上も触れてないし」 七時頃に行く、といって電話は一方的に切れた。 事情があって昭子さんの家に、妹の栄子と一緒に泊めてもらい、そこで事の経緯は兎も角も、私は 栄子と初めて、身体と身体で情を通じ合った。 それが姦計に寄るものだとわかった時には、雄一さんが私の身体の上にいた。 そして私は得度剃髪を終えた仏門の身でありながら、またしても情欲の世界に溺れ込んだ。 その後、二度、栄子とあった。 当時の栄子の夫の、借金問題の解決処理での対面だったが、そのいずれもの時、私は実の妹である 栄子に、女として身体を求められ、女である彼女に抱かれ、恥ずかしく身悶えさせられた。 何故か最初の時から、栄子は妹でありながら、姉の私を凌駕して優位な、というより、上の位置に いた。 姉の私のほうが妹に責められる側にいたのだ。 それは今も続いていて、栄子が七時過ぎにここへ来て、この家の主である私のほうが、いつの間に か私のほうがひれ伏す側に置かれるのだった。 夕食を終え、私が台所で洗い物をしている時、音もなく私の背後に立ってきて、 「お姉ちゃんのおマンコ見せて」 ととんでもないことをいい出してきたのですが、一言二言の言葉のやり取りで、私は流し台を背に して、自らの手で法衣の裾を高く目繰り上げ、膝を曲げて座り込んでいる栄子の前で、足の付け根ま でを恥ずかしく開示させられた。 栄子の手の指が、突然、私の股間の漆黒の下を掬う触れてきて、 「もう、ちょっと濡れてるよ」 と冷やかすようにいってもきた。 「お姉ちゃん、お風呂一緒に入りましょ。後で入ってきて」 そんな言葉を一方的に残して、栄子はすたすたと廊下を歩いていっても、どうしてか、拒絶の言葉 が出ないのでした。 湯気の立つ浴室に入ると、栄子は二人がゆっくり入れる広さの浴槽に、とっぷりと身体を沈めてい て、湯を肩にかけていた私に、早く湯に入れと手招きしてきた。 いう通りにすると、すぐに私の顔に顔を寄せてきて、有無をいわせずに私の唇を塞いできた。 栄子の舌が露骨な動きで、私の口の中に押し入ってきて舌を捉えにくる。 栄子の片方の手が、湯の中で私の乳房の片側を掴んできた。 抗いの素振り一つ見せず、されるがままの私でいろ、と栄子は二度目に肌を触れ合わせた時、私の 乳房を千切れるくらいの強さで掴み取りながら、詰め寄ってきて、私は痛さもあって、はい、と頷い てしまっていた。 その時、栄子は借金で逃亡した夫が、ひどく嗜虐性に満ちた男で、彼女の身体をベルトで叩いたり、 身体に熱い蝋燭の蝋を垂らされたりしたのが、嫌で仕方がなかったと顔をしかめて吐露していました。 浴槽での抱擁の後、栄子は立ち上がり、その浴槽の縁に臀部を載せ、片足を折り曲げて、自分の下 腹部の漆黒を、私の顔の前に晒してきた。 何もいわれない内に、私は彼女の濡れた漆黒の下に顔を寄せ、舌を差し出すと、その舌の先端に柔 らかな肉襞の感触があった。 「ああっ!」 私の顔の上から、栄子の短い喘ぎ声が聞こえてきた。 自分の身体がのぼせそうになるくらいまで、栄子のその部分への私の愛撫は続いた。 そのことへの返礼のように、湯船から洗い場に出て、石鹸で身体を洗い出した私の背後にいた栄子 の両手が、脇の下を潜って私の両方の乳房を包み込むようにして揉みしだいてきていた。 そうして布団に入るまでも、妹である栄子に隷従の姿勢をとり、八畳間に入っていたのだった。 二人ともに、すでに全裸の身だった。 布団のシーツの乱れや、辺りに散らかった襦袢や寝巻の乱れで、それまでの二人の女同士での、身 体と身体のせめぎ合いの激しさが窺い見える感じだった。 「お姉ちゃんの肌って、ほんと白くて滑らかね。同じ姉妹でも私は父親似で浅黒い肌で、体型まで 父親と同じ小太り。中学校の時、それがモロに出て、私、ひどく姉ちゃんを恨んだことあった」 私の乳房の上に顔を載せながら、妹らしい声で栄子は呟くようにいった。 「ううん、あなたは全然小太りなんかじゃないし、肌も病気じみた私よりずっと健康的で羨ましか ったわ」 少しは姉らしいいたわりの言葉を返した私だったが、栄子が最初に報告した内容がひどく気になっ ていたので、 「え、栄ちゃん、あ、あなたが、あの野川君と再婚って、どういう話なの?」 と改めて聞き直した。 「ああ、そのこと。実はね、野川洋介の母親と私、同じ女子高の部活の先輩後輩の間柄なの」 「ああ、バスケットだっけ?」 「そう、私が一年の時、先輩は三年で、部活の交流は一年しかなかったんだけど、何故か妙に気が 合って、先輩が卒業してからも、交流は長く続いたの。ちょっと余談だけど、今の私たちみたいに、 レズっぽい関係にも、少しの間だったけどなってた」 「そうなんだ」 相槌を打ちながら、私は胸の中に小さな不安を抱いていた。 「その先輩、若い頃に大恋愛して、早くに子供産んで、その子が洋介君ってわけ」 「そ、それがどうして、あなたと結婚なんてことになるの?」 「その先輩、洋介君を生んで間もなく、離婚したのよ。それからは女手一つで育ててたんだけどね、 あの子が中学一年の時、乳癌で亡くなっちゃって、幸いいい叔母さんがいて、あの子の親代わりにな って育ててくれて。その先輩が亡くなる少し前に、自分が死んだら子供のことを頼むっていうから、 私、洋介君に結婚相手見つからなかったら、私が結婚してあげるって、その子がいる前で約束しちゃ ったの」 「まあ…」 「私もそうは約束したけど、まさかと思ってたから、あの借金野郎と結婚したでしょ。そして最近 私が離婚したってこと、どこで聞いたのか知らないんだけど、私にいきなり会いに来て、母との約束、 守ってくださいって、しつこくいってきてたのよ。…で、まあ、何回か会ってたんだけど、僕の気持 ちは変わらないっていうもんだから」 それから先は、私は妹に対して言葉は挟めなかった。 勿論、野川君は私が栄子の姉と、知っていての行動だというのが、朧にわかった。 そして、彼は私との変異な場所での身体の交渉については、おそらく妹の栄子には話していないと 思う。 少し気弱で温和な性格の、何かを思い詰めている時の、野川君の顔を私は思い返していた。 私のことが本当に好きだいってくれた、真剣な眼差しも私は忘れてはいない。 湯川という男と一緒にこの寺へも尋ねてきたことがある。 あの時は、私が湯川という男の、異常なくらいの巧みさの姓技の前に屈し、女の官能のすべてを晒 け出されてしまい、その恥辱の光景を、野川君は自分の目ではっきりと見ているのだ。 彼はおそらくそのことも、栄子には話してはいない。 何か遠巻きな感じだが、野川君の目には見えない、また言葉でもいい表せない重圧が、私の背中に 重い雲のようにのしかかってきそうな気がしていた…。 スマホの細かな文字は、あまり長時間かけて読むものじゃないということを、僕は改めて教えられた。 この前の吉野氏といい、尼僧の綾子の文面といい、内容的にも気持ち的に読後感は、あまりよろしく ないと僕は思った。 公園の芝生の少し離れたところで、幼稚園児くらいの子供二人が、小さなボールを無邪気に蹴り合っ ているのが見えた。 今の僕の周囲には、こういう無邪気さがどこにもないというのが、何故かしみじみとわかった。 都会にもこういう風が吹く時があるんだと思わせるような、乾いた初秋の風が僕の頬を撫で擦った時、 僕は奥多摩の駅近くを流れる、あの川のすすきの群生を思い出し、続いて祖母の日焼けをほとんどしな い、白い小さな顔が思い浮かんだ。 祖母は自分のほうからは、僕には絶対に電話もメールもしてこない。 祖母なりの、僕の家族への気遣いなのだろうと思う。 しかし、僕から電話を入れると、どこにいても、どんな時でも必ず出るし、出るのも早い。 今もそうだった。 ワンコールで祖母は出た。 「婆ちゃん、元気かい?」 最初の声が、祖母はいつも遅い。 僕の声を聞くと嬉しさに、自分が声を詰まらせてしまうのだ。 「げ、元気よ」 やはり嬉しくてたまらないという声だ。 「声が聞きたくなってね、婆ちゃんの」 「何かあったの?」 心配するのだけは、誰よりも早い。 「どこにいるの?」 「畑よ。まだ暑いから雑草がよく伸びて」 「懐かしい場所だね。行きてえ」 「何か心配事あるの? 「何にもないよ。婆ちゃんを…いや、昭子の肌が恋しくなって」 大人びた口調でいって、僕は慌てて周囲を見渡したが、誰もいないので安心する。 「私も…ゆ、雄一さんに早く会いたい…」 「昭子、そこで今、おっぱい触れる?」 「えっ?…ええ」 「俺のいう通りにして」 「はい…」 僕はもう一度周囲を見渡した。 「おっぱい触って」 「はい…」 「野良着か?」 「え、ええ…」 「左側だよ、おっぱい」 「さ、触ってます」 「揉んで」 「あ…」 「もっと強く」 「は、はい……あっ」 「乳首触って」 「あっ…ああっ」 聞きたかった、少しハスキー気味の喘ぎ声だ。 「もっと乳首を強く摘まんで」 「ああ、だ、だめ…へ、変になる」 「変になっていい」 「こ、こんな…どうして?」 「昭子が変態だからだよ」 「そ、そんな…」 「嫌いになりそうだ」 「い、いやっ!…そ、そんな風に…い、いわないで」 「下、触ってみろ」 「は、はい」 風で木の葉が揺れるような音がしている。 「どうだ?」 「あ、あなたの声聞いて…」 「どうだって聞いてるんだよ」 「す、少し…濡れていました」 「どうしようもない女だ」 「お願い!…そ、そんないい方だけはしないで」 「ああ、わかった。昭子のいい声が聞けて嬉しかった」 「意地悪…今、どこにいるの?」 図書館っていってやったら、祖母は喉を引き攣らせてきたので、 「の、外だよ。誰もいない」 「驚かせないで」 「会いに行きたいなぁ」 ここで僕はあることを思い出した。 「こ、この前話したさぁ、島野さんって人」 「あ、ああ、あなたが誰かにそっくりだといってた人ね」 「古い人だから僕は名前知らない。で、その人がね、今度の三連休どうっていってきて るんだけど、婆ちゃん、どう?」 「え?…もうこの週末じゃない。大変」 「島野さんと僕と、もう一人…の三人」 「もう一人って、この前の雄ちゃんの恋人?」 「恋人なんかじゃないって」 「そんなにムキにならなくてもいいわよ。そんな時はお祖父ちゃんと一緒で、大抵ほん となんだから」 「で、都合はどうなの?」 「私はいいわよ。島野さんに会うの楽しみ」 「また細かな時間は、当日前後に連絡するね。一日はすき焼きにして」 「はいはい」 電話を切って、もう一度芝生のほうを見たら、高かった陽射しがほの赤い西日になって いて、ボール遊びをしていた子供たちもいなくなっていた。 祖母と紀子の奇麗な叔母さんと僕の三人が、一つの室で布団を並べて寝る日が、後数日 に迫った。 ワクワクとした気持ちで、公園の外の道路に出た時、思い出したくない紀子の顔が浮かんだ。 あいつが同行してきたら、僕の嬉しい夢は確実に消滅する…。 続く
23/03/28 17:44
(gkxWk7F.)
投稿者:
雄一
(祖母・昭子 番外編)
野川幸雄は遠大な計画を立てた。 二十年前の中学校の時の恩師だった、今は奥多摩の小さな寺の尼僧の身となっている、 坂井綾子、いや現在は真野綾子になっている女性との結婚を、彼は夢に描いたのだ。 綾子の年齢は確か五十五歳で、幸雄は二十歳年下の三十五歳だ。 この年齢差は、しかし幸雄にとっては、何の障害もなかった。 さらにいえば、文子は数年前に夫と死別していて、幸雄自身は堂々とした独身である。 幸雄のほうから、中学時代からの長年の思慕の思いを訴えて、熱心に真心を込めて求 愛すれば、心の優しい綾子はきっと、自分の夢を叶えてくれるだろうという推測は、彼 自身の気持ちの中にもあったと思われるのだが、彼は何故かその道筋を選択しなかった。 好きな女性に好きな思いを訴える、ということが、容易くできるような性格の持ち主 では、幸雄ではなかったのだ。 幼い頃からずっと、人の上に立たず、人より極端に下がることもなく、温和に目立た なく生きるという、中庸の人生観を貫いてきた幸雄に、何より不足していたのは、勇気 と積極性だった。 二十年ぶりに、予期も予想もまるでしていなかった異様な場所での再会があって以降、 幸雄の人生の主目的は、完全に尼僧の綾子が主軸になったのだ。 この九月の一ヶ月間で、尼僧の綾子への思慕に関連することで、幸雄の周囲で予期せ ぬ変遷があった。 それは早くに死別した母の、目に見えない導きのようなものだった。 母の高校時代の部活の後輩で、坂井栄子という女性がいた。 母とは無二の親友で、幼い頃の幸雄との交流もある女性で、母の危篤の時にも病院の ベッドの横にいてくれて、幼少の幸雄の手を強く握ってくれた人だ。 八月の下旬頃、幸雄は会社の仕事で、群馬県のある街に出張した。 駅を降りて一つの訪問先を訪ね歩いていて、一軒の小さな青果店に、目的地への道を 尋ねるために飛び込んだ。 健康的に日焼けした、少しふっくらとした体型の中年女性がいた。 目を合わした時、最初に大きな驚きの声を挙げたのは、くりっとした目の中年女性の ほうだった。 「ゆ、幸雄君じゃない?」 明るそうな笑みを満面に浮かべて、その女性は幸雄のほうへにじり寄ってきた。 女性の顔を見て、幸雄のほうにも、うっすらとした記憶があった。 二十年前に死別した母の親友だった坂井栄子だった。 「大きくなって。でも叔母さん、すぐわかったわよ」 二十年ぶりの再会を喜び合った後、店に奥の畳の室へ通され、二人はもう一度お互い をしげしげと見つめ合った。 栄子の少し丸みを帯びた顔は、笑い泣きしているように見えた。 今日は一泊の予定でこの街に来てる、と幸雄が話すと、ぜひここに泊っていけと強く 誘われた幸雄は、栄子の言葉に甘えることにした。 小学生の子供が一人いて、三人での夕食の時、幸雄が当然のように、この場にいない 栄子の夫のことを尋ねると、途端に彼女の顔が暗く沈んだので、その話はそこで途絶え た。 夜になり子供が寝付いた時、二人は居間の座卓で向き合いながら、ビールを何本か酌 み交わしていた。 栄子が次第に酔い出してきて、ここにいない夫のことを怒りを交えて話してきた。 何年か前から夫がギャンブルに来るってしまい、挙句に多額の借金んを抱え込み、家 族を捨てて知らないところに逃げ廻っていると、半泣きになって、幸雄に訴えるように 話した。 座卓で最初は正面で向かい合っていたのが、冷蔵庫から何本目かのビールを取り出し てきた栄子が、いつの間にか幸雄の斜め前に寄っていた。 栄子の襟の広く空いた花柄のブラウスから、丸く膨らんだ乳房が覗き見え、幸雄は少 し狼狽えたが、栄子のほうはまだ喋り足りないのか、 「幸雄君はもう結婚してるんでしょ?」 と絡むような口調でいってきたので、 「三十五のこの歳で、まだ独り身ですよ」 と返すと、 「あら、そうなの?…あなたのお母さんに私、約束してたことがあって。あなたのお 嫁さんになってあげるって。ふふ、あの頃は私も若かったからね」 とまた絡みついてきた。 幸雄は話題を変えて、 「旦那さんは帰ってくるんですか?」 「今日は見なかったけど、この辺をね、借金の取り立て屋が何人もうろついてたりし てるから、帰ってこれるもんですか。あ、私たちもね、ここにいるのが怖いから、二、 三日うちには姉の住む奥多摩へ、暫くの間、逃げるのよ」 「お姉さんいるんだ」 「あら、あなたにいってなかったっけ?…若い頃は中学校の教師してたんだけどね。 今は尼さんになってるの」 「えっ?中学校の教師って?」 栄子は億尾もなく、幸雄が卒業した中学校の名前をいった。 「な、名前は、坂井綾子っていうんじゃ?」 「そうだよ」 「ぼ、僕、その先生に教えてもらってた」 「あらまぁ、とんでもない偶然ね。今度姉に話してみるわ」 自分が栄子の姉の、その恩師に思慕の思いを強く持っているとか、また日光のログハ ウスでの驚愕の行状については、今のこの栄子には、絶対に話してはいけないと幸雄は 思った。 栄子からのまるで予期していなかった情報は、上にも行かず下にも落ちずの中庸の精 神一筋だった幸雄に、これまで皆無に近かった勇気と積極性を、瞬く間に呼び起こして いた。 決意とか決断という、これまでほとんど思い浮かべることもなかった言葉が、幸雄の 身体と心に発芽したのがこの時だった。 栄子のほうは相当に酩酊していて、幸雄が便所に立って戻ってきた時、彼女は座卓の 横のカーペットの上で意識を失くしていた。 傍に寄って、少し丸みを帯びた肩を揺すっても、何一つも反応はなかった。 そうだ、この人も女なのだ、という、これまでの幸雄の人生では考えにも至らなかっ た妖しい思考に幸雄は捉われていた。 栄子の肩に置いていた手を下にずらし、ブラウスの布越しに乳房の膨らみに置いた。 柔らかな、女の乳房の感触が、幸雄の何故か急に昂まり出した気持ちに油を注いだ。 忽ち幸雄の動きは大胆になった。 栄子のブラウスのボタンを、上から順番に外していった。 薄いピンク色のブラジャーの大半が見えた。 そのブラジャーの中に指を差し入れると、肉の柔らかさが指先に直に伝わってきた。 栄子の意識はないままだった。 乳首を幸雄の指先が捉えて摘まんだ。 ううん、と栄子の口から小さな声が、漏れ出たが身体に動きはなかった。剥いていた。 これまでの三十数年間の、中庸の気持ちを全否定するかのように、幸雄の手は大胆 に動き、栄子のブラウスを袖から脱がし取り、ブラジャーのホックも外し取って、彼 女の上半身を裸に剥いていた。 幸雄は休むことなく動いた。 栄子のスカートのホックを外し、下に向けて下した。 ブラジャーと対の色をしたショーツが、悩ましげに幸雄の目に飛び込んできた。 指二本をショーツの中心に当てた。 薄い布地のショーツから、微かに透けて見える繊毛の感触が、幸雄の気持ちをまた 奮い立たせた。 ショーツの上に置いた指に、力を込めて押してみた。 そこで栄子の身体が動いて、無防備の乳房が横にだらりと揺れた。 栄子の上半身が動いた時、同時に両足が無意識に横に開いていた、 ショーツの上の幸雄の指二本が、栄子の股間のさらに奥に滑り落ちた。 剥き出された乳房の片方に、幸雄は大胆に唇を這わしにいった。 やがて栄子の女の反応が、ショーツに置いた幸雄の指先に現れ出た。 薄いピンク色のショーツに、湿りか滴りのような症状が出てきていた。 乳首を幸雄が歯で軽く噛んでやると、栄子の身体がまた左右に揺れ動いた。 栄子の顔に顔を近づけ、そのまま唇に唇を当てていった時、栄子の両腕がいきなり、 幸雄の首に巻き付いてきた。 塞いだ唇の中で栄子の歯は抵抗なく開いた。 どこかのところで、栄子は自分が今、どうされているのかに気づいていたようだっ た。 口の中で栄子の舌が待っていたかのように反応し、幸雄の下に激しく絡みついてき た。 幸雄の中庸の精神は、どこかに雲散霧消していて、決断と決意が頭をもたげ、湧き 出てきた性欲が、下半身の一部をこれまでにないくらいに固形化してきていた。 「いいの?…こんな叔母さんで」 唇が離れた時、栄子が窺見るような目で、少し恥ずかしそうな声でいってきた。 「だって、叔母さん、僕の母親に約束したんだろ?…僕と結婚してくれるって」 「あ、あれは…」 「口から出まかせだった?」 「ううん、そんなんじゃないけど。あなたとは歳が…」 「恋愛にも結婚にも年齢差は関係ない」 昨日までの自分なら、絶対に出てこない台詞が、次々に出てくる自分自身に驚きな がら、幸雄は英子の目を真剣に見つめて、 「これからもっと栄子に好きになってもらえるよう努力するつもりだよ。栄子を一 杯愛したいし、それから…恥ずかしいことも一杯してやりたい」 と言葉を続けて、もう一度真剣な眼差しを栄子の目に向けた。 栄子のその目の向こうに、僕だけにしか見えない、彼女の姉の綾子の白い顔がはっ きりと見えていた…。 続く
23/03/29 15:02
(zWmSj7nP)
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